恋の女神

 前編


 昔、まだ神様と人間達が一緒に暮らしていた頃のお話――――

 神々が住む山、オリンポス山の麓。
 “愛と美”を司る女神、『L』はとても苛立っていた。
 何故なら、この国の姫がたいそう美しいと評判で、皆が自分を誉めたたえずその姫に夢中だったからである。
 「ったく、人間の分際でいい気になってるんじゃないわよ。あたし差し置いて主役だし。一度渾沌に沈めてやろうかしら」
 ぶつぶつ言いつつ、ふといい事を思い付き。
 「ガウリィ。おいで」
 と、彼女の息子を呼びつけた。
 「何だい?」(・・・あんた・・・そんな口の聞き方・・・)
 女神と同じ、長く美しい金髪を風になびかせて駆け寄ってきた青年は、“愛”を司る神で、背中には純白の翼を持ち、手には恋心を起こさせる弓矢を常に持ち歩いていた。
 「ガウリィ。最近評判になってる女を知ってるね?」
 「ああ、一応」
 「花園に湧き出る苦い泉の水をその女にかけておいで。異性から嫌悪されるようになる水だから」
 「・・・・やることせこくないかぁ。女神のくせに」
 「いいからとっとと行っておいで!」
 どこから出したかトゲつきハンマァをちらつかせる女神に、ガウリィは小さな琥珀の壷を掴むとこくこくと人形のようにうなづくと、すごい勢いで飛び出していった。

 「まったくなぁ。目をつけられるなんてこの姫も可哀想に」
 城の寝室に忍び込んだガウリィは安らかに眠る姫の傍らに立ち、少女の唇に苦い水をポトンと垂らすとちいさなため息をついた。
 卵型の小さな顔を彩る豊かな栗色の髪。赤い唇がむにゅむにゅと動く。何の夢を見ているのか、幸せそうな微笑みを浮かべて。
 「・・・・・もう、たべらんなぃ・・・」
 ―――――は?
 寝言にぷっと思わず小さく吹き出したガウリィは、その拍子にチクッと自分の矢を腕に刺してしまった。
 「やべっ」
 身じろぎした瞬間、今度はその矢が眠る少女を刺してしまう。
 「・・・んっ・・何?」
 途端にパチっと少女が目を覚ました。ガウリィの姿は人間には見えない。きょろきょろと周りを見渡したけれども誰の姿も確認出来なくて、少女はまたパタンと眠ってしまった。
 だが、ガウリィはしばらくその場を動けなかった。
 目を覚ました時の少女の瞳に魅入られて。
 寝ぼけ眼とはいえ、生き生きと輝いていた紅い瞳。
 すぐにそれは閉じられて眠ってしまったのだが、もう一度見たい、と。切実に思う程心惹かれた。
 同時に苦い水を垂らした事を後悔した。
 懐から念の為に持ってきた花園に湧き出ている甘い水を少女の髪に振り掛け、名残惜しげにそっと少女の額に口付けると、入ってきた時と同じように物音1つ立てず静かにその場を後にしたのだった。

◇◇◇◇◇

 (姫は美しい。けれどそれだけだ)
 (側にいて欲しいわけではないのです。ただそこであがめていたい。その美しさを)

 「何よ!どいつもこいつも!あたしは物じゃないっての!」
 美しい顔を怒りで紅潮させて、国一番の美しさで評判の姫、リナ、は部屋の物中に当り散らしていた。
 リナには姉がいた。
 リナとはまた違ったタイプの美しさを誇っていたその姉には、国中から求婚の男が列をなしていたが、リナを求めようとする男は何故だか1人も現れなかったのだ。
 誰かれかまわず求められるのも腹立たしいが、自分の容姿を褒めそやしながらそれを生身の人間とは扱わず、まるで精巧な彫像のように扱う者たちの物にもなりたくはない。
 そう思ってはいたものの、誰にも求められない事への寂しさと悲しみに徐々に捕われていた。
 美しくても多少変わったところがあると評判の姫でもあったので(自覚はあれど反省せずなのだから仕方がない)、それはそれで仕方ないかな、とも思うが。やっぱり年頃の娘である。
 何でもない振りをしていても、やはり恋に対する憧れはあった。
 「・・・そりゃさ、あたしはねーさまより胸は・・・ちょっぴし小さいけど・・・」 (ちょっとか?)
 どこからともなく聞こえた突っ込みに、リナはギロっと鋭い視線を投げると、はああぁと深いため息をついた。
 腹立たしいことは他にもあった。
 求婚者が現れない事を心配した両親が、思いあまって神託を受けにいってしまったのだ。
 その神託を受けてしまったらどんな結果が出ても拒む事は出来ない。
 自分の人生をそのようなものに委ねなければならない事にも激しい憤りを感じていた。

