WILD CAT

(2)


 ―――――らしくない。そんなのはわかってる。
 だけど、無意識のうちに足がその場所に向かい、目が探し求める。
 あの紅い瞳の少女を。
 理由なんてそんなものはない。ただ、もう一度逢いたいと思うだけ。
 仕事帰りに少女が空を見上げていた場所で暫く時間を過ごすのが、あの日からの日課となっていた。
 どうせ一人暮らし。食事はだいたい外ですますし、急いで家に帰ったところで待つ者もいない。ただ寝るだけなのだから。
 ガードレールに寄り掛かり、煙草をくわえる。揺らめき登る紫煙をたどり、四角く切り取られた夜空を見上げた。
 派手なネオンや電飾。濁った空気。星の姿はどこにもない。
 あの少女の紅い瞳は一体何を見つめていたのだろう・・・・
 ここにいれば、逢えるような気がしていた。
 ただの思い込みかもしれない。だけど無視出来ない胸のざわめき。
 街の女たちが声をかけてくるが、うざったいだけだ。
 少女の姿を求めながら人通りを眺めていると、普段気にも止めていなかった街の色が見えてくる。
 賑わっているのにどこか虚ろな街。
 連立しているビルがまるで黒々とした木々に見える。その間を彷徨い歩く人々。
 都会のジャングルに迷い込んだ。そんな錯角すら起こしそうだ。
 もう一本、煙草に火をつける。
 煙草の先に意識を向けて視線を下げた瞬間。
 ふわり、と。風が通り過ぎた気がした。
 慌てて顔を上げたその視線の片隅を通り過ぎていく栗色の髪。人波を縫うように走り抜けていくその後ろ姿。
 どくんっ・・・・心臓が大きな音をたてる。
 たったそれだけの事なのに、身体が熱くなる。
 少女の姿を認めた瞬間、つけたばかりの煙草を投げ捨て、俺も走り出していた。
 ――――俺はなんで走っているんだ?
 人の群れを避けながら走る俺に好奇の視線がビシビシ飛んでくる。
 ――――追いかけて、どうしようというんだ?
 俺の中の冷静な部分が問いかける。
 でも、その声に答えている暇はない。そんな事を考えている間にあの子を見失ってしまう。
 人の障害などまるで存在しないかのように軽やかに走る少女と俺との距離は徐々に開いていく。
 運動神経やスピードには自信があるが、この人込みをくぐり抜けて走るには俺の体格では不利だった。
 少女の姿が不意に視界から消える。
 慌ててその場所まで行ってみると、そこにはビルの隙間の忘れられたような細い路地。飲食店の裏側なのかゴミ箱や段ボールが散乱している。
 とても人が分け入って入れないような、道とも言えないここに、すでに人の気配はどこにもなかった。
 「・・・・幻、だったのか・・・?」
 そう思える程鮮やかに消えてしまった。またしても。
 「・・・・何でだろうな?」
 大きなため息をついて壁に寄り掛かる。
 胸にあるのは大きな喪失感と確かにこの街に少女が居たという小さな安堵感。
 先程の心の声に対する答えをぼんやりと考えてみる。
 何故、こんなに逢いたいと思うのだろう。追いかけてまでして。
 逢ってどうしたいというんだろう。
 けれど、いくら考えても明確な答えを導き出す事は出来なかった。

