|
久しぶりに身体が引き締まる。
魔道着に風を受けてなびく黒いマント。月明かりの中でショルダーガードの飾りと身につけたタリスマンが鈍く光った。
音を立てないように気をつけて窓から飛び出したあたしの眼下に広がる、一面の緑のぶどうの葉。
ほとんどの収穫を終えても、まだその上を渡る風にはぶどうの甘い香りが移っている。
翔封界(レイウィング)を使っても身体は問題ない。魔力ももう完全に戻ったと見ていいだろう。
村をぐるっと一周旋回してみてから、あたしは街に続く街道沿いにふわふわと飛んでいた。
静かな村。どこから見ても平和そのもの、という感じがしたのだが・・・・
「・・・何か、チリチリするわね」
不穏な空気、というものがこの街道のどこからか伝わってくるのだ。
闇の中に蠢く人の気配。
盗賊団のものと似てはいるが、それよりは統率が取れているような気がする。
「・・・収穫祭前だし、こういう時期は狙われてもおかしくはないけれどね」
一度地上に降りて、今度は浮遊(レビテーション)で気配を殺しながら飛んでみる。
不謹慎かもしれないが、久しぶりに感じる高揚感にうきうきしてきた。張り詰めた空気が病気をしてだらけていた身体と萎えていた心をピシっとさせていく。
あたしらしいと言えば、この上なくあたしらしいかもしれない。結局騒ぎが好きと言ってしまえば身も蓋もないが。
(・・・っと、いたいた。やっぱり普通の盗賊団って感じじゃないわね。雇われ強盗ってとこかしら。荷台まで引いてるってことは狙いは何?)
ゾロゾロとなるべく物音を立てないように慎重に歩いている。数はざっと50人ってところ。これだけの人数がいながら木の影に隠れたあたしの存在にはまだ誰も気付いていない。
村の中心からはまだかなり離れている。ここでなら多少騒いでも問題はないだろう。
こいつらの狙いは気になるけれども、取りあえず襲われる前に見つけたわけだし。
収入にはならないかもしれないけれど、ずっとお世話になったお礼代わりにはなるでしょ。
知らず知らずに笑顔になってしまう自分が憎い♪
おっしゃ。いっちょ暴れちゃうぞ♪
すうっと大きく息を吸い込んで、あたしは特大の光を生み出すと行列の中に投げ込んだ。
「うおおっっ!?」
「おわぁ!?なんだぁっ!?」
暗闇に慣れた目に突然飛び込んできた光の固まりに、強盗たちがうろたえた。表面上の統率が一瞬にして解ける。
「いきなり火炎球(ファイヤーボール)!」
どごおおおんっっ!
「どわあぁぁぁっっっ!?」
「何なんだぁっっ!?」
「誰だ!」
まき散らされた炎と、怒号と殺気。
混乱のまっただ中にあたしは軽やかに降り立った。
ふぁさっと髪をかきあげてニヤっと不敵に笑い、ビシっと指を突き付けて挑発する。
「盗賊崩れの分際であたしに名乗らせようとするなんて百万年早いのよ!」
「何だとっ、このくそ生意気な坊主はっっ!」
「爆裂陣(メガブランド)!」
ぼくおおおんっっ!
「どひえぇぇぇっっ!?」
「この可憐な美少女天才魔道士、リナ・インバースに向かっての暴言許すまじ!久しぶりだしじっくりと相手してあげるわよっ!」
ったく。その目はガラス玉かっての!
こんな美少女捕まえて、どうやったら男の子に見えるってのさ。
ざわっ・・・
むくれるあたしの前でざわめきが広がっていく。あたしの名前ってやっぱり売れてんのねぇ。うろたえて逃げ出す者もいた。
大抵ろくでもない2つ名が暴走しているから、あまり嬉しくはないけれども。
「へ・・・へんっ!あのリナ・インバースがこんなチビガキのはずねぇじゃねーか!『大魔王の食べ残し』とか『ドラマタ』とか言われてんだぞ!?」
「そ、そうだよなっ!本物のリナ・インバースはもっとこう、見た目グロくて角生えてるって・・・」
「目から光線出るって聞いたぞ!」
「増幅版・爆裂陣ぉ!」
どぼくおおおんっっ!
