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「ったく、あのバカっっ!」
「本当にどこいっちゃったんでしょう。ガウリイさんってば」
「・・・・・こうなったらガウリイの家の前で張り込むか・・・」
「・・・・本気ですか?」
完全に目の座ったゼルガディスの後を、アメリアがやや引きつりながらも小走りに追い掛ける。
結局、ガウリイの行方がわからないまま就業時間が終わってしまった。当然事件については何の進歩もない。
ガウリイが嘘をついているのか、それともしょっぴいて来た連中が嘘をついているのか。
何が本当でどれが嘘なのか。全然見えてこない。
ルークは、もう一度鑑識データの見直しと尋問をし直すと言って行ってしまった。
ガウリイの話が本当だとするなら、何故手錠に『ルビー・ムーン』の指紋がついていないのか。
――――本当に奴は存在するのか?
何も手がかりがなかった時よりも余計にわからない事だらけだ。
署の玄関近くまで来ると雨の匂いを強く感じた。
「天気予報の嘘つきぃ〜」
思ったよりも激しい雨にアメリアが空に抗議する。天気予報はあくまで予報であるので、どんなに天気が急変しても気象庁に文句はつけられない。
ったく、天気までこれか。
いつになくイライラしてしまう自分に余計に苛立つ。深くため息をついて鞄の中から折り畳み傘を取り出した。
「あっ、ゼルガディスさん傘持ってたんですね」
「・・・ないのか?」
「あははは・・・この間ちょっと茂みの枝に引っかけて破いちゃって・・・新しいのまだ買ってなかったんです。しばらくは雨降らないって天気予報で言ってたものですから」
「茂みの枝って・・・一体何やってたんだ」
『正義の味方は常に必殺の七つ道具を持ち歩くものです!』と、いつも必要以上に大きなバックを持ち歩いているアメリアなのでまさか傘がないとは思わなかった。
「入っていくか?」
「えっ・・・でも・・・」
珍しくアメリアが躊躇った。確かにこれだけ降っていればいくら傘に入ったとしても多少は濡れてしまうだろう。ただでさえ折り畳み傘というのは小さいのだし。
傘と空を交互に見ながら眉間に皺を寄せて悩むアメリアを見て、タクシーを拾うかと車の流れを何気なく眺めると・・・・
「!ガウリイっ!!」
「えっ!?」
傘を投げ出して雨の中飛び出したゼルガディスの背中を、一瞬遅れてアメリアが追い掛けた。
「ガウリイっ、貴様一体どこに・・っっ!」
「ちょっ・・・ゼルガディスさんっ、落ち着いて下さいっ」
雨の中一体どこで何をやっていたのか、全身ずぶ濡れの状態のガウリイの胸ぐらを掴み掛かって今にも殴りつけそうなゼルガディスの腕に、アメリアが慌ててしがみつく。
普段冷静な彼が、こんなに人目を忘れる程激しい姿を晒す事なんて今まで一度もなかった。少なくともアメリアが出会ってからは。
「ここっ、署の前ですよっ!お願いだから落ち着いて下さいっ」
必死で止めるアメリアの声に、ゼルガディスが苦々しく舌打ちした。
折しも今は帰宅時間。2人と同じように帰宅する署員や、目の前の通りには雨でまばらとはいえ一般人が歩いている。
確かにこんな場所で騒ぎを起こすのは馬鹿げている。
大きく息を吸い込み吹き出しそうになる思いを何とか堪えると、ゼルガディスは掴んでいたガウリイのシャツからバっと手を振り払った。
「とにかく中に戻りましょう。ガウリイさん、着替え置いてありますよね?このままじゃ風邪ひきます。話はその後でじっくりきっちり!聞かせてもらいますから!」
ゼルガディスが表向きは落ち着いたのを見て、今度はアメリアがガウリイの腕を取って引っ張った。
手にしたシャツから水滴が滴ってくる。長い金髪からもぽたぽたと。
「ガウリイさん・・・?」
動こうとしないガウリイをアメリアが不安げに覗き込んで、思わずビクっと肩を震わせた。
「おい、ガウリイ!」