 
◇◇◇◇◇

 ――――ふぁあ・・・
 「ガウリィさんっ。こんなところで欠伸なんて、緊張感がなさすぎですよっ」
 堪えきれずに洩れた欠伸に隣から小さい声で叱られた。
 「すまん。あまりに暇なもんで」
 「暇じゃありませんっ。もうすぐ犯行予告時間なんですよ」
 「そりゃそうなんだが・・・」
 アメリアの正義に燃えてる瞳に思わず屋敷の方面を眺めた。
 「・・・・犯行現場からこんだけ離れてて、しかも俺たちは直接手は出せなくて、しかも騒ぎになってはいけないっていうんじゃなぁ」
 ターゲットの屋敷から今俺たちが待機している場所までゆうに百メートルは離れている。
 確かにここは高級住宅街。1つの家の区画範囲が広いとはいっても、俺たちは完全に蚊帳の外、だ。
 どちらかと言うと、宝を奪って逃げたところを捕まえろっといった感じである。
 闇の中ひしめくたくさんの警備員たちも、物々しさを感じさせない為に私服である。
 近所に異常を感じさせてはならない、といった理由で、屋敷の中もいつもの夜のようにほとんどの部屋が電気を消してあり物音もほとんどしていない。
 もっとも、こういった屋敷のほとんどは防音対策は完璧だろう。だが、万が一の警報装置などは電源を切っているに違いない。
 ――――それほど警察に後ろ暗い事があるのなら何も協力なんて頼んでこなきゃいいのになぁ・・・・
 それでいて犯人を逃したりしたら何かと言い掛かりをつけてくるのだろう。
 まったく・・・とんだ貧乏くじを引かされたもんだ。
 今回も始末書決定か、と俺は内心ため息をつく。
 空を見上げるとぬぼーっと輪郭をぼやかした頼り無い月の姿。
 ――――――――ん?何だ?
 月を横切るかのように音もなく飛んでいく、コウモリ?
 それは屋敷の屋根の方に向かって飛んでいって見えなくなった。
 飛んできた方向は、公園の方だ。
 頭の中で公園の見取り図を思い出す。
 木々が茂るかなり広い公園の中央には結構大きな池があって、天気のいい日にはボートや釣りを楽しめるようになっている。
 少し離れた脇に子供用の遊具があるスペース。
 そのちょうど池を挟んだ対角線上に、小さな神社らしきものがあった気がする。
 当然この公園にも警備員が配属されているはずだが・・・
 何かが気にかかった。
 「なぁ、アメリア・・・・!?」
 声をかけた途端に小さなサイレンが手元の通信機から響いた。犯行があった事を告げる赤いランプが点滅している。
 「来たか!」
 「ああっ!またしても防ぎきれなかったなんて!」
 悔しがって髪をぐしゃぐしゃに掻き乱すアメリアをちらっと見て、俺は身体の向きを変える。すぐに走り出せるように。
 「アメリアはここで待て。俺は行ってくる」
 「行くって、どこにですか?あたしも行きます!この手で『ルビー・ムーン』を捕らえなければ!」
 「2人で持ち場を離れたらまた本部長から怒鳴られちまう。アメリアはゼルに連絡を取って合流してくれ。ゼルと一緒なら文句は出ない」
 「うっ・・・わかりましたっ!ガウリィさんはどこに行くんです?後から追いかけますっ」
 「公園。俺のカン!」
 「了解!」
 走り出しながら後ろを振り返って短く告げる。
 静かに、だが急に活気だした闇の中を俺は自分のカンを頼りに公園に向かって速力を上げた。

 コウモリ。
 それ事体は珍しいものではない。夜行性だから飛んでいてもさほど不思議ではないのだ。
 でも、普通はこんな夜更けには飛ばない。夜早い時間に行動するのだから。それにあのコウモリは飛び方が不自然だった。定められたように真直ぐに飛んでいたのだ。
 普段なら気にも止めないのに、何となく呼ばれた。そんな気がする。

 

