セカンド・クリスマス・イヴ


 

 ――――コンコン

 「リナ?準備出来たか?」
 「待って、ガウリイ。今行くから」

 ――――カチャ

 リナの部屋の前の壁に寄り掛かって待っていた俺は、開いた扉の隙間から躊躇いがちにそうっと出てきたリナの姿に思わず真直ぐ立ち上がり、見愡れた。
 「お待たせ」
 「リナ・・・それ、まだ持っててくれたのか」
 「あ、当たり前じゃない!・・・サイズ変わってないと思ったけど・・・変?」
 微かに化粧を施した顔をうっすらと赤くさせながら、リナが自分の姿を不安げに確認する。
 リナの身体を覆う、シンプルな深紅のナイトドレス。
 最近、外見からでもはっきりとわかるほど微かに丸みを帯びてきた女らしさを増したスレンダーな白い身体に、それは宿のランプの下でも目を見張るほど映えて見えた。
 1年前に贈ったそのドレスを、今年もまた着てくれたことが嬉しい。
 「1年前より・・・もっと綺麗になったよ、リナ」
 「・・・・・バカ。食事に行く前から酔っぱらってるの?」
 照れ隠しに上目遣いで軽く睨み付けてくるリナが、可愛くて。
 「酔ってるかもな」
 軽く彼女の手を取って指先に口付けながら、俺は1年前のこの日の事を思い返していた。
 俺たちの間にあった壁が、溶けて消えた夜の事を―――
  

 

 

◇◇◇◇◇

 

  

 華やかに飾り付けられた店頭についつい目を奪われる。
 クリスマス一色に染まった街を歩きながら、俺はせわしなく視線を巡らせながら、それでも穏やかな気持ちでひとり歩いていた。
 いつもならできる限り一緒に居たいと願う相棒の少女と離れ、別行動をとっていても、不安どころかむしろ楽しい。
 誰よりも愛おしく思う少女へのプレゼントを選びにきているのだから、当然だろう。
 リナと共に過ごす、何度目かのクリスマス。
 誰かの為に贈るプレゼントを選ぶのがこんなに難しく、楽しいものだと知ったのは、リナのせいだ。
 驚きの後に見せてくれる嬉しそうな笑顔。
 それを見たいが為に街中の店を見て回る作業は、どんな宝を探すよりも困難な事なのかも知れない。だが苦労とは思えないのもひとえに、彼女への想いゆえの事だった。
 無邪気で鈍感で、時に残酷な少女は、最近とても綺麗になった。
 時折見せる大人びた表情に理性を揺すぶられている事を、リナはまだ知らない。
 いつも側に居て、毎日見ているはずなのに。無意識に現れる女の顔。手を伸ばそうとした瞬間に子供の笑顔で撃退される。
 ・・・・・・計算じゃないから始末が悪い・・・
 だけど、と思う。
 今年のクリスマスならば、この微妙な距離を崩せるんじゃないか、と。
 今のリナならば、受け止めてくれる気がする。
 俺がこの想いを自覚してから、ずっと側で見守っていた誰よりも輝く少女は、こちらが戸惑う程恋愛感情に疎くて。
 この想いをぶつけてしまったら、きっと歪んでしまうだろう心。拒絶される可能性もあった。
 それだけは避けたい。だから保護者の立場をとって回りの男の視線からガードして、じっと待っていた。
 少女の心が大人になるのを。
 去年のクリスマスの頃はまだ早かった。
 まだリナの中の俺は『気の許せる相棒』以上の存在にはなれなかった。俺が彼女に抱いている“好き”と彼女が俺に向けてくれてる“好き”の種類はまだ違っていた。
 だから、今までのクリスマスのプレゼントは可愛いもの、楽しいものを選んでいた。
 でも、今年は。
 勝負をかけよう。
 もうこれ以上、俺の自制心も持たない。
 ―――――とは言うものの、一体何を贈ったらいいんだ?
 リナからいつも『スポンジ』だの『増えるワカメ』だの『ふやけたパスタ』だの言われている脳みそをふる回転させる。
 プレゼントの定番といえばやはりアクセサリーか。
 やっぱりここは指輪、かな。
 リナに似合うのは・・・・深く鮮やかな紅い石。
 彼女の瞳と同じ輝きをもつ・・・・石なんてあるわけがないか。
 リナの命の輝きを宿した紅い瞳は、どんな宝石にもかなわない程眩いものだ。
 足を止めて宝石類を扱うケースを覗き込む。それなりに数も質もあるのだが、やはりどれもピンとこない。
 宝石がダメだとすると・・・シルバーの装飾品。
 ・・・・・ダメだな。魔法の品なら普段も身につけてくれるだろうが、そうでなきゃ荷物にまぎれてしまうかもしれない。
 かといって、俺に魔法の知識なんかありゃしないし、ああいったものの値段は、ゆうに桁が2つ3つ違うのだ。俺が手を出せるような代物じゃない。
 うーん・・・・・どうするか・・・・
 宙を睨みながら唸っていた俺はつい前方の注意を忘れ、どんっと誰かにぶつかってしまった。
 「きゃあ?!」
 「うわっ?ああ、すまん。大丈夫か?」
 転ばせてしまった女性を助け起こしてから軽く頭を下げた。
 「考え事しながら歩いてたから、怪我しなかったか?」
 「大丈夫。でも前が見えないぐらい真剣に考え事してるなんて、まだ彼女のプレゼントが決まってないのかしら?」
 パンパンっと服の埃を払ってニコっと笑いかけてくる女性に、思わず苦笑する。
 「よかったら私の店も覗いてみない?なにかアドバイス出来るかもしれないわ」
 くいっと後ろの扉を指し示す。どうやら服の店のようだ。
 ―――――服、か。それもいいかもしれない。
 いつもの魔道士姿ではなく、普通の服装というものはめったに見る事は出来ないから。
 「そうだな」
 招かれるままに、俺はその扉をくぐっていた。