 「なんですって・・・・?!」
 暗く沈んだ父王から告げられた言葉に、リナは絶句した。
 神託を受けて帰ってきたリナを迎えたのは、とんでもない運命だったのだ。

 【その娘は人間と結婚することは出来ない。
  花嫁の衣装を着せ、岩山の頂上に連れてゆけ。
  地上の者にも天上の神々さえもが恐れる怪物が。
  娘を望み、連れ去るだろう】

 母はショックの為床に伏し、父も青ざめていた。
 娘の幸せを思って受けにいった神託で、よもやこのような残酷な結果が出ると思わなかったのだ。
 一度受けた神託は、どんなことがあっても背く事は出来ない。
 暫く呆然としていたリナだったが、やがて顔をあげると決心した。

◇◇◇◇◇

 数日後、純白の花嫁衣装を身につけたリナは、1人、岩山の頂上で月を仰いでいた。
 ここまでついてきた人々は足早に帰途につき、周囲には何の気配もない。
 懐に隠し持った短剣を握りしめ、微かに震える足を叱咤しながら、リナは自分を奪う怪物が現れるのを息をひそめて待っていた。
 簡単にただ連れ去られるつもりはなかった。
 とんでもない怪物だった場合、戦って、それでダメならこの崖から飛び下りてやる。
 自分の意志を無視して敷かれた運命を拒む為に、その為にリナは神託を受け入れたふりをしてここに来たのだ。
 どのくらい時間が過ぎたのだろうか。緊張の為痛い程神経が張り詰めているリナの耳に、微かな羽ばたきの音が聴こえた。
 柔らかな風が花の香りを纏わせてリナの髪をくすぐっていく。
 思わず緊張の糸が弛んだリナの身体が突然、フワっと浮き上がった。
 「うわっ・・・ちょっと、何なのっっ?!」
 「暴れると落ちるぞ」
 突然の事に慌ててじたばたもがくリナを抱えた見えない何かが、涼やかな声をかけた。
 「誰よ、あんたわ。姿ぐらい現わしなさいよ」
 「俺たちの姿は人間には見えないだけで別に隠しているわけじゃない」
 「・・・・あんたがあたしを奪う怪物?」
 見えない何かに剣呑な視線を向けると、肩を竦めたような気配が伝わってきた。
 「その物好きは俺じゃない。俺はあんたを連れてくるように頼まれたただの風。西風のゼルガディスだ」
 笑みを含んだ声にリナはムスっとしたものの、このまま暴れて崖に落ちるのも馬鹿らしいのでおとなしくゼルガディスに連れられていた。
 やがてリナが降ろされた場所は、月の光を受けた花々が咲き乱れる谷間の草原だった。
 見た事もない美しさと芳香に、リナは不安な気持ちも忘れつい魅入ってしまった。
 いつの間にか風は去り、警戒心を忘れたリナが歩き出すと、近くに並木道があった。誘われるかのようにそこを歩いていくと、目の前に見た事もない壮大な宮殿が現れ、噴水が月光を受けて儚げな虹を作っていた。
 自分が住んでいた宮殿も大きかったが、比べ物にならない。人間の手で作られたものではないと直感的に感じながらも、リナは憑かれたように宮殿の中に入っていった。
 「すごい・・・・!」
 天井も壁も床も、立ち並ぶ柱も。優れた筆づかいな絵と、今にも動きだしそうな彫刻でいっぱいだった。どの部屋にも輝かしい宝が溢れていて、リナの理性が思わずはち切れそうになる。
 目を輝かせて、すでにここに来た目的も何も吹っ飛んで、宝物に思わず手を伸ばした時。
 「リナ」
 「はいぃぃぃっっ」
 文字どおり飛び上がって声がした方を振り返ったリナは、そこにも誰の姿がないのを見てやっと我に返った。
 いけないいけない、それどころじゃなかった。
 頭を軽く振って、リナは見えない相手をじっと見つめた。
 目には見えなくても気配は感じられる。
 笑みを含んだ柔らかで暖かい気配。
 初めて聞く男の声。ただ名前を呼ばれただけなのに、何だか胸が熱くなってくる。
 「リナ」
 あたしの事をこんなふうに熱い声で呼んでくれた人は今まで誰もいなかったから。
 愛おしそうに暖かい風がリナの身体を包み込む。
 何故だかとても安心する。
 抵抗して、戦ってやると思ってきたのに。
 この物好きな怪物は姿は見えないけれど、とても暖かくて優しい。
 「あんたは、誰?」
 つぶやいた問いかけの答えはリナの耳もとで囁かれた。
 「俺はガウリィ。お前を望むものだよ」
 「あんたが神託の、地上の者にも天上の神々さえもが恐れる怪物?」
 「怪物ってのはひでーなぁ。受け止め方によってはそうかもしれんが」
 苦笑して透明な手がリナの髪を一房掬い、口付けた。
 「怖がらないでくれ。お前を害したりしないから。俺はリナと暮らしたいからここに連れてきたんだ」
 「怖がるも何も、あんたの姿が見えないんだもの。怖がりようがないでしょう?」
 「そりゃそうか」
 呆れを含んだ、けれど嫌悪のないリナの答えにガウリィはほっとした。
 リナもまた、姿の見えないガウリィに多大なる興味と少しの好意を抱き始めていた。
 「ここはお前の為に作った宮殿だから、後でじっくり見てまわるといい。まずは風呂にするか?それとも飯がいいか?」
 「・・・・それって、まるっきし新妻のセリフよね」
 楽しげなガウリィのセリフに吹き出しそうになりながら突っ込むと、見えない手が伸びてきてリナの栗色の髪をくしゃくしゃと掻き回した。
 「だって新婚さんだろ?麗しき我が花嫁」
 「えっ?・・・・あっ」
 言われてみれば確かに自分の纏っているのは花嫁衣装で。
 途端にボっと顔を真っ赤に火照らせたリナを、まるで宝物のようにガウリィが抱き上げた。
 「それとも俺?」
 「調子に乗るなーっっ。降ろしてよガウリィ」
 いきなり抱き上げられて、でもどこに縋っていいかわからなくて暴れるリナの額に、クスクス笑いながらガウリィがキスを落とす。
 「名前、呼んでくれたな。リナ」
 「あ・・・」
 心底嬉しそうな声に思わず口を押さえて、リナはプイっとそっぽを向いた。
 ガウリィがリナを抱いたままゆっくりと歩き出す。
 「・・・石膏でも持ってきてあんたを固めたらどんな姿してるのか形だけでもわかるのに。やってみてもいい?」
 「だめ」
 「けち」
 「・・・見えなくても俺はここにいるよ。触れる事はできるだろ?」
 「・・・そりゃそーだけどさ」

