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闇が急激に薄れていく。
白み始めた空に溶けていく星たち。
遠くに見える山の斜面から、徐々に色彩が増していく。
身を切るような冷気。だけど、なんとも清々しい。ピンっと張り詰めた夜明けの空気が、これから昇り来る太陽の光を受けて少しずつ弛んでいく感じ。
いつもと変わらない夜明けの風景。
だけど今日はとても貴いものに感じた。
ふむ。そろそろいい頃よね。
「ガーウーリーイー。起きろぉぉっっっ!!」
――――――ドガッッ!
「うわっっ?!な、なんだっ・・・・?!」
「起きた?おはよう♪」
蹴り落としたベッドの下で、何が起きたのかわからないまま枕抱えてボー然としているガウリィを横目に、あたしは窓を大きく開け放った。
同時に射し込む金色の光。
「――――――何すんだよ、リナ・・・」
「ほら見なさいよガウリィ。初日の出」
ぶつけた頭を擦りながらジト目で見てくるガウリィの首を、こきゅっ♪と回してあげると、日の出のあまりの美しさに言葉を失って何も言わなくなった。
・・・・・なんかボキッてすごい音したような気もするけど、ガウリィの事だから大した事ないわよ、うん。
「・・・・お前なぁ・・・・」
「何よ。折角の初日の出をガウリィにも見せてあげようっていうあたしに感謝こそすれ、文句言われる筋合いはないわよ」
急激に世界を金色に染め変えていく清冽な光。
開け広げられた窓から流れ込んでくる空気は言い切れぬほど冷たくて、射し込まれる光は透明すぎて温もりなど感じられないのに。
世界中が浄められていく。暖められていく。
いつもと変わらない夜明け。
ただ、年が変わったというだけだけど。皆が待ち望んでいたからこそ、このように貴いものに感じられるのだろうか。
「おー、今日もいい天気だなあ」
・・・・・何も感じていないのか、この男は。
「あのねぇ。それだけ?」
「あとは・・・寒いぞ!」
バサァっっ!
「うきゃあぁぁっっ、何すんのよあんたわっ!」
「お前1人で温まってるなんてずるいだろーが」
あたしが包まっていた毛布を奪い取ってガウリイが再びベッドで丸くなる。外気が直接触れて一気に体温が下がったあたしも、慌てて毛布の中に潜り込んだ。
「窓閉めろよ。どんどん寒くなるぞ」
「やーよ。ここから出たら寒いもん。ガウリイが閉めてきてよ」
「俺だって寒いのやだぞ。リナが開けたんだろうが」
1つの毛布の中、互いの身体を押し合いながらの攻防戦。
「過去の事は忘れたわ」
結局再びあたしに蹴り出され、しぶしぶガウリイが窓を閉めてくれる。
すぐに戻ってくると思いきや、そのまましばらく窓の外を見つめていたガウリィが、突然パンパンと手を叩いて太陽を拝んだ。
「・・・・何やってるの?」
「新年の抱負を願ったんだ。初日の出に願うと叶うって言うだろ?」
「そうだっけ?・・・って、冷たいってば」
「俺だけ寒い中に行かされた、お返しだ」
すっかり身体が冷えてしまったガウリィが毛布の中であたしをしっかりと抱きしめてくる。逃げようにもしっかりと包み込まれてしまって抜けだせない。
冷たいんだけど、温かいような。じたばたもがくあたしの頭の上でくすくすと笑う声。
体温を分け合って、そのうちに心地よい温もりにたゆたっていく。
「ガウリィ。太陽にお祈りする前に他にあたしに言う事あるんじゃない?」
「リナだって俺を蹴り落とす前になんか言う事あっただろ?」
「だって、あんくらいしなきゃ起きないじゃない、ガウリィは。せっかく見晴しのいい場所の東向きに窓がある宿をわざわざ選んだってのに、あたし1人で初日の出見るなんてつまんないじゃないの」
ぷんっと膨れたあたしの頭をガウリィが苦笑しながらそっと撫でていく。そして急にベッドの上に起き上がると、ぐいっとあたしを膝の上に抱き寄せた。
「ちょっと。せっかくあったまったのに」
「こうすれば寒い思いせずに2人で初日の出見れるだろ」
ガウリィと毛布に二重に包まれて、もう一度登りゆく太陽を見つめる。
