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「ガウリイ。あそこでちょっと休憩していこう」
微かに汗ばんだ額を軽く拭ってあたしは後ろを振り返った。
「ああ。そうするか」
全然疲れた様子など感じさせない、いつものガウリイののほほんとした笑顔。
「ンじゃ、あの木まで競走ね。負けた方が今晩の夕食のデザート、おごりって事で♪」
言うなり走り出したあたしの後ろから、慌てた声が聞こえてくる。
「ちょっと待てー。ずるいぞっ、リナっっ」
「待ってたら勝てないもん」
前方に見えるちょっとした丘まで、緩やかな坂道を駈け登っていく。じゃれあいながら。
大きな木の根元に寝っ転がって空を仰ぐ。穏やかな空をゆっくりと雲が漂って西の方へ流れていった。
火照った身体に涼しさを増した風が心地いい。
のどかで平和な時間。
「平和よねぇ」
あくび混じりに呟いたあたしの頭に手を乗せてガウリイが苦笑した。
「全く、落ち着いてらんない奴だなぁ」
「だって人生、常に刺激を受けてなきゃ楽しくないじゃない」
「・・・・だからといって今晩盗賊イジメに出かけようなんて思ってないだろうな?」
ぎくっ・・・
ジト目で見られて思わず視線を反らす。
全く。相変わらず余計な勘だけは鋭いんだから。
ピンっと軽くあたしのおでこを指で弾くと、ガウリイもあたしの隣に寝転がった。
何だかちょっとくすぐったい。
何気ないいつもの行動なんだけれど、ガウリイと二人になったのが久しぶりだからだろうか。
決して嫌な感じじゃなく、ほんわかあったかい気持ちになる。
「・・・・今頃、みんなどこら辺歩いてるのかな」
「そうだなぁ」
のんびりとした声に苦笑する。全然考えてないでしょうが、あんたは。
今朝、別れてきた仲間達の顔が胸をよぎっていく。
ヘルマスター冥王フィブリゾとの死闘になんとか生き残ってから、しばらくの間あたし達は一緒に旅をしてたけれど。
・・・・・・何で静かな旅ってのが出来ないのかなぁ。まったく。
マルチナとザングルスがなんと結婚してしまうし。
アサシンがいきなり村起こしを頼んできたり、あたしの名前を騙っている魔道士を兄の敵って勘違いして槍をくり出してきた姉ちゃんがいたり。
はたまた、恋人に虐められるのが何より幸せっていう稀に見る根性なしに、なんとか駆け落ちさせようと計画したりとか。
・・・・とどめはこのあたし、リナ・インバースの名前を使ってあろう事か『破壊神 リナ・インバース信仰』なんてものを広めようとしたはた迷惑な奴とかもいて。
賑やかで騒がしいドタバタ道中だった。
でも、今は二人きり。
寂しいようなほっとしたような、ちょっと気が抜けた感じがする。
そろそろ帰ってこいとのセイルーンからの知らせを受けて、しぶしぶながら戻る事にしたアメリアをゼルが送ってくって言い出したんだっけ。
別に行く当てもあってないようなものだからって言ってたけどね。アメリアも嬉しそうだったし、ゼルも少しは素直になったって事かな。
マルチナとザングルスもゾアナ王国に帰っていった。
なぁーにが「俺の可愛い子猫ちゃん♪」よ。ったく。
まぁ、この二人も一応新婚さんだし。途中で地道に路銀稼ぎながら帰ってゾアナ王国を復興させるって息巻いてたから。
それから、ウィレーネに『破壊神 リナ・インバース信仰』なんつうものをけしかけた張本人、シルフィールは。
・・・・フッフッフッ・・・・
『破壊神 シルフィール信仰』の御本尊として、ウィレーネに引きずられていったしね。
シルフィールもやる事セコイんだから。せいぜいあの怒りと恥ずかしさをじっくり味わいなさいっ。
暇だからって、ろくでもない理由でついてきてたゼロスも、お呼びがかかったとかで帰ったし。魔族の自覚なんてあるんだろうか、あのエセ神官は。
人間にとってはおとなしくしててくれると有り難いんだけれど・・・またとんでもない事件起こさないで欲しいもんだ。
「案外みんなもこうやって、休憩してるかもな」
穏やかな声に、あたしは今ままでの事を振り返っていた思考を戻した。
振り返ると、目を細めて空を見上げているガウリイの柔らかな笑顔。
「・・・・そうかもね」
こうやって座って。寝転んで。
同じ青空を眺めてるかもしれない。きっと同じように、みんなはどこにいるのかと思いつつ。
また、会えるから。
笑顔で手を振って、「またねっ」って言葉だけで別れた仲間達。
進む道が違えば別れるのは当たり前の事。でもつながっている部分が必ずある、それは確信。
生きていれば、また会えるから。
どこにいても、この空の下であたし達はつながっている。寂しい事なんてない。
それに。
あたしの隣にはガウリィがいるから。
いつだって、あたしはあたしらしくいられるだろう。多分。
・・・・・い、いや・・・あんな夢を見たのは気の迷いっていうか、一生の不覚っていうか・・・
ガウリイの腕の中で泣いて眠っちゃった日から、何気ない行動に反応してしまう自分がちょっと悔しかったりする。
ガウリイにドキっとする事が多くなったし。
表面的には何も変わらないけど、きっと少しずつ変わってきてるのかもしれない。少なくともあたしは。
「・・・ねぇ、ガウリイ」
・・・・・・・・・・・・・・
返事がないのが気になって振り向くと、微かな寝息が聞こえてきた。少し口なんか開けて。
まったく・・・・やっぱりガウリイなんだから。
気持ち良さそうな寝顔に思わず苦笑する。
ま、いいか。
こんなイイ天気なんだし、別に急ぐ理由もない。足の向くままの気ままな旅なんだから。
少しお昼寝して。起きたらどこに行こうか。
何か美味しいものでも食べに行こう。
ウトウトしながら、あたしは暖かい気持ちに満たされていた。
みんなの旅の無事と再会を願って。
思いは風に乗って届くだろうか。
遠くから聞こえてくる小鳥達のさえずりが、みんなの声のように聞こえる。
この空の下、いつだって心は近くに感じる事が出来るから。
微笑みを浮かべつつ眠る二人を、柔らかな光が包んでいた。
Fin
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