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「なぁ、リナ…。」
ぽかぽか陽気に誘われて、見晴らしのよい丘で日向ぼっこをしている時に、
何気ない口調で言ったのはガウリイだった。
いつもとおんなし微笑み。いつもと変わらない優しい瞳で。突然彼は訊いてきた。
「好きだ、って言ったらどうする?」
「えっ!?」
不意打ちのような問いに、それまでの雰囲気は崩されて。
「ど、どうしたの、突然に。」
「いや。リナはどう思ってるかなぁ、と思って。」
顔を真っ赤に染め上げたあたしとは対照的に、普段通りの優しい面持ちで空を見つめるガウリイ。
その端正な横顔に、青空に溶けていきそうなブルーアイに、今更ながら見とれてしまう。
暫く固まっていたあたしだったけど、ふと視線を感じ、ガウリイがこちらを振り向いたのに気がつく。
あたしも、黙ってガウリイの瞳を見つめ返す。
そこにあるのはいつもあたしを守り、見つめてきた瞳。今も、攻める訳でもなく、ただ純粋に答えを待っている。
(あ、そうか、…あたしを待ってるんだ……。)
彼のそんな心遣いに、暖かいような、こぞばゆい感じがして。でも、こんなにもあたしを遣ってくれるガウリイだから、だから彼には、正直に応えたいと思う。
「うーん、…どうだろう。」
(どう、なんだろう?)
あたしは想いを巡らせる。
……一つ、判ってるのは。
「ガウリイのこと…嫌じゃないよ?ぜったい。」
それだけは確かな事だって知っている。
決して歯切れの良いモノではなかったけれど、この時の、あたしの精一杯の返事にガウリイは嬉しそうに頷いて、『じゃあ、いつか言ってみようかな』なんて言っていた。
数日後、山道を行く途中で見つけたやたらムードのあるところで、そっと抱きしめられて『愛してる』って言われた。
『まさか』って否定する気持ちと、『嬉しい』って気持ちとが頭ん中でごちゃ混ぜになって。
でも、浮かんで来た気持ちはたった1つだけ。
前にあの見晴らしのよい丘で言われてからずっと探していた答え。ううん、ずっと前から抱いていた気持ち。それがなんなのかやっと気がついた、そんな感じ。
伝えたい。でも、どうすればこの気持ちが届くか判らない。
(どうすればいい?)
柄にもなくもどかしさを感じていたら、不意に目の前の景色が変わる。
いつの間にかガウリイは屈んでいて、あたしの顔を真正面から見つめていたのだ。
見つめられてる事がものすごく照れくさくて、急いで顔を背けようとしたんだけれど、……動けなかった。
ガウリイの瞳の中に、これ以上ないってくらい幸せそうな顔をしているあたしを見つけたから。
大好きなスカイブルーの瞳が、暖かい光を灯してる。
あたしは蒼い瞳の中にいるあたしに負けないように、にっこり微笑んだ。
伝わってくれると、彼なら受けとめてくれると信じて、そして。そっと目を閉じて、ガウリイに身を委ねた。
暖かくて、くすぐったくて。…でも、とっても幸せな気持ち。
ずっと続いてほしいと、心底思った。
でも、そんな時間は。あたしの願いとは裏腹に、あっけなく終わりを告げた。
「リナーぁぁぁぁ!!!」
ズシャァーーン!
