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「お願いっ、リナ。一生のお願いっ」
「な、何?なんなのアメリア」
バイトの交番表を握りしめて、アメリアが詰め寄ってくる。
バイト先のハンバーガーショップの従業員控え室で、そそくさと帰ろうとしたあたしを、同じバイト仲間のアメリアが引き止めたのだ。
「お願い。イヴの日、あたしと交番変わって!」
必死の表情で詰め寄られちゃ、逃げることも出来ない。
「ゼルガディスさんがその日だけ何とか開けてくれたの!これを逃したら年末まで会えないのよ。一生のお願いよ、リナ!何でも言うこときくから〜〜〜」
・・・・・・う〜ん・・・
あたしもちょっと・・・この日は念のため休みとっておきたいんだけど・・・
まぁね、アメリアとしては恋人と始めて過ごすクリスマス・イヴってことでかなり気合い入ってたんだろう。休みも随分前から取るって騒いでいたもんね。だけどたまたま彼女がバイト休みの時に次週の交番組まれちゃって、休み取れなかったみたいなのだ。
店長に泣きついていたしなぁ。
でもなぁ・・・・
「リナは家族で過ごすって言ってたでしょ?素敵な家族パーティーを妨害してしまうのは心苦しいんだけど、その代わりお正月はゆっくり休んで!休み変わるから!」
「・・・・店事体が三日まで休みじゃない」
「じゃ、じゃあ!22・ 23で連休するってどお!?ねっ!?」
・ ・・・・・う〜ん・・・連休か。土日の連休ならあいつも開いてるかもしんないし・・・ど〜しよ。
「あっ・・・それとも・・・・やっぱりガウリイさんと予定入ってるの?」
「ちっがうっ!ないない!別にあいつとは何でもないし、予定も知らないしっ」
はっと気付いたアメリアが恐る恐るたずねてきたのを、思いっきり否定する。
そう。別に予定なんて入ってないし、そういう仲じゃないし、誘われてないしっ。
乱された心をなんとか落ち着かせて、コホンとせき払いを1つするとおもむろにうなずいた。
ここでアメリアに恩を売っておくのも悪くないし。
「・・・・・しょーがないわね〜。今回だけよ?」
「本当にいいの?大丈夫なの?ガウリイさんから連絡来たらどうするの?」
「だーかーらっ!来ないって!気が変わってもいいの?」
「それは嫌っ!絶対ね?いいのね?」
「いいわよ。恋人たちのお邪魔する気はないもん」
「あれがとう、リナっ!愛してるっ」
「あたしはゼルじゃないっての。そのかわり今度おごってよ?」
「もちろんよ!」
やれやれ、と肩を竦めてため息1つついたあたしにアメリアが抱き着いてきた。
まぁ、いいか。
しょうがないよね、クリスマス・イヴと言えば恋人たちの一大イベントだもん。
ちょっとだけ感じた寂しさを振り払って、あたしはすでに幸せの国へ旅立っていたアメリアの頭をポコンと叩いた。
◇◇◇◇◇
トゥルルル・トゥルルル・トゥルルル・・プッ
「はあい、ガウリイ」
〈よう、リナ。まだ起きてたのか?〉
「起きてるわよ。今ちょうどお風呂から出てきたところ」
〈あ、俺も今風呂入ってた。んでビール飲んでるとこ〉
「あ、本当?タイミングよかったわね。ビール?いいわねぇ、風呂上がりにクーッて飲むのがいいのよね。あたしも飲もっかな」
〈こらこら。お前さんまだ子供だろ?牛乳にしておけよ、大きくなるぞ〉
「うるさいよ。ったく、どーあたしはチビですよっ」
悪態をつきながらも電話を持ったままキッチンへ向かい、冷蔵庫を漁る。
「あれ〜・・・確かまだ飲んでないのあったはずなのに・・・」
〈お前、そんなに酒強くないだろう?〉
「ちょっとしか飲まないもん・・・・飲まれちゃったのかなぁ。しょうがないなぁ・・・」
探しても見つからなかったから仕方なく牛乳を取り出す。
〈結局牛乳にしたのか?〉
「だってこれしかなかったんだもん・・・ふぅ・・・うん、やっぱり風呂上がりの牛乳は定番ね」
〈腰に手を当てて一気飲みするんだろ?〉
「そうそう」
〈でもあまり冷たいの飲むと、腹壊すぞ〉
「大丈夫よ・・・あ、ねえねえガウリイ。次の土日ってどっちか開いてる?」
話ながら自分の部屋に戻ってきて、ベッドに座り込んだ。
〈ん?クリスマス前だよなぁ。開いてるぞ。俺の会社は土日は休みだけど途中の祝日は関係ないからな。世間一般じゃ3連休だってのに〉