アメリアの様子に眉をひそめガウリイの肩に手を伸ばそうとしたゼルガディスも、不意に身体を強ばらせる。
ゾクっとする程に、深く暗い瞳。
いつもの穏やかで明るい色はどこにもない。深い嘆きと絶望と・・・そして激しい怒りに捕われているような、そんな瞳に圧倒される。
「・・ガ、ガウリイ・・・?一体、どうした・・・?」
先ほどの激情が嘘のように躊躇いがちに話し掛けるゼルガディスにもガウリイは反応しない。
「おい・・・大丈夫なのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・くれ・・・」
「何だ?」
「・・・頼む・・・手伝ってくれ・・・」
「ガウリイ?」
やっと顔を上げたガウリイの顔を、幾筋もの水が流れ落ちる。
「あいつを・・・捕まえたいんだ」
それは、まるで涙の筋のように見えた。
「あいつを・・・・どんな手を使ってでも・・・助けたいんだ・・・!」
「――――!」
――――『血を吐くような叫び』というものは、もしかしたらこんな声なのかもしれない・・・・
◇◇◇◇◇
「『触れたものの記憶を読む』だぁ!?」
素頓狂な声を張り上げたのは鑑識官のルークだった。
すでに帰ったと思われていたのだが、更衣室でばったりと行き会った為、当然のごとくついてきたのだ。
取りあえず濡れた服を着替え、落ち着いた所で話を聞いた。
夕べから今まで、ガウリイがどこで誰と何をしていたのかを。
この間のように渋々ではなく、むしろ淡々とガウリイは聞かれたことに答え、そして自分からも話した。
どうしても彼女を捕まえたい、その思いを。
ガリガリと頭を掻きむしり盛大にため息をつくルークの姿は、この間ガウリイから始めて『ルビー』について聞き出したゼルガディスとアメリアと同じものだった。
「おいおいガウリイの旦那・・・いくらあんたの頭が物忘れ激しいって言っても、ボケるにゃまだ早いと思うぜ?」
おどけた口調だが、ルーク以外のメンバーは皆、難しい顔をして唸るだけだ。
一度目ならまだしも二度までも、途方もない話を聞かされたのだからそれも仕方がない。
しかし、あの雨の中のガウリイの瞳とあの声、そして今もガウリイから発せられている鬼気迫るような気配を感じると、少なくとも頭から信じない・・・と言うわけにはいかない。
「・・・・超能力・・・か・・・」
「おいおいゼルの旦那よ・・・こいつの話を信じるつもりか?」
ため息とともに吐き出したゼルガディスのつぶやきに、ルークがさぞかし意外そうに身を乗り出した。
「まあな・・・このガウリイを見れば、完全に否定するわけにはいかないさ」
ちらっと目を向けた先には、アメリアが出してくれたコーヒーにも手をつけず、変わらず厳しい目つきで宙を睨むように何か考え込んでいるガウリイの姿があった。
こんなに真剣に考え事をしているガウリイなど、長い付き合いのゼルガディスであっても初めて見るものだった。
「・・・・『触れたものの記憶を読む』・・・・そういう超能力の話、あたし聞いたことあります」
「何っ!?」
ガウリイの話を聞いてからずっと何か考え込んでいたアメリアから零れた言葉に、思わず部屋にいた全員が反応した。
「う〜ん・・・確か姉さんが言ってたんですよ。あたしの姉さん、オカルトとか超能力とか好きでしたから」
可愛い顔にいくつも皺を寄せて、アメリアが忘却の淵にあった記憶を辿っていく。
「なんて言ってたか忘れちゃいましたけど・・・そういう超能力にはちゃんと名前あったんですよ。日本じゃ超能力っていうものは頭っから否定されてますけれど、海外じゃちゃんと研究されてる所があるんですって」
顔を向けたガウリイも加わって男三人が顔を見合わす。
「調べる価値、あり・・・だろうな」
「なぁんか嘘くせぇと思うけどなぁ」
「お前は鑑識官だから無理ないとは思うがな。だが、乗りかかった船だろう?」
「・・・・・・・まぁな」
