スレイヤーズNEXT→TRY 三部作  『ステップ』

オープニングエピソード 

〜時にはこんな落とし穴〜


 

 「うーん・・・・」
 森を貫く街道をてくてくと歩きながら、あたしは今日何度目かのうなり声を上げてしまった。
 「どうしたんだリナ。今朝からウンウンうなって、腹でも痛いのか?」
 「違うわよ。ちょっと考え事してて・・・なんか変なのよね」
 振り返ったガウリイにパタパタと手を振ってから、腕を組んでhーと空を見上げた。
 今日もいい天気。秋の空は澄んでてとても高く感じる。森の木々もこのところ赤や黄色に色付き始めた。
 暑くもなく寒くもない。旅人には嬉しい季節。
 「変って何が?」
 のほほんと、大して気にも止めてないような口調でガウリイが聞いてくる。
 「何となくね、いつもと身体の勝手が違うような気がするのよ。別にどこか痛いとかじゃないんだけど」
 「お前さん、昨晩も夜遊びしにいっただろ。湯冷めして風邪でもひいたんじゃないのか?」
 ―――――ぎくっ・・・・やっぱり気づいていたのか・・・
 「善良なる人々の金品を暴力でもって奪っていく盗賊団をぶちのめすのは立派な正義!その正義の報酬としてお宝をいただいていくのは、当然の権利よっ!」
 「・・・・・どこ指差してるんだよ・・・」
 ビシィと明後日の方向へ指をさし、無意味に胸を反らし声高らかに正義の定義をふりかざす。
 ――――かなり虚しいぞ、これ・・・・
 「・・・・アメリアも、よく毎回こんな恥ずかしい事やってたもんね」
 「アメリアは恥ずかしがってないだろう」
 「・・・・まぁね、アメリアだしね・・・」
 本人は恥ずかしさの欠片もないけれど、回りにいるあたし達が恥ずかしかったわよ。特にゼルなんてよく他人のふりしてたっけ。
 「それで?懐も暖まってストレスも発散させて、何が変なんだ?」
 「んー、お宝の方はそうでもなかったんだけど・・・魔法の威力がね、何か弱いのよ」
 「弱いって・・・あの日なんだろ?」
 「違うわぁーーーっっ!!」
 スパコーーーンっっ!!
 予想通りの答えに、もはや必須アイテムのスリッパでガウリイの頭をドツキ倒した。
 ったく。デリカシーも何もありゃしないんだから。
 もっとも、ふと気がつくとトラブルに巻き込まれているようなあたし達。魔法が使えない時はどんなに恥ずかしくてもちゃんと伝えてる。何たって、命に関わるもんね。冗談抜きで。
 まぁ、ここぞとばかりに楽をするって言い方もできるけど。いいのよっ、女の子はいろいろ大変なんだから。
 ――――っと、それはともかく。
 「――――魔法が使えるようになったのは一週間ほど前の事でしょ。あれが原因って事はあり得ないの!」
 「そうなのか?」
 「そうなのっっ」
あーもうっ、焦って顔が赤くなっちゃったじゃないか。
いくら大切な事だっていっても、恥ずかしい話題には違いないんだから。
 何年も一緒に旅してるんだから、そういう周期も解ってくれたって・・・・って、ガウリイが覚えてるわけないか。
 ポリポリと、できるだけ冷静さを心掛けて、ちょっと痛むこめかみを掻いてみる。
 「じゃあ何で魔法が弱くなったんだ?」
 「だからー、それがよくわかんないから悩んでるんじゃない」
 確かに、あの日が近づいてきた時によく似てる弱まり方なんだけれど。それか、かなりの魔力を消費してしまって回復を待ってる時。
 でも、ここ最近はそんな物騒な事なかった、はず。
 髪の毛が白くなっちゃうほどの事がなければ、こんな事ってないし。
 フィブリゾとの戦いがあったのも、もう半年も前の話。あの時はとんでもない大技を使ったにもかかわらず何故か身体は無事だったから。
 その後は、ドラグスレイブ竜破斬ぐらいしか使ってないしなぁ・・・hーん、わからん。
 でも、原因が分からないのは非常に困る。
 どういう訳か、頼みもしないのに魔族やらデーモンやらとんでもないゴタゴタが向こうからやってくる環境にいるあたし達にとって、それこそ肝心な時に魔法が使えなかったりしたら・・・・
 「本当に風邪とかひいたんじゃないのか?」
 「んー?でもちゃんと食欲あるし、咳もしないし。ちょっと頭が痛い気もするけれど後は別になんともないし」
 「でも、さっきからなんか顔赤いぞ」
 どれどれ、とガウリイが手を伸ばしてくる。その手があたしの額に触れるか触れないかの所であたし達の回りに殺気が立ち込めた。
 ・・・・・あちゃー・・・マジに魔法の威力落ちてるや。
 昨日襲った盗賊団の残党だろう。別に手加減したつもりはないのに。
内心で舌打ちしながらも、あたしは慌てず騒がず口の中で小さく呪文を唱えると、振り向きもせずに後ろの茂みに向かって呪力を解放する。
「火炎球(ファイヤー・ボール)!!」
・ ・・・・・・・・・あれ?
「リナっ!?どうした?」
 慌ててあたしの前に出ながらガウリイがひょいっと覗き込む。
 青い瞳はびっくりして丸くなってるけど、それはあたしも同じ。