「・・・・じゃあ、クリスマス・イヴも仕事?」
〈ああ。虚しいよなぁ〉
「ふーん。あたしもバイトなのよ。アメリアに変わってくれって泣きつかれちゃってさ、しょーがないから変わってやったの」
〈どーせお前の事だからすんなり変わってやったわけじゃないだろ?〉
「そりゃ当然!次の連休と一回おごりでね。後でからかって遊んでやるけどさ♪」
〈・・・・あんまりいじめるなよ〉
「あははは。ま、それはいいとして。んじゃさ、お互いイヴに仕事の寂しい者同士って事で、どっか遊びに行かない?」
〈確かに寂しい者同士だなぁ。まぁ、いいさ。どっちでもいいが、どっちがいいんだ?〉
「うーん・・・じゃあ23日でいい?」
〈日曜日だな。車出すか?お前ん家どこだっけ?〉
「えっ!?あっ、いや、別に家まで来なくても・・・」
〈何遠慮してんだよ。あ、でも俺、住所言われてもわかんないしなぁ・・・・〉
「う〜〜〜じゃあさ、駅でいいよ。時間はえっと・・・10時ぐらいでいい?」
〈10時だな?了解。じゃあそろそろ寝るか。もうこんな時間だしな〉
「ん?ほんとだ。寝不足は美容の天敵だもんね」
〈あったかくして寝ろよ〉
「大丈夫!『ゆたぽん』があるから」
〈『ゆたぽん』?〉
「レンジで温める湯たんぽよ♪ぬいぐるみの中に入れて抱いて寝るとあったかいんだ、これが♪」
〈寒がりだからなぁ、お前。まぁ、何でもいいけど〉
「ガウリイも湯冷めしない内に寝なさいよ?明日だって仕事なんだし」
〈年末だから忙しいんだよなぁ・・・〉
「・・・連休遊んでる暇あるの?」
〈休む時は休まなきゃやってらんないだろ?大丈夫だよ〉
「ならいいけどさ。じゃあ寝るね」
〈ああ、じゃあまたな。おやすみ、リナ〉
「おやすみー、ガウリイ♪」
・ ・・・・・・・・・・・・・・・プツ。
―――――ふぅ。
ベッドに倒れ込んで、切った電話を見つめた。
電話をかけていた相手。ガウリイ。
バイト先で知り合った社会人。
何か、バイト先の店長と知り合いだとかで、しょっちゅう店に顔を出していて、バイト仲間の女の子たちの間ではアイドルになっている。
見た目はかっこいいんだよね。金の長髪が似合ってしまうスタイルといい、蒼い瞳といい。
何より、ほんわかした笑顔がいい感じで。
実際には、見た目によらずよく食べるし、話してみると実は大ぼけの天然男でよく社会人やってけるなって呆れるけど。さっき言ったこともすぐ忘れちゃうんだから。
何だか店で会って話すうちに仲良くなって。
その内、メール交換したり電話かけるようになった。
結構年上なんだけど、あまりそんな感じはしなくて。
今、一番仲のいい、友達。
そう。
ただの、友達・・・・・なんだろうなぁ。
下手したら、手のかかる妹分だと思っているかもしれない。
あたしも、最初のうちはとぼけた気のいい兄ちゃんだと思っていたから。
今は・・・違うんだけどね。
いつからだろう。
友達だったはずのあいつを、こんなに気にしてしまうようになったのは。
あいつをアイドルのように見ているバイト仲間たちとは、違う。そんな気はない。そう思っていたのに。
何でだろう。
あいつの行動を、あいつの言葉の1つ1つをこんなにも気にしてしまうのは。切なくなってしまうのは・・・
認めたくはなかったんだよね。
気付きたくなかったっていうか、さ。
いつの間にか。ガウリイの事が、好きになってたなんて。
あいつは大人で、あたしは子供。
そういった対象に見られないってことはわかっていたし、そんな気はなかった。
彼女になりたいなんて気が全然なかったからこそ、他のバイト仲間たちよりもガウリイと仲良くなれたんだし。
それなのになぁ。
自分の心ながら、何故そうなったのかわからない。
彼のどこに惹かれたのかも、ハッキリはわからない。
いつの間にか好きになってて・・・でも、この思いを誰にも知られたくなくて。
親友のアメリアにさえも言えないでいる。
こういったことに慣れていないせいもあるけれど。
・・・・あいつはイヴの日も仕事だって言ってたけど。仕事終わった後はどうやって過ごすのか、恐くて聞けなかった。
今まで何でも聞いたり話したりしていたのに。
ガウリイに今のとこ、特定の彼女がいないってのはわかっていたけれど。
