スレイヤーズNEXT→TRY 三部作おまけ編  『フライ』

痛みの代償

 


  

 

 「・・・・・・・ん〜〜〜〜・・・・」

 

 眠りの淵から不意に覚醒して、あたしは大きく伸びをしながらゆっくりと目を開けた。
 カーテン越しに柔らかな光が射している。
 朝は雪が降っていたから薄暗かったんだけど、どのくらい寝てたんだろ。
 ベッドから起き上がると、冷えた空気が身体を小さく震わせた。それを無視してカーテンを開く。
 柔らかな冬の光が、降り積もった雪に反射して、外はキラキラと輝いて見えた。
 活気のある人々の行き交う様子がよく見える。
 屋台も建っているみたいだ。そんなに長い間は寝ていなかったらしい。
 でも、身体に残っていた倦怠感はすっきりと消えていた。
 じんわりと響く鈍痛も、今朝よりずっとマシになってる。
 「やっぱり体力の回復は寝るのが一番よね。さてと」
 手早く着替えて身支度を整えると、隣の部屋へ。
 コンコン・・・・返事無し。
 首を傾げながらドアノブを回すと、ドアは簡単に開いた。
 「ったく、不用心なんだから。ガウリイ?」
 呆れながらもそーっと首だけ部屋に入れて覗き見る。
 そして、安堵と呆れの溜息を1つ落とすと、静かに部屋に身体を潜り込ませた。
 「寝るなら毛布くらいかけなきゃ、いくら体力バカのあんたでも今は冬なんだから風邪ひくってば」
 猫のように足音を立てずにそーっとガウリイの側に近づく。
 いつもだったらドアをノックすると、それだけで起きるくらい気配には敏感なのに、ここまで近くに来ても起きる気配はない。
 「珍しいわね。ガウリイも疲れてたのかしら」
 その疲れの原因を思い浮かべてしまって、1人で焦る。赤くなった顔は今は見られる心配もないけれど、この状態で目を覚ませられたら妖しがられる事この上ない。
 深呼吸して落ち着かせて、改めてガウリイを見た。
 柔らかな日に包まれて静かにうたた寝しているガウリイ。
 何だか、子供みたいな寝顔してる。
 今までだって野宿の時とか何度もガウリイの寝顔は見てきたはずなのに、こんなにも可愛いと思う事ってなかったのに。
 可愛いって言うか・・・・愛おしいって言うのかな。この感じは。
 ガウリイを起こさないようにそっとベッドの脇の床に腰を降ろして、あたしは何だか不思議な程穏やかな気持ちでガウリイの寝顔を見ていた。
 胸の奥に暖かさが広がってる。
 ドキドキしてるのも事実だけど、それ以上にちょっとくすぐったくて、無性に嬉しい。
 火の気がない部屋なのに、ガウリイは静かに眠っているだけなのに。2人でいるせいなのか、部屋の中の空気も暖まってきているような気がするのも、気のせいじゃないかもしれない。
 「変なの。でも、悪くないけどね。こーゆーのもさ」
 ガウリイの顔に落ちてきている髪をゆっくりとかきあげてあげて・・・・無意識のうちに唇を寄せていた。
 ふわりと、羽根が触れるような、自然な本当に軽いキス。
 触れた自分の行動の方に、驚きが後からきた。
 「〜〜〜〜〜〜」
 おっ、起きないでよねっ。ガウリイ!
 あ〜もう〜・・・何やってんのよ、あたし
 「・・・・・・・・ん・・・リナ・・?」
 だーかーらーっ!このタイミングで起きるなーっっ!
 「いいから寝てろっ!」
 バフっ、と起き上がりそうになったガウリイの下から素早く毛布を抜き取って頭からガバッとかぶせて、ついでにドスっとのっかってみる。
 〜〜〜〜〜〜恥ずかし〜〜〜っ。
 これはちょっと、今朝、起きた時より恥ずかしいかもしんないっ。
 勢いよく飛び乗った時に膝が決まっていたせいか、しばらくピクとも動かなかったガウリイが、急にプルプル震えだした。
 ハっと我に返って逃げようとした時にはもう遅い。
 「リ〜ナ〜ッ!」
 「うぎゃあ〜っ!ごめっ・・・うにゃあっ、離せぇぇぇ!」
 ガバッっと毛布をはね除けて、あっという間に羽交い締めにされていた。
 顔も身体も一気に火照って、熱い。
 でも、離せと叫んで暴れていても、本気で逃げ出したい程嫌なわけじゃない。
 あたしが唯一捕われてもいいと思う、熱い鎖。
 「お前なぁ・・・どーせ寝てるとこ襲うならもうちょっと色っぽくだな」
 「寝言は寝て言えっ!このクラゲ!」
 「まいったな・・・・いつからいたのかわかんなかった」
 耳元でクスクスと笑うガウリイの声には、低いけれどとても嬉し気なもので、思わず暴れるのをやめてまった。
 「リナの気配は誰より敏感だったはずなのに気付かなかったなんて。きっとリナだからだな」
 「な・・・」
 「リナだけだよ」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜あんたは何でそーゆー事さらっと言えるかなぁっ」
 下手な愛の言葉より、よっぽど心臓に突き刺さるような、そんなすごい言葉を貰ったような気がする。
 まいったなぁって、それはこっちのセリフだっての。
 そんな事言われたら、あたしはどーしろっていうのよ。
 あたしなんて、とっくにガウリイの気配に安心し切ってるのに。ガウリイもあたしの気配に完全に安心してくれるなんて。
 苦しい程、嬉しい。
 もう・・・本当に、お手上げ。
 「ったくもう・・・」
 「もう、大丈夫なのか?」
 赤い顔をなんとか宥めようとしていると、ガウリイが横から覗き込んできた。さっきまでとは違って、真剣な顔で真直ぐ見つめてくる。
 ズクンっと、鈍痛が蘇る。
 同時に、夕べの恥ずかしくて熱い記憶も。
 だけど。
 あたしはガウリイの高い鼻をムニュっとつまんでやった。
 「大丈夫に決まってんでしょーが。ちょっと寝たからもう平気よ」
 「痛かったんだよな。ごめんな」
 その言葉にムッとして、つまんでいた鼻を思いっきり捻ってやる。
 「イテテテッッ」
 ついでに痛みに力が抜けたガウリイの腕から抜け出して、思わず恥ずかしさも忘れ、いつものように懐から取り出したスリッパで思いっきり張り倒す。
 スッパーンッッ
 ったく。このバカクラゲ。
 「ほんっとにバカよね、あんたは!あのねえ!あたしが望んだのあたしが欲しかったの間違ってもあんたのせいじゃないわよ。わかった」
 「・・・・・・わかった」
 「こんなくそ恥ずかしーこと言わすんじゃないわよっ。そんな事ばっか気にするようなら、二度と抱かれてなんてやらないからね!」
 「それは嫌だ!」
 床に座り込んだまま頭を抱え、半ば呆然とリナを見つめていたガウリイが、その一言に対する反応はめちゃくちゃ早かった。
 返事だけでなく、行動も。
 あたしを引き寄せた勢いのまま、唇を奪う。
 まるで、おもちゃを取り上げられまいと必死になる子供のような勢いと必死さで。
 舌が痺れるような激しいキスに、意識が朦朧とするほどの酩酊感が身体中を支配していく。
 まだ慣れないけど、躊躇いがちにあたしからも少しずつ返していくと、更に深く答えてくれる。
 言葉よりも伝えあえるような気がする。
 ガウリイはあたしを本当に大切にしてくれてる、と同時に、あたしを本気で求めてくれてる。
 自称保護者として、1人の男として。
 『恋人』という敬称はあたしたちの間では何か違和感があるけれど、でも、間違いなくガウリイはあたしの唯一の人。
 「・・・・壊しそうで、怖いんだよ。お前は小さいからさ」
 長いキスの後で、耳元での掠れた囁きが心を満たす。
 「・・・・・心配しなくても、あたしは簡単に壊れたりしないわよ。そんなのあんたが一番よく知ってるはずでしょ?」
 「・・・・そーだよな」
 真っ赤な顔で、それでも強気に言い切ったあたしを見て。
 照れくさそうに笑ったガウリイが、やっぱり可愛いと思って、つられてあたしも笑った。