間近で爆発音が轟くのは判った。あまりに威力が大きくて、体が瞬時に反応できなかったのだ。
…ガウリイの叫び声すら、どこか遠くのものような気さえした。
「っっっ!ガウリイ!!」
一瞬呼吸を忘れたが、直ぐに思い出したように目を凝らす。
爆発に伴って舞い上がる塵埃の中、そこにあったのは、爆発の熱による焦げた肉の臭いと、爆風に弾き飛ばされた刃の折れた魔法剣。
そして、血だらけになって意識を失っている、…ガウリイだった。
ガウリイから告白された後も、あたし達は変わらずの旅を続けていた。
まだ自分が視、聞いた世界が小さいと思ったから。
彼もそれに賛同してくれたから。
(…でも。やっぱりそれは間違いだったのかもしれない。)
たまたま立ち寄った街で事件が発生し、例によっていつもの如くにあたし達はそれに巻き込まれ。
魔力が不安定なために大技が使えないあたしに代わって、ガウリイは一人で殆どの敵と対峙せざるを得なかった。
フィブリゾの事件の後、取り合えず、と持たせていた代替魔法剣で…光の剣と比べるとどうしても性能が落ちてしまうけれど、その、見る者を圧倒させる技でもって、敵のボスを追い詰める。
相手もどこに属してんだか判んないようなしょぼいヤツだったけど、中級魔族には変わんなくて。
最後の一撃を打たれる寸前、やけくそで体の強度を変化させたため、振り下ろされた刃は腹の、ちょうど真ん中あたりで真っ二つに折れてしまう。
もはや再起不能となった魔法剣で、ガウリイは仕方なくそれを突き刺し魔族にとどめを刺す。
(…それで終わりのはずだった。)
本来のモノとは異なる使い方に多少の不安を覚えたが、地面に縫い止められた奴の体を見て。
今回もまた、生き延びられた、と。ほっとした、その瞬間。魔族は空間を渡ってあたしに接近し、自らを核に爆発する。
ガウリイは、とっさのことに反応の遅れたあたしを庇って…。
……ぽた…ぽたっ…………
今までの経路と、それによって決断したことを思い知らず零れていた涙が、目の前に横たわる
ガウリイに掛けられたシーツに、一つ、また一つとシミを作っていく。
(やだ…、ガウリイを起こしちゃう。)
「顔、洗いに行こう…。」
そう言って立ち上がろうとした時、まるで頃合いを見ていたかのようにガウリイは目を開けた。
「リナ…?」
あたしはガウリイに気づかれないよう慌てて涙の痕をぬぐうと、看病用にベットに寄せていた背もたれ付きの椅子に腰を下ろし、彼の様子を看る。
土気色の顔に、艶のなくなった長い髪。それでも目付きがしっかりしてるのに安心する。
「気分はどう?」
「……悪くない。なぁ、ここは…?」
「街の診療所よ。」
ガウリイが目を覚ましたことを医者に伝えようと腰を上げる、と。
「なぁ、リナ…っつう!」
それにつられて起きあがろうとした彼だったが、痛みのためにうずくまる。
「バカ!いきなり何してんのよ!!」
そんなガウリイを慌てて支え、そのままベットに横にさせる。
「あんた三日も寝込んでたのよ、急に動けるわけないじゃない。しかもあんた!」
呼吸を整えるために一息入れる。
「体の三分の一を火傷で覆われたのよ!変な感染症まで起こして高熱が続くし。普通の人だったらとっくに死んでるんだから!!
それに…この街に腕のいい魔法医がいなかったら、皮が変な風にくっついちゃって、今までみたいに体が動かなくなるところだったのよ!?
あんたから運動能力とったら、あんた、ただの脳味噌ヨーグルトのクラゲじゃない!!
…それがどれだけ世間様に迷惑をかけるか、判ってんの?」
畳掛けて一気に怒鳴るあたし。
意識を取り戻しただけでも嬉しいのに、安静にさせなきゃいけないのに。
頭は冷静なつもりでも、一度溢れ出した感情はなかなか止まってくれない。
「あれだけの爆発に巻き込まれったてのに、その程度で済んだこと自体奇跡だし、この街に腕利きの医者がいた事だって!
……あたしじゃ、あんたを助けられなかった…。」
最後の方は涙声になってしまうのを隠して、呟きながら文句を言う。
こっちは身も切れんばかりに心配したと言うのに。こいつときたら、相変わらずのほほんとした態度なもんだから、余計に腹が立つ。
「でも…。」
「でも、何よ!」
なおも起きあがろうとするガウリイを睨んで押さえ、彼の意図を尋ねる。
口調が少しきつくなるのは仕方のないこと。こいつは今まで生死の狭間を漂っていたのだから。
下手なことをさせれば、この先一生に残るような後遺症を生むことになるのだから。
それだけは防がなきゃいけないってのに、こいつときたら…。
「でもお前泣いてたろ?…何か、あったんだろ?」
かぁぁあっ!
そんな、音が聞こえるのではないかと思えるくらいの勢いで、顔が赤くなる。
(何でこんなとこには敏感なんだ、こいつは?)
