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――――カクっ
肘がずれた衝撃でうとうとしていた俺は、はっと目を覚まして後ろを振り返った。
視線の先にいるのは追い求めていた、『ルビー・ムーン』ではない・・・・『リナ』。
俺のベッドの上で、すやすやと眠っている少女を確認して、ほっと息をついた。
眠っている彼女を起こさないようにそうっと額に手をのせてみると、高かった熱はほとんど下がっていた。
飲ませた解熱剤と抗生物質が効いたらしい。
名前を教えてくれた後気を失ったリナだったが、すぐに目を覚ました。
俺ができる限りの傷の手当てをして薬を飲ませ、埃と血で汚れた服を着替えさせた。
サイズの大きすぎるだぶだぶの俺のパジャマ。
「ちっちゃいな〜、リナ」
「ガウリイがでっかすぎるのよ〜」
2人して大笑いして、その後少し照れくさそうに『おやすみ』といって眠った。
薬が効いてきたせいもあるのだろう。張り詰めた糸が途切れたように、深い眠りに落ちていったリナを見守るようにして、俺は時々額に乗せたタオルを替えながら部屋の中にクッションを持ち込んで座り込んでいた。
予備の布団などはないし、何だか目を離したくなかった。できるだけ側にいたいと思ったから。
「・・・・・朝か・・・・」
ベッドの縁にもたれ掛かるような体勢でいたので多少背中が強ばっている。立ち上がって大きく伸びをし、筋肉をほぐしてから音を立てないように部屋から出る。
キッチンに向かいながら散らかっている部屋の中を簡単にまとめて冷蔵庫を覗き込むと、思わず身体が固まった。
「やば・・・・何もないんだった・・・」
自炊などほとんどしない俺の家のキッチン。使っているのは電子レンジとトースターとコーヒーメーカーくらいだ。
冷蔵庫の中に入っているのは缶ビールとチーズと・・・朝から食べられそうなものはほとんどない。
そういえば、昨日帰ってから夜食を食べようとしてコンビニで買ってきた食料はどうしたんだっけ・・・・?
「まいったなぁ・・・・」
ポリポリと頭を掻きながら何かないかと探してみるが、出てきたのはカップラーメンくらい。
・・・・こういう時に男の独り暮らしは虚しい。
リナが起きた時に、何か食べさせてやりたかったのにこれじゃあなぁ・・・
買ってくるにもリナはまだ寝ているし。
起きた時に独りにさせておきたくなかった。
何よりも、俺が目を離した途端にいなくなってしまいそうな気がして。
「どーするか・・・」
躊躇っていると、奥の部屋で音がした。
はっとして寝室に戻ると、まだ半分寝ているような表情をしたリナが、ぼーっと天井を見つめていた。
「・・・リナ。目が醒めたか?」
部屋の入り口からそっと話かけると途端にぴくんっと身じろぎして俺を見る。ぼーっとしていた表情がはっきりしたと思ったら顔がみるみる赤くなっていった。
「・・・・・・お・おはよ・・・」
「おはよう」
そんなリナの様子に思わず笑みが浮かぶ。ゆっくりと部屋に入りベッドの脇までくるとおもむろに手をのばした。
前髪をかきあげて額に手のひらを当てる。
「おかしいな。熱は下がったはずなのにまだ顔が赤いぞ?」
「〜〜〜〜〜気のせいよっ」
「そーか?」
「そーなのっ」
言葉とは裏腹に、リナは毛布の中に逃げ込んでしまった。ただ単に照れているだけなのだろう。まったく、可愛くって仕方がない。
顔が見たくて毛布の上からとんとんと頭を叩いて出てくるように促すと、そろそろと顔を出してきた。
「よく眠れたか?」
