スィーフィード茶房へようこそ♪

第1話 〜前編〜


 

 [・・・・・でセイルーンでは最近爆発テロが相次ぎ、レッサーデーモンの目撃情報も多発しております。これらは現王の病状が芳しくないため、時期王位を巡っての対立が表面化したものと・・・・・]

 


 「お家騒動か。あの国も話題が絶えないわよね。ま、あの人は多少の爆弾やレッサーデーモンなんかでくたばるようなキャラじゃないし、大丈夫でしょ」
 ・・・・すでに人間じゃないもんね、あのおっちゃん・・・
 あたしは本日のお薦めメニューのレーズン入り焼き立てスコーンを味見する手を少し止めて、流れてくるニュースの画面を見つめた。
 開店前の静かな一時。
 自分のための紅茶を入れて、1日の始まりを迎えようとしていたいつもの日常風景。
 開店したからといって、すぐにお客など来ないのだけど。
 ここに来る客は決して多くはない。普通の喫茶店じゃそれは死活問題かも知れないが、副業もしているあたしにはちょうどよかった。
 それに今日はあいにくの雨。
 いつもの散歩の途中でよってくれる常連さんたちも、来るかどうかわからない。
 最近どっちも暇だったからここんとこしばらくお菓子のメニューを研究してたりしてたんだけど、そろそろそれも飽きてきた。
 「何か楽しい事ないかしらね」
 うーんっ、と大きく伸びをしてからあたしは看板代わりの木のプレートを持って店のドアを開いた。カランっと小さなドアベルの音が静かな公園に響く。
 『スィーフィード茶房へようこそ!』
 戸口の横の釘に引っかけて、本日の営業開始。
 ・ ・・・とは言っても暇なのよね。

 カラランっ!バタンっっ!!
 「いらっしゃ・・・?」
 ちらほらと来ていたお客もいなくなり、再び静かになった店で、あたしが遅めの昼食を食べている時。
 勢いよく店に入ってきた人物はドアを勢いよく閉めるなりぴたっと耳を当てて何やら外の様子を伺っている。
 ・・・・・・どっから出したんだ、そのコップ・・・
 ちゅるんっと食べかけのスパゲティを飲み込んであたしはしげしげとその人物を見た。
 初めて見る顔。あたしより年下の女の子。
 外は雨だというのに傘もささなかったのか、全身がしっとりと濡れている。黒い髪の先から、ぽたっと雫が落ちた。
 全神経を集中して何かを探っている横顔は真剣そのもの。傍から見れば怪しい事このうえない。
他の客がいない時でよかったわ。
 「風邪ひいちゃうわよ。ほら」
 「え・・・あ、ありがとうございます」
 あたしが店の奥から取り出したタオルを差し出すと、やっとその子はドアから耳を離し素直に受け取った。
 「こちらにどうぞ」
 あたしが食事していた反対側のカウンターに招くと髪を拭きながら席につく。
 店内をきょろきょろと見渡し、次にあたしをジーっと見つめてきた。
 「何にする?」
 あたしが差し出したメニューをちらっと見て、一瞬目を閉じるときっぱりと言った。
 「【ブルーリー・ティー】をお願いします」
 その答えにあたしの耳がピくっと動く。
 それは、メニューには載っていない秘密のお茶。
 「メニューにないでしょ?」
 「いいえ。ここにあるはずです。ぜひお願いします」
 かまをかけてみても揺るぎもしない確かな視線。たまにうわさを聞き付けて興味半意でこのお茶を注文する人がいるのだが、どうやらこの子はれっきとした“お客さん”のようだ。
 思わず口元に笑みが浮かぶ。
 なんたって久しぶりのお客なのだ。
 「了解しました。その前に―――――」
 「はい?」
 「ご飯食べちゃっていい?」
 料理の山とあたしを見比べて大きな目を見開いたその子のお腹がきゅるる、と鳴った―――――

