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「こんにちは、リナさん。私はエレナと言うの。
ガウリイの祖母よ。どうぞよろしくね」
にっこりと微笑みながら差し伸べられた手に呼び覚まされるように、あたしは慌てて自己紹介をする。
「あたしはリナ=インバースです。はじめまして」
ガウリイと、彼女―――エレナさんの間へ場所を移して座り直す。
彼女は確かに『残留思念』だと言った。
だけどあたしは、今までにこれほどしっかりと物質化した『残留思念』に、お目にかかったことがない。
思念を遺すために魔法を使ったのであれば、必要となる魔力は半端なものではない。
流れ続けてゆく『時間』と。
混沌へと還るべき『魂』を。
全ての理(ことわり)に逆らい、その場へ留めておくための強固な『楔』とするのだから。
強い、一陣の風と共に。
ガウリイの祖母と名乗った女性は、あたし達の目の前で溶け消えた。
そして、日が落ちる少し前に辿りついた街の宿屋に部屋を取って荷物を下ろす。
ていっ。
ぼすん。
装備を全部外して、ベッドにダイブする。冷たいシーツの感触が心地良かった。
目を閉じると、エレナさんの笑顔が浮かぶ。
丁寧に結い上げられた金髪は当然のように、ガウリイのそれとよく似ていて。
芯の強い、けれどどこまでも深い色の瞳は、静謐を湛えた湖のような翠(あお)さで。
少し前にガウリイが話してくれた『ばあちゃん』のイメージそのままだったのが、ちょっと嬉しかったりして。
『―――優しい人、だったよ。
いつも穏やかに微笑ってるような人なんだけど、自分が譲れないと思ったことには意外なほど頑固でさ』
うん。ホントにね。
だって、あたしは知ってる。
エレナさんが『想い』を遺した、あの方法は諸刃の剣だっていうことを。
……あたしと同じように、人間の身には過ぎた魔力の持ち主だった彼女。
その魔力を、昔手に入れたと言うエルフの魔力増幅器を使って最大限まで引き出して。
魔力に共鳴しやすい桂の木に魔法をかけて。
自分の魂を引き留める形で『残留思念』を遺す。
そして定めた期限を過ぎて、もしガウリイに逢えなかったなら。
エレナさんの魂は―――混沌に還ることなく、消滅していたのだから。
『それでも、よかったの。
あの子に、もう一度逢うことが出来る可能性が…僅かでもあるのなら』
声ではなく思念波で、呟くように伝えられた本心。
彼女が生きている間に知り得なかった、愛しい孫の未来の姿を。
幸せでいて欲しいという、強く、誰にも譲ることのできない願いを。
目にして、励ましてやりたい。
ただ―――それだけのために。
だけど、あたしはその頑固なまでの『想い』を。
嘲笑(わら)うことはできない。
あたしが同じ立場なら。
もし……もしも。
あたしが、ガウリイを置いて逝ってしまうと、前もって判っていたとしたら。
きっと、同じ事をしていただろうから。
くす。
そこまで思い至ったとき、あたしは笑っていた。
やっぱりガウリイは、筋金入りのお婆ちゃん子だ。
だって、何だかあたしとエレナさん。似てるんだもの。
あたしはエレナさんのように、遠くから穏やかに見守り続ける愛情とか、慈愛に満ちた微笑みで誰かの心を癒すっていうような、穏やかな愛し方なんて知らない。
だけど。
心の、想いの根っこにある、強くて激しくて、乗りこなせないほど荒れ狂う部分は。
きっと、同じなんだ。
その『根っこ』が、あたしを……エレナさんを突き動かす、原動力。
「……素敵な人ね、エレナさんって」
夕食を済ませ、いつの間にか習慣になった、こんな穏やかな時間。
今日はガウリイの部屋へ押しかけて、のんびりと二人で果実酒を飲んでいる。
「そうだろ?
ばあちゃんは、いつだって……オレの自慢のばあちゃんだからな」
ふわり、と。
けれど本当に嬉しそうに、ガウリイが微笑った。
―――そのときに、微かに寂しそうな光がよぎっていったのは……見ないふりをした。
きっと、昔。何かがあったんだろう。
いつか……話してもいいと、そう思えるときがきたら。
きっと、話してよね?
ずっとずっと、待ってるから。
そんな思いを込めて、あたしはガウリイの肩に頭を預けた。
幸せそうに、あたしの髪に頬を寄せる彼を視界の端に捉えながら。
END
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