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このぎこちなさをどう解消したらいいんだろう。
いつでも手を伸ばせば触れられる場所にいるのに、そのほんのちょっとの距離がすごく遠く感じたり、顔を上げられないほど近すぎたり感じる。
ドツいたり食事の取り合いは出来るのに、今までどうやってガウリイに触れていたのか忘れてしまった。
ガウリイは、全然変わらずにいつもののほほん笑顔のまま、あたしの後をついてくるけれど、内心は何を考えているのか全くわからない。
あたしのぎこちなさを、知っているはずなのに。
あたしの変化を促したのはガウリイのクセに。
――――ガウリイと、キスを、した。
最初のキスは、何がきっかけだったんだろう。
あたしたちの間で、別に改まって告白とかがあったわけじゃないし、切羽詰まったシチュエーションがあったわけでもない。
それ以前の問題として、あたしとガウリイは『旅の相棒』で『恋人同士』ってやつじゃなかったはずなのだ。
なのに、キスをした。
気がついたらしてた、ってのが正しいかも知れない。
あの時は、本当に、いつの間にかしてて。
唇を離した後にキスしてた事に気がついて、お互いに呆然と見つめあってしまった。
何が起きたのかわからなくて、頭のどこかで考えるということを放棄していたのかも。不思議とテレも沸き上がってこなかった。
少しの間、ただ見つめあって。
不意にガウリイが小さく笑ったのを覚えてる。苦笑のような笑みにあたしもつられて笑って、そして躊躇いがちに伸ばされた手があたしの頬を包んで引き寄せられた時も、自然に目を閉じていた。
無意識な最初のキス。
意識的な2度目のキス。
でも、どちらも嫌じゃなかった。
まるで指先が触れたから自然に手をつないでいたような、そんな感覚の口付けだったから。
多分あたしは、気付いてなかっただけで、いつの間にかガウリイが好きだったんだ。
2度目のキスの時には、意識の奥底でこうなった事を・・・ガウリイからのキスを待っていた自分が喜んでいたのを感じたから。
そこまでは、いい。
戸惑いを感じ始めたのはその後。
キスをしてから、ガウリイはそれとなくあたしに触れるようになった。
急に変わったわけじゃなく、ふと気付いたらそうだった。
普段の行動は今までと変わりがない。
容赦なく食事の取り合いをして、人の話を聞かないで吹っ飛ばされて、盗賊いぢめを阻止して、軽い依頼を受けて。
いつも一緒にいるからあまり意識しなかったんだけど、2人きりで過ごす時間は増えたような気がする。
夕食を終えて寝るまでの間。
今までも特に用事はなくともどちらかの部屋に行ってそれぞれ好きにくつろいでたりしてたんだけれど。
そのくつろいでいる距離が近くなった。
ガウリイの手が、あたしの髪をかき混ぜるだけじゃなく、ゆっくりと梳き降ろしていく。
ふざけながら強く、微笑みながら軽く、抱きしめてくる。
最初のうちはすごく恥ずかしくて、硬直したり吹っ飛ばしたりギャグに逃げたりしてた。そういう時はからかうこともあったけれど大抵はすぐに腕を解いて解放してくれた。
そのうちに、ガウリイが触れるその体温の暖かさに慣れてきて、あたしが赤くなりながらもだんだん逃げなくなると、少しずつ腕の中に閉じ込める時間が長くなってきた。
そして、キスも。
いつも緊張してしまうし恥ずかしくて真っ赤になるけれど、ガウリイからのキスは優しくて、嫌いじゃない。
今だってお互いに何も言わないけれど、ガウリイの言動の全てから『あたしを好き』って気持ちが伝わってくる。
だからあたしは、抱擁も口付けも受け止める。
その度に、くすぐったいほどの嬉しさと暖かさを感じているから、あたしは本当にガウリイが好きなんだと思う。
誰かを好きになったのはこれが初めての経験だから、断言は出来ないけれど、多分間違ってはいないはず。
なのに何故。
あたしからはガウリイに触れられないんだろう・・・
自覚する前は平気で触れていたはずなのに、今はどうやって触れていたのかも思い出せない。
触れられるのは平気。
ガウリイからの抱擁もキスも慣れてきて安心すら感じているのに、何であたしからちょっとガウリイに触れるだけで息が詰まるほど緊張してしまうんだろう。
仕事中や戦闘中は別なんだけど。
戸惑うのはガウリイに対してじゃなく、自分自身。
そして。
自分からガウリイに触れたいと思っている、自分の心――――
◇◇◇◇◇
―――コンコン
ノックしても返事がない。
お風呂に出てったのはほぼ同時だったんだから、あたしより遅く部屋に戻ってくるとは考えにくい。もういるはずなんだけど。
「ガウリイー?」
首を傾げながら声を掛けても中からの返事はない。ドアノブに手をかけるとカチャリと簡単に扉は開いた。
「・・・・ガウリイ?」