「この間ので、どこか、怪我したのか?」
そう言ってあたしの目尻に、そっと腕を伸ばしてくる。
「ばっかじゃない。何、とんちんかんなこと言ってんの。誰かさんが身を呈して守ってくれちゃったから、あたしはかすり傷一つもできなかったわよ。」
伸ばされた腕から逃れるように、体をよじってそっぽを向く。
添えられるべき場所を失ったガウリイの腕はしばらく宙をさ迷っていたが、やがてシーツの上に落ち着く。
「もう寝なさい。今度起きた時薬飲めるように、何か食べるモノ用意しとくから。」
ガウリイの腕を布団の中にしまいながら耳元に囁く…。
「………なぁ、リナ。お前さん、……どこにも行かないよな?」
「ど、どうしたの?いきなり。」
彼のいきなりの言葉に驚き、語頭をつまらせる。
「いや、…何となく。いつもと雰囲気がちがうからさ。
…こう言う時のお前さんは、決まって何か大事なことを決めてるから。」
何でこういう時に限って頭が働くのかな?普段はクラゲのくせに。
「おバカなこと言ってんじゃないの。……いいから、あんたはもう寝なさい。」
「…本当に、…何もしないな?」
いつになく真剣な声で確認してくるガウリイに
「…馬鹿ね。」
安心させるために、頬にキスを送る。
「良いからもう寝なさい。」
布団をきちんと掛け直し、その上から親が子供にするように、優しく擦ってやる。
それで一応満足したのか、ガウリイはやっと眠りに落ちていった。
気づいちゃった、のかな?
…ガウリイが目を覚ましてから、あたしが一度も目を合わせなかったことに。
(でもね、)
もう決めたんだ。
好きだよって、一緒にいようって。
そう言ってくれてすっごくうれしかった。
でも、もうやめようよ……。
ね。
一人でいるときは、こんなにも事件に巻き込まれてなかったでしょ?あんた。
穏やかな顔で眠り始めたガウリイの頬にそっと両手を添えて、再びキスを送る。
今度は唇へ。
念のため眠りの呪文を唱え、くるりベットに背を向けあたしは椅子の陰に置いていた荷物を静かに背負いあげる。
ガウリイは、光の剣を失ってからも、変わらずあたしの側にいてくれた。
そんな彼に甘えて今日まで一緒にいたけれど。ガウリイと離れられないのは、あたしの身勝手だから。
だけど…あたしの我が儘のせいで、いつか本当に命を失ってしまうかもしれない。
(そんなの……。)
だから。……だから、…………これでいいんだ。
扉へ向かって1歩進む。
(バイバイ。)
自称あたしの保護者さん。
また1歩。
(お元気で。)
唯一の相棒殿。
震える腕を左手で支えて、ドアノブに手をかける。
(どうか、幸せに。)
大切な…愛しい人。
後ろ髪引かれる思いを断ち切って、あたしはその部屋を後にした。
…………。
……………。
………………???
そんな葛藤とともに置いて来た筈なのに、なぜ今、目の前にいる??
見間違いだと勝手に結論付けて、そのまま通り過ぎようとしたあたしだったけど、彼にしては珍しく声を上げ、あたしの前方に回り込んできた。
「何で黙ってオレを置いていったんだ?」
ありゃぁ、これは相当怒ってるな。
ここは隣街へと続く街道のど真ん中。
あたしの行く手を阻んでいるのは盗賊さんや魔族なんかではなく。怒気を孕んだ空気を纏う、もと自称保護者のガウリイ君だった。
…あたしがやっとこさ決心してガウリイのもとを離れてから、わずか3日後の事だった。
やっぱり調子が出ないからって、徒歩にしたのが不味かったかな。
(だって、そういう気分になれなかったんだもん。)
「…別に。」
内心の葛藤は口にしないで、何気ない振りして答えてみる。
「目を覚ましたらお前さんが居なくなってて、オレがどれだけ心配したと思ってる?」
踵を返してこの場を去ろうとしたのだが、ガウリイはそんなあたしの腕を取りくいっと引く。
彼にとっては微々たるモノなんだろうが、勢いのある力に流されたあたしは、そのまま道端の木に押しつけられる。
丁寧なことに、逃げ道を塞ぐべく二本の腕があたしの両脇に添えられる。
まずい…。これじゃあ、呪文で吹き飛ばす事も出来ないぞ。
「魔族にでも連れ去られたかと思ったんだぞ。」
「まさか。あんたじゃあるまいし。」
間髪入れずに言い返す。
「…ねえ。どうでもいいけど、そこ、どいてくんない?」
話しを交わし、ついでに腕の檻から抜け出そうと試みるのだが。しかし、あたしを囲っている腕はどうも動きそうにない。
「だいたいあんた、絶対安静じゃなかったの?今下手に動いて変な風に皮膚がくっ付きでもしたらどうするのよ。」
彼との近すぎる距離にどきまぎする。
(…仕方ない。話を続けて、隙を見て逃げ出すしかない、か。)
「誰かさんが付きっきりで看病してくれたお影でね、目が醒めた時には熱はすっかり引いていた。
看てる奴が細やかに治療の術を掛けてたんで、寝込んでる内に火傷は跡形もなく治ってたしな。」
そう。ちゃんと治ったのね、良かった…って、安心してる場合じゃない!