「・・・うん」
「熱は下がったみたいだが、傷はまだ痛むか?」
「ちょっとね。でも大丈夫よ・・・・ありがとう」
照れくさそうに小さな声で告げられたお礼の言葉に、くしゃくしゃと彼女の柔らかな髪をかき回した。
「無茶して動き回るとまた熱出るからな。飯食ったらもう一度薬飲んで、今日はおとなしく寝ていろよ」
「・・・・ガウリイ・・・仕事は?いかないの?」
・・・・・・あ。
リナに言われて始めて気がついた。慌てて時計を見るとすでに8時近い。今から飛び出しても遅刻だ。
でも、仕事よりも今は・・・
「いいさ。今日は休み」
「あのねぇ・・・刑事のくせにさぼるわけ?」
「仕事よりも今はお前さんの傍にいることのが大事だからな。それに『ルビー・ムーン』もしばらく休業だろ?問題ないさ」
「なんであたしも休業なのよ?」
「怪我が治らんことには飛び回れんだろう?そんな状態のお前さんと勝負しても意味ないからな」
「・・・・・真面目なんだか不真面目なんだかわかんないわね、あんた・・・」
ふうっと小さなため息をついてリナが身体を起こした。
大きすぎるパジャマの襟元から覗く鎖骨を見た瞬間に、ドキッとする。
そう言えば、こんな明るい朝の光の中で彼女を見るのは始めてだった。
いつも夜の闇の中やネオンの明かり、外灯のくすんだ明かりの下でしか見たことがなかったから。
こんなに無防備な雰囲気で傍にいることも始めてだった。
栗色の髪は思っていたよりも明るい色をしていた。
白い肌は眩しい程に白い。彼女が始めて会った時に言っていた通り、『子供じゃない』でも『大人でもない』、そんな絶妙な危うさが、その無防備な姿が俺の意識を吸い寄せる・・・
――――こんな朝から何を考えてるんだよ、俺はっ!
ハッと我に返り、どきどきしてしまったことを悟らせないように笑いかけた。
「さてと、何食いたい?情けないが何もないんでコンビニ行って買ってくるんだが」
「・・・・何にもないの?」
「見事になーんにも」
「まったく・・・少しは自炊しなさいよ。外食ばかりじゃ栄養片寄っちゃうわよ。お金もかかるし」
「だってなぁ、1人分作って食っても旨くないし」
「そうかもしれないけどさ」
「まったく作れないわけじゃないんだがな。今日はお前さんがいるから何か作ってやりたかったんだが、何も材料なくってさ。悪いがコンビニメニューで勘弁してくれ」
「・・・・・いいけど」
何故だがまたしても顔を赤くしたリナが、ふいっと視線を逸らせた。
「何でもいいよ、お腹すいちゃった。何か適当にお弁当とサンドイッチと野菜サラダとレトルトパックのシチューとフルーツヨーグルトとプリンと牛乳1パックで」
「ち、ちょっと待てっ。今メモるから」
慌てて隣の部屋に書くものを取りに行くガウリイの背中を見つめて、リナは小さく微笑んでいた。
「・・・・確かに、誰かと一緒ならコンビニ弁当でも美味しいかもね」
そんな微かなつぶやきが、聞こえたような気が、した。
◇◇◇◇◇
「アメリア。ガウリイを見なかったか?」
「あ、おはようございます、ゼルガディスさん。さっき電話がきまして急用が出来たから休みますって」
「休みだと!?まったく、何考えてるんだ旦那は」
「珍しいですよね。何の用事か聞こうとしたら切れちゃったんですけど、慌ててる感じがしましたよ?」
「・・・・何か引っ掛かるな・・・」
「・・・・ですよね」
朝の張り詰めた緊張感が漂う警察署内の片隅で。
アメリアとゼルガディスが眉を顰めていた。
遅刻することはあってもめったに欠勤することがないガウリイが出来た急用とは?