 

 ゆっくりいこうよ。
 ここまで、ゆっくり来たんだし。
 今さら焦る事も、誤魔化す事も、遠慮することもないんだから。
 戸惑いは確かに気づかわれる事のくすぐったさを感じさせるけれど、あたしたちはいつだってお互いに同等でいたいんだって事、知っているから。

 

 「・・・・・・腹減ったな」
 「・・・そーよ。あんた誘って街に出かけようと思って来たんだから」
 グウ・・・と、どちらからとなく鳴ったお腹の虫に、2人はパっと離れる。
 まだ少しお互いに顔が赤いけれど、身体には植え付けられた火が存在を主張しているけれど。
 「んじゃ出かけるか。雪もやんだようだしな」
 「屋台も出てるみたいよ。昨日はさっさと宿に入っちゃったからまだちゃんと街を見てないし」
 「ここは何が名物かなぁ」
 「さぁね。それはこれから確かめに行きましょ」
 「ああ」
 少しだけ変わった2人の時間もいいけれど、いつもの2人でいる時間もすごく大事だから。
 あたしたちらしく、行こう。
 ね、ガウリイ。

 

 

 

 

 

 
 痛みの代償は、少しの戸惑い。
 けれど、どちらもすぐに慣れるだろう。
 一番近づいたこの位置から、また一緒に歩いていくんだから。
 たまに自分でも信じられないくらい乙女チックな行動に出たり、意外なくらい子供っぽい素顔を見せてくれたりするかもだけど。
 照れくささは残るかもしれないけれど。
 どれも、新しいあたしたちだから。

 

 

 冬の柔らかな陽射しを受けて輝く雪が、眩しくあたしたちを包み込む。
 寒さが、火照った顔に気持ちいい。
 「転ぶなよ」
 「ふっふーんだ。ラスカで買った服のおかげで今日は4枚しか重ね着してないから平気だもんね」
 「・・・・まぁ、今日は確かに着膨れダルマじゃないけどな」
 いつものようにじゃれあいながら、街に繰り出すあたしたち。
 寒さを感じさせない程活気づいている賑やかな通りに、負けないくらい賑やかにあたしたちも紛れて行った。

 

 

 それでも寒さを口実に、いつもよりほんの少し寄り添いながら――――

 

 

 


 

♪ 三部作も完結だー♪うん、頑張ったよねガウリイ!!
と言うわけで。やっと我慢から解放されたガウリイさんが浮かれているから『フライ』です(笑)

この話は、まぁ『次の日』だし。ぎりぎり表でもいーかなーと。
この前後のお話は裏を探して下さい♪さすがに晒す勇気はありません(笑)

お互い、1人の部屋で悶々としてる2人が妙に可愛くってだなww