 

 

 「そうねぇ。あなたの場合は考えすぎって気がしないでもないけれど」
 「考えすぎ?」
 「そーよ。女の子はね、好きな人からもらえる物は何だって嬉しいものよ?それがどんな物だって、大切な宝物になるんだから」
 「そうなのか?」
 色々な服を物色しながらまたしても考え込んでしまった俺の耳に、楽しげな笑い声が聞こえる。
 「そこまで悩む程大切な娘なのね。ならば指輪は最後のプレゼントにとっておき なさいな」
 「最後って・・・・?」
 「プロポーズ。でも今回はまだそこまでいかないんでしょう?」
 パチっとウィンクするその人の言葉に、ポンっと手を打った。
 確かに。今回はまだ第1段階。いきなりのプロポーズというわけにはいかないだろう。俺としてはできるだけ早く予約してしまいたいが、子供扱いからいきなり結婚なんてのは、確かに飛びすぎかもしれない。
 「そうだな・・・・」
 話をしながらもきょろきょろと店内を見渡していた俺の視線がふと、止まる。
 店の一角に飾られている服に足早に近づいて手にとった。
 「これが気に入った?」
 「ああ」
 「普段着れるような服じゃないけどいいの?」
 「いいさ。これを見ればいくら鈍感なあいつでもわかるだろうしな」
 手にしたのは、シンプルな深紅のナイトドレス。
 子供では決して着こなせない代物。
 『保護者』が贈るような物じゃない。子供扱いからの決別を現わすのに、最適じゃないかと思われた。
 「じゃあ、私からのクリスマスプレゼント。彼女だけドレスアップってわけにもいかないでしょう?あなた用のスーツも貸してあげるわ」
 綺麗に包装してくれた後、店の奥から彼女が1つ服を持ってきてくれた。
 「俺も?」
 「あなただけその格好で食事なんて誘えないでしょう。服を変えて化けるのは何も女だけじゃないのよ?これで一気に決めちゃいなさいな」
 渡されたのは深緑のスーツ。リナの服と合わせて、街に溢れているクリスマスカラーだ。
 「悪いな。ありがたく借りておくよ」
 「メリー・クリスマス」
 代金よりも少し多めの金を払って、俺は世話焼きの店主にお礼をいって店を出た。
 自然に緩くなる顔。
 これを目にした時のリナの顔を想像するだけで楽しくなる。
 どんな反応をするだろう。着て、くれるよな?
 きっと真っ赤な顔して照れるんだろうな。照れ隠しの呪文は、出来れば勘弁してもらいたいが。
 ・・・まさか、これでも気付かない・・・なんて事はないよな?
 でもなぁ、リナの事だし。
 まぁ、いいさ。
 俺がちゃんと言えばいいだけの事なんだから。
 上機嫌で歩く俺の目に、ふとレストランの看板が写った。
 「・・・着飾ったのに宿の食堂、ってわけにはいかないよなぁ」
 財布にはまだ多少の余裕はあるし、どうせならとことんセオリー通りにしてみるか。
 頭の中で素早く計算をたてる。