年の始まりをこんなにも穏やかに、こんなにも大切な人と過ごせる事が、とても嬉しい。
―――――パンパン
「なんだよ。結局リナもお祈りしてんじゃないか」
「いいじゃない。綺麗なんだし」
何かに祈るなんてあたしの柄じゃないけれども、たまにはこういうのもいいじゃない。
さてと。お祈りもした事だし。
ごそごそっと毛布の中で身体を回転させてガウリィと向かい合う。
「さてと。やっぱりけじめという事で」
「んじゃ、同時に言うか」
にこっと微笑んで、新年の御挨拶。
「「あけましておめでとうございます」」
――――ごつんっっ・・・・
同時に頭を下げた拍子におでこをぶつけて、2人して思わず吹き出す。微かに赤くなったおでこに、ガウリィがキスをした。
「今年もよろしくな、リナ」
「今年も覚悟してよね、ガウリィ」
「ま、お前にはとことん付き合うさ。だけど、手加減してくれよな」
「それはどーかなぁ」
くすくすと笑いながら、それでも確認しあう事。
これからも、ずっと2人でいる事の当然。当然にしていく為の決意。
この金色の新しい光の中で言葉にしなくてもお互いに伝わっていく。
本当に覚悟してよ?ガウリィ。
あたしは今年もきっと突っ走っていくんだから。あたしがあたしでいられる為にあんたがいるんだからね。
ちゃんと、わかってるでしょ?
手を伸ばして、ぱしっとガウリィの逞しい胸を叩く。
頼りにしてるんだからね。ガウリィ。
今年初めてのキスを贈ると、太い腕がしっかりとあたしを受け止めてくれた。
「ところでガウリイ。お正月といえばもう1つ忘れちゃいけない事があるわよね」
「おおっ!!んじゃ早速食いに行くか!」
「ちっがーうっ」
そりゃお正月でしか食べられない料理の数々にはかなり心惹かれるけれども、それは後でじっくりと堪能するに決まってる。
「餅食う以外に何かあったっけ?」
不思議そうに首を傾げているガウリィに向かって、あたしは満面の笑みを浮かべて両手を差し出した。
「お正月といえばやはり!お年玉ちょーだい♪」
当然すぎるあたしの言葉にガクっとこけるガウリィ。こらこら、毛布引っ張んないでよ。寒いんだから。
「・・・・・・あのなぁ・・・」
「だってガウリィはあたしの保護者なんでしょ?だからさ、ガウリィがあたしにお年玉あげるのは義務であたしがもらうのは当然の権利じゃない」
「リナはもう子供じゃないんだろ?」
「それはそれ、これはこれ」
「・・・・・こんな事してる相手にお年玉も何もないだろーが」
「きゃんっ」
にやっと笑ったガウリィが急に強くあたしを引き寄せ、胸元に唇を寄せる。あっという間に赤く散らされた赤い花。
1つの毛布の中、触れあっている素肌が先程とは違った熱さを帯びてくる。
「こらっ・・ちょっ・・・・待てコラ!」
「保護者の意味が違うだろ?」
「わかってるけどっ・・・ちょとぉ・・・ほんとにやめっ・・・んっ・・・」
「やめてやんない」
ぱふっと再びもつれあってベッドに沈む。
どうにかしてこの腕から逃げようと暴れてみるけど、深く激しいキスに酔わされて、いつしかあたしも腕をガウリィの首にからめていた。
「・・・・新年早々何考えてんのよ・・・・」
「俺はいつだってお前の事しか考えてないぞ」
あっさりと言い切られた言葉にあたしの顔が真っ赤に火照る。そんなあたしを見てガウリイが心底楽しげに、勝ち誇ったように、愛おしげに笑った。
こーゆー顔してる時のガウリィにはいつも勝てない。
「ま、寝正月もいいじゃないか」
「・・・・ほどほどにしてくんないと、おせちやお餅食べ損ねちゃうんだからね」
「うーん・・・・」
そこで悩むような事じゃないでしょーが。
「ま、時間はたくさんあるから、ゆっくりと全部美味しく頂きます♪」
「なによそれぇ」
くすくすと笑いながらじゃれあい始めた2人を、すっかり昇り切った太陽が照らし出す。
年が変わっても変わらなくても、相変わらずな2人の願った事は、1つだけ。
『今年も何があっても2人で生き延びられますように』
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