モテルもんね、あいつ。彼女がいないって事が不思議なくらいに。
「・・・まぁ、クリスマス・イヴイヴの日に一緒に過ごせるだけでもいっか」
小さくため息をついて、あたしは『ゆたぽん』を抱きしめて布団の中で丸くなった。
◇◇◇◇◇
鞄の底にこっそりとプレゼントを忍ばせて、あたしは待ち合わせの駅でガウリイを待っていた。
イヴの当日に渡せないってのが、今のあたしたちの状態を実によく現しているような気がして、苦笑するしかないんだけれど。
待ち合わせの時間の5分前。
あんまり早く来ると張り切っているような気もするし、遅れるのは失礼だし。
別にこうやって待ち合わせして遊びに行くなんて始めてじゃないんだけれど、何だか今日はやけに緊張してる。
鞄の中のプレゼントのせいかもしれない。
今日はいい天気だっていうのに、らしくないなぁ。
「よう、リナ。朝からため息つくなよな」
空を見上げて思わず小さなため息を漏らした途端に、後ろからぽこんっと頭を叩かれた。
慌てて振り返ると、今日の空のように蒼く澄んだ瞳が笑ってる。
「べ、別にため息ってわけじゃないわよ!いい天気だなぁって思って深呼吸してただけなんだから!」
「はいはい。でも本当にいい天気だよなぁ」
目を細めてガウリイも空を見上げる。あたしはそのガウリイをこっそりと見上げた。
・・・・やっぱり綺麗だよなぁ。こいつって。
何でこんなに綺麗で性格いいのに彼女いないんだろう。
「さてと。どこ行きたいんだ?リナ」
「あ。う〜ん、どこいこっか?」
「珍しいなぁ。どこか行きたい場所あったんじゃないのか?」
不思議そうな顔でガウリイがあたしを覗き込んでくる。
―――――しまったぁ。今日は何も考えてない。
確かにいつもはあたしがガウリイを引っ張り回すばかりだったから。
実はパニックを起こしてる頭を悟らせないように、必死に考えながら口を開く。
「あ、えっとね。冬休みの映画とかでもいいかなぁと思ったんだけど、こんなにいい天気に室内じゃ勿体無いかなぁ、って思ってさ」
「ああ、確かにそうだな。じゃあどこでもいいのか?」
「あ、うん。取りあえず出かけたかっただけだし」
・・・・・ガウリイと、って言葉は飲み込んで。
ガウリイはちょっとだけ何か考えて小さくうなずくと、ぽんっとあたしの頭に手を乗せた。
「じゃあ、今日は俺に付き合ってくれよ。今日はバイト休みなんだよな?」
「うん」
「じゃあ行こうぜ」
「どこに?」
「いいとこ」
「どこよ〜、気になるじゃない〜」
「たまには遠出もいいだろ」
「え?」
「ドライブしようぜ」
そう言って、ガウリイはニカっと笑った。
「たまには運転しないと感が鈍っちまうしさ〜」
「・・・・・あたし、生け贄?」
「そうとも言う♪」
コンビニでいろいろな中華マンやジュース、お菓子を買い込んで。
久しぶりに運転するとか言ってたけど、ガウリイの運転は意外にも丁寧だった。スピードは出てたけど。
シートから微かに煙草の匂いがした。
助手席に座ることにどきどきしながらも、運転しながらおやつを奪い合ったり。 クリスマス特集とかでずっとクリスマスソングが流れてるカーラジオのDJの話に思わずぼけたり突っ込んだりしているうちに、何だかとても楽しくなってきた。
「あたしも早く免許取りたいんだけどな」
「えっ!?まだまだ取れないだろ?」
「何よ〜、もう18になるんだから」
「ええっ!?嘘だろ?年誤魔化してないか?」
「どやかましいっ!どーせあたしは童顔よっ!」
「悪い悪い、そう怒るなって。でもリナが車の運転すると飛ばし屋になりそうで恐いよなぁ」
「・・・・それはあたしも自覚してる」
「・・・・・やめろって」
いつもと同じたわいない会話。
運転していると真正面からは向き合えないから、それが今回はよかったのかもしれない。
都会の雑踏を飛び出して車はどんどん走っていく。
「ねぇ、どこいくの?」
「う〜ん・・・・実は決めてない」
「はい!?適当に車走らせてるだけ?」
「適当に走ってればどっかつくだろ♪」
「やだぁ〜、帰り道覚えてるの!?」
「大丈夫だろ。多分」
「全然信用出来ないじゃないかぁ〜〜」
―――――何でもないことで、ほんの些細なことでこんなにも笑いあえる。
相性ってのはいいんだと思う。
でもそれは、ガウリイが大人で子供の相手がわかるから?