 プレゼントの服を渡して、ドレスアップしたリナを高級レストランへ連れていく。
 いつもの食事バトルじゃなく、落ち着いた雰囲気で美味しい物を食べて、ちょっと奮発したワインなんかも飲んで。
 ほろ酔いになったリナと、ゆっくりとクリスマスツリーが輝く道を探索しながら、いいムードのところで告白して。
 ――――宿に戻ったそこから先は、俺の努力と運次第。

 普段は眠っているとしか思えない脳みそは、リナのことが絡むとこんなにも素晴らしい働きをしてくれる。
 「よしっ!」
 1つうなずくと、俺は目の前のレストランへ入っていった―――――

 

 

 
 ・・・・・・・・はぁ。
 計画は早くもダメになろうとしていた。
 大きなため息をついて空を見上げる。
 冷えてきたと思っていたら、もう夕方近い。空はオレンジに染まりつつあり、立ち並ぶ立派なクリスマスツリーに魔道士が明かりの魔法をかけ始めていた。
 「・・・・どーするかな」
 ・・・・・・・・・・・・・はあ。
 再び大きなため息が口から漏れる。
 最後の頼みのレストランも、明日はすでに予約でいっぱいだから、と断られてしまったのだ。
 ある意味、それは当たり前。だったかもしれない。
 これだけ派手にクリスマスツリーを飾り付け、クリスマスムードを高めている街だ。同じようなことを考えている男がそれだけ多い、と言うことなのかもしれない。
 ――――たまたまこの時期にこの街に来てしまっただけの旅人なんだから、高級 レストランなど行くな、ということなのか・・・・?
 「どーするかなぁ・・・」
 何度目になるかわからないため息をついて、目の前のクリスマス・ツリーを見上げる。
 シンプルな飾り付けを施されたツリー。
 その木を俺と同じようにため息をつきつつ見上げているじーさんの姿がふと目に入った。
 回り中の人間が皆楽し気に歩き回っているのに、浮かない顔でじっと佇んでいるそのじーさんが気になって、思わず声をかけていた。
 「どーかしたのか?じーさん」
 じーさんが振り向く。

 ――――その後、思いもよらない展開に発展するとは知らずに・・・・・

 

 

 

 ―――コンコン

 「リナ・・・?まだ起きないのか?」

 ―――シーン・・・・

 返ってこない返事に俺は深くため息をつくと、後ろ髪を引かれる思いでリナの部屋の前からきびすを返した。
 昨日宿に帰ってきた後に告げたセリフで、リナを思いっきり怒らせちまったからなぁ・・・
 無言の部屋の中から伝わってくる、いまだに納まらぬ怒気に頭を抱えたくなってくる。
 それでも、今さらじーさんとの約束を破るわけにもいかない。
 できるだけ早く戻ってくるには、早くから仕事を始めるしかない。
 1人で食べる料理は味気ないものだったが取りあえず胃袋に流し込んで、俺は慌ただしく出かけていった。
 クリスマスイヴで朝から楽し気な雰囲気の漂う街の中、昨日のクリスマス・ツリーの元へ。