 不安は不思議なくらい消えていた。

 そしてこの時から、姿の見えないガウリィとの生活が始まったのだった。
 それはとても楽しく、幸せな日々だった。
 ガウリィは、聞いているこちらが恥ずかしくてむず痒くなるような愛の言葉を臆面もなくリナの耳もとで囁き、真っ赤になったリナはいつも反射的にガウリィを吹っ飛ばした。
 毎日出されるごちそうを、見た目よりもかなり大食いなふたりは、譲り合いと言う言葉を知らないらしく、我先にと奪い合って食べていたし、その戦いがまた食欲増進させていた。
 ただ不満があるとしたら。
 一向にガウリィの姿が見る事が出来ない、という事だろうか。
 そして、ガウリィが来るのがいつも月が出てからで、太陽が現れる前にどこかへ行ってしまう、ということだ。
 そんなガウリィに合わせてリナの生活はすっかり夜型になってしまった。
 城にいた頃よりも数段幸せで生き生きとした生活を送りつつも、心のどこかで不満が溜まっていく。
 リナがガウリィの事をもっと知りたくなっていくと同時に隠されていることへのやり切れなさが、少しずつ大きくなっていった。
 それはその手の事はまるっきり奥手で恋愛経験がまるでないリナが、初めて手にした恋心でもあった。
 夜だけでなくいつも側にいて欲しい。
 声だけでなく彼の姿を知りたい。
 ガウリィが自分の事を大切にしてくれているのはわかる。でも、だからこそ隠し事をして欲しくない。
 神託の内容はいつでもリナの中に残っていた。
 ガウリィが怪物でもリナはかまわなかったのだ。自分だけを見て愛してくれている怪物であるならば。
 けれど・・・昼、何をしているのか。まったく知らない。
 姿と同じでいくら聞いてみてもはぐらかして答えてはくれなかったから。
 ・・・・もしかして、あたしの他にも通う女の人がいるんじゃ・・・
 ふと胸をよぎった思いにリナは捕われてしまった。
 今までずっと、美しさを誉めたたえられてもリナをリナとして誰も求めてはくれなかったから。
 今、ガウリィはあたしをリナとして求めてくれているけれども、本当はもう飽きてしまったのではないか。
 リナの他には姿の見える人間は誰もいない為、誰にも相談出来ない。リナの不安と妄想は爆発的に広がり、せめてガウリィの姿だけでも確かめたいと、強く決意してしまったのだ。