 夜更けの公園。
 所々に薄暗い街灯の明かりがぼんやりと浮かび上がっている。
 配属されているはずの警備員の姿も見当たらない。
 人気のない夜の公園は夜の学校と同種の無気味さが漂っているように感じられた。
 ためらわずに俺は神社の方に足を向けた。
 「・・・・ビンゴ」
 誰かが居た形跡があった。人の気配は今はないが。
 御神木なのだろう。しめ縄をはったこの公園で一番大きくて太い立派な木の幹から、細いロープが垂らされていた。
 一瞬ためらって、俺はその木に登ってみる。
 幹からいくつも空に向かって突き出している太い枝。こんな時だというのに子供の頃木登りして遊んだ記憶が浮かんできて思わず苦笑する。
 「ん?これか!」
 てっぺんに近い幹で俺はコウモリの正体を見つけた。
 枝にしっかりと固定してある闇夜に同化する黒い色の極細のワイヤー。
 木の葉が落ちているこの時期、この場所からはターゲットの屋敷がよく見えた。 屋敷の中も木々がある為全部見えるわけではないが、少なくても俺たちが警備していた場所にくらべれば、距離的には同じぐらいだが遥かにマシな場所だ。
 「こんな場所、よく見つけたよなぁ」
 素直に感心する俺の耳に、シャアァァァァという微かな音が飛び込んできた。見れば僅かにワイヤーが振動している。
 目をこらして闇を見つめると、すごい勢いであのコウモリが飛び込んできた。
 思った通り、作り物。その足に予告状で示されていた巻き物を括りつけて。
 「これで今回は怒鳴られなくて済むかな」
 証拠品であるコウモリと巻き物をワイヤーから外しながらつぶやいた。
 正体不明の『ルビー・ムーン』。今まで手がかりの1つも残さなかった相手の顔を遂に見れるのだ。アメリアがここにいなかった事を悔しがるかもしれない。
 俺でさえ期待と緊張に口の中が乾いてるのだから。
 神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。
 胸ポケットに忍ばせてある固い金属の鎖が微かに音を立てた。
 飲まれそうな静寂の中に自らの気配を同化させ、ジっと待つ。

 ――――――来た!
 真直ぐにこの木に向かってくる気配が1つ。
 警備員やアメリア達のではない。物々しさや焦りといった気配を纏ってはいないのだ。静寂が支配する闇の中、微かな音すら大きく響くような中で、ほとんど足音を立てない軽やかな足取りで。

 この場所は下からの枝に遮られ、ぱっと見ただけでは俺の姿はわからないはずだ。
 きしっ、と微かにロープが木に食い込んだ音がする。
 ここに、くる。
 体勢を整え、ごくっと唾を飲み込んだ俺の目に、忘れられない色彩が飛び込んできた。
 「よっと・・・・・!!」
 「なっ・・・・・!?」

 ――――少女が、いた。

 木に登ってきたのは、俺が街で見かけ、探し求めてきたあの少女だった。
 別人ではあり得ない。
 驚きで大きな目を更に見開いて俺を見つめる少女の紅い瞳。そこに宿る誰も持ち得ない輝き。
 その少女の紅い瞳に写る俺も、目を見開いてぽかんと口を開けている。我ながら情けない姿だと、頭のどこか冷静な部分が囁いた。
 でも、そんなことよりも。