 

 

 

 『魚心あれば水心あり』とあのじーさんは言っていた。
 意味はよくわからなかったが、ギブ&テイクということらしい。
 大量のケーキの箱をクリスマスらしい飾り付けを施された荷車に詰め込み、街の地図を片手に眺めながら引いていく。
 白いモコモコのついた赤い服。黒いブーツ。頭には服と同じ赤い帽子。顔には長く白いつけヒゲ。
 サンタクロースの格好は結構暑い。
 街行く人たちの微笑ましい視線を受けながら、俺は笑顔を張り付けながらケーキの配達をしていた。
 あのじーさんのため息の訳は、こういう事だったのだ。
 この街で結構有名なケーキ屋さんのじーさん。この時期は当然の事ながらクリスマスケーキの予約がいっぱいで、それは純粋に嬉しい事なのだが。
 毎年年を取ると共にケーキの配達が辛くなってきたと言うのだ。
 サンタクロースの衣装とこの特別仕様の荷車でのケーキの配達はこのじーさんが若い時に始めたらしく、毎年この日の名物となったそうで、今さら止めるわけにもいかない。
 けれど店の跡取りは娘で、その娘婿は若くして亡くなったらしくケーキ配達の跡取りがいなくなってしまった為、憂鬱になっていたと言うのだ。
 そんなじーさんがそこで出した提案を悩んだ末に飲んだ俺は、きょろきょろと地図と家を眺めながらも何とかケーキの配達をこなしていた。
 肉体労働は性に合っている自覚がある俺だけれど、今日はその後に控えている予定が上手くいくかが気になって気ばかりが焦る。
 今日の仕事を引き受けてきたとリナに告げた時。
 機嫌が悪くなるだろうとは思っていた。
 毎年、賑やかにクリスマスイヴを過ごしていたから、こんな日に仕事なんて受けるんじゃないと怒られるかと。
 でも、この仕事内容を言えば呆れながらも一緒にやってくれるんじゃないかと、ちょっと思っていた。
 だけど、思いっきり怒って取りつく島のないリナに仕事内容を言う事も出来ずに、1人で出てきた。
 辛い半面、どこかで嬉しさが滲んでいる。
 クリスマスイヴを楽しみにしていたのは、俺だけじゃなかったと、リナも楽しみに思っていてくれていたんだとわかったから。
 早く配達を終わらせて、早くリナの所へ帰りたい。
 謝って仲直りして、プレゼントを渡して2人で出かけたい。
 この仕事の報酬としてじーさんが提案したのは、レストランの予約が出来なかった俺に、店を貸してくれると言うものだった。
 ケーキ屋の仕事は夕方にはすべて終わる。
 店を片付けて綺麗にセッティングして料理もコネを使って取り寄せてくれる・・・いわば簡易貸しきりレストランを提供してくれるというものだったのだ。
 だからこそ、リナの機嫌を多少でも損ねたとしても受けた仕事だった。
 吐く息は白いけれど、身体は暑く火照っている。
 見た目は華やかでも、確かにじーさんが憂鬱になるのもわかる重労働だ。何度もケーキ屋を往復し、子供たちにまとわりつかれ、時々道に迷いながらも配達をしていく。
 でも、周りに溢れるのは笑顔ばかりで。確かに一度やったら辞められないのはわかった。
 「イヴの日じゃなかったら、もっと楽しく出来たんだろうけどなぁ」
 この日の配達じゃなければ意味がないのを充分に理解しながらも、苦笑のぼやきを交えつつ俺は仕事に専念していた。

 

 

 