「ねぇ。どうしてあたしについてくるの。あたしと居ると大変なの知ってるでしょ?
……あんたもしかしてマゾ?」
冗談で済まそうとしたのだが…不発に終わった。
怒っているような、泣いているような顔でガウリイがあたしを見つめてきたから。
こんな時のガウリイの目は危険だ。全てを見透かされてしまう。
(何とかしなきゃ…。)
そんなことを思っていると、ガン!と、何かが木肌を打つのが聞こえ、立ち木全体が揺れるのを感じる。……ガウリイの拳だ。
「惚れてるやつの側にいたいと思うのが、何んでいけないんだよ!」
ちらり横に目を向けると、ささくれ立った表皮も気にせず当て擦られ、赤くなった拳が目に入る。
せっかく火傷が治ったってのに……バカ。
「…ねぇ、“異常な場面で結ばれた男女は上手く行かない”って話、聞いたことない?」
我ながら意地の悪いこと言ってると思う。
「………?」
想像したとおり、間抜け顔を浮かべるがウリイ。
「異常事態に陥った男女は、その時の高揚感を相手を意識してのことだと勘違いしてしまう事。
雪山なんかで遭難した男女が結ばれる確率がやたら高いとかいう、あれよ。」
「なっ、………!」
あたしが言わんとしてる事に気がついたガウリイの、顔が一気に強ばったモノになる。
(いきなりこんなこと言われて、やっぱ…怒るよね。視線が痛いよ。)
でも言わなきゃ。別れるのを納得してもらわなきゃ、いけない。
「で、…それが、なんだって言うんだ?」
ガウリイの低く掠れた声色に、気がつかない振りして続ける。
「前にガウリイあたしの事、“好き”みたいな事言ってくれたけどさ。…あれは勘違いじゃないかって言ってるのよ。」
考えて考えて、考えて。やっと見つけたこの理論は…果たして誰の為の言い訳なんだろう?
でも、今更そんな事はどうでもいいのかもしれない。あたしは前もって作っていた台詞を、半ば機械的に口を動かして先を続ける。
…流石にガウリイの顔を見ながらは喋れないけど。
「ほら、あたしとガウリイって、何回も死線をくぐり抜けてきたじゃない?そん時のドキドキを恋愛感情だって、あんた、勘違いしてるのよ。
……そんなんで惚れられても困るの、あたし。」
言っちゃった。
さすがにここまで言えば、いくらクラゲのガウリイでも判ってくれるよね?