 「そんじゃ、取りあえず名前と依頼の理由を聞かせてくれる?」
 香りのいい紅茶を注ぎながらあたしは話を切り出した。
 依頼―――
 そう。あたしのもうひとつの仕事は何でも屋。
 気に入った内容と報酬が折り合えばどんな仕事でも引き受ける。それこそ、表も裏も関係なく。
 でも大っぴらに宣伝しているわけではない。
 この世界もなかなか同業者やその他色々の監視が厳しいせいもあるし、なによりこっちを本業にしてしまってこの店を放っておいたらねーちゃんに殺されるのは目に見えている。
 だから『ブルーリー・ティー』というお茶の名前を合い言葉に、本当に頼ってくる人だけを相手にしていた。
 そしてこの子も、何か事情があるのだろう。
 「あたしはアメリアって言います。実は最近ストーカーに狙われていて・・・はっきりと犯人がわかれば自分で正義の鉄拳をお見舞いできるんですけど、騒ぎを起こしたら父に強制送還されてしまうし」
 「ストーカーねぇ」
 この手の依頼も最近増えてきていた。
 「どういった人に狙われてるとか、見当とかついてる?」
 「それが・・・よくわからないんです。男なのは間違いないと思うんですけど、もしかしたら複数かも知れなくって」
 わずかに眉をひそめて記憶を辿っている。
 「ラッシュの時駅のホームから突き落とされそうになったり、車が突っ込んできたり。アパートに放火されそうになった時もあるんですけど、いつも複数の気配があって」
 ・・・・・・ちょっと待て。
 「それってストーカーじゃないでしょう。あなた命を狙われてるんじゃない!」
 「えええええっっ!?そうなんですか?」
 「そうなんですかじゃないわよ。そりゃいきつくとこまでいっちゃったストーカーは相手を殺して自分も死ぬって過激なバカやる奴もいるけど、そんな短期間でそこまでいく事ないわ。それに複数の人が絡んでるんならもうストーカーとは言わないわよ」
 「でも、複数の気配はするんですけどみんな同じ感じがするんです。だから最初はひとりかなって思って・・・」
 ・ ・・・複数だけど同じ気配、ねぇ・・・
 そういった存在に心当たりがない事もない。だけどそれがもしビンゴだったらちょっと厄介かも。
 「学校やバイト先で他人を巻き込んじゃいけないと思って最近両方休んでいるし・・・これじゃ何のために留学したんだかわからないじゃないですか」
 「留学生なの?」
 「はい。セイルーンから」
 「セイルーンか。最近あの国も物騒になったわよね。こっちきててよかったじゃない」
 いや。命狙われてるんだからいいわけないか。
 「え?国で何かあったんですか?最近テレビ見てなくて」
 かわいらしく小首を傾げて尋ねてくる。自分も大変な状況なのにやっぱり母国の事は気になるものなのか。
 だけどこの子、困ってはいるようだけど怖がってはいるようには見えない。見た目の可愛らしさより神経は図太そうだ。
 「爆発テロが相次いでるのよ。なんでも国王が病気で次期王位を争ってお家騒動まっただ中、らしいわよ」
 「なぁんですってぇぇぇっっっ!!」
 突然絶叫を上げてダンっとテーブルの上に飛び乗る彼女。
 「おじいさまが倒れた時、涙ながらに兄弟手に手を取って国を支えていくと誓いあったその舌の根も乾かぬうちに、王宮のみならず国を混乱に巻き込むとはそれはすなわち悪!」
 大きい瞳に炎を燃やしビシっと天高らかに指を突き付けた。
