WILD CAT

(7)



 「うわ〜、すっごい高い♪」
 「・・・・落ちるんだぞ、これ。わかってるのか?」
 「うんっ。楽しみ〜♪ほら、頂上きたよ」
 「・・・・身を乗り出して下見るなよ」
 どんどん上昇するジェットコースターの先頭に乗っている2人の表情は、とても対象的だった。
 物凄く嬉しそうなリナと、多分強ばっているだろう俺。
 ジェットコースターなんて乗るの、一体何年ぶりだろう。
 しばらく遊園地なんて来てなかった間に、なんで絶叫マシン系がこんなに進化してるんだ!?
 上昇していた機体が少しだけ水平になった。高い位置から見下ろす港と広がる海。
 ――――思わずゴクっと喉が鳴った。
 「きゃあぁぁぁっっ♪」
 「おわぁぁぁぁっっ!?」
 水面に向かって垂直に落ちていく俺たちの悲鳴が海風に運ばれていく・・・

 

 

 

 遊園地に行きたい、というリナのリクエストに答えて。
 俺たちは港の側の埋め立て地に作られた遊園地に来ていた。
 リナの望み通りに巨大な観覧車がメインになっている。
 都会の汚れた海。でも、明るい太陽の光が水面に反射してきらきらと輝いている。
 汚いはずなのに綺麗。街のネオンと一緒だ。
 平日だというのに、そこそこ人がいて意外だった。まぁ、土日が休みじゃない人はいくらでもいるんだから当たり前か。
 天気もいいのでちらほら親子連れの姿も見られた。
 皆、楽しそうに過ごしている。
 俺たちも、他から見れば楽しそうに見えるんだろう。
 普通のカップルに、見えているだろうか。

 