 ・・・・・やっと、逢えた。この子に。
 仕事も今のこの状況もすべて俺の頭からは消し飛び、ただ、少女に逢えたという喜びのみが溢れてくる。
 ――――沈黙の魔法を破ったのは少女の方だった。
 「・・・・・ドジっちゃった」
 肩を竦めて苦笑する少女の顔は微かに驚いた名残りが残っているが、瞳にはあの時絡んできた男達に見せていた好戦的な光が浮かんでいた。
 「ホストがこんな夜中に木登りしてるなんてね」
 「ホストじゃないって!」
 「わかってるわよ。庭師なんでしょ?」
 「違うっ!俺は・・・・っ!」
 言いかけた言葉が飲み込まれる。
 急に戻ってきた現実に。
 紅い瞳はただじっと俺の事を見つめている。
 ・・・・彼女は『ルビー・ムーン』。俺が追いかけていた泥棒。
 俺は・・・・刑事。
 「俺は・・・・」
 胸に忍ばせてある手錠がずしりと重みを増したような感覚に、息が詰まりそうになった。
 「あんたって・・・ほんとに変わってるわ」
 心底呆れたように少女がため息をついた。苦笑と共に。
 「わかってるわよ、あんたは刑事でしょ。あたしを追ってきた。なのに何でそんな困った顔するのよ」
 「・・・・・」
 俺は何も言えなかった。
 本気で困っていたからだ。
 「あんたはあたしを捕まえるのが仕事でしょ?でも、あたしは簡単に捕まえられないわよ」
 そんな俺に向ける蠱惑的とも言える不敵な、でも引き付けられずにはいられない笑み。
 ――――何かが沸き上がってくる。熱い、何かが。
 「・・・本気で捕まえてみせろって事だな?」
 「当然よ。馴れ合う気はないの。ゲームは真剣で危険な程面白いしね」
 少女の笑みが深くなる。紅い瞳に炎を宿して。
 俺の口元にも微かに笑みが浮かぶ。
 そうだ。
 少女を捕まえるのは至難の技。
 『ルビー・ムーン』ではなく、この少女を捕まえるのは命がけになりそうな、そんな予感がする。
 だけど、捕まえたい。
 「俺も、逃がす気はないからな」
 「そうこなくっちゃ・・・でも、後悔しても知らないわよ」
 俺の言葉に満足げに笑うと、少女はいきなり不安定な枝の上で高くジャンプした。
 「なっ?!」
 猫のようにしなやかに飛び上がり、俺のすぐ傍までくるとドンっと体当たりをしてきた。突然のことでバランスを崩しかけ慌てて木に捕まる俺の手からやすやすと巻き物とコウモリを掴み取ると、すでに巻き戻されていたワイヤーを掴み、その勢いのまま木から飛び下りる!
 地上5メートル近い高さから、ためらいもせずに。
 「――――っっ!?」
 あまりの行動に一瞬息が止まる。しかしよく見るといつのまにかかワイヤーを枝に引っかけ落ちるスピードを制御して降りていた。
 無事に着地し俺を見上げてくる紅い瞳。俺を誘う、その視線。
 弾かれたように俺も木を降り始める。さすがに彼女のような真似は出来ないのでかなり焦りつつ。
 2メートル程を飛び下りて地面についた頃には、すでに彼女の姿は闇に消えていた。だけど、微かな足音と足跡が彼女の方向を示している。
 見失うわけにはいかない。逃がすわけには。
 そう思うのは俺のどの部分だろう。
 少なくとも、今。自分が刑事だという事は頭の中からすっかり消え去っていた。