 「この世に正義がある限り悪の栄える試しなし!アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンの名において悪しき野望を持つ者を退治してみせます!!」
 ――――――――今、なんて言った?
 「ちょっとアメリアさん!あなたの名前って、それ本当なの?」
 「はい?」
 「あんた、あのセイルーンのお姫さま?!」
 「ええ。大きい声じゃ言えないですけど、セイルーンの第一王位継承者のフィリオネル・エル・ディ・セイルーンの次女です」
 ずがたたたんっっ
 思わず椅子から転げ落ちるあたし。
 「大丈夫ですか?」
 言葉とは裏腹に平然とテーブルの上からあたしを見下ろすアメリアさん。
 「大丈夫じゃないやいっ」
 ・・・・・・二重の意味でショックが大きい。
 なんとか身体を起こすと、すっかり冷めてしまった紅茶を一口飲んで落ち着こうと努力する。
 そりゃ面白い事ないかと思ってはいたけれど、こう突拍子もないのは心臓に悪い。
 「あなたもしっかりとお家騒動に巻き込まれてるって事ね。狙ってるのは多分あなたの叔父さん。フィルさんの数少ない弱味につけ込もうって魂胆でしょ」
 「え?とーさんを知っているんですか?」
 「以前、ちょっと、ね」
 実は前の仕事をしていた時、とある事件でお忍びで事件に関わったその人と知り合ったのだ。
 ・・・・・今回何がショックだったかって、そのフィルさんとこのアメリアさんがまったく似ていなかったから。
 アメリアさんはちょっと小柄な童顔で黒い大きな瞳が印象的な可愛いタイプ。それに比べフィルさんときたら、工事現場の土方の大将みたいな豪快でごついヒゲのおっさんなんである。
 ・・・・似てたら似てたでめちゃくちゃ怖いけど・・・
 で、このフィルさん。見た目と言動に誰も信じてはいないのだが、一応平和主義者である。
 人情に厚いし正義を愛するこの人が、騒ぎを起こすとはまず考えられない。
 王宮でのお家騒動となると、必然的に争いを起こしてきたのは第2王位継承者の弟、もしくはその一派となる。
 ・・・・しかし、面倒だなぁ。これは。
 ただのストーカーや暗殺者とかだったら見つけ次第しばき倒して、はいお終い。でいいんだけど、こう一国の情勢が関わってくるとなるとそうもいかない。
 でもまぁ・・・
 「はっ、こうしてはいられません。すぐに国に帰って悪を滅ぼさなければ!」
 「ちょい待ち」
 どげしゃっ
 「・・・・・なにするんですかぁ」
 テーブルから飛び下りようとしたアメリアさんの足を掴んで引き止めた。ちょっとバランス崩して顔から落ちたけど細かい事はさておく。
 「今セイルーンに行っても更に混乱させるだけよ。自国って事であなたに対する攻撃も遠慮なしになるかも知れない。だったらこっちであなたを狙ってる奴を捕まえて袋叩きにした上で、国際警察とかに引き渡した方が手っ取り早くて確実だと思うけれど」
 「でも・・・」
 「それにプリンセス自らが表立って戦うわけにはいかないでしょう。世界の注目浴びてるんだから。でも、ここでならあなたの正体を知ってる人はいないし、多少暴れても大丈夫じゃない?」
 「・・・ではこの依頼引き受けてくれる、と言う事ですか?」
 多少面倒な事件ではあるけれど、戦う気のあるこの少女の事が気に入った。頭の回転も早いし・・・多少ヒーローかぶれしてなくもないけど。
 いっちょやりますか。
 キラキラと期待に満ちた瞳ににっこりと微笑みかける。
 「さて。依頼料の事だけど・・・・」
 そして激しい戦いの末、あたしはこの仕事を正式に引き受けたのだった。