 すべてのケーキを配り終えた頃には、すでに日が沈もうとしていた。
 ・・・・急いだつもりだったんだが、思ったよりも時間がかかっちまった・・・
 魔法の明かりをかけられて輝きだした華やかなクリスマスツリーの並ぶ街を、幸せそうな顔をした人々をよけながら小走りに走っていく。
 焦りが足を早まらせる。
 少しでも早くリナの所に帰りたくて。
 宿の外からリナの部屋を仰ぎ見ると、窓にはカーテンがかかっていた。
 「おや、にーさん。お連れさんを置いて1日どこに行ってたんだい」
 宿の玄関を開けて入った途端に、めざとい宿のおばちゃんに声をかけられた。
 「にーさんに放っとかれて寂しそうだったよ?今お風呂に行ったようだけど、こんな日に女の子を独りにさせてちゃダメだよ」
 「すまない・・・暴れていたか?」
 階段を登りかけていた足を止めて振り返ると、やれやれと肩を竦められてしまった。
 「1日降りてこなかったけど、物を投げ付けてる音はしたねぇ」
 「・・・・やっぱり・・・」
 予想つく光景に冷たい汗が一筋頬を伝っていく。そんな俺を見ておばちゃんがふぅっとため息をついた。
 「いいもんやるよ。火をつけるといい香りのする蝋燭なんだけどさ。しっかり機嫌直してもらいなさいよ。こんな夜に喧嘩しっぱなしなんて勿体無いだろう?」
 「ありがとう、おばちゃん」
 苦笑しながら渡してくれるそれを、ありがたく頂いた。
 おばちゃんのお節介に近い激励に背中を押されて階段を登る。リナの部屋をノックしてもやはりおばちゃんの言った通り中に人の気配はない。
 一瞬躊躇って、それでも鍵を外してドアを開けた。
 「うわぁ・・・派手にやったな、こりゃあ・・・」
 部屋の中は散々なものだった。
 彼女の感情の犠牲になった枕や魔道書などが散乱していて足の踏み場もない状態。
 適当に片付けながらテーブルに近付くと、その上に貰ったばかりの蝋燭を飾り火を灯す。
 薄暗い部屋に、暖かな光とほんのりと柔らかないい香りが広がった。
 その横にそっとプレゼントの包みを置く。
 少し考えてから、その包みの上に手紙と簡単な地図を書いて乗せた。
 ここでは上手く伝えられない気がするから。
 来てくれる事を願って、俺はそっと部屋を出た。
 あのクリスマスツリーの下で、リナがこのドレスを着て来てくれるのを待っているから――――

 

 

 