・ ・・・・・・き、きっとなにかの間違いよ。うん。
「貴様ぁ!!夕べはよくも好き勝手してくれたな」
 あたしの不発した呪文に誘われるかのように、十数名の盗賊達が一斉に姿を現わした。
 それでも、さすがに昨日の襲撃に無傷だったものはいないらしく、皆どこかしらに包帯なんぞを巻き付けている。
 ・・・・せっかく助かった命なんだから、大人しくしてればよかったのに。
 ぼろぼろの装束にありったけの武器を身につけ、憎悪と殺気の混じったギラギラしている目があたしを取り囲む。
 ――――なんて、観察してる場合じゃない。
 ・ ・・・・もう一度、心を落ち着けて・・・
 ジリジリと迫ってくる盗賊団はとりあえず無視。
 ゆっくりと力ある言葉を唱え出したあたしを、ガウリイが剣を抜いて防御してくれてる。
 「夕べは俺たちも油断してたが、今日はそうはいかねぇぜ」
 「素直に取っていったお宝を返してごめんなさいと謝れば、命だけは助けてやってもいいがな」
 「炸裂陣(ディルブランド)!!」
 ・ ・・・・・・・・・・・・しーん・・・・・
 「なっ、なんでっ・・・?」
 「なにやってるんだ、このちび」
 「ぎゃはははははは」
 いつもなら決して許さない盗賊どもの暴言も、今のあたしの耳にはまったく入ってこなかった。
 ―――――魔法が発動しない・・・・
 「リナ!」
 呆然としてるあたしをぐいっとガウリイが引き寄せる。
 と、同時に襲い掛かってきた盗賊その1を峰打ちで地面に叩き伏せた。
 「てめえっ・・やっちまえっっ!」
 「うおおおりゃぁぁぁ」
 雄叫びと共に一斉に踊りかかってくる盗賊達。
 反射的に腰の短剣を抜き放ち、ガウリイから離れようとすると、反対に引き寄せられた。
 「ち、ちょっとガウリイ!これじゃ戦えないでしょうがっ」
 次々来る剣戟をかわしながらもあたしを離そうとしないガウリイに文句を言って離れようとすると、急にゴツンと何か固いものが額に触れた。
 「痛・・・っっ!?」
 それがなんなのかわかった瞬間、あたしの頭の中が真っ白になった。
 微かに出た吐息が触れて、あたしの顔が真っ赤になった、と思う。それこそ、ボンっと爆発したように。
 超至近距離であたしを覗き込んでいる青い瞳。
 ――――額が触れてる。
 ガウリイがわずかに眉をしかめて息をつく。
 一瞬状況がつかめなかったあたしの身体をガウリイがひょいっと担ぎ上げた。
 「ききき貴様らっ。戦いの最中にいちゃつくとは何ごとだぁ!!」
 「羨ましいことしてんじゃねぇ!!」
 ・ ・・・そういえば戦闘中じゃなかったっけ・・・?
 何やらモテない男の悲痛な叫びも混じっているが・・・
 って、そうじゃなくって!
 「ちょっとガウリイ!何やってんのよっっ。降ろしなさいってっっ!!」
 ハッと我にかえり、じたばたするけどガウリイの腕はびくともしない。
 しかも、あたしを担ぎ上げてる状態でそれでも難無く盗賊どもと対峙してるのだ。
 「ガウリイ!!」
 「リナはここで休んでろ。ここで暴れたら熱が上がるぞっ!」
 ・・・・・熱?
 言われると同時に、盗賊達から少し距離をおいた木の影にどさっと降ろされる。置いたと言うより投げ下ろされたと言う方が正しいが。
 「ちょっとっ!あたしは荷物かっ!」
 文句を聞く間でもなくガウリイは残りの盗賊を相手にするべく走り出している。
 あたしの側にこさせないためだろう。ここからかなり距離をおいて対峙している。
 「熱なんてないってば・・・」
 この程度の盗賊相手ならガウリイに任せておいても何も問題ないだろうし、確かに今日のあたしは魔法が使えないけど。
 元をただせば昨日あたしがとどめを指せなかったからだし。
 数々の暴言を黙って許すあたしじゃない。
 魔法が使えないイライラの発散場所になってもらいましょうか!
 打ち付けたお尻を擦りつつ立ち上がろうとして・・・・いきなり腰が抜けた。
 「・・・・・はや?」
 カクンっと膝が勝手に地についてしまう。
 不意にゾクっと背筋に悪寒が走り抜けた。
 「・・・・・あれれれ・・・??」
 カランっと手の中からショートソードが滑り落ちる。拾おうとした手がブルブルと震えて、身体中が急激に寒くなった。
 ――――寒いなんてもんじゃない・・・
 今って・・・秋だよね・・・?
 こんなに寒いなんて、今年は異常気象なのかな・・・?
 思わず筋違いな考えが浮かんでくる。
 自分の身体を支えていられない。視界が揺れて、力なく地面に崩れ落ちた。
 ――――一体どうなっちゃったのよ、あたしは・・・
 剣戟と怒号が遥か遠くから聞こえてくる気がする。
 ・・・・こんなところで倒れてる場合じゃないってのに・・・やっぱり熱があったのかな・・・
 ごめん、ガウリイ。
 ちょっと援護できそうにない。
 なんとか頭を挙げて目をこらす。霞む目に映る金色の風。
 ・・・・無事でいてよ・・・
 意識があったのはそこまで。
 寒さに大きく身体を震わせて、あたしの意識は暗転していった――――