秋雨


 

 「すっかり秋よね〜。ニギタケに松茸♪キノコご飯に土瓶蒸しに酒蒸しと網焼き。バター炒めもいいわよね〜♪」
 「秋といえば新米にさんまの塩焼きだろ♪栗ご飯やマロンケーキも旨いよな♪」
 「それをいうなら林檎と葡萄も捨て難いわ♪熱々焼き立てのアップルパイに冷たいバニラアイスを乗せて食べるのよ♪くぅ〜、たまんないっ!」
 「丸かじりも好きだけどな。あと葡萄っていえば新酒だろ♪さぞかし旨いんだろうなぁ、ゼフィーリアのワイン♪」
 「そりゃあ、当然!あたしの保証付きよ♪」

 

 

 高く澄み渡っている空。
 渡る風は1日毎に涼しさを増して秋の花たちを揺らしていく。
 森の木々も微かに色が変わり始めて、あたしたちの目を楽しませてくれる。
 旅するには絶好の季節。
  

 「秋って素敵よねー。美味しいものいっぱいで♪」
 「そうだなー。さすがに実りの秋ってだけあって、どれから食っていいか悩むくらいあるもんな♪」

 

 ただでさえ美味しいもの大好きなあたしたちにとって、とっても嬉しい季節だ。
 今が秋でよかったと思う。
 そして、一緒にこの季節を楽しんでくれる人がいてくれて、心底よかった、と思う。

 

 

 あたしたちは今、ゼフィーリアのあたしの実家に向けて旅をしていた。
 あたしにとっては本当に数年ぶりの里帰り。
 前に帰ったのって、まだガウリイと出会う前だし。随分遠い昔のことのように感じられる。
 この里帰りを言い出したのはガウリイなんだけれどね。
 多分、気を使ってくれたんだと思う。
 普段はどうしようもないくらげ頭だけれど、人の心の痛みには敏感な人だから。
 まあね、最初にガウリイがあたしの実家に行きたい、なんて言い出した時にはどきどきして・・・なんつーか・・・乙女心としてはちょーっと期待?したりもしたんだけど・・・・
 でもやっぱり、基本的には相変わらずおとぼけくらげだから、期待するだけ無駄って感じ。
 でも。ゼフィーリアを目前にしてあたしはかなり上機嫌だった。
 いい天気にも恵まれて、たわわに実った果実も美味しいし。食欲の秋を満喫しているし。
 何より、ガウリイが一緒にいてくれたし、ね。

 

 ゆっくりと、心の傷が癒されていくのを実感している。

 

 ちょっと前。
 あたしたちは悲しい事件を体験した。
 物凄く苦しくて。でも・・・あたしたちの手でしか、終わらせることは出来なかった。
 この痛みも恐怖も悲しみも・・・全部あたしたちが生き続ける限り心の中で残るだろう。
 それでも。あたしたちの手で、終わらせたかった。
 大切な、仲間だったから。
 終わった後で流した涙はとても、苦かったけれど。
 でも、受け止めてくれる胸があったから・・・・

 

 世界の無慈悲さを見せつけられたあたしだけれど、今は落ち着いて事実を受け止める心の余裕が戻ってきていた。
 綺麗なものは綺麗と、美味しいものは美味しいと。ちゃんと感じることができる。
 最近はやっと野良デーモンの群れもなくなりつつあるし、異常気象もすっかり落ち着いた。
 ここ数日の天気のよさは、あいつからのささやかなお礼返しかもしれない。なんて思ってる。
 今日も本当にいい天・・気・・・・・?
 「・・・・あれ?」
 さっきまで眩しい程の木漏れ日があたしたちの上に降り注いでいたのに、いつの間にか翳っている。
 「曇ってきちゃったね」
 「秋の天気は女の心と一緒で変わりやすいって言うからなぁ」
 「おおっ!?ガウリイがそんな格言を覚えているなんて!大変、雨降ってきちゃうじゃない!」
 「あのなぁ・・・・俺だってそのくらいは・・・ん?」

 

 ――――ポツっ

 

 「・・・・・・そーいや、山の天気も変わりやすいって言ったよな」
 「・・・って言ってるそばからーっっ!どーしてくれんのよ、ガウリイ!」
 「俺のせいじゃないだろっ」

 

 ポツポツと空から雨粒が落ちてくる。
 空はそんなに翳っているわけじゃないし、明るいんだけれど。天気雨ってやつ?変なの。
 「雨の匂いしなかったのに」
 「多分通り雨だろ。すぐやむさ」
 確かに大騒ぎする程の雨じゃないし、慌てて木陰に駆け込む程のものでもない。
 薄明かりの中で降り注ぐ細かい雨は、何だか銀色に光って見えた。あの人の髪を一瞬思い出して、小さく笑った。

 

 優しい雨。
 きっと、あいつのラブラブ攻撃を躱して雨でも降らせて隠れているのかもね。
 大丈夫。
 思い出すたび胸は痛むけれど、同時に暖かい気持ちにもなれるから。
 あたしはもう大丈夫だよ。

 

