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「なになに・・・『海から突き出ている不可思議な光の柱の正体とは!?』・・・ねぇ・・・」
香茶を啜りつつ、あたしはしげしげと手にした新聞を眺めていた。
季節は足早に寒さを連れてくる。
ついこの間まで暑いと思っていたのに、ぶどうの時季が終わり、りんご、みかん、キノコ、栗、かき・・・と秋の味覚を充分堪能したと思っていたら、いつしか山々の木々は色鮮やかな紅葉も終わり、かさかさと音を立てて散っていた。
冬が足早に近付いてきている、そんな日の午後の事。
「海から光の柱が出てるのか?」
興味津々あたしの手元を覗き込んでくるのは、あたしの自称保護者で・・・・えっと・・・その・・・保護者以上の存在になってしまった長身金髪美形の気の良いにーちゃん、頭の中はふやけたパスタのガウリイだ。
いつもの通り、気の向くままの旅を続けているあたしたち。
大きな街道が通っている町の食堂で食後のお茶を飲みながら、次はどこに足を向けようかと考えている途中なのだった。
珍しく地図とかもテーブルに広げて見ている。
基本的に、あたしたちの旅は行き当たりばったりで、今は特に目的も何もないのだけれど、これから季節は冬になる。
大体のルートを決めておかないと、雪が降るようになってからは身動き取れなくなってしまうのだ。
それに、あたし寒いの嫌いだし。
できればここらで進路を南に変更して、今回の冬はできるだけ寒くなく過ごしたいと思うのは乙女心と言うものだろう。
でも、あんまり南下すると今度は砂漠地帯になっちゃうし、それはそれで嫌だし・・・・
ガウリイは相変わらず、「頭脳労働は俺の役目じゃない!」って言い切って考えようともしないし。
最近は平穏な日々が続いていて、魔族とかの襲撃もないから余計にのほほんとしてるんだろーけど。
まったく、少しは脳みそ使わないと本当にヨーグルトになっちゃうんじゃなかろうか。
・ ・・・まあ、それは取りあえず置いておいて・・・
「海から光の柱が出てるなんて、以前はそんな話聞かなかったもんね。まぁ、興味はあるけど・・・」
「どうかしたか?」
ぽりぽりと頭を掻きながら歯切れの悪い返事を返すあたしに、ガウリイが不思議そうに覗き込んできた。
「あんたに説明しても意味ないと思うけど・・・まあいっか。ガウリイにもわかるように簡単に言うと、今まで高位魔族の結界が張ってあって行く事が出来なかった『外の世界』に行く事が出来るようになったのよ」
「ふーん。そんなものがあったのか?・・・んで何で急に行けるようになったんだ?」
「・・・結界を張っていた高位魔族、冥王フィブリゾが滅んで結界が消えちゃったからよ」
つい声が小さくなって内緒話をする感じになってしまうけれど、これは仕方がない。
――――ここら辺の話は、身に覚えがあり過ぎて出来れば公言したくはないのだ。
急に結界が消えて、いくつかの黒魔術が同時期に使えなくなったことは、魔道士協会でも問題になっていたのを知ってる。
その理由をあたしは知っているけど・・・・とてもじゃないけど言ったって信じてはもらえないだろう。
説明をするには、あの事件のことを詳細に語らなければならない。あたしが何をしたのかも。
それはさすがに嫌だし・・・万が一ねーちゃんの耳に入ったとしたら・・・・あたし、まぢに殺される・・・
それに、金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)の事を公にするつもりはない。
あれは・・・人には過ぎる力。
世界を滅ぼす事の出来る禁呪を教えるつもりはない。あんな事、繰り替えさせるわけにはいかない。
これはあたしが、背負って行かなくてはいけないものだから。
「・・・ま、そーゆー事で外の世界に行く事が出来るようになったわけ。光の柱ってのも結界が消えてから見えるようになったものだから多分外の世界で何かがあるんだろうけどね」
逡巡を振り払うかのように明るく言ったあたしの頭をガウリイがくしゃっと掻き回した。
――――脳みそクラゲなくせに相変わらずこういうことには鋭いんだから。
「外の世界か。でも、いつかは行く気なんだろ?」
あたしに合わせて明るく聞いてくるガウリイに、パチっとウィンクを投げる。
「そりゃそーよ、未知なる魔法や食べ物があたしを待ってるわ♪ほら、あちこちの国で外の世界へ向けて使節団を送る準備が進められてるってあるじゃない?」
手にした新聞の記事に指を示してやると、ガウリイがふんふんとうなずいた。
「春になったらね、準備も整うようよ。セイルーンとかでも送りだすみたいだし。アメリアがいるかもしれないから、その時は便乗しちゃおっかなぁ、てね♪」
「ちゃっかりしてんなぁ」
「使えるものは何でも使わなきゃ」
「リナらしいよ」
苦笑しながらももう一度くしゃくしゃと髪をかき混ぜていく大きな手。
ガウリイの手に触れられると、僅かな不安さえも吸い取ってくれてるように感じる。最近は特に。
どこに行くって言っても、きっとガウリイはのほほんとあたしの後を守りながらついて来てくれるんだろう。
くすぐったさと同時に、そうやって何の躊躇いもなく一緒に旅を続けていける意志がお互いにある事に誇らしさすら感じた。
「んじゃ、それは春になったらって事で。取りあえず今はどこに行くんだ?」
本題に戻ったガウリイにあたしは再び地図を眺めた。
「そーねぇ・・・」
地図を指で辿りながら考える。
冬でも暖かい南の方・・・エルメキア?南下し過ぎての砂漠地帯は避けるとしても、セイルーン寄りの方ならばいいかもしれない。あんまりまだちゃんと行った事のない国だし。
・・・と、そう思ったのだが。
次の瞬間、耳に入ってきた言葉にあたしは地図を放り投げ、店に入ってきたばかりのおっちゃんを壁ぎわに引きずり込んでいた。
「ちょっとおっちゃん!今の話本当!?」
「なっ、何だね。君は一体!?」
「リナ、急にどーしたんだ!?」
突然の怪し気な行動に食堂にいた客が不審げな目を向けているけれど気にしてる場合じゃない。
他の客に聞こえない程度に抑えた声であたしは続ける。
「いいから答えて!イリサイトが出たって本当なの!?」
「どっ・・・どこでそれを・・・」
「あたしの耳はエルフ並なの。それよりどーなの!?」
ずずいと顔を近付けて更に声をひそめて聞いたあたしの迫力に、商隊人のおっちゃんはこくこくと首を立てに降った。
・ ・・・・ふふふふふ・・・・
「お、おい。リナ?」
「行き先決まったわよ、ガウリイ」
「へっ!?どこだ?」
逃げられないようにおっちゃんの服を掴んだまま不敵に笑うあたしに、放り投げた地図を拾い上げたガウリイがきょとんとした顔をした。
その地図を手にしてビシっと指をさす。
そこは、北の果て。
ディルス王国とライゼール帝国の国境近く。
「目指すはラスカ!『虹色の光のベールが揺らめく街』よ!」
寒い冬に寒い北なんて欠片も行く気はなかったけれど、イリサイトが出たとなれば話は別。
「んじゃ、もうちょっと詳しく話を聞かせてもらいましょーか」
「こらこらリナ、一般人を脅すんじゃない」
「脅してないわ。交渉よ」
呆れ顔のガウリイにウィンクを投げて、あたしは改めておっちゃんと向かい合ったのだった。
――――虹色の光のベールが揺らめく頃
氷海の底に生まれる石
嘆きの竜の涙を受けて
虹氷色に輝ける
・・・・その石の名は『イリサイト』――――
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