嫌な時間が流れる。
沈黙を破ったのは…ガウリイだった。
「…わかった。」
「そ、よかった。じゃあ、あたしはこれで。」
望んでいた答えを聞いて安心した反面、心にドッカリと重いモノがのしかかる。
しかし、そんな気持ちをおくびにも出さないように最後の別れを告げ、するりガウリイの腕から抜け出そうとしたあたしは、再びクイっと引かれ、さらに。
「うきゃぁ?っっ!!!?」
そのままガウリイの腕に抱き留められてしまう。
「ちょ、ちょっと!放しなさいよ!!」
このままコイツの傍にいると泣いてしまう。
…泣きたくなんかないのに。
でも、どんなにもがいてみても、ガウリイは一向に腕を放してくれる気配を見せない。
それどころか、益々腕の力が強まっていく気さえする。
ややあって。俯いたまま、諦めたようにあたしは呟いた。
「放してよ…。」
さっきよりも語調が弱くなってるのが判る。
「嫌だ。」
「だって、判ったんでしょ?あたしの言ったこと。」
「ああ。」
「だったら…!」
「リナが嘘言ってることがな。…それと、オレを好きだって事が。」
「なっっっっ、何言ってんの!」
思わず顔を上げ、ガウリイを睨み付ける。
そこにあったのは、…いつか見た、陽だまりのような笑顔だった。
「リナは自分に正直だから嘘をつくのが下手だよな。どんなに気を付けても、いつも自信たっぷりに光っている瞳の、その輝きがあせてしまうんだ。
リナはオレに本当の自分を見せてくれてただろ?…だから、オレに見抜けない筈がない。」
何を根拠にか、自身たっぷりに言い切るガウリイ。
「それに今のだって、オレを説得するってのより、自分を納得させようっていう雰囲気があったぞ。…………違うか?」
呆然としているあたしの背中を、ガウリイはそっと撫でていく。
「何に気を使ってるんだかハッキリとは判らんが、オレが惚れてるのはリナだよ。リナだけだ。
…確かに戦っているときのリナは頼もしいし、自信を持っていて綺麗さ。そこに惹かれなかったって言えば、嘘になる。」
昔を思い出してか、一瞬だけ背中を擦る掌が止まる。
「でもな、…お前さん、人一倍強がりなだけだろ?流石に最初は判らなかったけど、リナと旅していくうちにお前さんが優しいことに、弱いことに気がついた。
そりゃ、そうさ。お前さんだって、普通の女の子なんだからな。」
今度は優しく、頭から肩にかけて撫でるように髪を梳く。出会ってからずっと、彼がしてきたように。
「弱いのが悪いってんじゃない。要はそれをどうするか、なんだ。
お前さんだって好きこのんでごたごたに関わる訳じゃないだろ?色んな方面に妙に名前が売れちまってどんどん敵を引き寄せてるようだが…。
だけどお前さんは、どんなに分が悪くたって絶対諦めない。…たとえ相手が何であってもな。」
ガウリイの、真っ直ぐな瞳が向けられる。
その視線の熱さに、廻された腕の心地よさに、無理矢理築いた壁が優しく剥がされ…しだいに心が裸になっていく。
「オレは、そんなお前さんの心に惹かれたんだ。」
(そういえば、そんなことも言ったかな?)
何か、頭が混乱してる、あたし…。
「お前さん、生きることに一生懸命だよな。リナにしてみれば当然のことかもしれない。けどな、オレは忘れていたんだ。捨てたかったんだ。
……だけど。リナが、リナの生き方考え方が、オレを変えてくれた。今まで死に場所を求めるようなものだったオレに、生きる意味を与えてくれたんだ。
…魔族とのごたごた?気にしたことなんか、なかったさ。
そりゃあ、光の剣が無くなって昔みたいな戦い方はできなくなったよ。だけどお前さんを守る必要があるのは、何も戦闘中だけじゃないだろう?
………オレはいつだってリナの傍に居たい。……お前さんを守ってやりたい。」
あたしに言い聞かせるように、一言一言区切りながら優しく囁くガウリイ。
「それにリナと居たからこそ出会えた奴らもいるだろ?
…お前さんがいたことに感謝こそすれ、後悔することなんか何もないし、する必要もないんだ!」
ゆっくりと。想いにあふれた言葉が、あたしの中に染み込んで行く。
「戦いの時のことなんか関係ないんだよ。……ほら、今だって凄くドキドキしてるだろう?」
そう言ってガウリイは、あたしの手を自分の心臓へと導いていく。
手の平から直接感じられる心臓の鼓動。力強く鳴り響く、生きていることの証。
「場所なんか関係ない。オレは何時だってリナが傍にいるってだけで緊張するよ。
…でも、それが生きていると、実感させてくれる。」
そのまま彼の大きな掌が、あたしの小さな手をすっぽりと包み込む。
「リナの側に居たいんだ。こうやっていつまでもリナを抱きしめていたい。
…お前さんに告白しようと思った時、すっごく悩んだんだぞ?拒絶されたらって思うと夜も眠れなかった。
だけどお前さん、一向にオレの気持ちに気付いてくれそうに無かったし。
……正直限界だったんだ。自分の気持ち、押さえるのに……。」
初めて聞かされる彼の気持ちに、驚くと同時に嬉しさが込み上げて来る。
そんな風に想ってくれるの?