 「・・・・リナ?」
 「なんでもないわ・・・・結構降ってきちゃったわね・・・」
 呼び掛けるガウリイに笑っておいて空を見上げる。
 そんなあたしに向けられるいたわるような、とても柔らかな眼差しと頭に置かれた大きな手。
 ほんわりと、心がそれだけで暖かくなる。
 「雨宿りっていっても・・・・そんなに大きな木はないなぁ」
 あたしの頭をくしゃっと掻き回しながらガウリイがきょろきょろと周りを見渡す。
 森の中を通る街道とはいえ、そう都合よく雨宿り出来そうな木はそんなにない。
 「平気よ。こうすれば♪」
 ガウリイに向かってパチンっとウィンクして、あたしは背中のマントを跳ね上げた。
 ふわっと舞い上がったマントの裾を手早く握りしめ、雨よけにする。当然あたし1人用。
 このくらいの雨なら防水出来るし、これならあたしは濡れないし♪
 「・・・・リナはいいとして、俺は?」
 「大丈夫!バカは風邪ひかないっていうからガウリイなら絶対平気よ!」
 「お前なぁ・・・」
 「よっ!水も滴るいい男♪」
 「・・・・嬉しくないぞ、それ。せめて半分入れてくれよ」
 「どうやって入るのよ?」
 「こうする」
 ――――ひょいっ
 「うきゃああっっ!何すんのよっ、あんたわっ」
 「何っておんぶ♪」
 両手でマントを持った状態で頭の上に上げっぱなしだった為、暴れた拍子に後ろに仰け反ってしまった。
 「うひゃああっ〜〜〜落ちる〜〜」
 「暴れるなって、ほい」
 ―――ムギュ・・・
 ガウリイが前屈みになって逆さまにぶらさがるという最悪な事体は免れたが、今度は勢いつき過ぎてあたしの顔がガウリイの頭に埋もれた。
 ・・・・鼻ぶつけた・・・
 うにゃあ・・・痛い・・・あ、でも何かさらさらして気持ちいーかも。
 「俺の上でリナが雨宿りしてたら、俺にも多少は雨かからないかもしれないだろ?」
 思わずガウリイの髪に頬をすり寄せたあたしに、ガウリイの笑みを含んだ声が聞こえた。
 んしょっと上体を起こして覗き込むと、悪戯っぽく笑ってるガウリイ。
 ―――――プッ
 「あはははっ、あんまし意味ないと思うけどっ」
 「だってお前1人で濡れないなんてずるいだろーがっ」
 「頭は濡れないかもしれないけど他は濡れちゃうじゃん」
 「そーだけど。少なくてもお前背負ってる場所は濡れないし」
 ――――まったく。この男は。
 「ていっ」
 「うわっ、こらっ!そんなにかぶせたら前見えないだろ」
 「何よ〜、せっかくかぶせてあげたんじゃない」
 「木、木にぶつかる〜〜リナ〜〜っ」
 「あははははっっ♪」
 どさぐさに紛れてガウリイの首にしがみついた。
 ぎゅうっとしがみついて、こっそりと金色の髪にキスを落とす。

 

 

 あたしは大丈夫だよ。
 あんたがいてくれるから、だから大丈夫。
 ちゃんと言えたことないけど、なかなか言えないけれど。
 ありがとう。
 あたしのそばにいてくれて。
 そしてね、できれば。
 これからもあたしのそばにいて欲しい。
 ずっと、一緒にいたいんだ。
 家に帰った後も、多分あたしはすぐまた旅に出ると思うから。
 あたしの保護者としてついてきてよね。
 ね、ガウリイ。

 

 

 
 ぱらぱらと音を立ててマントの上で雨が弾ける。
 じゃれるあたしたちの上で銀色の光を振りまきながら。
 2人のはしゃぐ笑い声を聞いてほっとしたのか、雨の糸は次第に細くなり、木々の隙間から再び光が射し込み始める。
 おんぶする理由がなくなっても、2人はそのまま街道を進んでいった。
 いつかのように。2人が一緒にいる理由を探したり気にしたりすることもなく。
 当然のように。

 

 「あっ!ガウリイ見て見て!」
 「いてててっっ・・・髪引っ張るなって。ハゲたらどーするんだ」
 「ガウリイが困るだけ。いいからほらっ!」
 「あのなぁ・・・あっ!」
 「すっごーい。綺麗♪」
 「綺麗だなぁ♪」

 

 街道の先。
 木々の隙間から覗く空を見上げると。
 2人が目指すゼフィーリアの方向に、虹の橋が浮かび上がっていた。
 「ねえ、ガウリイ知ってる?虹の根元にはお宝が埋まってるんだってよ♪」
 「本当か?ゼフィーリアにはお宝が埋まってるのか?」
 「探せばあるかもね♪誰かに取られちゃう前に、あたしたちが見つけるわよ。それいけ、ガウリイ♪」
 「おっしゃーっ♪」
 走り出したガウリイにしがみついてあたしは笑う。それにつられてガウリイも笑う。
 なんでもない、日常がこんなにも幸せに感じた。

 

 今までの旅の終わり、そして新しい旅の始まりになるゼフィーリアは、もうすぐそこ―――――

  

 


♪おせちさまからいただいたお手紙に入っていたイラストがあまりにも素敵だったので、思わず書いてしまいましたvv・・・恩を仇で返してなければいいのですが・・・(^^;)