 寝室の枕の下にこっそり灯を隠して、リナはガウリィが寝てしまうのを静かに待った。
 いつもはガウリィからもたらされる快楽の果てに疲れ果て先に眠ってしまうのだけれど、今日は昼間じっくり寝ておいたからまだ眠くはない。
 見えない彼の腕の中に抱き寄せられて眠ったふりをしながら、じっと時を待った。
 暫くすると、リナの髪を梳いていた手がぱたんとベットに落ち、微かな寝息がリナの頭をくすぐっていく。
 意を決してリナはそっと起き上がると、隠していた蝋燭に火をつけ、灯をそっとガウリィに近付けた。
 「―――――っっ!」
 あまりの衝撃にリナは声を上げないように必死で口を手で押さえていた。
 そこで安らかに眠っているのは怪物などではなく。
 1人の若く美しい神だった。
 長く艶かな金髪が、端正で幾分疲れてけれど満足そうに眠る顔にかかっている。
 宮殿の中にあるどんなに優れた彫刻でさえもきっと表現仕切れないほど優美な身体。
 背中に広がっている白い翼。
 こんなに綺麗な人をリナは今まで見た事がなかった。
 この人がガウリィ・・・!
 そう思った途端に、心臓がばくばく跳ね上がり息が苦しくなった。顔が火照り、わけもなくあたふたとしてしまう。
 動揺しまくったリナの手が震えて、蝋燭の鑞がポタっとガウリィの肩にたれてしまった。
 「・・・・リナ・・・!」
 パチっと目を覚ましてしまったガウリィは、自分の目の前で真っ赤になっておろおろしているリナを目にして何が起こったかを悟った。
 人間の女を創る際に好奇心を吹き込んだ神は誰だったっけ・・・遠い昔の記憶をぼんやりと探る。
 好奇心旺盛なリナは耐えきれなかったんだろう。だけど・・・
 何も言わずただリナを見つめているガウリィの蒼い瞳が悲しげに揺れた。
 リナも初めて目にするガウリィの瞳に魅入られて動けなかった。
 蒼い、蒼い瞳。顔や身体よりも何よりも美しいと思われるその瞳が悲しげに揺れているのを感じて、びくっと身体を震わせた。
 初めて後悔の念が襲ってくる。
 あれ程姿を見たいと望んだのに、彼を裏切ってしまった事への激しい罪悪感がリナの胸を揺さぶった。
 何かを言わなくては・・・と思っても、いつもあんなに滑らかに動いていた唇は縫い付けられたように動かない。
 カタン、と音がしてリナが顔をあげると。
 何も言わずにガウリィが翼を広げて宮殿の窓から空へ飛び出したところだった。
 「ガウリィっっ!」
 その瞬間呪縛はとかれ、リナはためらわずにガウリィの後を追って窓から飛び出した。
 高さなど頭になかった。ただ直感的にこのまま見送ったら2度とガウリィに会えなくなる、そう感じたから身体が動いたのだ。
 リナの声にとっさに振り向いたガウリィは、窓から落ちていくリナを見て慌てて舞い戻った。地上に叩き付けられる直前でリナの身体を救い上げ、ふんわりと夜露に濡れた柔らかい草の上に降ろした。
 「無茶するんじゃない」
 ため息と共にリナの頭をそっと撫でる。
 「・・・・俺はお前を信じていた。でも、お前は俺を信じてはくれなかったんだな・・・」
 今まで聞いた事のない苦く苦しげな声にリナの肩が震える。違う、と言いたかった。けれど言えなかった。
 自分の不安と好奇心に負けて、ガウリィの姿を見てしまったのは事実なのだ。
 「・・・・俺は母の命令に背いた。お前の美しさに妬んだ母の願いを俺は拒んだ。リナを・・・お前に恋したから」
 「・・・・ごめ・・ごめんな、さい・・・」
 小さく掠れたリナの震える声に、ガウリィは首を振った。
 「もう一緒には暮らせない。母の目を眩ませて夜しかここに来れなかったが、この宮殿も消えるだろう。残念だよ、リナ」
 「やだ・・・!行っちゃやだよ、ガウリィ!謝るから、もう絶対しないから。だから行かないで!」
 リナがガウリィに手を伸ばすより先に、ガウリィの翼がはためいて一瞬のうちにガウリィの姿はリナの手の届かない場所にまで飛び上がってしまっていた。リナの手は宙を掴み、月の姿は黒い雲に急に隠されてしまう。