そっと部屋を覗き見るとベッドの上でガウリイがうたた寝をしていた。
「・・・どうせ寝るならちゃんと毛布かぶんなさいよね、ったくもう。いくらクラゲだってお風呂上がりなんだから何かの間違いで風邪ひいちゃうかもしれないじゃない」
呆れながらもなるべく静かに部屋に入ると足音を立てないようにゆっくりとベッドに近づく。
ここまで近づいても起きないなんて珍しい。
ガウリイのでかい身体の下敷きになってる毛布は、あたしの力じゃ引き出すのは無理。
このまま放っておいても大丈夫だとは思うけど、それでも万が一風邪ひいたりなんかしたらやっぱり嫌だし。
しょうがない、起こすか。
そう思って、声をかけようとして・・・・なのに唇から出たのはガウリイの名前ではなく、眠りの呪文。
「・・・・ガウリイ?」
そっと身体を揺さぶって声を掛けても、眠っていた所にとどめの魔法をかけられたガウリイは、さっきよりより深い眠りに落ちている。
耳もとで竜破斬でもぶちかまさないかぎり朝まで起きないだろう。
絶対に起きない事を確認してから、あたしは深いため息をついて身体の力を抜いた。
ドキドキして緊張する。
でも、ガウリイが眠っている今ならば。
すうっと深呼吸して、そろそろとあたしは無防備なガウリイの頬に手を伸ばした。
手のひらに、微かに寝息がかかる。
そっと指先が顔に触れると、ガウリイの寝息が一瞬止った気がして、あたしまで一瞬息がつまった。
でも身じろぎはしなかったから、ゆっくりと緊張を吐き出してそっと頬を包み込んだ。
まだ髪が湿ってるせいかしっとりとしている。少し冷えてしまっていたらしくひんやりとしていた肌が、あたしの手を通して同じ体温になった。
ドキドキする。でも楽しくなってくる。
今ならガウリイが寝てるから、触れても大丈夫。
だって、あの深い蒼い瞳に見られる事がないから。
ガウリイとキスしてから一番変わったのは、ガウリイがあたしを見つめる眼差しかもしれない。
言葉よりも雄弁に感情をストレートにぶつけてくる、その熱い眼差し。
全てを見透かされるような、そんな感じがして時に身の置きどころがなくなってしまう気がする。
でも、そんなガウリイの瞳を一人占めしている事実に優越感を感じているのも本当。
だけど、まだその眼差しを受け止めるだけで精一杯で見返す事が出来ないでいる。触れたいのに触れられないのは多分このせいなんだろう。
拒絶される事は絶対ないって頭ではわかっているのに、心の中で恐がってるんだ。嫌がられたらどうしようって。
それだけガウリイの事が好きなんだと思う。
でも、こんな感情を持ったのは始めてで、そうじゃなくてもあたしはこういった事に疎いし、誰かに甘えるってのも苦手だから。
生まれた欲求を、どう消化していいのかわからない。
だから、こんな方法しか今は取れない。
こんな方法を取ってでも、今はガウリイに触れたいから。
「・・・・起きないでよ」
起きないとわかっていても祈るような気持ちで、あたしはそうっとガウリイが眠るベッドの端に登って。
肩に腕に触れ、それだけじゃ足りなくて、思いきって腕を広げてゆっくりとガウリイに抱きついた。
ドキドキして息が詰まりそうで、でも暖かさに泣きたい気持ちになってくる。
あたし、自分で自覚しているよりも、もっとずっと。
ガウリイの事が好きなのかもしれないな。
だから、好きすぎて自分がどうなっちゃうのかわからなくなりそうで、だから起きている時には触れられないのかな。
まだ、変化した2人の関係に慣れていないから。
でも、ガウリイはあたしの戸惑いを知りながら、あたしから近づいてくれるのを待っててくれてる。その優しさがわかるから。
――――愛し方が幼くて、ごめんね。
「・・・でもね、好きなんだよ」
胸にそっと頭を乗せて耳を当てると、微かに鼓動が伝わってくる。
命の紡ぎ出す音。
何より安心出来る音と体温に触れている、その事が、本当に幸せ。
こういう感情を、『愛おしい』って言うのかもしれない。
あたしに眠っていたこんな感情を、引き出してくれたガウリイに感謝しながら、あたしはガウリイに抱きついたままいつの間にか心地いい眠りの闇に落ちてしまっていた。
次の朝、ガウリイに抱きついたまま眠っていた状態で目を覚ましたあたしが状況を思い出して。
まだガウリイは眠っていたままだったから心底安心しながらも、恥ずかしさのあまり部屋の中で呪文を炸裂させてしまったのは、仕方のない事だと思う。うん。
◇◇◇◇◇
触れたくて。
触れられなくて。
でも、触れるのは怖くないってわかったから。
すぐには戸惑いを消せないとは思うけれど、あと少しの距離だから。
そのうち、ガウリイが起きていても、自分から手を伸ばして触れられるようになるかもしれない。
そう遠くない日に。きっと――――
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