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床にたたきつけられた衝撃で、俺の意識が鮮明になる。右手の感覚が無く力が入らない。
が、しかし。リナの叫びに体が無意識に反応したのか、ぎりぎりのところで急所は避けたようだ。出血は多いもののまだ動ける。左手には剣士の執念がなせる技か、まだしぶとくブラスト・ソードを握りしめていた。
顔を上げると少し離れたところにリナが倒れているのが見え、その脇に一糸まとわぬ姿で立つ無傷の死神の姿があった。
そしておぼろげながらに、リナが俺を抱え逃げ出そうとしてはじき飛ばされたこと、床にたたきつけられる瞬間、彼女が俺をかばってくれたことを思い出す。
リナは、リナは無事なのか!
ブラスト・ソードの柄を持ったまま左拳を床につけ半身をおこす。血を流しすぎたせいか一瞬目の前が暗くなる。
"へ〜まだ立ち上がれるの、、さすがあたしのガウリイ=ガブリエフね"
「、、、リナ、、、、」
俺の呼びかけに応じて、かすかに身じろぎ、声にならない声を振り絞るリナ、、、
「が、、が、、がう、、、、がうり、、、うごいちゃ、、ゴフ、、」
口から血を噴き出すリナ、、それでも俺に必死に左手を伸ばす。
「、、う、うごいちゃだめ、、ま、、まってて、、、い、いま、、治療を、、、」
必死に言葉を紡ぐリナ、、、。
この、、、ばかやろ、、、、そんなになってまで、、、、、
俺の心配なんかしてる場合じゃない、、、でも、まだ生きている、、そう。まだリナ=インバースは生きている!
"あ〜あ、みてらんないね〜、あはははは!!!!そうまでして守りたいのかしらね〜、、
おお、麗しきかな、乙女の純粋なる心、、、、、ふん、へどがでるわ、、、、"
そう言うと死神は、リナの首に左手をかけ、つかみあげた。
死神の手により宙に吊されるリナ、、右手に持った虚無の鎌をリナのパジャマの襟元に差し込み一気に引き裂く。パジャマのズボンも下着と共に引き裂さかれ、まだ誰の目にもふれたことのない、その身体がさらけ出された。
全身に無数の傷を負い、大きく裂けた左脇腹から鮮血が流れ、右腕があらぬ方向に向いている。右のふとももに折れた骨が皮膚を破り突き出し、左の膝から下はちぎれかけぶらさがっていた。体中から流れ出した血液が足を伝い床にしたたり落ちていく。
満身創痍の翼をもがれた天使の姿がそこにあった。
"ふーん、なかなか、きれいな体をしてるわね、、ちょっと胸は小ぶりだけど、、それさえ修正すれば、、その紅い瞳もきれいだし、、、そうね、、、そろそろこの姿にも飽きてきたことだし、あんたのその姿あたしが貰ってあげるよ。言ったでしょ、、あなたの全てを奪ってあげるって、、、"
そして人間では聞き取れない呪文を唱える、その体が淡い光に包まれ、リナの吊された体がガクガク震え、、、その体からさらに、力が失われていく。
こいつ、、リナの生命そのものを喰ってやがる。
俺は思わず叫んだ!
「やめろー!」
リナの髪が白く変わり、それにつれ死神の姿がリナのそれに変わっていく。
"あっははははは!どう?ガウリイ?あたしきれい?ねえ、あたしきれい?あはははは!!!!"
聞き慣れた、リナの笑い声。だがその底には全てを凍り付かせる冷たさを忍ばせたリナとは全く異質な笑い声、、、
俺の目の前に、白髪でぐったりと生気をなくし、全身を自らの血に染め、、、全てをはぎ取られ虚空につるされた、、リナとは思えない、本物のリナと、亜麻色の長髪をたなびかせ、生気にあふれ、心のそこからの笑い声をあげる、見慣れ
たリナの姿をした死神=リナ、二人のリナの姿がそこにあった。
、、、いいしれぬ怒りが突き上がる、、、、、、、、、、、、
「 、、、やめろ、、、、、」
"へ?なんだって?"