◇◇◇◇◇

 ・・・・ぷぷぷぷっっっ
 いつ見ても思わず笑っちゃうのよねぇ。


 「♪キャベツーの中かーら いもむしでーたーよ 
    にょき にょき
    おとうさんあおむーしー♪」


 小さい子供に囲まれて、でかい男が一緒に手遊びをしている。ピンクのエプロンが妙に似合ってるし。
 「あっ、リナちゃんだ」
 ぱたぱたと走ってきた子に手を振って、あたしは小さい門をくぐる。
 「おう、リナ。今日は差し入れの日だったっか」
 走ってくる子供達と一緒に歩いてくるのはこのフラグーン幼稚園の保父さん。
 長い金髪ににこやかな笑顔で、ここの女の子はもちろん園児のお母様がたにもナンバーワンのアイドルである。
 「本当に似合ってるわねぇ、ガウリィ。はいこれ。いつものおやつね」
 「わーい、クッキーだー♪」
 「こらこら。ちゃんと手を洗ってからだぞ」
 ぷぷぷぷっ。
 「本当に天職なんじゃない?ガウリィ先生」
 「子供の面倒見るのはお前で慣れてるからな」
 イタズラっぽく言うと、ポコンっ軽く頭を叩かれた。ニヤっと笑うとくしゃくしゃと髪をかき混ぜてくる。
 「やめてってば。髪が痛むでしょーが」
 慌てて逃げてからあたしはちらっと視線を投げる。その視線を受けてあたしの後ろの人物を認めると微かにうなづいた。
 「仕事、か?」
 「そ。今夜あの子泊めるから。詳しい事はあとでね」
 「了解」
 お互いにしか聞こえない程の小声で素早く打ち合わせる。
 「リナさん。いつもありがとうございます」
 ガウリィの後ろから現れた知人にあたしは小さく手を振った。
 「シルフィール。いいのよ。うちの残りだし」
 ガウリィと同じピンクのエプロンをつけたこの幼稚園の責任者であるシルフィール。
 穏やかな笑顔の清楚な美人だ。
 この街の中心にある大きな木の横にある小さな建物。
 右にあるのが教会で左にあるのが幼稚園だった。教会のシスターでもある彼女が主任を勤めている。慈善事業の一貫でアットホームな感じで小さいながら活気には溢れていた。
 以前仕事でシルフィールと知り合い、その縁で今も付き合いを続けている。
 そんなわけで、あたしの店で焼いたお菓子の残りを毎週一回差し入れしているのだ。残りっていっても十分な数は持ってくる。これが子供たちの間で大人気で。
 楽しみにしてくれてるのがわかっちゃうとつい、ね。
 「んじゃ、またね」
 「ああ。またな」
 笑って手を振ると子供たちも一斉に手を振ってくる。ほかほかした気持ちで門をくぐると感動した顔をしたアメリアさんが待っていた。
 「お待たせ」
 「素晴らしいです、リナさんっ」
 大きな目をキラキラと輝かせて手まで組んでいる。
 「これぞ人類愛!正義のあるべき姿です!」
 「・・・・・何言ってんだか。ただ残しちゃうのも、もったいないじゃない。だからそれだけよ」
 ―――――正面きって感動されるとどうもくすぐったくて仕方ない。
 「さて、行きますか」
 「ねえねえリナさん」
 「何?」
 「さっきの男の方はリナさんの恋人なんですか?」
 ずべべべべっっっ
 「ななななんでそーなるのよっ」
 「だって仲良くしてたし」
 「あいつはあたしの相棒なのっ。仕事上のパートナーよ」
 思いっきりスライディングしてしまったせいで埃まみれになってしまった服をパンパンと叩きながらなんとか立ち上がった。
 「保父さんじゃないんですか?」
 「表向きはね。あとは企業秘密」
 「えー、せめて名前くらい教えて下さいよ」
 「どうせ後で会う事になるけど。彼はガウリィよ。頭の中身はともかく腕は確かだから安心していいわ」
 そうなのだ。
 一見ほんわかした笑顔の美形な保父さん。ガウリィ・ガブリエフ。
 彼はあたしのパートナーだ。
 彼と知り合ったのはあたしが前の仕事をしていた時。詳しい話はまた後で説明する事もあるかも知れないが、その頃からあたしの『保護者』を自称している。
 あたしがこの二重の仕事を始めてからもずっと付き合ってくれてる奇特な男である。
 あたしに付き合ってか彼も二重生活者。先に述べたシルフィールの計らいで今じゃ保父さんとしての才能を発揮しまくっている。いっそのこと本業にしてしまったらいいと思うんだけど、「リナを野放しにするわけにはいかないだろ、人として」とか失礼極まりのない事を言ってる。
 腕は確かだしやたらと頑丈だし何でも屋にはもってこいな人材なのだが、天は彼に二物を与えはしたが肝心な脳みそを入れ忘れてしまったらしい。
 何しろ物覚えが悪いし話を聞いてもすぐ忘れる。考えるという行動はすべてあたし任せになってるし。
 ガウリィを野放しにする方が世間様の迷惑になるってもんだ。
 それでもあたしたちはいい相棒だ。
 「それはともかく。アメリアさん。今はその男の気配とかは感じない?」
 あたしの言葉に彼女は一瞬身体を強ばらせ、すぐに首を振った。
 「大丈夫です。お店を出てからも注意してたんですけど今はいないみたいです」
 ・・・・アメリアさんがあたしたちの手を借りた事は多分向こうにも伝わっているはず。今は様子見ってとこね。
 いきなり派手に何か仕掛けてくるとは思えないけど用心した事にこした事はない。
 「んじゃ今のうちに行きますか。日が暮れる前に」
 「そうですね」
 いずれにしても暗くなってから外にいるのは危険だ。
 あたしたちはさり気なく周りの様子を伺いながら、アメリアの家を経由してスーパーで大量の食料品を買い込むと、街の外れにあるあたしの家に向かった。

