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「綺麗ねー」
「ありがとう」
手際良く降られるシェイカー。
圧倒される程の酒瓶の中から無造作にいくつか取り出し、優雅な手付きで混ぜ合わせていく。
目の前に置かれたグラスに注がれたカクテルに、リナは素直に感嘆の声を上げていた。
小さいけれども小奇麗で落ちついたバー。
ストレスが溜まって眠れないからと盗賊イジメに行こうとしていたリナを途中で捕まえた俺は、たまにはいいかと飲みに誘った。
酔っ払いですらすでに眠りについているような夜更けに、こんな感じのいいバーを見つけることが出来たのはラッキー以外の何者でもない。
客は俺とリナだけ。
意外にもバーテンは年若い女だった。
艶やかな黒髪を肩で切りそろえ上品に微笑む姿に、リナが一瞬「ね、ねーちゃん?」と小さくつぶやいてビビっていたのだが。
シルクのタイを結び、よく手入れされている爪に塗られた深紅のマニキュアと足元のハイヒール。細身のパンツスタイルに身を固めたその女バーテンダーは、後片づけをして店を閉めようとした矢先に現れた俺たちに嫌な顔1つ見せず、店内に招き入れてくれたのだ。
「あ、おいしい」
「そう?よかった」
一口飲んだリナが賞賛の言葉を出すと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「すごいわね。ガウリィのあんな説明でこんなに素敵なお酒ができるなんて」
「あんなって・・・我ながら適格な注文をしたと思うんだが」
俺もカクテルの種類はあまり知らない。酒に弱いリナも詳しいはずもない。
だから。
『イライラして今にも暴れだしそうなじゃじゃ馬を落ち着かせる甘いカクテル』、と注文してみたのだ。
注文の仕方は気に触ったものの、リナは差し出されたカクテルがいたく気にいったらしい。
ミントの香りが爽やかな淡く優しい緑色のカクテル。
クリームも入っていて甘くまろやかな口当たりだが、飲むとスッキリしている。
あまり酒には強くないリナにはちょうどいいだろう。
「ねぇ、ガウリィのは何?」
「お前さんにはちょっときついぞ」
自分の物を半分程飲み終えて、リナが俺のグラスに手を伸ばしてくる。
アーモンドの香りがする琥珀色の液体。甘そうに感じるがこれが結構きつい。とてもリナに飲ませられるようなものではないのでひょいっとかわすと、グラスに触れた氷がカランっと澄んだ音をたてた。
「いっつもそうやって躱しちゃうんだから・・・」
ボソっとしたつぶやきが耳に届くが聞かないふりをした。
「ねぇ、あたしも注文していい?」
「どうぞ」
ぷうっと膨れていたリナが自分のカクテルを飲み干して、バーテンに手招きしていた。
まったく。しょうがないやつだ。
「あたしのは、そーねぇ・・・・恋する乙女が眠れない夜にそれを飲んだらいい夢見れそうな、そんな感じのやつ♪」
「・・・・眠れないからってお宝漁りに行くリナからそんな注文が出るとは・・・・明日は大雪か?」
―――――げしっ、ずるがたっ・・・
「やかまし!んで、こっちにはデリカシー皆無のクラゲ頭が少しでも復活出来そうなきっつーいの」
「・・・・ブーツの先で思いっきり蹴るなよなぁ」
