Confession


 

目をあければそこに、空色の瞳が見えたから。

あたしは怖くなかった…

       ***

サイラーグでの一件から約一ヶ月。

旅はゆっくりながらも順調に進んでいた。

この分で行くと、明日の昼頃には

ゼフィーリアに入れるだろう。

国境近くの町で今日の宿を取り、

二人で晩御飯の争奪戦を繰り広げる。

何ら変わりの無い日常。

心地良いはずのそれが、最近苦しい。

髪を撫でるその手も、優しすぎる眼差しも。

理由は…わかってる。ただ、言葉には出来ない。

夕食を終え、それぞれの部屋に引き上げてしばし。

「……」

ぼーっと考え事をめぐらせていたあたしは

いきなり思い出して、赤面してしまう。

ああもう、何なのよっ!

これじゃただの変な人ぢゃない…

ガウリイに、お前の実家に行こうと言われたとき。

あの瞬間に感じた幸せな鼓動を、まだ覚えている。

そして気付いた恋心。

…違う。今まで気付かないふりをしてきたんだ。

自覚してしまったら、感づかれてしまうから。

まっすぐに、その瞳を見つめられなくなってしまうから。

一緒に、居られなくなってしまうから。

…一緒に居るだけでいい。

自分の気持ちくらい抑えてみせる。

それがあたしの出した結論だった。

まだ一緒に居たい。

壊したくない…二人の距離を。

だからあたしは黙っている。

細心の注意を払いながら、極々自然に振舞う。

慣れてしまえば難しくなんてない。

あいつの―ガウリイのいない日々を考えたら、

自分を偽る方がいい…

「ふぅ……」

ため息一つ。仕度を整える。

…念のため言っとくけど、お風呂に行くだけだからね…

     ***

―コンコン。

軽いノックの音。

誰だろ…ガウリイかな?

「はーい」

「リナ、俺だ。ちょっといいか?」

予想通りの声。

ドアを開けると、いつもより軽装の彼が立っていた。

備え付けの椅子に座ったガウリイに向かい合う形で、ベッドに腰を掛ける。

「どうしたの?…お腹減ったとか?」

「……あのなぁ…」

「冗談よ。それより、ほんとにどうしたの?」

ランプの灯に、彼の綺麗な金髪が照り映える。

女のあたしですら羨ましいほどに美しい髪が、柔らかく光る。

少しの沈黙の後、ガウリイはようやく口を開いた。

「…リナ、最近俺に何か隠してないか?」

―――どきっ…

僅かに心臓が跳ね上がった。

…落ち着いて…気付かれるはず無いんだから。

「何のこと?…あ、盗賊いじめならしてないわよ。寒いから」

「リナ」

さっきよりも低い声であたしを呼ぶ。

「?…何も隠してないってば」

鋭い視線を正面から受け止め、撥ね返す。

ここで目を逸らすわけにはいかない。

じっと見つめ合う。お互い、相手の思いを探りながら。

ふと、ガウリイが視線を落とした。

軽いため息を背に聞きながら、

あたしは内心ほっとして立ち上がる。

窓に寄り、夜空を見上げた。

今宵は新月。いつもは見えない星屑達も、

月の居ぬ間にとばかりに光り輝く。

後ろで立ち上がる気配がした。

部屋に帰るんだろうか。

あたしはすぐに振り向けなかった。

今顔を見られたら、ばれてしまうかもしれないから…

――でも、挨拶くらいはしなきゃ。

ものすごい精神力で平静を装い、向き直ろうとした瞬間。

バンっ!

いきなり腕を取られ、壁に押し付けられる。

「ガ、ガウリイ…っ?!何すんのよっ!!放してよっ!」

精一杯の抵抗は、適うわけも無く。

あたしはガウリイという檻に閉じ込められてしまう。 

 

思わず閉じてしまった目を薄く開ける。

そこには普段とまるで違う…男のガウリイがいた。

「リナ…」

彼はまっすぐにあたしを見ている。

逃げようと思えば逃げられるのに、動けない。

愛しいその眼差しで、繋がれてでもいるように。

モウ…オソイ…トメラレナイ…

あたしの中で何かが音を立てて崩れていく。

「…ごめんね。あたし、一つ嘘ついた」

「……リ、ナ?」

「隠してたことがあるの。ガウリイに」

瞳に浮かぶ戸惑いの色。

そんな目をしないで。

悲しませたいわけじゃない。

困らせたいわけじゃない。

だけど……

「…大好き、ガウリイ…」

あたしの想い。

何度も言いそうになって、飲み込んできた言葉。

「ずっとどうしていいかわからなかった。

言ったら、ガウリイが離れて行っちゃう…

そんなの…嫌だった……!」

モウ…ヒキカエセナイ……

彼が今どんな顔をしているか確かめる術はなかった。

後から溢れてくる涙で、視界が歪んでしまったから。

彼の視線を受け止めるのが怖くて、俯いてしまったから。

ふいに感じる温もり。

それがよく知っているものだと気付くまで、

時間はかからなかった。

少し骨ばった暖かい手。

いつもはあたしの頭を撫でる手が、今は涙を拭っている。

「ガウ…リ…?」

辛そうな瞳に、あたしが映る。

「…ごめんな」

「え…?」

あたしの頬に手を添えたまま、唐突すぎる謝罪の言葉。

「俺はリナを泣かせてばかりで…失格だよな……」

―――ずきん。

失格って、保護者?

まだそんな風に思ってるの?

伝わらなかったの…?

「きゃ……っ?!」

彼は何も言わず、やおらあたしを抱えあげ、

そのままベッドに押し倒した。

「ガ、ガウリイ…?何…んっ?!」

手の自由を奪われ、次いで唇も塞がれる。

初めてのキスは思ったよりも熱くて。

あたしの思考を砕いていく。

「リナ」

唇を離して、あたしを見つめる。

彼ははっきりと言う。

「どうしていいかわからなかったのは…俺のほうだ。

守りたいと思うようになって、

側に居たいと思うようになって…

その気持ちを、自分でも抑えきれなくなってた……」

――ああ、そっか…――

「もう…とっくに好きになってる……」

――あたし達はいつのまにか、こんなにも惹かれ合ってた――

簡単なことだったのに、笑っちゃうね。

お互いが見えなかったばっかりに、遠回りをして。

でも―――

再び重ねられた唇は、二人の心を透明にしてくれた―――

モウ…ハナレナイ…

夜の帳が落ちる頃、二人の影は一つになる。

出会って四年。

いつも隣には彼がいた。

目を開ければそこに、空色の瞳が見えたから。

あたしは怖くなかった…

遠いようで近い、二人の距離。

長いようで短い、二人の時間。

―――星が零れ落ちそうな夜だった―――

                         Fin.


 

♪菜湖さんから頂いてしまったのですvv

もうっ!!リナってばなんてこんなにいじらしいのでしょうvv可愛いくってたまりませんわvv

ガウリイもいきなりベッドに押し倒すとは、やってくれますね♪「もう、とっくに好きになってる」って台詞がもうっっ!!くぅっっvv

とても幸せになるお話を本当にありがとうございました♪