 「楽しかったー♪・・・・ガウリイ大丈夫?」
 「・・・・・おう」
 微かに顔を紅潮させながらリナが俺を振り返る。彼女はどうやら絶叫マシン系が好きらしい。嬉し気な顔は見ているだけで嬉しいんだが・・・・。
 「ガウリイってば意外にこーゆーの弱いのね」
 「・・・・・だってなぁ・・・何か外に投げ出されるような感じがヤなんだよなぁ・・・・」
 もごもごと口の中で言い訳する俺を見て、リナがクスクスと笑っていた。
 ――――子供の頃はこんな物全然平気だったのになぁ・・・
 何だか照れくさい。
 「あたしは気持ちよかったけど?落ちていくあの感じがたまんないわね♪」
 「・・・・そーかぁ?」
 引きつった俺を見てリナが意味ありげに微笑んだ。パチンとウィンクまでつけて。
 「ま、何度も乗れば慣れるわよ♪絶叫マシンはまだまだあるし、観覧車にライトがつくまで時間もたっぷりあるしね」
 「・・・・・・・・・冗談だろう?」
 思わず背中をつーっと汗が伝わっていく。
 「あら、本気よ。だってここに連れてきてくれたのはガウリイでしょ?だったらとことん付き合ってくれなきゃ」
 「・・・・手加減してくれよな」
 ため息をついて苦笑した俺に、数歩前に出たリナがクルっと振り返る。
 いつもの好戦的な眼差しで俺を見つめて。
 「手加減なんてしてあげない。わかってるでしょ?」
 「・・・ああ。わかってる」
 浮かれ気味だった心が、彼女の視線を受けて引き締まった。
 俺たちは手加減できる間柄じゃない。
 リナの視線を真直ぐ受けてうなずいた俺に、彼女は少しだけ寂し気な笑みを浮かべた。でも、一瞬にしてそれをぬぐい去る。
 俺の部屋で見せたのと同じ表情に、切なさが沸き上がった。
 ・・・・まだ、強がり続けるのか?
 俺の前で涙を見せてくれたのに。それでもまだ寂しさを隠すのか?
 「まぁ、今日は追いかけっこはなしだけどな」
 彼女を逃がしたくなくて、俺は素早くリナに近付くと彼女の小さな手を握りしめた。
 「ちょっ、何するのよ!?」
 突然の事に驚いたリナが顔を赤くして手を振り解こうとしているが、逃がさないようにきゅっと力を込めた。
 「お前が1人で走っていかないようにさ。今日は並んで歩けるだろう?」
 「・・・・今日だけね」
 「俺は・・・ずっと歩いて行きたいけどな」
 空いている方の手でリナの髪をくしゃっと撫でると、小さなため息をついて抵抗を止めた。
 まだ赤い顔のまま、俺を見上げる。
 「・・・・・・・」
 何かを言いかけて・・・軽く首を振って俺から視線を外して、そのまま空をあおいだ。
 あの夜、彼女と初めて出会った時。濁った夜空に星を探していたような、そんな眼差しで。
 その視線の先に何を探しているのだろう。
 何を望んでいるのだろう。
 不意に、小さな手がきゅっと握り返してきた。
 「リナ?」
 「・・・・・・手が暖かい人って心が冷たいんだって言うけど、あれ嘘ね」
 「そーだな。お前の手、あったかいしな」
 「・・・・・・あんたの手の方があったかいじゃんか」
 空から視線を戻して、ちょっと拗ねたような照れたような目で俺を見た。
 俺は曖昧に微笑んで、再びくしゃくしゃっと彼女の髪をかき回す。リナは珍しく抵抗しないでされるがままになっていた。まるでネコのように目を細めて。
 「さて、じゃあ次は何にするんだ?」
 「んーと・・・じゃああのグルグル回るやつ」
 「うっ・・・・り、了解」
 リナが指差した物をちらっと見て思わずたじろぎながらも、俺はしっかりと手を繋いだままゆっくりと歩きだした。
 穏やかな日射しに賑やかな音楽。
 遊園地独特の雰囲気が、何だか懐かしく感じる。
 それは多分、目の前を歩いている親子連れに遠い幼い日の記憶を触発されたからかもしれない。
 「・・・・無条件で許されて愛される期間って、何であんなに短いんだろう・・・・・」
 ぽつり、と呟いた小さな声にはっと振り向く。
 リナの視線も、前を歩く親子連れに固定されていた。
 俺の視線に気付いたリナが、曖昧に微笑んだ。
 「なーんかさ、あーゆーのって平和の光景そのものよね。ガウリイも小さい頃あんな感じだったんじゃない?」
 「う〜ん・・・・覚えてないけどそうだったかもな。リナだってそうだったんじゃないのか?」
 「残念でした。あたし遊園地に来たのこれが初めてだもん。家族って言える存在がいなくなっちゃう前のことは、思い出せないからはっきりとはわからないけどね」
 「・・・・もしかして、孤児、か?」
 おそるおそる口を出た言葉に、リナは笑って首を振った。
 「ちょっと違うわ。似たようなもんだけど」
 「・・・・・」
 「言っとくけど、安っぽい同情はいらないからね。こんな話はするつもりなかったんだけどさ、無意識とはいえガウリイの記憶覗いちゃったから。だから教えるのよ」
 「記憶を・・・覗いた?」
 引っ掛かる言葉に思わず眉をひそめる。
 そっとさり気なく、リナが俺から手を離して少しだけ距離を開けた。
 「信じる信じないはガウリイの自由だけど――――俗に言う『超能力者』って奴なのよ、あたし」

 

 思わず見開いた目の端で、リナが唇だけで笑っていた。
 まるで、自分自身を嘲っているかのように。

 

 

 

***

 「こんな力欲しくなんてなかったのにさ、持って生まれたのはあたしのせいじゃないのにね」

 

 「触れたものの記憶が見えちゃうのよ。人間や動物や物とか関係なく。子供の頃は無意識に見ちゃってた。それで親も気味悪がっちゃってね、捨てられちゃった」

 

 「しょうがないよね。誰だって見られたくない、知られたくない過去はあるはずだもの。でも、あたしだって見たいわけじゃないんだよ?人間の裏側の、隠しておきたい感情や思いまで見えちゃうんだから、あたしの方が狂いそうになるし」

 

 「最近はちゃんとガード出来るようになったからいいんだけどさ。でもまぁ・・・普通は関わりたくないでしょ?気味悪がられて当然だもん」

 

 「『泥棒』するにはちょっとだけ役にたったけど。記憶読むだけじゃなくて少しだけなら元あった状態に『戻す』ことが出来たし・・・生きているものには記憶を混乱させるのが精一杯だけどね」