にこにこと上機嫌なガウリイの横顔。子供のようで見ているこっちまで何だか嬉しくなってくる。
「ん?どうかしたか?」
「べ、べっつに〜・・・・それよりもさ、何かどんどん山の中入って行く気がするんだけれど・・・」
「うん。そろそろつく頃かな?」
「・・・・山の中なんだけれど・・・・」
「気にするなって」
「気にする〜〜〜」
ついた場所は『こんにゃくの里』。
目を真ん丸くしたあたしの頭をくしゃっと撫でてガウリイが嬉しそうにのたまった。
「昨日ってこんにゃくとカボチャ食う日だったろ?つい食いそびれちまってさ〜」
「・・・・・・・・・・あー・・・冬至ね」
・・・・・・・・ちっとは期待してしまったあたしの立場は一体・・・
「ここ、いろんなこんにゃく料理があるんだぜ♪」
・・・・・あーそーかい。
「ほら、リナ。来いよ♪」
・・・・・・・・ま、いいか。
その後は、何となく時間が過ぎていった。
そして帰り道。
もうちょっと一緒にいたいけれども、容赦なく家は近付いてくる。
あまり遅くならない内にって、結構律儀って言うか何と言うか。
どんどん家が近付いてくる。
鞄に忍ばせたプレゼントを渡せないまま。
―――――渡すタイミングがなかったんだもん。
クリスマスのムードも何もない所でプレゼント渡すっていうのは、ハッキリ言ってかなりきつい。
だって、ほら、さ。
あたしからガウリイにプレゼント渡すこと事体、ある意味不自然、じゃない。
それに。
やっぱりちょっと、後一歩が踏み出せない。
今日が、とても楽しかったから。
このプレゼントを渡したことで、この居心地のいい関係が壊れてしまうことの恐怖も、ちょっとだけあった。
どうしよう・・・家に近付くと共に心にくり返す言葉はそれだけ。
「リナ?眠いのか?」
「えっ、あ・・・違うよ。明日はバイトか〜って思ったら何だか虚しくなっただけ」
とっさに口から出た言葉は、余計に焦りを加速させた。
街に近付くにつれ、華やかなイルミネーションが目に飛び込んでくる。
「はは、俺も仕事だ〜。虚しいよなぁ、明日はケーキすら食ってる暇なさそうだしなぁ」
「そんなに忙しいの?」
「そこそこな。つーか、有休とった奴が多くてさ、そのしわ寄せが残された俺たちに回ってくるってわけ」
「・・・・・ガウリイは有休取らなかったの?」
「ん〜・・・クリスマスだからって特別に何かするわけじゃないしなぁ」
―――――ズキン・・・
「休み取れってうるさく言う奴も今はいないしさ。その代わり正月はゆっくり休ませてもらうし」
―――――ズキン・ズキン・・・
「・・・・そ〜だよね。あたしもクリスマスだからって特別に何かするわけじゃないし。あ、ケーキは食べるけどさ」
「確かにクリスマスだけは堂々と男もケーキ食えるもんな」
「ガウリイはいつだって甘いもんも食べるじゃない」
「まぁ、そうだけどさ」
・・・・・そっか。
クリスマスは関係ないんだ。ガウリイにとってクリスマスは普通の日とかわりないんだ。
――――クリスマスを一緒に過ごしたいと思う人はいないんだ。
きゅっと、鞄を握りしめる。
・・・・渡せるわけ、ない。
心に重い固まりがのしかかったような感じがする。でも、そんな気持ちは微塵も見せないで、あたしは陽気に声を張り上げた。
「サンタクロースが来てくれる年でもなくなっちゃったしね。さってと、しゃーないから明日も頑張るか。こんにゃくも食べたことだし!」
「また食いに行こうな」
「うん。あ、ここら辺でいいよ」
「家まで送るぞ?」
「いいよ。ねえちゃんとかに見つかったらうるさいもん。じゃあまたね、ガウリイ。今日は付き合ってくれてありがとね」
「付き合わせちゃったのは俺だけどな。ここから近いのか?」
「すぐそこだもん。じゃあ仕事頑張ってね」
「ああ、じゃあな」
家の近くで車を止めてもらって。
あたしは手を振って車を見送ると、一気に駆け出した。
家の玄関にかけられているクリスマスリースと、リビングに飾られたクリスマスツリーが虚しく目に映る。
自分の部屋に駆け込んで、渡すことの出来なかったプレゼントを放り出すと、あたしはベッドに倒れ込んだ。
――――楽しかったのに、辛いよ・・・
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