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初めて魔法を使った時。
魔道を習い始めてすぐの事。
呪文を唱えて、合わせた手のひらから光が生まれた時。
あたしはとても感動した。
自分で作り出した明かりがとても貴く美しいものに感じて、消してしまうのがもったいなくて、どうにかして保存出来ないかと色々考えたっけ。
初めて空を飛んだ時。
魔法を使うことに慣れ始めた頃に覚えた呪文。
風に包まれて、自分の両足が大地から離れた瞬間。
あたしはとても自由を感じた。
不安定な体勢ながら、いつもと違う目線で見る景色に、見慣れた世界が急に広くなったような気がした。
空が近くなったようで、雲に触れられそうで。
そのまま上昇しそうな身体を先生に引き戻された時、反抗して暴れた拍子にバランス崩して落っこちて。
でっかいたんこぶ作って帰ってきたあたしに、ねーちゃんが指差して大笑いしてたんだっけ。
初めて旅に出た時。
『世界を見てこい』の言葉に軽くうなづいて、生まれ育った家を出た時。
今までもちょっとしたお使いやなんかで隣街に1人で行ったり野宿したことがあったけれど。
始めて自分の幼さを実感した。
子供だからと言って保護者同伴でなきゃ泊まらせてくれない宿屋があったり、魔道士の格好をしても仕事の相手とは認めてもらえないことが多々あった。
そういう時にはあたしの実力をじっくりと見せてあげたけれど。
故郷での実績は他では通用しないんだって思い知らされたんだっけ。
初めて・・・・人を殺めた時。
自分が生きる為に、死にたくない為に他人を殺めてしまった夜。
『悪人に人権はない』が信条のあたしが、さすがに何も食べられず眠れもしなかった。
後悔はしていない。だけど・・・・
震える身体を抱きしめて、あたしは声を殺して泣き明かした。
甘やかされていた自分と世界の不条理さを突き付けられたんだっけ。
初めて連れが出来た時。
・・・・あいつを人間とか仲間とかは絶対に思いたくないが、ちょっとしたことがきっかけでその後しばらく一緒に行動していた頃。
正直言って初めは鬱陶しいこともあったんだけど、それなりに楽しかった。
今までは他人と深くかかわり合いになりたくない部分があったんだけど、他人と一緒にいることもまんざらでもないって思った。
2人で出来ることも色々あったし。何かあったら面倒をさっさと押し付けることも出来たし。
――――ただし。付き合う人間を選び間違うととんでもない苦労を背負い込むことになるって実感したんだっけ・・・
初めてあいつに出会った時。
何だこいつ、と思ったっけ。
いきなりかっこつけて現れて、助けてくれたのはまぁいいとして。
こんな美少女に向かって、「ドングリ目のちびのガキじゃないか」とつぶやいたこと、あたしのエルフ並みの耳はしっかりと聞いていたんだからね。
もちろん、あんたと違って優秀なこの頭は今でもしっかりとそのセリフを覚えてるんだから。
だけど、今まで旅してきた中で。こいつはとんでもない『いい人』だった。
あたしが関わった厄介ごとに、律儀にも付き合ってくれて。
他人を頼りにしたのはこれが初めてだった。
いつの間にか一緒に旅するようになって、『自称保護者』を認めたのも、こいつには心のどこかで「かなわないな」って感じたからかも知れない。
仲間ってものを意識したのはこいつが最初だったっけ。
初めて恐怖を感じた時。
ねーちゃんのお仕置きやなめくじとか怖い話の恐怖ではなく(それも充分怖いけど・・・)。
心の底から凍り付くような、何も考えられない程の身動きすら出来ない程の恐怖を感じた。
あいつを失うこと・・・・
自分の命より、この世界より。
あいつがいなくなること以上の恐怖はなかった。
あたしを罪人と呼ぶなら呼べばいい。
あたしはその恐怖に耐えられなかったのだから。
そして、あたしは自分のこの感情が何なのか、やっと理解したんだっけ。
初めて涙を見せた時。
ほんの少しだけ、歯車が噛み合っていれば、起こらなかったかも知れない悲劇に。
自分がその時に出来る精一杯のこと。
だけど、結局仲間を救えずに、さらに。この手で仲間を憎しみの呪縛から解き放った時。
あたしは自分の無力さを恨んでいた。
いつだって後悔したくない。だけど、後悔せずにはいられない。
もし、あの時に・・・・