確かに今のところ新たな『ルビー・ムーン』からの予告状は来ていない為、休んだとしてもそれほど仕事に支障が出るわけではない。
けれど、昨日の今日だ。
昨日ガウリイから『ルビー・ムーン』の正体を聞き出したばかりだ。それが今日の欠勤と何か関係あるような気がしてならない。
「よう、ゼルの旦那。ガウリイの旦那はどうした?」
「おはようございます、ルークさん。ガウリイさんはお休みなんですよ。どうかしましたか?」
片手を上げて近付いてきたルークにアメリアがペコリと頭を下げて挨拶する。礼儀正しい元気な挨拶は正義の基本、という信念を常に実行しているのだ。
「休みだぁ?あいつ今日非番だったっけか?」
「いや、急用だとかでな」
ゼルの言葉にうーんとルークが低く唸る。
「どうかしたのか?」
「ここじゃちょっとな・・・あんたらの部屋に行こうか」
難しい顔をしたルークの様子に、ゼルとアメリアが顔を見合わせた。
「『牙竜組』に『ルビー・ムーン』の予告状が来てただと!?」
狭い部屋の中にゼルガディスの声が響き渡る。
徹夜明けのぼやけた頭をすっきりさせる、と、アメリアが入れた濃い目のブラックコーヒーを一気に流し込んだルークの口から飛び出てきた言葉に、2人は動揺していた。
「昨日の発砲事件があったろ?あれがどうも妙でな。おおかたどっかの敵対する組と撃ち合いでもやったんだろうと思ってたんだが、そんな相手がいた形跡がまるでなくてよ。取りあえず表面上は『牙竜組』の若衆同士でいざこざがあって発砲した・・・ってことで2人ばかしょっぴいて来たんだけどな・・・・」
「実は違うと?」
「ああ。生け贄で出されたって事だろ」
「違うと言う証拠は?」
「現場に僅かだが血痕が残ってた。だがその2人にも『牙竜組』の連中にも怪我したような者はいない。どうも気になってミリーナにも情報を見てもらったんだが、流れ弾とかで負傷したような人物の手がかりはまるでなし、だ」
ルークの話に腕を組んでゼルが天井を睨み付ける。
「あそこら辺は高級住宅街だろう。暴力団のいざこざなんかに偶然とはいえかかわったと知れたら立場上まずい連中ばかりが住んでるからな」
「傷の程度によっては病院にも行かないってことですか?」
「あり得なくはないな。だとしたらたとえミリーナでも情報を見つけだすことは出来ない」
「怪我の程度は実物を見てみなきゃわかんねぇけどよ。とにかくだ。気になった俺はこっそりとしょっぴいてきた若衆に脅しをかけてみたんだ」
「・・・・・・ルーク・・・お前はまた・・・・」
「・・・・担当刑事さん押し退けて尋問しちゃったんですかぁ?」
「細かいことは気にするなよ」
鑑識官ルーク。
鑑識官としての才能は抜群だが、それだけで満足しない男なのだ。
気になったことはとことん追い詰める。
なので、しばしば刑事を押し退けて犯人に尋問したり、聞き込みしたりと、ある意味困った癖があるのだ。
普通なら大問題になるのだが、ルークが首を突っ込むと大抵、有力な証拠が得られたり尋問もスムーズにいったりするので、担当刑事に取っては厄介なことこのうえない。
興味を持った仕事に対しては情熱を燃やすあたり、ある意味ではアメリアの性格と似通っているかもしれない。
「ともかくな。口割らせたら『ルビー・ムーン』の予告状の事を吐いたってわけよ」
得意げなルークを前に複雑な表情をしながらも、ゼルとアメリアが同時に首を傾げた。
「・・・事件の通報があったのが、昨日あたしたちが帰る前でしたよね?」
「・・・今まで一度もこんな明るいうちから犯行に及んだことはなかったはずだが・・・」
「しかも前の晩にも犯行を行っているんですよ?そんな続けてなんて・・・」
「それだけ、実際には予告状がばらまかれてて・・・・俺たちは必要とされてない、ってことか・・・」
苦々し気に言って、ゼルガディスは深いため息と共にどっかりと椅子に座り込んだ。
アメリアも唇を噛み締める。
「そんなことで落ち込んでてもしゃーねーだろ。暴力団の連中が警察に助けを求めてくるなんてありえねーじゃねーか。他のもそんなとこなんじゃねーのか」
2人の様子に肩を竦めてルークが話を続ける。
「でだ。そいつらをもうちょっと問いつめたら、『女を撃ったような気がする』って言うのさ」