ゼルガディスの指摘にニヤっと笑うと、ルークはスタスタとドアに向かった。
「おい、ルーク?」
「ミリーナに頼んでみるさ。こういう情報を調べるのはミリーナの方が確実で適切だからな。あいつの側にいられる口実も出来たし」
「口実なくても暇があればミリーナさんの所に行ってるじゃないですか」
笑みを含んだアメリアの突っ込みに、ルークは苦笑した。
「そう言うなよ。それにお前さんらがミリーナの所でごそごそやってやがったら、厄介な連中にバレルだろーが」
意外と言っては失礼かもしれないが。
ルークはその目つきと言動と行動から、自分主体で周りをまったく気にしていないように見えるが。結構、考えていたりするのだ。
鼻歌などを漏らしつつルークが部屋を出て行くと、思わず三人から苦笑が零れた。
「さて、と。そっちはルークたちに任せるとして・・・後の問題は・・・」
「『ルビー』がどこにいて、誰が裏にいるのかって事ですよね」
「それもあるな。ガウリイの話をひとまず事実とした上で考えると・・・彼女を引き取っている組織ってのは結構厄介なところかもな」
「違法を平然と犯し、女の子に泥棒をさせるその組織そのものが悪の権現です!悪の秘密結社に捕われた『ルビー』を絶対に助けてみせましょう!ね、ガウリイさんっ!」
「・・・・悪の秘密結社って・・・」
「あたしの家を対策基地にしましょう!悪の秘密結社に対抗するには指令室が必要です!」
正義・・・・というか、それではすでにTVの特撮ヒーロー状態なのだが・・・・燃え上がったアメリアに思わずゼルガディスが頭を抱えたが、ガウリイはそんな仲間の様子に内心驚いていた。
この間『ルビー』の事を話した時には彼女の存在を疑っていたのに、今回はひとまず“仮定”としてでも認めてくれている。
――――それが、こんなにも心強く感じるなんて。
目の前に置かれたままになっていた冷めきったコーヒーに手を伸ばし、一気に飲み干した。
苦さが、今日はかえって頭の中をすっきりとさせていく感じだ。
「・・・・今までの『ルビー・ムーン』が狙ってきた物品リストとかって・・・」
「ん?ああ・・・そういったものは全てない。“狙われた時は『秘密厳守で絶対に捕まえろ』。逃げられた時は『他言無用で即刻忘れろ』”が上からの厳命だからな」
「だが、ゼルの頭の中には全部入っているだろう?」
ガウリイの台詞にゼルガディスがピクっと反応して、ニヤっと笑った。
「頭の中の記憶までは処分出来ないからな」
トントンと自らのこめかみを指で叩きながら。
「じゃあ、その記憶に期待して。アメリアと一緒にもう一度そっち方面から『ルビー・ムーン』の目的を探ってくれないか?」
「・・・・巻き物。家の権利書。アンティークドール。CD-ROM・・・一見、全くつながりも共通点もないように見えますけれど・・・」
「・・・・ああ、必ず何かつながりがあるだろうな」
「今までは深追い出来なかった。だが、しばらくはあいつの予告状がこっちにはこないだろうから。調べてもらえないか?その『指令室』でさ」
「はいっ!」
アメリアが元気よく敬礼した。すでに気分はヒーローだ。
「まぁな・・・職務時間外のプライベートで何をしても問題はないはずだからな」
「そういうことだ・・・・すまないな、アメリア、ゼルガディス」
頭を下げたガウリイを見て思わず2人は顔を見合わせると、同時に下げられたガウリイの頭にげんこつを振り落とした。
「〜〜〜〜痛ぇ・・・」
ゴチン×2・・・・手加減抜きのそのげんこつは実にいい音がした。思わず頭を抱えて涙ぐむガウリイのその様子に2人が笑ってウィンクを投げてくる。
「今日1日心配させられたんですから、おしおきです」
「給料無しの時間外労働だ。しかも今日1日お前がさぼったせいで仕事にならなかったからな。このくらいは黙って受けろ」
「まったく。相棒のあたしに他人行儀なことしないで下さいよね。こうなったらガウリイさんの気がすむまでとことん付き合うつもりなんですから」