だけど歴史は変わらない。
・・・・強がりの仮面が外れて、涙が零れた。
人の前では絶対に見せなかった涙を、あいつは認めてくれた。
泣いてもいいって抱きしめてくれた。
子供の頃のように、あたしは泣いていた。
時には弱音をさらけ出してもいいんだって教えてくれたのは、この時だっけ。
初めて心が触れた時。
自覚したまま放っておいた彼への想いがいつの間にか膨れ上がって、弾けそうになった頃。
あいつがあたしにくれた言葉。
思い掛けない、でも予感はしていた出来事に。
ただ、嬉しくて。
その後だまし討ちのように奪われたキスに、あたしはあまりの恥ずかしさにあいつを吹っ飛ばしてしまったんだけど。
嬉しい時にも涙が出るのは嘘じゃないって知ったんだっけ。
初めて肌を重ねた時。
恥ずかしくて死にそうだった。けど。
包み込まれる身体の大きさに、その熱さに。
守られていることを実感した。
そして、あいつの前ではもう何も隠さなくていいんだって、愛されてるんだって教えてもらった。
家を出てから初めて感じる、例えようもない程の安心感に包まれて、腕の中で眠りにつく時。
あたしは女でよかったって心から思ったんだっけ。
初めての出来事が積み重なって、今のあたしを形作った。
いつもは前だけ見て突っ走ってきたから気にもとめなかったことなのに、何故だか訓示のようにあたしの胸に、その初めての時の思いが蘇ってきていた。
その思いと共に深く息を吸い込む。
「何だ、リナ。緊張してんのか?お前さん」
「うううう、うっさいわねっ」
「怖いものなしのお前でも緊張することなんてあるんだな」
こっちがガチガチに緊張してるってのに、いつも通りののほほんとした、でもいつも以上に優しい笑顔のガウリィがそっとあたしの頭を撫でていく。
「・・・・・あんたが緊張しなさすぎなのよ。それより順番ちゃんと覚えてるんでしょうね?」
「んー・・・多分」
「――――失敗したら、1週間ご飯抜きだからね」
「だってなぁ・・・」
多大な不安とわずかな殺気を込めてガウリィを睨むと、彼は困った顔でぽりぽりと頬を掻きながらわずかに腰をかがめてあたしの耳に囁いた。
「あんまりリナが綺麗だからさ。他の事考える余裕ないよ」
「なっ!」
かああああああっっっっっ
顔だけでなく、全身が恥ずかしさにうっすらと赤く染まるのがわかった。
ああもうっ。ただでさえ緊張してたのにとどめをさすんじゃないわよ!
火照った身体に爽やかな風が吹き付ける。
その風を受けて、あたしの身体を包んでいたいくつもの純白のレースがフワッと広がった。
まるで白鳥が翼を広げるかのように、どこか誇らしげに穏やかな青空の下佇むリナを眩しそうに見つめて、ガウリィはそっとリナを抱きしめた。
「ちょっとガウリィ。着崩れちゃうでしょ」
「大丈夫だって」
あたしの慌てた声を優しく遮ってあたしの頭に唇を落とした。
不思議なことに、たったそれだけの事で緊張がすぅと取れていく。
「・・・・ここがゴールじゃないよ」
「ああ」
「ここからが始まりってわけでもないよ」
「わかってる」
2人が迎える新しい『初めての時』。これは1つの儀式に過ぎないけれど、大切な大切な1つの区切り。
これからもきっとあたしたちは変わらない。
これまでと同じように旅を続け、多少のトラブルを起こしつつ、気の向くまま思うがまま生きていくことだろう。
だけど、これからも数えきれない程の初めての時を迎える日がくる。
そして、その時はきっと隣にガウリイがいるんだろう。
あたしがあたしでいる為に、欠かせない要素だから。
生きていくことは綺麗ごとじゃ済まされない。
認めたくないけれども、魔族がこれからもちょっかいかけてこないとも言い切れない。
大切なものが増えるということは、それだけ失う恐怖も増すということだけれど。
だけど、まだ来ない未来を心配して立ち止まるなんてあたしらしくないから。
カーンカーン・・・・
時を告げる鐘が鳴る。
「行くわよ、ガウリィ」
「おう」
いつもと変わらない掛け声に、2人してニヤっと笑いあう。
差し出された手に手を重ね、あたしたちは寄り添って歩き出した。
無限大の可能性に満ちている、純白のヴァージン・ロードを―――――――
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