「なになに・・・『外の世界へ外交使節団を派遣する準備の為、先陣をきるセイルーンの関係者が湾岸諸国連合に到着』・・・ねぇ・・・」
香茶を啜りつつ、あたしはしげしげと手にした新聞を眺めていた。
寒さはまだ続くけれど、確実に太陽の光には力が増して、雪が舞う変わりに雨が振ってくる回数が多くなってきた。
春の足音が確実に近付いてきている、そんな日の午後の事。
興味津々あたしの手元を覗き込んでくるのは、あたしの自称保護者であたしの唯一の人。長身金髪美形の気の良いにーちゃん、頭の中はふやけたパスタのガウリイだ。
あたしたちの関係が一歩進んだ所で、基本的には相変わらず何も変わっていない。
だからこそあたしたちは、ずっと一緒に旅を続けていけるのだ。
甘えられる場所が出来たってことで、2人ともに自信と余裕みたいなものは出来たけれど。
「『海から突き出ている不可思議な光の柱の正体を掴め』・・・ふーん・・・海から光の柱が出てるのか?」
「あのねぇ・・・冬になる前にも同じような事言ったわよ、あんた」
しきりに感心してるガウリイを呆れながらも、あたしの胸は騒ぎ始めていた。
冬の間はずっとこの街に滞在していたけれど、そろそろ出発の頃だろう。
今から海岸沿いに南下していけば、ちょうど外の世界に向けて出航直前を狙えそうな良さそうな時期に、きっと来ているであろうアメリアと合流出来そうな気がする。
このニュースは広く伝わっているようだし、細かな情報もチェックしてるはずだから、ひょっとしたらゼルガディスもアメリアを目印に現れる可能性だって高い。
何しろ、ゼルは自分の身体を元の人間の姿に戻す為に、やっきになってんだから。
異界黙示録(クレアバイブル)への道が閉ざされてしまった今、もしかしたらあるかもしれないその写本を求めると同時に、外の世界の魔法や技術に期待するのはごく当然の事だ。
まぁ、ひょっとしたらそれを口実にアメリアに会いに行くのかもしれないけどね。
「外の世界か。そろそろ行く気なんだろ?」
新聞から顔を上げて明るく聞いてくるガウリイに、パチっとウィンクを投げる。
「そのとーり。まだ見た事のない未知なる魔法や食べ物があたしを待ってるわ♪そーゆーわけで、出発するわよ、ガウリイ」
「おう」
あたしの声にガウリイが何の躊躇いも気負いもなしに荷物を持って立ち上がった。
騒ぎ始めているのは、新たな冒険の予感。
平穏無事な日々もいいけれど、やっぱり波乱万丈な日々も求めてしまう。
女の子はいつだって、ちょっぴり刺激を求めているものなのだ。
そんなあたしの側で、守りながら時に叱りながらも、ガウリイは一緒に生きていってくれるはず。
『とことん付き合ってやる』の言葉通りに、どこに行ってもあたしたちらしさを押し通して、胸を張って歩いていくんだから。
◇◇◇◇
巫女の神託?
正義の味方の本能?
女のカン?