 暗闇に覆われた草原で、リナは1人泣き崩れていた。

◇◇◇◇◇

 リナは旅立っていた。
 泣いて夜を明かしたその日から、ある決意を胸に秘めガウリィに会う為に歩き出したのだ。
 何日も何日も歩き続けたが有力な情報は手に入らない。
 けれど、どんな事をしてももう一度ガウリィに会う為に、リナは旅を続けた。
 誰もリナを守ってはくれない。リナもまた、それでいいと思っていた。
 これは償いの旅なのだ。
 危険を犯してまであたしを求めたガウリィの言葉が真実なのであれば、あたしの真実を彼に伝えなければならない。
 その思いが今のリナを支えていた。

 「ガウリィを探しているのはあなたですね、リナ」
 突然声をかけられて、疲れて大きな木の木陰でうとうとしていたリナははっと目を覚ました。
 「・・・・あなたは・・・!?」
 「わたしは大地と穀物の守護神、『アメリア』。西風から相談を受けて、あなたに会いに来ました」
 そう言って微笑む女神は、リナにも見えるように姿を現わしていた。
 「いきさつは知っています。天界はあなたがたのうわさで持ち切りですから」
 「・・・・知っていて、助けてくれるの?」
 いぶかしげにリナが女神を見つめた。
 実はこれまでに何度か神々の姿を旅の中で見かける事はあったのだ。けれど、ガウリィの居場所を訪ねる彼女に誰も答えてくれようとはしなかった。
 Lの怒りは激しく、巻き添えになるのはごめんだったからだろう。
 「ガウリィはあなたの為に肩と心に傷を負って、母であるLの宮殿に戻っています。会わせてはもらえないかも知れませんが、とにかくLの元に急いで行って心から詫びなさい」
 真摯に教えてくれる女神にリナの強ばった表情も次第に和らいでいった。
 「ありがとう。でも、どうして教えてくれるの?」
 「ガウリィの落ち込みが酷くて西風のゼルガディスが心配しているのですよ。ガウリィは愛を司る神。彼が仕事を放棄したら世界は次第に色褪せ滅びるでしょう。そうなったらわたしも困ります」
 「・・・・そういうことだ。あんたがどうにかしてくれないと俺も困る」
 ふわっと柔らかな風が吹き、聞き覚えのある声が降ってきた。相変わらず姿は見えないけれど。
 「・・・・物好きなのね、自分たちも女神の怒りに触れるかもしれないのに」
 「一番の物好きはガウリィだろう」
 「そういうことですね。では行ってきなさい。健闘を祈りますよ」
 苦笑を残し、アメリアとゼルガディスの気配がすっと消えた。
 目の前に道が出来てきた。
 おせっかいな神々に感謝してリナは立ち上がる。
 「・・・・絶対に会ってやるんだから、覚悟しててよね」
 つぶやきは新たな決意となり、リナの胸の中に温かなものが広がっていった。
 リナは道の険しさを思いつつ顔をしっかりと上げて、Lの宮殿を目指して歩き始めた。