 

 「だから、『ルビー・ムーン』は絶対に捕まえられない。全部の証拠を消しちゃうから。あいつを頼りたくはないけど、あたしの未来がかかっているから、捕まるわけにはいかないの」

 

 

 

***

 

 乗り物に移動する間。
 乗り込むまでの短い時間。
 乗り物から降りてきた後のふらついた頭に。
 リナは呟くように、淡々と言葉を紡ぎ出す。
 小さな手をぎゅっと堅く握りしめて。
 身体を堅くしながらも、決して俺の目から瞳を逸らそうとはしないで。
 ――――嘘だ、と言ってしまいたかった。
 そんなのは作り話で、俺をからかっているんだろう?、と。
 笑い飛ばしてしまいたかった。
 だけど、わかってしまった。
 何故だか・・・・わからなければよかったのに。
 リナの言っていることは本当の事なんだと。
 リナの瞳を見ていたら、わかってしまった。
 何でもないふりして続ける言葉の奥に、どれほどの痛みがあったのか。言葉が、身体が震えないようにしているのが感じられた。
 賑やかな遊園地の音が、俺たちの周りだけ避けていくような錯角がする。
 激しい乗り物にばかり乗った俺の頭が、ぐるぐると回っている。
 軽い乗り物酔いにプラスして、リナの言葉が回り続ける。
 そんな俺を、リナは引っぱり回した。子供なのか大人なのかわからない、自嘲気味の微笑みをその度に浮かべて。
 絶叫系の乗り物に乗って楽し気な悲鳴をあげるリナの周りに、何故か薄い、でも破れない膜が張ってしまったような気がした。
 ・・・・笑っているのに、俺には泣いているように見える。
 はしゃいだ声も笑顔も、無理に張り付けているようで。
 話し始める前に離された手は、今も離れたまま。
 恐がって触れられないのは・・・・俺とリナ・・・両方なのかもしれない。

 

 

 「・・・随分暗くなってきたね。何か雨降りそう」
 「そーだな」
 見上げたリナに続いて俺も空を見上げる。
 あれ程天気がよかったのが嘘のように、夕暮れ出した空には厚くて重い雲が俺たちの頭上に覆いかぶさるように広がってきていた。
 急激に暗くなってきた空に促されるかのように、ポツポツと遊園地の乗り物や外灯に明かりが灯り始める。色鮮やかなライトにネオン。
 お目当ての観覧車にも色が変化するライトが点灯された。
 鮮やかで明るい電飾が、かえって不気味にも見える雨雲の存在を浮きたたせてしまう。
 今にも泣き出しそうな、そんな空。
 半数程の客はそんな空を不安そうに見上げて、足早に帰っていく。あるいは降り出す雨を避けるかのように早めに濡れない室内へ避難し始めている。
 もう半分はまだ気にせず遊んでいた。
 学校や仕事が終わってからここに遊びにやってきた人の姿も多くなってきた。
 観覧車も多少の雨ならばその回転を停めることはないので、こっちに向かってくる人間も多い。
 「どうする?雨降らないうちに帰るか?」
 「う〜ん・・・でもやっぱり最後に乗っておきたいな。もう遊園地なんて来れないだろうし」
 観覧車を見上げていたリナが、ちらっとこっちを振り向いた。
 「後これだけ・・・付き合ってくれる?」
 「・・・・今さら遠慮するなよ。お前らしくないだろ」
 ――――ポン
 躊躇いがちに一度だけ、リナの頭を軽く叩くと。
 「・・・・・ありがと・・・」
 聞き逃しそうな程小さな声が背中に届いて、それが物凄く切なかった・・・・

 

 

◇◇◇◇◇

 「一度乗ってみたかったんだ。すごーい、下から見るより高く感じる」
 「こらこら。あまりはしゃぐと揺れるぞ、これ。少し落ち着いて座れよ」
 「え〜・・・勿体無いじゃない」
 「いいから。ずっと歩きっぱなしだっただろ?足、痛まないか?」
 「えっ!?・・・・うん、大丈夫だよ。もう、平気」
 今まで子供のようにイスに後ろ向きに座ってゴンドラの窓に張り付くように外を見ていたリナが、くるりと振り返って、大人しく座り直した。