「うひょわあぁぁあっっ!」
タリスマンの力を借りて数倍の威力を増した呪文が、失礼極まりない台詞をのたまった男たちをまとめて吹っ飛ばす。
ああああ〜〜〜腹立つ〜〜〜っっ!
この場合、どっちを重点に置いて腹を立てたらいいかわからないのがちょびっと気になるけれど・・・・うふふふふ・・・どっちでもいーわ。ぢごくを見せてやる!
昔だったらすでに竜破斬(ドラグスレイブ)ぶちかましててもおかしくない程の暴言を吐いてくれたのだ。
半数以上がすでに倒れていたがこの程度で許してなるもものか!
「氷の矢(フリーズアロー)!」
「振動弾(ダムブラス)!」
「電撃(モノヴォルト)!」
―――――かくして、攻撃呪文の花が月明かりに照らされた街道に咲き誇ったのだった。
――――パンパン
「はぁ〜〜、スッキリした♪」
にこやかに埃を払うあたしの前には、煤けてピクピクしている盗賊崩れの群れ。
魔力も完全復活が証明されたし、こんなに晴れ晴れした気分は本当に久しぶり。これだから盗賊いじめはやめられないのよね♪
さってと、お宝・・・もとい、何が目的でやってきたのか尋問してみましょうか。
短剣の先でつんつん突いてみると、死んだふりを決め込んでいた男がもぞもぞと動いた。
「ほらほら、呪文の威力セーブしてあげてたんだから死んだふりしない!あんたたちの雇い主と何を狙っていたのか、正直に答えなさい」
「うううう・・・鬼ぃ・・・」
ゲシッ!ゆっさゆっさ!
「ほらっ、さっさと言う!」
「・・・・・・・そんなにがくがく揺さぶっていたら言いたくても言えないと思うぞ」
「うひゃあっ!?」
突然聞こえた声に、あたしは文字どおり飛び上がった。思わず勢いよく手を離して男が顔面から地面に激突し気絶したけど、そんなことはどうでもいい。
恐る恐る振り返ると、そこには思った通りの顔が呆れた表情で佇んでいた。
「全くお前は・・・ちょっと目を離すとすぐこれだ」
「あ、あはは・・・いやぁ、月が綺麗だからちょっとお散歩してたんだけど、ガウリイもお散歩?」
「・・・・お散歩と言うにはちょっと殺伐としてないか?」
「あらそーかしら?」
久しぶりに見るガウリイの武装姿。やっぱりガウリイもこの格好をすると気が引き締まるのかもしれない。
ゆっくりとため息をつきながら近付いてくるのを、あたしは奇妙な事にどこかほっとするのを感じながら見つめていた。
「リナ」
「・・・・何よ・・・?」
「お前は本当に・・・・いい加減止めろよな、こういう事」
「何でよ。盗賊いぢめは乙女のたしなみであたしの趣味なんだから。悪を倒して金品ゲット!素晴らしいじゃない!」
「あのなぁ・・・お前だって女の子なんだぞ?何度も言ってるってのに・・・その上今日は病み上がりだろーが。この間みたいに急に倒れたりしたらどうするんだ!?」
「もう平気よ。魔力だって体力だって元に戻ったし、この状況見ればわかるでしょう!?」
「今日だけの問題じゃないだろう!?今度またいつか、1人で行動している時に動けなくなったらどうする気だ!?子供じゃないんだから、あんまり心配させるなよな!」
「何よっ!あたしは心配してくれなんて言った事ないじゃない!?自分の身ぐらい自分で守れるわよ、子供じゃないんだから!」
いつものお説教が、いつの間にか2人の言い争いに発展していた。いつもは淡々と話すガウリイも珍しくテンション上がってきて、ほとんど怒鳴りあいのようになっていた。
この間からしたかった、本音をぶつけあう『喧嘩』。
「いつも子供子供って言ってくれるけど、いい加減にしてよねっ!確かにねっ、あんたと出会った頃はまだ子供っぽいところがあったかもしれないけど、人間は成長するの!もう子供って言われる年じゃないわよっ!」