わくわくするのと同時に、とんでもない事が起こりそうな、そんな予感がする。
外の世界の国に向けた使節団の準備を着実にこなしながら、アメリアはふと仲間たちの姿を思い出していた。
――――わたしは、使節団として直接船に乗り込むわけじゃないけれど・・・・
荷物の中に、こっそりと自分の着替えが入ったトランクを忍び込ませた。
「リナさんは目敏いしちゃっかりしてるから、しっかり情報掴んで現れる可能性が高いですし・・・・リナさんが来れば当然ガウリイさんも一緒でしょうし・・・・」
嬉しいような困るような・・・・波乱万丈な人生は大歓迎だけれど、セイルーンの姫の立場としてはちょっと複雑な心境。
「でも・・・ゼルガディスさんに会えるのは、嬉しいし」
何故だか、ゼルガディスには会えるという確信があった。
誰かを頼りにするのは苦手な人だけど、目的の為には結構手段を選ばない事を知っている。
外の世界に旅立つまたとないチャンスを、ゼルガディスが利用しないはずがないから。
「少しは、わたしの事も気にしてくれたらいいのにな。でも、今度こそ上手く見つかるといいんですけど」
トランクをポンっと軽く叩きながら、3人の顔を思い描いた。
アメリアが『アメリア』に戻れる、貴重な場所。心地いい『仲間』という関係。
冒険という言葉に結局、血が騒ぐのは当然の事。
再開の予感がする春は、すぐそこまで来ていた――――
◇◇◇◇
「準備は整ってきているようだな・・・・」
新聞を読み終えたゼルガディスは、微かに笑みを浮かべて脳裏にいくつかの顔を浮かべた。
セイルーンが使節団を整えて外の世界へ行くと伝えられてから、つぶさに情報を集めてきた。
この身体を戻す方法が外の世界にはあるかもしれない。
こんなチャンスは2度とないだろう。
そう心底思っていても。
すぐさま浮かんだのは、正義かぶれの熱血王女の笑顔。
こんな理由がなければ、自分から会いに行くなんて出来ないのだから。
あの笑顔に会えるのが楽しみだと思っている自分に気付いて、誰も見ていないのについ慌ててしまった。
アメリアは確実として、どうせ面白そうな事に首を突っ込むリナやガウリイも港に現れるに違いない。
あいつらと行動を共にすると、面倒に巻き込まれたり騒ぎが必要以上に大きくなったりするが、決して嫌ではなかった。
つかず離れず・・・それでも頼りになる『仲間』だからだろう。
思ったより早く実現しそうな再会。
使節団の乗り込む船が集まる湾岸諸国連合の大きな港街に、春を告げる風が吹き抜けていった―――――
◇◇◇◇◇
「そー言えば、リナ。お前やけにあの石欲しがってたよな。あの・・・虹色の石」
街道を歩きながらいきなり前触れもなく話し掛けてきたガウリイに、あたしは思わずまともに動揺してしまった。
「そ、そりゃ・・・幻の石って言われてたんだし、あの時はイリサイトがどう言うもんだったか知らなかったから!」
・・・・い、言えないってば・・・・
あたしが、黒魔法さえも跳ね返す特性を持っていたイリサイトを欲しがっていた一番の理由。
それは、その・・・・魔族やら何やらで騒ぎが絶えないあたしを守るガウリイに降り掛かる被害を、少しでも小さくしたかったから・・・・
ガウリイを守るお守りに欲しかった、なんて。
本人目の前にして言えるわけないってば!
「どーした?顔赤いぞ?」
「何でもないっ」
誤魔化す為に思わずあたしは走り出した。
「おーい、待ってくれよ」
「待ってやんない」
じゃれあいながら進むあたしたちの目の前に、春の陽射しを浴びて煌めく青い海と、大きな港、たくさんの船の姿が見えてきた。
彼方に広がる水平線のもっと向こう。
まだ誰も行った事のない世界に、胸が弾む。
新しい冒険は、もう始まっている。
「あれ、あの船がセイルーンのやつじゃないか?」
「・・・・あんたってば、相変わらず常識はずれの視力してるわね」
指差されてもここからじゃまだわからない。
でも、一歩ごとに確実に近づいているから。
再会はもうすぐ。
「行くわよ、ガウリイ!」
「おうっ」
終わらない冒険を続けていこう。
望むままに、我が儘に。
魔族が邪魔してきたら容赦しない。
あたしたちをとめる事なんて、誰にも出来ないから。
見知らぬ名前の差出人からの手紙。
上空を舞う一匹の黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)。
故郷のねーちゃんからの問答無用の走り書き。
再び現れたゼロスと、魔族。
リナ=インバースの行く所、何故だか派手な混乱が巻き起こる。
仲間を引き連れて立ち向かう今回の旅も、スタートから色々と波乱万丈の気配だけど。
人生にスパイスはつきものだから♪
あたしたちの旅は、ずっと続いていくのだ――――
Fin |