 トントトンッ
 「ニョヘロンの焼肉」
 「ニャラニャラの鍋」
 ―――――カチッ
 「ただいまー。あー、腹減った」
 「お帰りガウリィ。早かったじゃないって・・・・アメリアさん?どうかした?」
 いきなり床に突っ伏してしまった彼女を不思議そうに眺めるガウリィ。
 「この子が依頼人か?俺はガウリィ。よろしくな」
 「あ、アメリアです。よろしく」
 それでも手を差し伸べて起こしてから自己紹介をしてにっこり笑った。愛用のふかふか怪獣スリッパを履きながら。
 「・・・・・・・リナさん。今の一体なんなんです?」
 「今のって?」
 「チャイムが鳴った後何か言ってたじゃないですか」
 「ああ、あれ?合い言葉よ。キーワードで鍵が開くようになってるの。こんな仕事してると何かと物騒だしね」
 ちょっとした小細工、その一。なのだ。
 「―――――どっからどう見ても同棲中の恋人か新婚さんに見えるんですけど・・・」
 アメリアさんからの突っ込みにあたしは思わず赤くなった。
 「だから違うってさっきも言ったでしょーが!ガウリィは相棒なの!こいつが来ないと話にならないでしょ」
 鼻歌まじりでキッチンに消えていくガウリィを横目で見つつ説明する。
 じとーっ・・・・
 ・・・・・信じちゃいないし。そりゃあね、自分でもこの状況じゃ説得力ないかなーとは思うんだけど。
 「ガウリィはこの隣の部屋に住んでるの。何かあった時に近くにいれば迅速に対応できるでしょ。それに今回の依頼人は女の子だったから彼がこっちにきたのよ。男の場合はあたしが向こうに行くし」
 信じちゃいないけど一応納得はしてくれたようだ。
 だって、あたしたちは本当に相棒、なだけなんだもの。
 「さて。ご飯済ませてから打ち合わせしましょ。あ、アメリアさん」
 「はい?」
 急に真面目な声になったあたしに合わせて彼女も表情を引き締める。
 「お客がいてもうちの食事は戦争と一緒。自分の分はしっかりと死守してね。でないと食いっぱぐれるわよ」
 「・・・・たっぷり20人前ぐらい作ってなかったですか?」
 「あなたがいるから多少多く作ったけどね。ここでの遠慮は敗北を意味するから」
 「・・・・・・・・・頑張ります」
 かくして熾烈な戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。