「子供じゃないって言うなら、やっていい事と悪い事の区別はつくはずだろ!?だったら何で盗賊いじめ止めないんだよ。人に心配かけるのは子供と同じだろっ!」
「だったら!あんたの頭の中身だって子供と同じじゃない!?」
「それは今関係ないだろ!?」
「大ありよ!保護者なんて言っておきながら実際養ってるのってあたしじゃない!?どっちが保護者なんだかわかんないじゃない。違う!?」
・・・・・勢いにのって、ひどい事言ってる。
熱くなった頭の片隅で、冷静な自分が呟いた。
お互いに熱くなっていたのに、その一言にガウリイの顔が一瞬辛そうに歪んだのも、冷静な自分は気付いていた。それなのに勢いにのった言葉は止まらない。
「あたしが子供だって言うなら他の大人の女のとこ行けばいいじゃない!子供の心配したくないって言うなら何も一緒にいなくたっていーわよ!あたしが寝ている夜中にこっそりと出かけなくても、堂々と出かければいいじゃない。あの人だって綺麗だし、あんたの好みだったらそっち行けばいいじゃない。あたしに隠れてこそこそされるくらいだったらはっきりきっぱりしてくれた方がいいわよ!!」
ゼーハーゼーハー・・・・
勢いにのって叫ぶように言い切って・・・肩で息をつきながらふと首を傾げた。
・・・・あたし、勢いにのって何かすごい事言わなかった?
それに、急に静かになっちゃったけど・・・・何か言い返す事ないの?ガウリイ?
ここで沈黙されると喧嘩にならないんだけれど。
息を整えてからガウリイを見て・・・・思わず固まった。
さっきまでの熱さとはまた違った熱が身体の奥の方から沸き上がってくる。
「・・・・・ガウリイ?」
口元に手をあてて呆然とあたしを見ているガウリイに、おずおずと声をかけてみた。
青白い月明かりのもとでもわかる程、うっすらと顔を赤くしているガウリイ。
そこには、何年も一緒にいたのに初めて見るガウリイがいた。
そして、どこかほっとしたような驚いたような嬉しそうな、そんな眼差しで見つめられて。急に鼓動が速くなってくる。
「・・・・・はあ〜〜〜何だ〜〜〜・・・」
突然大きなため息をついてガウリイがへなへなとへたりこんだ。
「な、何よ一体?どうしたの、ガウリイ?」
「よかったぁ〜〜〜・・・」
あまりに不審な態度にいぶかしみながら近付いて覗き込もうとした瞬間――――
――――グイっ・・・・ポスっ・・・
「うわっ・・・・なななな何すんのよっ」
一瞬頭が真っ白になって・・・気がついたらあたしはガウリイの胸の中に倒れこんでいた。腕を思いっきり引っ張られたんだから体勢崩しても仕方ない・・・・じゃなくて!
慌てて立ち上がろうとしても、ガウリイの腕があたしの背中に回されてて抜けだせない。これって・・・いわゆる『抱き締められてる』ってことに、なる・・・!?
ボンっと、一気に血が登った。身体中がとんでもなく熱くなって、顔から火が噴きそうな程赤くなって、恥ずかしさのあまりじたばたと暴れてみるけれどガウリイの腕は更に強くあたしを拘束して、逃げられない。
――――何なの、何なの、何なのよ〜〜〜っっ!
パニックに陥った頭には、それしか言葉が出てこない。
「・・・・それでずっと機嫌が悪かったんだな・・・」
ガウリイのため息のような言葉があたしの髪にかかって、思わず首を竦めた。
「なな、何の事よ。1人で納得しないでよ・・・って、その前に離せーーっっ!」
「やだね。俺、結構傷ついてたんだぜ?リナが急に俺のとこ無視し出すし、あの時キスしちまった事怒ってたのかと思ってこっちも強く出れなかったし、お前もまだ体調よくなかったしさ」
「うっ・・えっと・・・あの?」
・・・・・何か、今、さらっと聞き逃せないような事言わなかった?