騒動の絶えない、このあたしを?
「…あたしと居たいって言うの?迷惑かけるんだよ?あたし?」
「迷惑だなんて思った事ないって、言ってるだろう?」
「絶えず敵が来るんだよ?」
「それがどうした?」
「あたし、ガウリイと一緒に居ても良いの?」
「オレの方こそ、それ、頼んでるつもりなんだけど?」
ガウリイは暖かく、ひたすら優しい瞳であたしの言葉を受けとめてくれる。
「ずっとだよ?途中で嫌だって言っても、キャンセルさせたげないよ?」
「ああ。」
「本当に?」
「ああ。」
「…ねぇ…。」
「ああ。」
(嬉しい…。)
言葉じゃ伝えられないトコまでも受止めてくれる。そんなガウリイが、いま、あたしの目の前で笑っている。
あたしは……、思わずガウリイの背中に腕を回す。
そしてガウリイも、優しくあたしを抱きしめる。
彼の温度に、優しい腕に包まれて、彼の鼓動がそのままあたしを抱き込んでいく。
暫くそうやってお互いの暖かさを確かめ合っていると、ガウリイはふと思い付いたようにあたしに耳打ちしてきた。
「…なぁ、一ついいか?オレ、リナに言ってもらいたいことがあるんだけど。」
「……えっ。なぁに?」
半ば夢心地にいたあたしを、興味津々という顔をして覗き込んでくるガウリイ。
おりょっ?何時の間にか両手で顔を挟まれてるぞ??
「好きだって。オレのこと大好きだって、言ってくれよ。」
耳元で囁かれた彼の言葉に、今にも触れてしまいそうなガウリイとの距離に、身体中が火傷してしまいそうなほどに熱く燃えあがる。
「…なっ、いいだろう?」
にっこりと微笑むがウリイ。
……確認と言う名の脅しだ。
時々思うんだけど。彼は、あたしがこの笑みに逆らえないのを知っているのではないだろうか?
「……ぐぅぅぅっっ。」
言葉に窮して、思わずうめいてしまう。
「だって、お前さんから言ってもらったことないし。さっきみたいに言い訳されるのも嫌だし。
……リナがオレのこと、本当はどう思ってるか、聞きたい。」
今度は真面目な顔で覗き込んでくる。
あまりの視線の熱さに目を反らしたくなるが、頬を包み込む両の手がそれを許してくれない。
「…判ったわよ。言うから、……その、…人の顔を覗き込むのはやめなさい!」
「何で?オレは全然かまわないぞ?」
「あたしが嫌なの!」
「はいはい。」
しょうがないな、と呟きながらも顔を遠ざけてくれたから、多少の距離はできたものの。相変わらず両頬はガウリイの手に包まれたままで。
あたしの反応を、ぜーったい楽しんでる!コイツ!!
「あんた、人のこと、からってない?」
「まあな。置いてきぼり食らわせられたんだから。このぐらいは当然の権利だろ?」
肯定してるし…。
(全く、心の狭い奴。)
……確かに、今回はあたしの方に非が有るかもしれないのだけれど、さ…。
「で?」
視線で続きを促される。
「…判ったわよ。言うわよ。言えば良いんでしょ?ったく、……よーく聞きなさいよ?」
コイツに負けるのだけは嫌だから、精一杯の虚勢を貼って、いつもの強気な態度に出る。……つもりだったのだけれど。
ガウリイの瞳を見た途端。文字通り、虚勢は崩れてしまう。
「だから、ね。…あの、その……。」
どうしても、語尾が小さくなってしまう。
でも、視線を彼に向けなおし…ガウリイの暖かい瞳に勇気を貰う。
「…だから。あ、あたしは、ガウリイが……。」
あたしの、素直な気持ち。ガウリイになら言ってもいいかもしれない。
ううん。ガウリイにだから知ってもらいたい!
「…すき。ガウリイが、すき。……あなただけ、ずっと……。」
いつか見たような、暖かな日差しの下。
二つの影は重なって。
あたしは大切な場所を手に入れた。
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