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窓の外では、冷たい木枯らし。
部屋の中には、暖かな日溜まり。
◇◇◇◇◇
「うひゃ〜・・・さぶかった〜〜」
バタンと大きな音を立てて開いた扉は、少女の声と共に再び勢いよく閉まった。
「全く。魔道士協会ももうちょっとマシな仕事受けてて欲しいもんだわ。つーか、あれってば完全に身から出たサビってやつだったし。ったく、あたしたちは何でも屋じゃないっての」
・・・・そうは言っても実際的には何でも屋のようなものなのだが・・・・ぶつぶつと言いながらも、少女は手早く宿の部屋に備え付けてある暖炉に火をつけ、冷えきった防具やマントを外して身軽になると、窓際のソファに飛び乗った。
「はぁ〜〜〜しゃ〜わせ〜♪」
午後まだ早く、太陽は高い位置から世界を照らし出している。
南向きの部屋は、日当たり良好。
ソファを包み込む日溜まり。
窓一枚隔てただけで、こんなにも空気を暖める太陽の光。
部屋の中でも、日が当たっている場所とそうでない場所は驚く程の温度差があるのだ。
かざした身体の表面だけを熱くする火より、冷えきった身体の中からほかほかと暖めてくれる日溜まりが、今の少女には何よりも嬉しい。
幸せそうな表情でソファに懐いてから、他人が見たら呆れる程着膨れていた上着を少しずつ脱いでいく。
「女の子は寒がりだって決まってるんだから、このくらい着てても当然じゃない?たく、あいつは何でいつもの格好で平気なんだろ。のーみそと一緒に寒さに対する感覚まで溶けちゃったのかしらね」
相棒に対してあまりの言い様・・・でも、これが2人には普通。
ぼやく口調は呆れてはいたけれど、嫌味はない。
仕事が終わった開放感で、どことなく楽し気ですらある。
実は仕事で、明け方の一番冷え込む時間から外で張り込みをしていたのだ。
魔道士協会で渋々ながら受けた仕事ってのが、協会に所属してるある魔道士が造り出した一匹のキメラを捕まえろ、ってものだった。
なんでも、研究資金に困った魔道士が街の権力者の協力を得る変わりに、その家の番犬代わりになる最強のキメラを作れと依頼され・・・・バカ正直に自分の手にも負えないキメラを造り出した上に逃げられてしまったというオチがついたらしい。
幸い、今までに人間が襲われたとかいう事はなかったらしいけれど、なにしろすばしっこくて捕まえられなかったとか。
それでも、毎朝夜明け前にある場所に出没するってのはわかっていたから、野生のカンと獣並みの反射神経を持つガウリイと天才魔道士のあたしの手にかかればチョチョイのチョイ・・・ってわけにはさすがにいかなかったけれど。
手こずったけれど何とか捕獲して、引き渡すついでに魔道士協会の不手際を起こした魔道士をしばき倒している間に、ガウリイはどういった手段を取ったのかいつの間にかそのキメラを手なずけていたし。
「さってとー♪これこれ♪」
ソファの下に重ね着していた服を脱ぎ散らしながら、少女が取り出したのは1冊の古びた魔道書。
仕事の依頼料に上乗せする形で特別に秘蔵の魔道書を借りてきたのだ。
・・・・人はそれを口止め料を強請った脅迫とも言うかもしれない。
そんなことも日常茶飯事の少女は、満面の笑みを浮かべて魔道書を捲り始める。
笑みを浮かべていた表情は、意識が魔道書に引き込まれていくのと同時に真剣味を増していく。
瞳を輝かせて集中している少女の耳は音を遮断し、いつしか完全に自分の世界に没頭していった――――
◇◇◇◇◇
「リナ?」
ノックの音に反応しない扉がそっと開かれて、顔を覗かせたのは1人の男。
部屋の様子をちらっと見て、顔に苦笑が浮かび上がる。
主人の許可を得ないままに静かに部屋に入り込み、持ってきたトレイを暖炉の前に置くと、床の上に脱ぎ散らかされていた黒いマントを取り上げて、少女の身体にふわっと掛けた。
日溜まりの中。
魔道書を手にしたまま、猫のように身体を丸めて、幸せそうな顔で眠る少女。
その少女が眠る日溜まりのソファの傍らに座り込んで、こぼれ落ちている栗色の髪を指先で玩ぶ男の顔も、少女につられたかのように幸せそうな表情を浮かべていた。
きっと、無意識に。
「安上がりだよなぁ、俺も」
呟いた声は言葉とは裏腹にどこか満足げで、この日溜まりのように柔らかで暖かなものだった。
寝不足も疲れも寒さも、日溜まりの中の穏やかな空気に柔らかく溶けていく。
◇◇◇◇◇
持ってきたトレイの上で暖かな芳香をくゆらす、香茶のカップ。
暖かな日溜まりに包まれて。ソファの上とすぐ傍らでよく似た寝息を漏らす2人。
起きた時には、香茶は多分冷めてしまって。日溜まりは移動しているだろうけれど。
暖かさは部屋の中に広がっている。
ありふれた日常のよくある風景。
何気ない仕種。
無防備になれる部屋の空気。
何もない、けれど最高に贅沢な。
―――――これも2人の幸せの形。
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