「でも、キスした事で怒ってたわけじゃなかったんだな。いや〜よかった」
嬉しそうな声を頭の上で聞いて、パニックを起こしていた頭がゆっくりと回転しだす。
・・・・えっと・・・?
あたしがイライラしててガウリイにあたっていた事を気にしてて?
何で怒ってるのかわからなくて・・・んで、あたしにキスしたことであたしが怒ってるんじゃないかって思ってて?
でも、そうじゃなくてよかった・・・?
あたしにキスって・・・え?キス?・・・あたしに?えっと・・・それって・・・・・?まさか・・・・!?あれ!?
「よくなーいっっ!・・・・いたた・・」
「うげっ・・・何するんだよ、リナ」
勢いよく顔を上げた瞬間にあたしの頭の上に顔を乗せていたガウリイの顎をあたしの頭が思いっきりぶつかった形になって、思わず2人して涙目になってしまった。ゴチっ、っていい音したし・・・痛いよぅ・・・
「あ、ごめ・・・・んじゃなーいっっ!やっぱりあれあんたなのっ!?」
「あれって・・・ああ、うん。思わず」
「爽やかに照れ笑いするんじゃなーいっっ!!何なのよ・・・何で、そんな・・・あんな事するのよ・・・!」
「・・・リナ?」
――――やばい。パニック起こして、何だか涙出そう・・・・
「何でよ・・・あたしは子供なんでしょ?大人の女の人のがいいんでしょ?何でそんな事するのよ・・・っ」
「何でって・・・リナが目を覚ましてほっとして・・・気がついたらキスしてた」
あたしの様子にガウリイの声が真剣な響きを帯びる。でもあたしは、顔を上げたら瞼に盛り上がってきた涙が溢れそうで、視線を合わせる事なんて出来なかった。
「そんな事でしないでよっ!子供をあやすのと同じ気持ちでなんて・・・バカみたいじゃない・・・一瞬喜んじゃったあたしがバカみたいじゃない!」
吹き出してきた、想い。
あの夜。窓の外で出かけて行くガウリイの姿を見た時の、あの言いしれない寂しさと、虚しさ。
少しだけ感じていた期待を突然裏切られたような、すごい喪失感を感じて、自惚れてた自分に腹が立って・・・だからあんなひどい態度取って・・・
―――――好きなのに・・・
あたしはもう、子供じゃない。子供じゃないよ、ガウリイ。
「・・・・・泣くなよ」
ギュっとガウリイの腕があたしを締め付ける。痛いくらいに強く。
「・・・泣いてないわよっ。いい加減離してよっ」
「嫌だ。誰が離すかよ」
「・・・・離してよぉ・・・」
殴りつけてやろうとしたのに、全く身体が動かなかった。
・・・・あたし、弱くなった。だって、ガウリイを好きだと気付いてからあたしどんどん弱い姿を晒してしまっている。
こんなに、涙って簡単に出るものだった?
こんなに、涙って止められないものだった?
「・・・・悪い。リナの事泣かせるつもりなんてなかったのに、こんなにお前が泣いてるのに・・・俺、すごく嬉しい」
「・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」
・・・・・・ちょっと待て。
人が珍しく女の子モード全開で、シリアスに徹しているというのに。嬉しいだぁ!?
あまりのガウリイの台詞に、ピタっと涙が止まった。
ったく、このバカクラゲっ!
少しはその場の雰囲気とか人の気持ちとか、わかろうとしなさいよ!