「お前に頼まれたからやるんじゃない。俺たちも真実を知りたいからやるだけだ」
「アメリア・・ゼル・・・」
仲間、というものの暖かさに何も言えない俺の背中を叩いて、2人は部屋を後にした。
◇◇◇◇◇
――――俺がこれからやろうとしていることは、この仲間を裏切ることになるのかもしれない。
ゼルとアメリアだけでなく、首を突っ込んだルークとそれに巻き込まれる形になるミリーナをも。
ただの職場の同僚というのではなく、1つの仕事だからと言うわけでもない。上司の命令違反でありながらも俺のわがままに付き合ってくれようとしている人たち。
刑事という仕事に情熱を持てなかった俺が、皮肉なことにあいつと出会ったことで、あいつを捕まえる為だけに刑事として使えるすべてのものを使おうとしている俺なのに・・・・。
そんな仲間を裏切ることになっても・・・・
それでも―――――あいつを捕まえたい。
リナを、抱きしめたい。
忘れられるはずないじゃないか。
確かに、少しの間記憶は混乱させられたけれど。リナの言っていたことが紛れもない事実なんだと身を持って証明させられたけれど。
忘れられるはずがない。
リナと出会ってからの記憶は、リナと出会う前には何をしていたのかも思い出せないほどに、強烈で鮮やかで。
あいつを忘れると言うことは、俺を抜け殻にすることだ。
だから、ほんの少しの間でも混乱してしまった自分が許せない。
あんな顔をさせたまま、リナを独り雨の中に逃してしまった。
どこにも帰る場所なんてないだろうに。
独りだということを痛いほど認めていて、その痛みを無理矢理無視して、それなのに自分を守る為に他人を必要以上に近付けようとしなくて。
寂しくて、寒くてたまらないだろうに。
今も、きっとどこかで1人で。
声を殺して泣いている。
「・・・・・逃がさないって・・・勝手にいなくなるなんて許さないって・・・言っただろ・・・」
ぎりっと唇を噛み締めてうめく。
リナの持つ特殊な力や境遇は、俺にとってはどうでもいいことだった。
欲しいと、守りたいと、思ったのは。ありのままのリナだから。
俺に、名前を教えてくれた。リナだけだから。
「・・・・待ってろよ、リナ・・・・」
どんな手段を用いても、たとえ仲間を裏切ることになっても。
お前を捕まえに行くから。
バシっと頬を叩いて気合いを入れると、俺も部屋を後にした。
走り出した想いは、もう、誰にも止められない――――
◇◇◇◇◇
「――――あいつを撃ったのはどっちだ?」
「・・・・う・・・」
看守を脅して拘置所に収容している『牙竜組』の2人に接触した。
相対している俺たちの間には無骨な鉄格子。
それでも俺から放たれる殺気に怯え、壁に張り付いている。ここからはどんなに手を伸ばしてもあいつらに指1本触れることなど出来ないと言うのに。
人を暴力でもって脅かしている連中のその滑稽な姿に、冷ややかな侮蔑の笑みが唇に浮かぶ。
だが、こいつらを許すつもりはない。
あいつを傷つけたのだから。
「答えないならそれでもいい。そこにいることを感謝するんだな・・・だが釈放された後は容赦しない」
「・・・・き、貴様・・・・刑事だろう・・・・っ」
「だからなんだ?」
あっさり答えた俺の、その言葉の奥に込められた意味を感じて、2人の男はだらしなく腰を抜かした。
そうは言っても今ここで事を荒立てる気はない。
目の前の鉄格子が皮肉にも俺の激情を止めているからだ。今はまだ、俺はかろうじて『刑事』だった。
「まぁいいさ・・・・少し質問に答えてもらうぞ」
顔色が悪いのを通り越して白くなっているそいつらを冷ややかに見つめ、俺は煙草を口にくわえると紫煙をくゆらした。
「『ルビー・ムーン』が何を狙ってお前らの組に乗り込んだのか、知ってるか?」
「し・・・しらねぇ・・・・」
「おお・・俺たちはた、ただの下っ端だから・・・何も、聞いてねぇ・・・」