「、、リナをはなせ、、、リナの姿で、、、リナの声で、、、、、笑うな、、、」
"へっ?何言ってるかな〜この脳ミジンコの剣術バカは。あんたさえよければ、あたしがずっと一緒にいてあげてもいいんだよ、、、、、ねえ、がうりい、、、"
俺は奥歯をギリっとかみしめた。俺をそう呼んでいいのは、、この世でただ一人、、、
突き上がる怒りが俺をもう一度立ち上がらせる。しかしもはや、剣を構えることがやっとで、その剣も左手一本で固定できずに剣先がゆれる、、、、視界がかすむ、、、
、、くっ力が、、、誰でもいい、、力を、、力を貸してくれ!、、奴を倒せる力を、、、!!
その時、俺の周囲の全ての光が奪われ、全ての音が遠ざかった。眼前の、死神につられたままの姿のリナを残して、、、、、、、、
死神の姿も消え、俺とリナ以外何もない虚無の世界に俺たちはいた。
全身を刺す痛みすら感じられない。リナはまるで死んだように身じろぎもしない。俺も指一本動かせなかった。
虚無の闇の中、俺は俺たちに問いかける声を聞いた、、、、、、、
『ガウリイ=ガブリエフよ、、、リナ=インバースよ、、、汝らの最期を選ぶがいい、、、、、
、、、、愛する者と共に光の中で滅び、自らのかたきを取るか、、、、、
、、、、それとも魂を闇に譲り渡し、静かに滅びを受け入れるか、、』
「、、俺たちの最期を選べだって?、、、ふっ、、笑わせるな、、どっちに転んでも俺たちが滅ぶなんて道、、、、、、どちらもまっぴらごめんだぜ、、、」
『、、、なに?、、、、』
「、、俺は、、、リナと、、、、、、俺の愛する女と、共に光の中で生きる!!!」
『!!!!!!!!!!!!!!』
吊された姿のままのリナの目に何かが光ったような気がした、、
一瞬の静寂の後、周囲の虚無の闇がかきけすように消え去り、いきなりあふれんばかりの紫の光に変わり輝く。
『、ふふふ、、、ふわはははははは!!!この期に及んでも、まだあきらめぬか、、、、
気に入った、気に入ったぞ、、、
、、、ならば、よべ我を、、、、我が力を、、、、、我が名を、、、、、、、
、、、我が力は「光」、、、、、、我が名は「風」、、、、、、、、、
、、、我が力を征し得れば、我が名にかけ永遠に誓おう、、
、、、汝らを守護する、、暗黒の霧を噴き滅す、ただ一陣の風になることを、、』
全ての光がブラスト・ソードに収束され周囲の光景と音が一瞬でよみがえる。
眼前には、何も変わらず嬌笑する死神=リナとその左手に細い首を掴まれつるされたリナ。
今のはまぼろしか?
しかし左手のブラスト・ソードがさらなる紫の輝きを増す、龍の紋様
がその輝きの中薄れていく。そして、俺の全身に気力が蘇る。例え、ろうそくの最後のきらめきでもかまわない。これにかける!
俺は、無言で剣を横なぎにした。完全に間合いの外だったが、なぜか、届く気がした。
バシュ、、
"ひっ、、"
死神=リナの左手が一瞬にして消滅した。
リナの身体が床に力無く落ちる。消滅した左手をまたたくまに再生させ、虚無の大鎌をかまえ直す死神=リナ。
しかし、その表情についさっきまでの余裕はなく、かわりに驚愕と困惑の色が浮かんでいた。
"ば、ばかな、、、その力はいったい、、もう剣を振るう力すらないはずなのに、、、"
俺は、叫んだ。
そう、かつて彼女を、、リナ=インバースを守るため、幾度となく叫んだあの言葉を、、、、、
「光よ!」
ブラスト・ソードの紫色の光が爆発的に輝きを増す。周囲の温度が急速に下がり魔力や生命力といった全ての力がブラスト・ソードに吸い込まれていくのがわかった。
死神すら、いや死神だけでなく、その手に持つ虚無の大鎌でさえ、その吸引力に耐えられずその力をそぎ落とされ急激にその刃を小さくしていく。
そして、俺もまた、、全身の力と精神力、いや俺の生命そのものが左手の剣に吸収されていく。
俺の眼前にまとわりつく髪の金色が徐々に白く変わりはじめた。それにつれさらに紫の輝きを増すブラスト・ソード。
"、、ひっいいいい!、、いっ、いったいその剣は、、、、その力は何なのよ!!"
