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子供の笑い声に誘われるかのように、浅い夢から覚醒した。
微かな星明かりが射し込む部屋。草木さえも眠りに付く夜。
逃げてしまった幸せな夢を惜しむかのように、ムックリとガウリイが身体を起こした。
「・・・・ん・・・・」
隙間が出来て冷たい外気に触れたためか、小さな声が横から洩れる。暖を求めて身体をすり寄せてくる愛しい存在を再び抱きよせながら、腕の中の少女を飽きる事なく見つめていた。
最近やっと抱き締められる事に抵抗する事がなくなってきた少女は、今もガウリイの腕の中で安心仕切ったあどけない顔で眠っている。
・ ・・・何故こんなにも愛おしいんだろう。
不意に沸き上がってきた幸福感に、心が熱くなっていく。
今ここに、こうして当然のように同じ時を過ごしている。
保護者という枠を超えて一つのベッドで眠る事ができるのが、いまだに奇跡のようで。
少女の温もりを感じるだけで、何もかもが癒されていく気がする。
少女に出会う前の空虚な自分も、度重なる激しい戦いの中で気付かれる前に心に押し込めた恐怖も。
抱きしめているのは俺なのに、その温もりはまるで幼い自分を抱きしめている母親のように暖かく、心の強ばりを優しく解きほぐしてくれる。
こんなにも小さい身体なのに、誰よりも強い闘争心。
諦める事を知らない、何よりも貪欲に自分らしく生きるために戦う。
少女が扱うのは光の暖かさとは正反対の、闇を統べる者達から力を借りる黒魔法なのに、少女の魂の輝きはまるで太陽にも匹敵する。
その眩い光に魅せられて、気が付いたら魂ごと搦め取られていた。
光の剣を家から持ち出して、その後自分はどうやって生きていくかまだはっきりと決めかねていた時、偶然出会って旅をともに続けてきた。
あの時はまだ解らなかった気持ち。
今なら、出会った時すでに心惹かれていた事が解る。
この少女だからこそ、どんな状況であっても感情より先に身体が彼女を守るために動いていく。ためらいもなく、まるで本能のように。
白い小さな卵のような顔を彩る豊かな栗色の髪。
持ち主の性格そのままに、気侭に跳ねているつややかな髪を一房手に取ると、そっと口付けた。
「・・・・ん・・何、ガウリイ・・・・」
その感触に気が付いたのか、腕の中でもぞもぞと身じろぎして、愛しい女神がうっすらと瞳を開いた。
まだ半分夢の中にいる少女の声は間延びしていて、ガウリイの耳に甘く届く。
「悪い。起こしたか?」
軽く抱きしめて目蓋に軽く口付ける。くすぐったそうに顔をしかめる仕種すら、愛しくてたまらない。
どうしてだろう。泣きたくなる程リナに溺れてる。
「・・・どしたの?こんな夜中に・・・」
「・・・夢を見てな、目を覚ましたら眠れなくなっちまって」
飽きる事なくリナの髪を梳いていく。その感触の心地よさと暖かさに、リナは思わず身体をすり寄せた。
世界中のどこを探しても、ここより他に心も身体も安らげる場所はないだろう。
何度身体を重ねても照れは消えないが、こうやって素肌のまま寄り添ってまどろむのは好きだった。
自分が女でよかったと思える貴重な時間。
自分の存在総てをゆだねられる相手を見つけられたあたしは、とても幸せだと思う。
そっと手を伸ばして、落ちてきた金色の髪を弄ぶ。暗闇の中でさえ光って見える綺麗な金髪。さらさらとした感触が気持ち良くて頬にすり寄せてみる。
「夢って、どんな?」
「んー、忘れちまった」
「・・・・やっぱりガウリイよね。期待してなかったけど」
「でもすごく幸せな夢だったぞ」
その余韻でもう一度眠ってしまうのが勿体なくなるくらいに。
再びあの子供の声が耳の底に蘇る。