「ちょっと、ガウリ・・イ・・・?」
ガバっと顔を上げ、思わずガウリイの胸ぐらを・・・ブレストプレートつけてたから仕方なく首元を掴み上げて、そのまま硬直してしまった。
その、あまりにも嬉しそうで真直ぐな瞳に飲まれてしまって。
「・・・あ・・・」
「自惚れていいんだよ、な?」
「・・・・・え・・・何・・・?」
ガウリイのごつい指が、ぎこちなくあたしの目許に残っていた水滴を拭っていく。また顔中真っ赤に染まったのがわかったけれど、視線を逸らす事が出来ない。
「強気のリナが俺の前で泣く程・・・俺の事を考えてくれてたって事だよな?だから、嬉しい」
「な、何で・・そうなるのよ」
「だってそうだろ?あれだけ徹底的に無視して怒っていたのは、やきもち妬いてくれたからだろ?勘違いして理由も聞かないで、それだけ俺の事を意識してくれたって事なんだろ?」
――――勘違い?
「子供だって連呼したのは悪かった。確かに子供はこんな表情しないもんな・・・でも、あんまり急いで大人にならないでくれよ。俺だってリナが思う程大人じゃないんだから」
「ガウリイ・・・?」
「俺だって・・・我慢きかなくなる時だってあるんだぞ・・・」
――――見開いた視界一杯にガウリイの顔。青い瞳がこれ以上ない程近くて・・・・ドキドキしてる胸がキュウっと苦しくなって瞳を閉じると、唇に暖かいものがそっと触れた。
あの時と、同じ感触。
柔らかくただ触れているだけなのに、鼓動がうるさいくらい耳もとで高鳴っているのがわかる。体温が上がって・・・なのに、どこかほっとしている。
すれ違って離れていた心が寄り添って、強ばってざらついていたのが嘘のように柔らかく解けていく。
ただ唇と唇が触れるだけなのに、こんなにも気持ちを伝え合えるなんて不思議。
・・・・それに、何だろう。不思議な懐かしさを感じるのは・・・
「・・・・自惚れていいよな?」
―――こくん
いつ唇が離れたのかは記憶にない。ボーっとしている頭にガウリイの嬉し気な声が入ってきて、あたしはただ素直に頭を縦に振っていた。
ぎゅうっと再びガウリイの腕が強くあたしを抱きしめてくる。変な意地とかいろんなごちゃごちゃした感情が綺麗に消えてしまったあたしは、今度は素直にその暖かさに身を任せて、小さな吐息をついた。
ピューピュー♪
パチパチパチ♪
「よかったなー、にいちゃん!」
「仲直り出来てよかったわね!」
「ここは一気に押し倒せっ!」
「いや〜、若いっていい事ですなぁ」
「本当にねぇ。あたしもあんな頃があったのよねぇ」
「・・・あの凶悪な小娘も可愛いとこあるんだなぁ・・・」
「ああ、とてもさっきまで攻撃魔法ぶっぱなしてた奴とは思えないよな」
ピューピュー♪
―――――――へっ!?
夢見心地だったあたしの耳に入ってきたたくさんの声に、意識が一瞬にして現実に戻った。
ガバっと顔を上げて見た先には、黒だかりの野次馬の群れ。
手に様々な武器やランプを持った村人に、さっきぶち倒した盗賊崩れがいつの間にか復活して、あたしたちを取り囲むようにして見学していた。
「んなっ・・なっ・・!?」
「おー・・・いつの間にこんなに集まったんだ?」
あまりの事にわなわなと身体を震わせて、顔の色を赤と青を行ったり来たりしているあたしと、ちょっと驚いた顔をしているけれど相変わらずのほほんとしているガウリイ。
〜〜〜〜リナ・インバース一生の不覚っっ!
自分の事に気が一杯で、人の気配を全然感じなかったなんて・・・しかも、あんなところを見られたなんて〜〜〜!
「・・・・・・ド・・・・・」
「ド?・・・・っっ、待てっリナっ!早まるなっっ!」
「うるさ〜いっっ!みんな忘れろぉ〜〜〜っ!竜破斬(ドラグスレイブ)っっ!」
ちゅどぉおおおおんっっっ!
――――月明かりの下、街道に花が咲いた。
ちょっと大きな花で、ちょっと街道がぷち切れちゃったけど。それは可愛い乙女の恥じらいってことで!問題無し!