うろたえ、恐怖の声を上げる死神=リナ。しかし、確実に俺の命も削られていく、、、力を制御できない、、、このままでは、、、、
ついに死神=リナのその手に持つ虚無の大鎌は消え去りただの黄金の大鎌へと戻った。そして、リナを形取りしその姿も、はがれ吸い込まれていく。
ついに、ひとの形をした虚無の闇だけがそこに残り、、そして、、、そして、、、、、消え入りそうな、しかし、絶対に聞き逃すことのない声が聞こえてきた。
傷つき倒れ、、全てを奪われてもなお、、あきらめず、くじけることの無き魂持ちたるもの、、
、、そう俺の誇り、、リナ=インバースの声が、、、
「空と海と大地を渡りしものよ
とわと無限を吹き過ぎ往くものよ
時の流れに埋もれ、伝説となりしその力
今ここに蘇らん
尽きること無き蒼き炎 とこしえにたゆたいし闇
盟約の剣に集いて
暗黒の霧を噴き滅すただ一陣の風となれ」
リナの呪文により、ブラスト・ソードの紫の光が、黄金の輝きへと変化する。そして、力の吸収が収まった。
俺は、リナの声に導かれるように左手一本で黄金に、、そう、かつての光の剣よりも激しく強く輝く、、光の刃を最上段に構えた。ナーガの声がよみがえる、、
『あ〜〜もういいわ、、、危なくなったら「風よ!」とでもさけんでみれば?』
最後に残った力で光の刃を振り下ろし俺は叫んだ。そこにリナの声が見事に重なる。
「「風よ!」」
剣に集まった光がろうそくの火を吹き消すかのように消える。
一瞬の静寂が訪れた後、剣を振り下ろした軌跡に沿って周囲の大気がゴオ〜とすさまじい音を発して集まるがごとく闇が渦を巻く。その闇の渦が急激に収束し、、光がすさまじい勢いで噴きだした。
解き放たれた光の風、、いや、、光の奔流が津波のように死神に襲いかかる。
黄金の大鎌を振り回し、必死に防御しようとする人型の闇。しかし、そんな抵抗もむなしく圧倒的な力に鎌もろともまるで無数のつぶてを食らったかのようにずたぼろに裂け光の奔流に飲み込まれ
ていく、、、、
「ぎゃっああああああああ〜〜〜〜」
断末魔の悲鳴が聞こえた。
身体を支えられず、がくりと膝をつき、俺はその場に倒れこむ。そして光の嵐が収まった後、蛍のようなわずかな虚無の闇だけが残り、その闇がふらふらと玄関のドアの外に消えていった。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
リナ、、リナ、、、必死にリナの方にはっていく、、今の俺にはリナしか目に入らなかった、、、
「、、リナ、、」
やっとの思いで、リナまでたどり着き彼女を抱き起こす。
彼女はまるで死んだように青白い顔をしていた。しかし、たしかに息をしていた。
彼女はかすかに目を開け、唯一動くその左手で俺のほほに触れた。
「、、がうりい、、、ありがと、、、、、」
リナが生きていた、、、、、俺は彼女をただ抱きしめていた。
ひひ〜ん
馬の鳴き声と共に死者の哀れな声がかすかに聞こえ、死のにおいが去っていった、、、
"がうりいのばか〜、りなのいじわる〜!!!!"
もう二度と聞きたくない声が聞こえた気もしたが、、聞かなかったことにしておこう。
窓から朝日の陽光が差し込んできた。
俺とリナの長い夜が終わった、、、、、、、
「リナ!」
急激に暗くなる視界の中、俺は見た。泣きそうな顔をして2階から転がり落ちてくるナーガの姿を、、、、
おそいんだよ、、まったく、、、、、、、
そして俺はすべての意識を手放したのだった。
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