蒼白な顔を必死でぶんぶんと横に振る。
「最近お前らの組長や幹部クラスで珍しいものを手に入れたとか、そういった話を聞いたことはないか」
「ほ・・・本当に、しらねぇんだよぉ・・・・」
「泣き言を聞く気はない。思い出すんだな」
「・・・無茶言うな・・・・」
「それを奪おうとしたあいつを撃ってまで阻止しようとしたものだ。何も知らないとは言わせない」
どこまでも冷ややかな低い声に、2人組が必死に頭を抱え思い出そうとしていた。
・・・・とは言っても、こいつらは何も知らないだろうな。
2人組を視線の片隅で捕らえつつも暗い天井に登っていく紫煙を眺める。
あいつが何を狙っているかは今までさほど興味はなかった。けれど、今はどんな手がかりの1つでも見逃せない。
(どんな手段を使ってでも生きていく――――)
強い光を放っていた赤い瞳が脳裏に蘇る。リナが選んだ生きる為の手段。
『ルビー・ムーン』として泥棒をやることは、リナが決めたことだ。多分、その代償に惹かれて。
だとすると、リナの背後で指示を出しているのは、リナの身を保護している施設・・・・ではないだろう。
どこで、どんな連中がリナの身柄を確保しているか知らないが、リナがそこから解放されたがっていたのは短い会話の端々から強く感じた。
法を犯し戸籍に手を加えてまでもリナの身柄を引き取った連中が、リナの力を知らないわけがない。どんな思惑があるかしらないが、リナの力を利用しようとしているのは俺にでもわかる。
自分の力を利用しようとする連中に、リナが愛着を持っているはずがないし、無理矢理何かをさせようとしてもリナは拒否するはずだ。
自分の力を利用される事を承知で、それでもその施設から自由になる為に、『ルビー・ムーン』として動いていたリナ。
それは半端な覚悟じゃない。法の線の上で飛び跳ねながら常に自分の身をギリギリの危険に晒し、必死で自由を掴もうとしているのだから。
冗談抜きで、死と隣り合わせのゲームをしている。
刹那のきらめきを紅い瞳にたたえて、いつだって誇りを捨てない、そんな彼女だから。
――――一度失敗したからといって、きっと諦めはしない。
必ず、再び牙竜組へ現れるだろう。
今回奪いそこねた物を手にする為に。
予告状は一度出しているし、その情報がこっちに流れてくることもまず絶対ないだろうが、あいつは必ず現れるはずだ。
そこを、捕らえる。
チャンスは、何度もない。
そこで逃がせば、リナは永遠に俺の前から姿を消してしまう。それは懸念ではなく確信だった。
だからこそ、絶対に逃がせない。
あいつが必死なように、俺だって必死なんだ。
俺だって・・・あいつのことだけは、絶対に譲れないんだ!
まだお互いを責めつつも必死で考えている2人組をちらっと眺めて、かなり短くなった煙草を丁寧に灰皿に擦り付けた。
あいつと出会ってから身についた癖。
こんな些細な事でさえ、あいつの存在は俺を変えている。
一瞬脳裏に蘇ったリナの泣き顔を振り払って、俺は机の上に置かれていた紙とペンを無造作に留置所の中に投げ入れた。
びくっと面白いほどに身体を震わせた2人組に告げる。
「もういい。そこに牙竜組内部の詳しい見取り図を書け。人員構成と武器の所持の有無もな」
冷ややかな声に、2人組は蒼白な顔色のままいぶかし気な視線を向けてきた。
「お前らが知らないのなら直接乗り込んで聞いてやる」
「なっ・・・・!?」
「ほっ・・・本気なのか・・・・」
「冗談を言っているように見えるか?」
僅かに唇の端に笑みを浮かべて見据えると、今度こそ2人組は言葉をなくした。
「・・・・・・・狂ってやがる・・・・」
「お前らに言われるまでもない。いいから書け」
掠れた震える声を受け流し促すと、2人組は再び必死に記憶を辿り始めた――――
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