「女、だと!?」
ゼルがその言葉にばっと身体を起こす。アメリアもガバっとルークに詰め寄った。
「言い方が気に入らねーだろ?『女を撃ったような気がする』ってのが。誤魔化してるんだと思ってたんだが、どうも変でな」
「何がです!?」
「どうもそこら辺の記憶が曖昧なんだな、これが。仮にもピストル向けて狙った人物が誰だったのかよく覚えてないなんておかしーだろ?」
「変ですよっ!一瞬だけ見たとかじゃないのにわからないなんて。嘘をついてるに決まってます!」
「女って言うのは間違いないんだな?」
身を乗り出していたアメリアを押し退けるようにしてゼルガディスが確認を取る。
「髪が長いような気がするから多分女だ、って言ってたけどな」
「・・・記憶が曖昧・・・もしくは空白があるって事なんだな?」
「そうみたいだな。そんでだ、昨日あんたらから頼まれた指紋採集だ。さっきまでずっと見てたんだが、それらしき物は出てこなかったぞ」
「出てこなかった!?」
次々と告げられる事実にゼルもアメリアも頭が混乱してくる。
「じゃあ・・・やっぱりガウリイさんが嘘ついてたってことですか?」
どこか期待を裏切られた悲し気な声がアメリアの口をつくが、それにルークが肩を竦めた。
「いや、あの旦那がそんな巧妙な嘘をつくなんて考えにくいだろ?だからガウリイに何を隠してやがるのか問いつめてやろうと思ってきたんだけどな」
「・・・・・ガウリイを捕まえるしかないな」
ゼルの目が座っている。低い声に促されてアメリアが携帯を取り出してガウリイのナンバーをコールする。が。
【・・・おかけになった電話は現在電源が入っていないか、電波の届かない場所に・・・】
――――無機質なアナウンスが微かに、虚しく響き渡った・・・・
◇◇◇◇◇
【悪い。急用が入ったから今日休むな。ゼルに上手く言っておいてくれ】
アメリアに電話を入れた後、少しだけ考えて携帯電話の電源を切った。
こんなチャンスは滅多にない。
邪魔されたくはなかったのだ。
刑事は本来なら非番の日であっても携帯の電源は切ってはいけない。どこに行ってもいつでも連絡が取れる体制でなくてはいけないのだが、昨日の今日だ。
絶対に電話がかかってくるだろう。
まぁ、明日。謝り倒して昼飯でも奢れば多分許してもらえるだろう。
――――とても昼飯ぐらいでは許してもらえそうにない事態まで進んでいるとは、思いもしなかった。
今はそれどころじゃなかったのだ。
大きなコンビニの袋を揺らして、俺は小走りに自分のマンションに向かっていた。
本当は一瞬でもリナの傍から離れたくなかった。
少しでも目を離したら、あっという間に消えてしまいそうで。
―――バタバタ、ガチャっ!
「あ、お帰り」
焦りの勢いのままに乱暴に玄関を開けると、驚いた顔のリナがキッチンにいた。コーヒーのいい香りが漂っている。
「早かったね」
大きすぎたパジャマのズボンは裾を折り曲げて、上着の裾はウエストで結んで、何とか動きやすい格好になったリナが、キッチンに立って何かしながらニコっと笑いかけてくる。
・・・・もしかしたら、俺のいない間に消えてしまうかもしれない。
そんな不安があった分、ほっとして、何だか惚けてしまった。
「?どしたの、ガウリイ?」
「いや・・・ちゃんといてくれてよかったと思ってさ」
慌ててた自分が照れくさくて、ぽりぽりと頭を掻きながら買ってきた食料を掲げて見せた。
「・・・・そりゃまぁ・・・・御飯まだだし・・・」
微かに顔を赤くして明後日の方を向きながらごにょごにょと何か呟いているリナの髪をくしゃっと撫でて、テーブルの上に買ってきた食料を広げた。
2人分にしては多すぎるような気がしなくもないが。
「待たせてごめんな、リナ。ほら好きなの選んで食えよ」
「ちょっと待って。今コーヒー入れるから・・・あんたのキッチンってば本気で何にもないのね。何か作ったげようかと思ったけど、さすがのあたしでもこれじゃあね」
肩を竦めて苦笑しながら、いれたてのコーヒーを持ってきてくれた。
「リナ、料理できるのか?」
「当然でしょ?」
「〜〜〜〜〜くっそぉ〜〜ちゃんと食材買っておくんだった〜〜」
・・・・・そうしたら今頃はリナの手料理が食えてたかもしれないのに・・・・!