 ピンと張り詰めた冷たい外気。寒いはずなのにあまり気にならない。
 緊張、しているせいもあるんだろう。
 すでに人通りの少なくなった通り。
 大通りに面している店はそろそろ閉店し始めている。
 この場所に立ってからどのくらいの時間がたっただろう。待っている時間はただでさえ長く感じるものだけど。
 待ち合わせなんて滅多にしないし、今回は約束をしているわけでもない。ちゃんと仲直りした訳でも。
 信じているけれど、不安もよぎる。
 ツリーを眺め、人通りの少なくなった通りを眺める。
 「・・・地図がわからなかった・・ってことはないよ、な?」
 小さく呟いた唇から白い息が溢れた。
 『待つ』という行為がこんなにも胸を締め付けることだったなんて、知らなかった。
 同時に、リナに1日こんな思いをさせていたのかと思うと罪悪感で心が痛んだ。
 早く、逢いたい。
 今すぐにでも。
 もう一度ツリーを見上げて、弾かれたように通りに目をこらす。
 暗い通りに、そこだけ光が当たっているように見えた。
 白い息が弾んでいる。寒さのせいか急いだせいか、顔を紅潮させて、俺を見つめている少女・・・いや、もう少女とは呼べない。
 「リナ」
 「・・・・ガウリイ」
 掠れた、吐息のようなリナの声にゆっくりと近付く。
 スレンダーな体型が綺麗に現れるドレス。
 白い肌に深紅が映える。
 慌てて来てくれたのか、寒いのにマントも羽織らないで。
 微かに潤んだ瞳が俺を見つめている。
 いつの間にこんなに綺麗になったんだろう。
 いつも一緒にいて、綺麗になっていたのは知っていたのに、こんなにも、息を飲むほど綺麗になっていたなんて。
 もう、押さえる事は出来なかった。
 心も身体も、全部でリナに触れたい。
 リナが欲しかった。
 「機嫌、直ったか?」
 手を伸ばしてリナの頭に触れる。いつもならぽんぽんと軽く手を弾ませ髪をかき混ぜるけれど、今はゆっくりと愛おしみながら撫でていく。指先からも伝えたくて。
 「・・・・ばか」
 「悪かったよ」
 リナの小さなつぶやきに苦笑して、そっとリナの身体を引き寄せる。リナからの抵抗がない事を確認して、俺は柔らかくその身体を腕の中に包み込む。
 初めて触れたリナから微かに香る甘い香りに、俺は完全に酔わされていた―――― 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 「ガウリイ?何にやにや笑ってんのよ?」
 「ん?いや・・・去年の事を思い出してさ」
 夜の大通りに誇らしく輝くいくつかのクリスマスツリー。
 道行く人はみな、寒さで顔を赤くしながらも幸せそうな表情を浮かべていた。
 多分、俺たちもそうなのだろう。
 寒さかから少しでも守るようにリナの肩を抱きながらゆっくりと歩いている俺をいぶかしげに見上げたリナが、その答えにパッと顔を火照らせた。
 「・・・・・あんたのことだから絶対に忘れていると思ったのに」
 「忘れるわけないさ。初めてリナとキスした時の事は忘れられるわけないだろ?」
 「〜〜〜〜そーゆー恥ずかしい事を平然と言わないで・・・」
 ますます真っ赤になって照れてしまうリナが、可愛くて仕方がない。
 いつもだったら2・3発、呪文を喰らっててもおかしくないが、今夜は恥ずかしがっていてもおとなしく寄り添っていてくれる。
 1年前のこの夜。
 初めてリナに想いを告げて、受け入れられて。
 初めてキスを交わした。
 あれからこの1年の間に数えきれないほどのキスをしたけれど、初めてのキスは今でも思い出せる。あの時の痛いほどの胸のドキドキ感と共に。
 そして、あの頃よりも更にリナに溺れている俺がいる。
 「何か・・・すごい幸せだな、俺」
 しみじみと呟いた俺に、リナが一瞬きょとんとして、次の瞬間小さく吹き出した。
 「何言ってんだか。まぁ、クリスマスイヴの夜にこんな美女とデート出来るんだから確かに幸せなはずよね♪」
 まだ顔を赤くしたままパチンとウィンクを投げてくる挑戦的な笑顔に、苦笑する。
 「お嬢様のおっしゃる通りです」
 「じゃあ美味しい食事であたしをもっと幸せにして頂戴ね♪」
 「お任せ下さい」
 軽く一礼すると、同時にプっと吹き出した。

 

 

 2人で過ごすクリスマス。
 去年より心も身体も近くなった今夜は、去年よりももっと素敵な何かが起こりそうな、そんな予感がする。
 道行く人にまぎれゆく2人の姿を、華やかな明かりを灯したクリスマスツリーが見送っていた――――

 

 

 



  

♪メリークリスマスでございます☆毎年の事ながら今夜も仕事でクリスマスらしい事はひとつもしていませんが(^^;)

『ファースト・クリスマス・イヴ』で一体ガウリイは何をしていたんだろう?・・・と続編を書き始めていてほったらかしになっていたものをやっと書き上げてみたりしましたが、なーんか上手く落ちてないですね・・・・(T_T)

それでも、現実では甘さの欠片もない日ですから、少しでも幸せな気分になってくれると嬉しいです♪