油断していたすねに思いっきり攻撃されて、転げ落ちた床の上から恨めしげにリナを睨む。さすがにちょっと痛かったぞ、これは。
「のーみそ溶けててもまだ痛覚は生きてるって証明出来たじゃない。よかったわねー、ガウリィ」
「どんな理屈だ。実験するなっ」
俺たちの掛け合いに彼女は口元に手を当てて上品に笑うと、流れるような手付き で再びシェイカーを振り始めた。
「いい腕してるな、あんた」
「ありがとうございます」
お世辞ではなく心底そう思った。上手いだけでなく、注文の内容に見事ツボをついている。
「本当。まるで魔法ね。心を読んだみたい」
リナも手放しで賞賛していた。
リナのグラスには微かに紅い液体。上に生クリームを乗せて更に真っ赤なチェリーを浮かべてる。微かに香ってくるのはチョコレートのような甘いもので、見た目も味も、乙女チックなものだった。
俺のグラスの中は無色透明の液体。緑色のオリーブが1つだけ沈んでいる。
俺でも知っている辛口のカクテル。
ただ、リナの注文通り一般のものよりもかなり辛くきつい仕上がりになっていた。
またしてもリナが飲むとせがんできたので、今度はさっきのお返しとばかりに少し飲ませてみたのだが。予想通りあまりのきつさにむせていた。
「わたしにとってこのお酒たちは言葉のようなものなんです。複雑に混ぜ合わせるものからシンプルなものまで。たくさんの言葉が溶け込んで1つの形にする。そこが難しくもあり、楽しくもあるんですよ」
微かに頬を染めて、けれど誇らしげに語る彼女にリナがなにか思い付いた表情をした。
「決めた。ガウリィ。暫くこの街に滞在するわよ」
「ん?そりゃあかまわんが。どうしたんだ突然」
「ここに通うの。いいかしら?えっと・・・?」
「アムリタよ。あなたたちは旅人よね。旅先の色々な話をしてくれるなら私は大歓迎だわ」
何か感じるところでもあったのだろうか。いつの間にか2人でこそこそ内緒話など始めている。
「まぁ、盗賊イジメに通うよりはマシだけどな」
「うっ・・・・ま、まぁ。んじゃ、そうと決まったところでガウリィは留守番よろしくね♪」
・・・・・ちょっと待て。
「俺は置いてきぼりか?」
「そうとも言うかも」
「あのなぁ。お前さんを1人でバーになんて行かせられるか」
「・・・・・何で?」
「何でって・・・・」
そこで思わず言葉に詰まった。
リナの紅い瞳がじっと俺を見つめてる。
・・・・・・そんな目で見るなよ。
アルコールが回ってきたのか潤みかがった紅い瞳はいつもより綺麗に見える。
――――そんな顔、他の男に見せられるわけないだろ?少しは気付けよ。頼むから。
最近、街を歩いていても男の視線を受けるようになったリナ。でも、そのことに全然気付いていない。
無邪気さの中に時々見え隠れする女の表情。
今のリナがまさしくそれで。
自覚がないから手に負えない。
「酔っぱらったお前さんを野放しにしてたら、何しでかすかわからんだろ」
それなのに口から出るのは保護者のセリフ。
「酔っぱらう程飲まないわよっ」
「こんないい店、魔法で吹っ飛ばすには惜しいだろ」
「あのねぇっっ、そういう心配しか出来ないの?」
「他にどんな心配するってんだ?」
くっとリナが唇を噛み締める。
・・・・ちょっと言い過ぎたか?