 

 ゴンドラの中は外から隔離された空間だ。
 緩やかに登っていく景色。
 迫りくる宵闇に比例するかのように、街に明かりが煌めき始める。
 だがそんな景色を見ることもなく、奇妙な緊張感がこの狭い空間に漂っていた。
 どちらも口を開くタイミングを探っている。
 「・・・本当にごめんね。謝ってすむもんじゃないけど、いきなり流れ込んできちゃったから・・・」
 沈黙を破ったのはリナだった。
 ――――そんなに寂し気な微笑みが見たかったわけじゃない。今すぐにでも泣き出しそうな、消えてしまいそうな、そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。
 「・・・俺の記憶を覗いたってやつか?いいさ。悪気があって見ようとしたんじゃないんだろ?・・・あんまり見て楽しいものじゃなかったと思うが」
 いつもの強気な口調が聞きたくて、口元にニっと笑みを浮かべて挑発してみたのに。
 なのに・・・リナはまたゆっくりと微笑む。
 「あんたってさ・・・そんなにいい人でよく刑事なんてやってられるよね」
 「俺はいい人なんかじゃないぞ」
 「自覚ないし。でもさ・・・いい人よ。少なくともあたしが知っている人間の中で一番」
 ・・・俺はリナが言ってくれる程いい人間なんかじゃないさ。リナだって見たんだろう?俺がどんな人間だったか。
 自嘲気味な薄い笑みが唇にのぼったような気がする。
 「・・・・あたしね、この世に存在していない人間なんだよ」
 「・・・・・え?」
 静かな声に一瞬リナが何を言ったのか解らなかった。
 「戸籍の上では死んでることになってるの。子供を捨てるってのは世間体が悪いじゃない?だからあいつらがあたしを引き取る時に、死んだってことにしたの」
 ふうっとため息を付いて立ち上がり、ゴンドラの窓に映った自分の顔を指で弾く。
 「法律なんてあやふやでいいかげんよね。存在しないはずの人間が生きているなんてさ・・・でも、あたしは生きてるし、これからも生きていくし。どんな手段を使ってでもね。たとえそれが犯罪だとしても」
 窓ガラスに映る、リナの皮肉げな、でも強い言葉。
 リナが自分の事を話だして始めて、いつものような強い輝きを瞳に浮かべた。
 どんな手段を使ってでも生きていく――――
 それが、今の、今までのリナを支えている唯一の目標なのかもしれなかった。
 それはあまりにも強くて、同時に脆い。
 陸橋の細い手すりに飛び乗って風に髪をなびかせていたリナの姿が脳裏に浮かぶ。
 何故だか胸が締め付けられる感じのする、魅惑的でいて刹那的に輝く紅い瞳。それはリナ、そのもの。
 一瞬でも気を抜いたら、次の瞬間にはどうなるかまったくわからない闇の中を走っているような。そんな生き方の中で身につけた痛い程の輝き。
 繁華街のガードレールに腰掛けて濁った夜空を見上げていた視線のその先に探していたものは、星ではなく・・・
 「あ、頂上に来た・・・すごい、綺麗」
 目の前に広がる虚ろな街。
 ちりばめた宝石のような輝きの中に、たくさんの嘆きが隠されている、綺麗だけど残酷な街。
 たまらずに、俺はリナを後ろから抱きしめていた。
 ビクリ、と身体を震わせたのが伝わってくる。
 それでも、離せなかった。離したくなかった。
 「・・・離して。同情はいらないって言ったはずよ」
 「嫌だ」
 必死で震えるのを押さえている堅い声を振り払って、抱きしめている腕に力を込める。振り解こうとはしないけれど堅くなった身体。
 こうやって触れているのに、2人の距離はどんどん開いていく。
 「俺の・・・俺がお前を守りたい」
 「出来ないことを言うのはやめて。第一、何から守るって言うの?あたしは『泥棒』であんたは『刑事』。なれ合う気はないって最初に言ったわ」
 「だったら、刑事なんて辞める。ここでお前に消えられるくらいなら、そんなものいらない」
 不安は口に出した途端に確信に変わった。
 リナの寂し気な笑みを見る度に感じていた不安。
 「絶対、逃がさないからな・・・!」
 ここで手を離したら、リナは俺の前から消えてしまう。2度と会えなくなる。
 「・・・・・・あ、降ってきた・・・」
 ポツ、と。ゴンドラの窓に雨粒が弾けた。
 虚ろな瞳が空を見上げる。
 重く垂れ下がった雨雲が、遂に堪えきれず泣き出していた。
 タイミング良すぎだ。俺たちの思いを代弁しているかのようで、憎らしくすら感じる。
 「・・・・・嬉しかったよ」
 ぽつり、と。小さくリナが呟いた。視線は外を向いたまま。
 「・・・ここに連れてきてくれたことも、怪我の手当てしてくれたことも。あたしを・・・『ルビー』を本気で追い掛けてくれたことも、全部嬉しかった。あたしの存在、認めてくれて・・・」
 「聞きたくない。逃がさないって、勝手にいなくなるなんて許さないって言っただろ!」
 ――――このまま、このゴンドラの中で。
 この狭い、外からは隔離された空間で。2人だけが存在するこの中で。
 時が止まればいい。
 どうすればリナを止められる?
 どうすればリナを手にいれられる?
 どうすればリナを助けられる?
 わからない。
 だけど、どうしても手放せなくて。頭の片隅でこの状況、これからの状況を理解しているのに、感情が納得しなくて。
 どうしても、どうしても譲れなくて!
 「!・・・・んぅ・・・っ」
 これ以上聞きたくなくて、俺は無理矢理リナの頭を引き寄せ唇を塞いでいた。
 何も考えられなくなる程、深く。
 俺の事だけしか考えられなくなるくらい、激しく。
 ――――夕べ。怪我をしたお前は俺を頼ってくれた。
 敵とか味方とかじゃなしに、俺のところに来てくれた。その事実を信じるならば。
 何度も角度を変え、執拗な程に求め続ける。力の抜けかけたリナの身体の向きを変え、強く抱きしめながら。
 不意に、小さな手が俺の頭に触れた。
 縋り付くかのように両手を伸ばして、自分からもっと深みへと誘い込むかのように。
 誘われるままに更に深く潜り込もうとして、はっと目を見開いた。
 唇を重ねたまま目を開いた先に、瞳いっぱいに涙を溜めたリナの紅い目が映る。