「情けない声出さないでよ、まったく。あ、あたしこの特選幕の内弁当もーらい♪」
照れを隠すかのように、リナが弁当を奪う。
「あっ、それは俺が食おうと思っていたのに!」
「好きなの選んでいいって言ったじゃない」
「じゃあ、シュリンプサンドと春雨サラダは俺のだ!」
「ああっ!?シュリンプサンド狙ってたのにぃ〜〜!」
「食っちまった者勝ち」
「そーゆー事言うわけね。なら・・・ハンバーグいただき!」
「うわーっ!?なんて事するんだお前っ。俺の弁当のメインを!」
「ガウリイが言ったんだもんね。食べた者勝ちって」
「・・・・そーくるか。なら・・・2段攻撃っ!」
「ああーっっ!あたしのだし巻卵と鳥の照焼き!!くっ・・・こうなったら勝負よ、ガウリイ!」
「望む所だ!」
――――たかが弁当の取り合いに真剣勝負を繰り広げる2人。
味気ないコンビニメニューが、こんなにも美味しく感じられたのは、きっと彼女が一緒に食べていたからだろう。
こんな時に何故か急に、小学生の頃の遠足で食べたお弁当の風景が頭の片隅に浮かんで、思わず笑う。
・・・・食事ってのは楽しく食う物なんだよな。
そんな当たり前の事を思い出した自分が、何だか嬉しかった。
――――俺が感じていたそれを、リナもまた感じていたとは思いもしなかった。
「・・・ねぇ、ガウリイ」
「何だ?」
賑やかな食事を済ませ、再びリナの傷の治療をした後。
・・・傷の状態を見ようとした俺に、リナは恥ずかしがって逃げ回ったが、結局捕まえた。
一晩たっただけなのに、もう薄い皮膚が傷を塞ぎ始めていた。もう血が滲むこともない。
回復の早さに驚く俺に、「薬ってほとんど使わないから、よく効いたんじゃない?」と素っ気無く返された。
念のためにもう一度抗性剤を飲ませてベッドに押し込もうとした俺を、リナが引き止めたのだ。
「あのさ・・・本当に仕事休んじゃったんだよね?」
「?ああ。連絡しといたし」
「じゃあさ、あたしとデートしよう」
「・・・・・・・・・は?」
いきなり言い出したことに、俺は戸惑った。
あのなぁ・・・と言いかけて、止まる。
リナの目が、真剣だったから。
「怪我なら平気。痛みもそんなにないし薬も飲んだし。ガウリイと一緒に行きたいとこ、あるんだ」
「・・・・・・今日じゃなきゃだめなのか?」
表情を改めて訪ねた俺に、コクリと縦に首を振る。
一瞬だけ、寂し気に微笑んで。
「知りたいんでしょ?『リナ』の事。あたしだけが一方的にあんたのこと知ってるってのは・・・フェアじゃないもんね」
「リナ。じゃあ・・・」
「だめ。辛気くさい話は賑やかな場所でしたいものよ。だからここじゃ話してあげない」
――――あ、また・・・
子供なのか大人なのかわからない、自嘲気味の微笑み。揺らめく紅い瞳の中に寂しさが揺れている。
抱き締めたい、そう思った途端にくるりと身体の向きを変え、彼女が俺から一歩遠のく。
まるで、触れられることを感じて逃げたかのように。
俺の胸の中に不安が忍び込む。
・・・・どうしたら彼女をつなぎ止めておけるんだろう。
さっきまでとても近くにいたのに。
今も、一歩踏み出せばすぐに触れられる距離にいるのに。
リナのことは知りたい、とても。
だけど・・・それはリナを苦しめることなのか?
「ね、ガウリイの服貸してよ。天気もいいしさ、出かけよう?」
「・・・・・わかった」
小さくため息をついて、俺は彼女の隣にまで歩いていく。
彼女のこの顔は、何かを決めてしまった時のものだ。ここで拒否すれば間違いなくリナは消えてしまう。
・・・・従うことしか、出来ない。
リナの髪をくしゃっと撫でて、俺はクローゼットの中を引っ掻き回し始めた。
「んで?どこに行きたいんだ?」
「遊園地」
「遊園地?・・・お子様」
「いいの。観覧車のある遊園地に行きたいの」
何とか小さめの服を探し出しリナに渡して部屋を出ようとした俺の背中に、
「・・・だって、一度も行ったことないんだもん・・・」
と言う、リナの小さなつぶやきが触れた。
慌てて閉まりかけたドアを振り返った先にあった、彼女の笑顔が、とても切なく。俺の胸に焼き付いた―――――
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