「これくらいの時間に来ればいいわ。うるさい客が帰った後なら心配いらないでしょう?」
絶妙なタイミングでアムリタが提案してきた。相変わらず微笑みを浮かべたままリナを見て、次に俺を見る。
「たまには女の子同士の話もしたいものよ。一杯しか飲ませないって約束したらそれでいいかしら?」
今度は俺が答えに詰まる。そう言われてしまうとどうしようもない。ちらっとリナを見ると明らかにほっとしていた。
「仕方ないな・・・迎えに来るのはいいんだな?」
「あのねぇ、あたしも子供じゃないんだから。1人で帰れるわよ」
「でもお前だって女の子なんだぞ」
ムッとしていたリナがとたんに微かに頬を赤く染める。
こういうところが放って置けないんだよ。
直接言うと呪文が飛んでくるのは間違いないからワシワシと乱暴に髪を撫でた。
「・・・・・好きにしなさいよっ」
小さな声に苦笑する。
俺たちのやり取りをアムリタはただ静かに微笑んで見守っていた。
◇◇◇◇◇
「ガウリィ。今日あたし魔道士協会行ってくるからさ。夕方、アムリタのバーで待ち合わせしてご飯食べに行かない?」
この街に滞在してからすでに3日。
宿の飯もまずくはないとはいえそろそろ飽きてきた頃だ。
「それはいいが、俺も一緒に行こうか?」
「いい。魔道書の閲覧に行ってくるからガウリィ来ても意味ないでしょ?あんたすぐに寝ちゃうじゃない」
ジト目で言われてしまうと反論する言葉がない。
「十行以上の文章読むと眠くなっちまうんだよなぁ」
「にこやかに言うなっ。ったく、ついにのーみそ溶けきっちゃったのかしら」
「そこまで言うか?」
「反論出来る?」
「・・・・・・出来ません」
「よろしい。んじゃ夕方ね。アムリタの店覚えてるわよね?」
「大丈夫だって。あまり遅くなるなよ?お前さん、本読み出すと夢中になって時間忘れちまうんだから」
すぐ出て行こうとしたリナを引き止めて、クシャっと髪をかき混ぜてポンっと軽く叩く。
「気をつけていってこいよ」
「・・・・ガウリィ」
「何だ?」
「・・・何でもない。また後でね」
「ああ」
ぱたぱたと足音が足早に遠ざかっていく。
何となく、胸がざわつく。
リナがいないと落ち着かない気分になるのは今に始まった事じゃない。だから今回もそうなのだと思った。
「・・・・夕方まで俺は何するかなぁ・・・」
1人与えられた時間を持て余して、ベッドに寝っ転がる。
いつもと同じ時間の流れすら、今はとてもゆっくりに感じられた。
「いらっしゃい」
俺を出迎えたのはバーテンのアムリタの声だけだった。
まだ時間が早いせいか客は1人もいない。
「リナと待ち合わせしてたんだが、まだ来てないか?」
カウンターに座りながら問いかけると、アムリタは微かに苦い微笑みを浮かべて、白い封筒を俺の前にそっと置いた。
「これは?」
「リナさんからの預かりものよ。あなたに渡してくれと頼まれたの」
「・・・・どう言う事だ?」
知らず口調がわずかに荒くなる。
えもしれぬ不安に心臓が締め付けられるような息苦しさを感じていた。
「読めばわかるはずよ」
変わらぬ彼女の静かな声に俺は目の前の白い封筒をもどかしげに開く。
そこには飾り気もない白い便箋に、リナの綺麗な字が踊っていた。
【ガウリィへ
いくらあんたでもあたしからの手紙なんだから十行以上でも眠くなったりしないわよね。
怒らないで読んでくれる?
これでも一生懸命に考えたんだから。
本来ならとても大切な話だから直接言わなきゃいけない事なんだけれど、あんたの瞳をみて言う事がどうしても出来なかったの。
らしくないって思ってる?
あたしね。
あんたがあたしの傍にいる。
そんな状態が当たり前である事が、嬉しくて同時に、辛かった。
今まで、本当に色々な事があったよね。
ガウリィと出会った時は、あたし、本当に子供だった。
でも、ずっとガウリィに守ってもらえたから、あたしは今まで生きてこられた。
ちゃんと言った事なかったけど、本当に感謝してるよ。
あんたがいなかったら、あたしの命なんてとっくになくなってたもん。
だけどね。あたし、気付いちゃったんだ。
いつからかなんて。もう覚えてはいないけれど。
・・・・あたしにはもう、『保護者』は必要無いみたい。
あんた以上に、あたしの背中を守れる人は、きっとこの世界にはいないね。
ガウリィがいたから。あたしはどんな敵が相手でも前を向いて戦ってこれた。
だけど・・・・
あんたの怪我が増える度に、あたしは戦う事が怖くなってきた。
あたしにちょっかいかけてくるのは、本当に冗談みたいに笑っちゃう程桁違いに強いやつばかりだし。
今日は生き延びたけれどこの次は、って思うと。怖くて眠れない時もあった。
ここんとこ盗賊イジメに行ってばかりだったのも、このストレスから逃れたくて、さ。
言っとくけど、死、そのものが怖いわけじゃないよ?