 

 ――――バチィ・・・ッ!

 

 青白い光がゴンドラの中で弾けた。
 今まで何度か感じた微弱な電流が俺の身体を駆け抜ける。いつもよりも数段強い微かに痛みさえともなうそれに、本能が反射的に拒絶しようとするが、リナの手が俺を逃がさない。
 

(・・・生きているものには記憶を混乱させるのが精一杯だけどね・・・)


 記憶を混乱・・・記憶を無くしたり歪められるということか?
 忘れさせられる?リナのことを・・・!?
 ・・・・・嫌だ!
 嫌だ、だめだ!
 強く思っても、頭の中が白く霞んでいく。感覚が麻痺したようで、意識が朦朧としていく。
 力が抜けてずるずると崩れ落ちていく自分の身体すら自由に動かすことが出来ない。
 ――――嫌だ!ダメだ!リナっ!!
 必死に願っても、霞は晴れるどころか更に白く飲み込んでいく・・・・・ 

 

 

 

 

 「・・・・・バイバイ、ガウリイ・・・」
 ぼんやりした意識の中で、カタンと音がした。湿った風が入ってくる。耳に雨と無意味に賑やかな音が入った。
 パタンと扉が閉まる。
 下に付いたゴンドラからリナだけが降りて、俺を残して再び上昇を始めても。
 濁った俺の瞳は何も映さず、すでに何も考えられなかった。
 ただ、例えようのない喪失感だけがずっしりと重くのしかかっていた――――

 

 

 


 

♪ガウリイ・・・逃げられちゃいました(^^;)このままラブラブに突入すると思っていた皆様、ごめんなさい。

リナの事が少しわかりましたが、まだ色々残ってますね。リナの裏にいる奴とか『ルビー・ムーン』やってる理由とか。

次からガウリイが必死になって解明していくと思われます(笑)ええもう、ほんとに必死に。