「・・・・お前なぁ・・・」
「何よっっ!ぜーんぶガウリイのせいなんだから!」
でっかいクレーターと、吹っ飛ばされた人たちがピクピクしている光景を見て、ガウリイが頭を抱えてため息をついた。ちなみにガウリイは今の竜破斬を紙一重で避けていた・・・ちっ。
「よかったねぇ、ガウリイさん」
声をかけてきた人の声にハっとして振り向くと、どでかい戦斧(バトルアックス)を軽々と肩に担いでにこにこと笑っているカペレさん。
――――それ、女の人がんな簡単に持てるような重さじゃないんですけれど・・・(故郷のねーちゃんは除く)
しかも無傷ってことは、今の竜破斬きっちり避けたって事だし・・・
「ワイン泥棒を捕まえる為に反対側の街道で見張ってたんだけど、こっちで爆発音がしてね。ガウリイさんが血相変えて飛び出していったんだけど・・・いやぁ、聞いてた通り。やるもんだねぇ、リナちゃん♪」
「へ?あ、あの・・・何が?」
「こいつらやったのリナちゃんでしょう?今の魔法も迫力あるし♪あたし以外にも盗賊退治する女の子っていたのね♪おかげで今年は楽にワイン泥棒捕まえられたわ」
「ワイン泥棒・・・?」
ぎぎぎ・・・っと首を動かして盗賊崩れを見ると。ここに駆け付けた本業を思い出した武装した・・・何故かぼろぼろになった村人たちが、更にぼろぼろになったそいつらをロープでぐるぐると縛っているところだった。
「ポルトーでは収穫祭の時に前年仕込んでいたワインを封切るんだけど、それを毎年狙ってきててね。今年もそろそろ来る頃だって事で警戒してたの」
「んで、俺も頼まれたんだよ」
カペレさんの説明にガウリイも加わる。
「病気で寝込んでるリナを1人にしたくなかったんだけど、夜はおばちゃんが様子見ててくれるって言うからさ。ゆっくり休養させなきゃならんし、薬代やなんかで何かと物入りだし」
「こっちは腕の良い助っ人を探していたし、調度よかったのよ。ほら、腕に自信はあってもやっぱり夜更かしは美容の天敵だしさ。だから深夜は見張り交代してもらうってことで村の自警団の団長として正式に依頼してたのよ」
―――――え?
「な?誤解だったろ?黙ってたのは悪かったけど、とても言い出せる状態じゃなかったしな、お前」
「ガウリイさん、悩んでたのよ?リナちゃんも悩んでたみたいだけど、これで解決。よかったわね♪」
「う・・え・・まぁ・・・」
「『喧嘩する程仲が良い』って言うけど、程々にね」
いつものようにひらひらと手を振って、カペレさんは意気揚々とワイン泥棒達を縛っているロープを掴んで連行していった。
・・・・・・まるっきり、誤解。
勝手に勘違いして、勝手に嫉妬して、ガウリイにあたってたんだ・・・・
呆然としていたあたしの髪をガウリイがいつものように、でも久しぶりにクシャっとかき回していく。
――――うん。やっぱりガウリイの手が一番ほっとする。
「・・・まだ子供扱い?」
「いや。これは癖」
「・・・・・バカクラゲ」
大体、あんたがまともなこと考えて行動するからこんな誤解を招くんじゃない。
ちょっと・・・・かなり嬉しかったけど。
あたしとガウリイの『不思議な関係』。
今は、数時間前とは変わっている。
はっきりとは言葉に出来ないってのは変わらないけれど、それは戸惑いと照れがあって。でも、前のように胸が痛む事はない。
言葉には出していないけれど、言葉にしてもらっていないけれど。
お互いに思いあっていた想いは、伝わっている。自信を持って自惚れている。
それは、繋いだ手のひらから伝わってくる温もりとか。
照れ隠しのじゃれあいとか。
大切な人が、すぐ隣にいて。
その人も、自分を大切にしてくれているっていうことがわかった、奇跡のような夜。
あたしたちは、小さな。でもとても大きな一歩を踏み出したのだった――――
|