あたしが怖いのは――――いつかあんたが。あたしの目の前で倒れてしまうんじゃないかって事。
あたしは簡単にやられる気も死ぬ気もないよ?
だけどガウリィはバカだから・・・・いつだって考えるより先に身体が動いてしまうでしょう?
あたしをかばう為に。
いくらあんたが『自称保護者』でも、『他人』のあたしにそこまでする事ないのよ。
本当は新しい剣を見つけたその時にでも別れていればよかったんだよね。
自分で認めるのも虚しいもんがあるけど、あたしと関わって道踏み外した人、多いしさ。
まともな人生送れっこない。
だけど。言い出せなかったんだ。
あたしが、ガウリィと一緒にいたかったから。
ガウリィに負担かけてるってわかっていながら、それでも離れられなかった。
大人のあんたに、いくら背伸びしても追いつけない。それが辛いけれど。
いつまでも子供以上に見てもらえない。それが悲しいけど。
でも。それでも。
傍にいたかったんだ。
ガウリィの傍はとても居心地がよかったから。
だけど。そろそろ限界。
ガウリィを失う事に怯えるのも。あたしの心を押さえるのも。
もう限界。
ガウリィ――――あたしは。
あたしは、あなたが好きです。
どうしても直接言える自信はなかったの。
恥ずかしいのもあるけれど。
微妙な関係が一瞬で壊れてしまうのを待つのが怖かった。
本当は、離れた方がいいんだよ、あたしたち。
わかっているけど・・・
――――やっぱり、あたしらしくないか。
あたしはこの街の魔道士協会の依頼を受けました。
一ヶ月間、ここの講師をしてくれって泣きつかれちゃった。魔道の実践やってたときに、見習い魔道士たちがそろって魔力を暴走させちゃって、先生が自信なくして夜逃げしちゃったらしいのよ。
そんなわけで一ヶ月。
あたしは魔道士協会で寝泊まりするわ。部屋も用意されてるから。
無茶な事はしないわよ。
のーみそくらげなガウリィだけど、一ヶ月あればちゃんと考えられるよね。
一ヶ月後の夜。このバーで。
あなたの出した答えをちょうだい。
同情や半端な答えはいらない。
この手紙を読んだ直後のあんたは、きっと動揺しててまともに考えられないだろうから。
ちゃんと考えて欲しい。
あんたのこれからの生活を。
あんたにとってあたしは、どんな存在なのかを。
お互い傍にいすぎちゃったでしょ?
暫く離れてみれば、わかることってたくさんあると思うんだ。
冷静になって見れること、判断すること。
何を選ぶのが幸せか、わかるはずだから。
あたしもね、実はまだ迷ってる。
この手紙を書きながら。渡そうか渡すまいか。
あたしの心も、きっと一ヶ月たてば落ち着くから。
あんたがどんな答えを出しても平気なように。準備してるわ。
待っててなんて言えないから、この際、別れて旅に出ちゃってもいいからね。
それがあんたの選んだ道ならば。
・・・・なんか脈絡のない手紙になっちゃったな。やっぱし慣れない事するもんじゃないね。
でもまあ、そーゆーわけだから。
よろしく。ガウリィ。
リナ・インバース】
――――コトリ。
グラスの置かれる小さな音に、やっと我に返った。
放心していた俺の瞳に写る、鮮やかなブルーのカクテル。
「彼女からあなたへのプレゼントよ」
リナから俺に?
今にもリナの元へ走り出しそうな俺をそのカクテルが引き止める。
「彼女があなたへの想いを込めて作った、あなただけのオリジナルカクテルよ」
アムリタは相変わらず口元に上品な微笑みを浮かべて、ただ視線だけで飲むように促してくる。
(どんな言葉を囁く?どんな想いが溶けてる?)