 

 

 真夜中の公園。
 人気のない闇の中を走り回る2つの影。


 手が触れそうな程近づいたと思ったら、ギリギリの処で躱し、すり抜ける。
 少女はまるで猫のようにしなやかに、軽やかに。夜の公園中を走り回っていた。
 この少女の前では立ち並ぶ木々や柵など、障害になるどころかむしろ有効な盾として存在していた。
 驚く程の瞬発力と身軽さでもって柵を踏み台にし木に飛び移り、枝から枝に渡り茂みの向こうに飛び下りる。
 流れるようなその動きに思わず見愡れた。
 だけど俺も負けてはいない。
 この間、街の中で追いかけていた時は人間という動く障害物に阻まれ少女を見失ったが、今回は違う。
 確かに少女がやすやすと入り込む隙間に俺が入っていくわけには行かないが、木々は勝手に動き回らない。遠慮なしに追う事ができる。
 ぼんやりとした月の明かりが闇を深くする。
 それなのに追い掛ける少女の後ろ姿だけは、俺の目に色鮮やかにはっきりと写っていた。
 どのくらい追い続けていたのだろう。追い掛ける事に夢中で時間の感覚がなかったが、逃げる少女のスピードが徐々に落ちてきた。
 無理もない。あれだけ飛び跳ねて走り回れば、小柄な分体力の消耗も激しいはずだ。
 微かに笑みを浮かべて俺は走る速度を更に速めた。
 進む先には池がある。
 ちらり、と。少女が始めて振り返った。微かに焦りの感情を滲ませて唇を噛み締める。
 けれどすぐに、キッと前を見据えて進む。
 木々の隙間をすり抜けちょっとした丘を駆け上がると急に視界が開けた。
 池に出たのだ。池とは言っても小さな湖程の大きさがあった。ボートが置いてあるのとは反対側。このあたりは崖のようになっているため立ち入り禁止を示すフェンスで遮られている。
 少女はそのフェンスの上に座り、俺を待っていた。
 微かに肩を上下させて息を整えている。さすがに疲れたのだろう。
 だが、少女は逃げるのを諦めたわけではない。
 証拠に。俺の姿を見たとたん、満足げに笑ったのだ。
 走るのをやめ、俺はゆっくりと歩み寄る。
 「ん。合格」
 「・・・・なんのだ?」
 「あたしを捕まえるという資格、かな?口だけの奴が多かったけど、あんたはここまでしっかりあたしに追い付いてきたもの」
 「おいおい・・・」
 まったく、とんでもない。
 今までの本気の追走劇が俺に対するテストなんて。
 呆れを含んだ俺の苦笑に少女は楽しげに笑う。まるでイタズラが成功した子供のように。
 クルクル変わる表情。そのどれもが俺の目を奪わせる。
 「でも今日はもうお終い。さすがに疲れちゃった」
 「お終いって言ってもなぁ・・・それ、置いてく気はないんだろ?」
 「そりゃあね。あたしは興味ないけど依頼品だし、それなりに苦労したもん。だめよ」
 「だめって言ったって・・・・」
 再び俺は悩み始めた。
 この少女は捕まえたい。それは俺自身が。
 だけど、『ルビー・ムーン』を捕まえなきゃいけないのは刑事としての俺だ。
 どちらかを捕まえたらどちらかを失ってしまう。
 馴れ合う気はないと、彼女ははっきりと言い切ったのだから。
 少女はかなり疲れているが俺にはまだ余裕がある。捕まえようと思えば実行出来るだろう。だけど。
 勝負はまだ始まったばかり。
 ただ一度の勝負で、この少女と離れたくはなかった。
 仕方ない。始末書を書くのは慣れてるさ。
 「しょうがない。お前さんの正体がわかってライバルと認めてもらっただけでもかなりの進歩だしな」
 「・・・・刑事にしては頭柔らかいわね」
 「は?俺、石頭だぞ?」
 「そーゆーんじゃなくって・・・・ま、いいわ」
 あきれ顔で少女がフェンスの上に立ち上がる。
 けれど、やはり疲れが残っているのか。何となく顔色が悪くなっている。不安を感じたそのとたん、グラっと、上体が揺れ・・・・・
 「危ないっ!」
 崖に向かって落ちかけた少女の身体を、とっさに駆け寄り抱きとめた瞬間。
 ――――――バチッッ!!
 一瞬。2人の身体が青白い光に包まれた。
 静電気に触れた時のようなビリっとした軽いしびれが、全身を駆け巡る。
 それは本当に、瞬きする程の一瞬。
 「大丈夫か?」
 軽く頭を振り、少女の顔を覗き込む。
 抱きとめた身体は驚く程軽い。貧血起こしたとしても不思議でない程に。
 驚きに目を見開いていた少女の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。
 ・・・・可愛い。そう思ってしまったとしても無理はないだろ?
 「・・・・・あんたってほんとに・・・変な人・・・」
 「変って・・・・・!?」
 少女が初めて見せた、どこか泣きそうな小さな声と揺らいだ瞳。その様子にいぶかしむ間もなく突然少女の顔が俺の視界いっぱいに広がって――――

 「またね。ガウリィ」
 呆然と座り込んだ俺から少女は素早く抜け出して、公園の闇の中へ再び消えていった。
 ・・・・・何で俺の名前・・・?
 麻痺した意識の中で耳だけがはっきりと少女の声を捕らえていたが、思考回路は止まってしまってる。
 ドクン・ドクン、と。心臓が痛いくらいに波打ってるのがわかる。微かに顔が火照っているのも。
 「・・・やられた・・・・」
 今ので完全に俺の心はあの少女に捕われた。
 名前すら、まだ知らない少女に。

 夜気が増々に冷えていく闇の中で。
 俺はゼルガディスとアメリアが駆け付けてくるまで、そこで座り込んだままだった。
 冷えきっていく身体の中で、ただ、少女が触れた唇だけが。いつまでも暖かいままだった――――


 

♪第2話になっても泥棒さんの名前が出てきません(笑)いいのか?

でもこれで一応『リナからガウリィにキスをする』という指令は果たしたぞ!(←あれでか?)