 「・・・・・と、こういう訳なの。わかった?」
 「んー・・・なんとなく」
 「あのねぇ。小学生でもわかるように説明したでしょうが!」
 「しかしあの子がセイルーンのお姫さまとは人は見かけによらないよな」
 確かに、セイルーンの王族はみな見かけによらない。
 彼女は夕食時、今までやっぱり緊張していたせいもあるのだろう。出したワインを飲むうちに緊張が解けて安心したのか酔っぱらってしまい、延々と正義の講釈をたれていたのだ。
 今は客室でぐっすりと眠っているはず。
 「でもその、気配が同じ人間ってやつ。心当たりあるんじゃないのか?お前さん」
 「当たって欲しくはないけどね。あの連中ならやりかねないかもと思って」
 固有名詞を出す間でもなくガウリィにも何を意味するのかわかったらしい。端正な顔を歪めて苦々しく舌打ちした。
 「あいつらか・・・・」
 「そ。お金もらってる上にいい実験になってるんじゃない?セイルーンではレッサーデーモンまで湧いてるって話だし」
 レッサーデーモンー――――新種の動物、な訳はなく。
 昔からいたらしいが最近特に増え始めている亜生物。まだ生態系などははっきりと解明されてないのだが、人間と敵対関係にある事だけはハッキリしている。
 知力はそれほどではないのだが攻撃的で破壊力も高い。
 どこかの国の軍関係が兵器の変わりに生み出したとかいろいろ言われているのだが、本当のところは誰も知らない。
 だけど、このレッサーデーモンを操る事の出来る連中がいる事をあたしたちは知っていた。
 そしてアメリアさんを付け狙っている同じ気配を持つ複数の人物も、多分こいつらが手をひいている。
 「だがなぁ・・・今どきお家騒動なんて、他の国だって黙って見ちゃくれないだろうに」
 「そーよねー。騒ぎを起こした方が不利だって普通わかると思うんだけど。世間の目も厳しいだろうし」
 「見た目よりも人望あるもんな、フィルさん」
 「おおっ!?ガウリィがフィルさんの事覚えてるなんてっっ」
 「・・・・あんな強烈な人、いくら俺でも忘れないって」
 「・・・・まあね・・・」
 たがいに引きつった笑みを浮かべてしまったのは仕方ない事だろう。
 「ま、なんにしても世界中のニュースになってしまったからには時間の勝負ね。こっちだっていつ襲撃されてもおかしく・・・・」
 ない、と言いかけたとたん。
 ―――――どっごぉぉぉぉんんっっっ
 爆発音が夜の闇に響き渡った。バラバラと固いものが壁に当たる音もする。
 「行くわよ、ガウリィ!」
 「おうっ!」
 瞬時に立ち上がるとガウリィが先に飛び出していく。
 「何です?今の音」
 続いて飛び出そうとしたあたしの後ろから、寝ていたアメリアさんが顔を出した。少し寝たせいか酔いもおさまったようで表情も足取りもしっかりしている。
 「早速食い付いてきたわ。ここなら周りに家はないし思いきった攻撃も仕掛けられるから。アメリアさんは・・・」
 「あたしも行きます!」
 あたしが何か言うよりも早く彼女の闘志に火がついたようだ。
 「自分の身ぐらいちゃんと守れます。なによりあたしの問題です。正義に燃えるこの拳で不届き者を退治しなければ!」
 ビシっと中指をおっ立てて宣言するのはいいけれど、あんた一応お姫さまじゃなかったんかい・・・
 「ま、まぁいいわ。ただし油断はしないで。あたしたちから離れないでね」
 「はいっ」
 あたしたちは軽くうなずき合うと外に飛び出した。