彼女の視線が語る。
ゆっくりと目を閉じて、俺はそのカクテルを一口飲んだ。
爽やかな香りと裏腹にかなり辛口で色々な味が溶けている。
喉越しはいいけれどつかみ所のない、それなのに引き付けられる深く蒼い酒。
「・・・・・・これが俺なのか?」
リナが俺に抱いてるイメージ。
(・・・・いつもそうやって躱しちゃうんだから)
ふと、リナの言葉が蘇る。
「そう・・・かもな・・・」
いつもリナは俺の目を覚ましてくれる。
隠して躱して気付かせようとしなかった俺の本心。
リナがもう少し大人になるまで、と。自分の都合のいいように制限をつけて、それでも手放す気は全然なくて。
だけど、それはただ臆病だっただけの事。
この手で微妙な関係を壊すのに怯えていただけ。
大切すぎて言わなきゃいけない事も言い出せなかった。
一度でも触れたら2度と離れられなくなるから、リナの心を無視してでも奪いたくなるから。
・・・・・俺はリナを見守っているつもりで、俺を守っていたに過ぎない。自分が傷つかなくてすむように。
だから早く気付いてくれと望みながら、リナの心の変化に気付いてやれなかったじゃないか・・・・!
「かなわないよ・・・お前には・・・・」
だけどリナは俺のそんな甘えを許さなかった。
いつだって前を向いて堂々と戦ってきた彼女は、今回も戦う事を選んだから。
俺の心は決まっている。
もう、隠すことも取り繕うこともしない。
本音をさらけ出してくれたリナに、ちゃんと言おう。
「行かなくてもいいの?」
不思議そうにアムリタが声をかけてきた。
「すごい勢いで飛び出す事があったらどんな手段を使ってもいいから止めてくれって頼まれていたのだけれど・・・」
――――リナらしいな。しっかり俺の行動パターンも読まれてる。
確かにこのカクテルがなかったら迷わずすっ飛んで行ってただろう。居場所もわかっているのだから。
でも、行かない。今は行けない。
思わず浮かんだ笑みは苦笑に近いものだった。
「あんたもおせっかいなバーテンだな」
「無口なバーテンが優秀な時代は終わったと思いなさいな。気持ち良くお酒に酔ってもらえるように相談に乗ったり愚痴を聞くのも私達の仕事なのよ。行きずりのその場を動くことのないバーテンだからこそ、安心して吐き出せるものがあるんだから」
そう言って微笑む彼女の表情はカクテルを作っている時と同じ、控えめな自信に溢れたものだった。
「でも、確かにおせっかいかもしれないわね。気にいった相手には」
カウンターの下から何かを取り出し、俺に小さなウインクを投げる。手に持っているのは小さな丸いもの。前にリナが持っていたような気がする。
それが何かを訪ねようとした俺を制してアムリタがそれに口を近付けた。
「どうだった?あなたへのカクテル」
囁いてそれを俺に渡してくる。
今度こそ本当に苦笑した。
「あんたは本当に優秀なバーテンだよ」
小さく礼を言ってそれを受け取った。
「感想は俺の答えと一緒に一ヶ月後に直接言うよ。今すぐお前のとこに行きたいが我慢してちゃんとここで待ってるから。リナ」
小さな丸い板の奥で微かにカタンっと何かを落とした音が聞こえた。
リナが驚いて落としたんだろう。
きっと、息をつめて聞き耳を立てていたその向こう側で。
本当に今すぐ会いたいけれど。
これはお仕置きに近いものだから。
一ヶ月は長過ぎるけれど、待ってるから。
残りのカクテルを一気に飲み干す。喉の奥がボっと熱くなった。
「一ヶ月後にまたくるよ。ありがとうな」
「どういたしまして。またどうぞ」
上品な嬉しそうな笑顔に見送られて俺は夕闇に染まった街を歩き始めた。
1つの決意を胸に秘めて――――
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