リナの子供の頃にも、俺の子供の頃のようにも見えた、小さな子供の笑顔。
たぶん・・・いや、きっと。
「あの夢はリナが見せてくれたんだ」
「・・・あたしが?何でよ?」
「俺が今すごく幸せだから」
「・・・・・・ばか」
微かに赤くなった顔を俺の胸に埋めて小さく呟く。
これが昼間だったら、問答無用で呪文で吹っ飛ばされている事だろう。
最近やっと甘えてくれるようになったリナは、どんな敵が相手でも不適な笑みを浮かべて、決して怯む事なく立ち向かっていく、気高く美しい戦女神。
だけど本当は、いじっぱりで照れ屋で不器用な、ちょっと寂しがりやで、でもそんな事は絶対に見せたがらない、普通の女の子で。
だから、きっと。
俺が生まれてきたのは、リナを守るためだ。
誰もが強いと認めているリナを、弱い部分をひたすら隠して強い自分であろうとするリナを。
強いリナでいられるように守るのが、俺が自分自身で決めた役割。
男と女の関係になって、その言葉に宿る意味が微妙に変わっても、俺は一生リナの保護者だ。
ずっと、リナを。誰もが、リナすら呆れる程。
側にいて守るから。
寄り添ってくる小さな身体を。
その魂の輝きを。
時に受け止められない程辛い事が降り掛かって輝く紅い瞳が曇っても、そのやるせない涙もこの胸で受け止めてやる。
小さい背中に背負うには重すぎる運命を決して投げ出したりしないお前だから。
甘え過ぎる事を自分で許さないやつだから。
ずっとどんな事があっても側で守っていく。
リナがいつでも不適な笑みを浮かべて走り続けられるように。
「バカな事言ってないで、ちゃんと寝なさいよね」
照れ隠しにぶっきらぼうにかけられた言葉とは裏腹に、肩の上にまで毛布をかけてくれる。そんなちょっとした気遣いがたまらなく嬉しい。
さっき見た夢をリナに話したら笑われるだろうか。それとも呆れるだろうか。
――――照れながら、微笑んでくれるだろうか。
「ああ。リナも眠りな。今度はリナがこの夢を見れればいいな」
「まったく・・・どんな夢を見たんだか・・・」
ふわっ、と小さなあくびを漏らしたリナをしっかりと抱きしめて頭を撫でる。もぞもぞと居心地のいい場所を探し出して大きく息を付いた。
気の休まらない旅を続けている俺たち。
盗賊達や様々な厄介ごと。ちょっとしたモンスターから、果ては様々なレベルの魔族まで。引く手数多な争乱の数々が、リナを待っているから。
それは、まるで紅く輝く炎に引き寄せられていく虫達のように、後をたたない。
だから、あの夢に出会える日はまだまだ先の事。
「・・・・・ずっと側にいるよ、リナ」
再び軽い寝息を漏らし始めた小さな唇に軽く口付けを贈って、その安らかに眠る横顔を見つめる。
何故こんなにも愛おしいのだろう。この胸が震える程に。
触れて伝わる鼓動を感じるだけで、微かな吐息を感じるだけで。
運命なんて信じてはいないけれど、リナと巡り合えた事は俺の人生の中で一番の奇跡。
生きていく目的と、生への執着を教えてくれた少女。
守っているつもりで、いつも守られてきた。その強い意志で。
守ってきた。俺の身体も心も全部使って、ともに生きていくために。
慌ただしい日々が過ぎて、いつかどこかの地で落ち着ける時が来たなら。さっき見た夢をきっと現実のものにしよう。
それは予感ではなくて、確信。
うぬぼれでもなんでもない。この思いがある限り必ず2人に訪れる未来だから。
微かに微笑みを浮かべて眠る少女の温もりに誘われるように、彼も再び夢の世界に落ちていった。
幸せな夢と、その夢を与えてくれた少女をしっかりと抱きしめながら・・・・
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