Mission Impossible 

(後編)


 

 朝日が昇る。
 柔らかな日差しが街中に差しこみ、鳥のさえずりが一日の始まりを優しく告げる。
 それは街の村人にとって、ごくごく当たり前の光景で、朝日とともに平穏な一日が何事もなく始まるはずだった。

 そう、今日までは。

 「ちょっとガウリイ、それはあたしのチキンさんよっ!!
一番最後に食べようと取っておいたのにぃぃぃぃぃっ!!!」
 「それはこっちの台詞だっ!!
リナこそ俺の魚のソテー食いやがってっ!!」
 「何言ってるのよ、こういうのは早いもん勝ちって相場が決まってるのよっ!
・・・って、ああっ!!あたしのプリプリソーセージさんがぁぁぁぁぁ!!
おにょれガウリイッ!!!そっちがそうなら、ていっ!!」
 「ああっ!こぉらリナッ!俺のカルボナーラをっ!返せ―っ!!!」

 ・・・とまあ。
 こんなふうにいつものお食事バトルが展開されている中、同じ席でため息を盛大につく人物が一人。
 アメリアである。

 「はぁ・・・まったく、いつもながらよく食べますよね。
ここの料理の勘定払うの私だってわかってるんでしょうか・・・?」
 「まぁ、あいつらはこのくらい食わないと満足できないからな。
あれで普通だと思ってるんだろう」
 アメリアのため息混じりの質問に、ゼルガディスもやや呆れた表情で答える。
 毎日こんな光景を目の当たりにすれば、それが当たり前に思えてしまうのかもしれないが。

 「でも少しは遠慮してほしいですぅ。
リナさんたらセイルーンの印籠があるからって好き放題名物料理あさって・・・
あれじゃ太・・・うっ・・・!?」
 そこまで言いかけて、アメリアは絶句する。
 何故なら、リナが手に宿る魔力光をアメリアに向けながら、次々出される料理を平らげていっているからだ。
 アメリアは小声で言ったつもりだったが、どうやらエルフ並みの聴力を持つリナにはすべて聞こえていたらしい。
 ほら言わんこっちゃないと心の中でゼルガディスはアメリアに対して合掌を送った。
 しかし、当のアメリアは・・・・・・

 「あぅ・・・・・・リナさん、恐いですぅ・・・・・・
・・・・・・なーんてっ!!
そんな事言うと思いましたか、リナさんっ!!
いつもはここで泣き寝入りした私ですが、今日は一味違いますよっ!!
さぁっ!!
いつもより変わった私を・・・・・・」

 「うるさい。」

 かぱこおぉぉぉんっ!

 リナの放った空のコップが、アメリアの顔面をまともに直撃した。

 「うぅ・・・・・・おでこがまだ痛いですぅ・・・・・」
 「お前が余計な事言ったからだろう。
自業自得だな」
 「ゼルガディスさんだって、前に『リナの奴、連日あんなに食ったら確実に太るな。いったいどこで消化してるんだ?』って私に言ってたじゃないですかぁ」
 アメリアの指摘にどうやら図星を突かれたらしく、ゼルガディスの顔中に冷や汗が流れ出る。
 「うっ・・・そ・・・それはっ・・・・・・!
・・・って、ええいっ!そんな事はどうでもいい!
ところで・・・一体何なんだ?用事って?」
気を取り直して、アメリアに尋ねる。

 実は、朝の食事の後、ゼルガディスはアメリアに『ちょっと私に付き合ってください。大事なことなんです』と頼まれたのだ。
 特に何かするわけでもないし、ここには観光で来ているので暇つぶしにはいいだろうと彼女の申し出を引き受けたのだった。
 しかし、平静を装ってはいるが、彼の顔がほのかに赤くなっている事に気付いているのかいないのか、アメリアはじゃあついてきて下さいと言って食堂を後にした。

 今二人は食堂を出て、二階に続く階段を上っている最中だった。

 「ええ、ゼルガディスさんに証人になっていただこうと思いまして」
 「・・・証人?何のだ?」
 アメリアはお得意のポーズでゼルガディスをびしいっ!と指さし、
 「ずばりっ!!リナさんの弱点を発見したという証人ですっ!!!」

 ずべ。

 あまりに期待はずれ(?)な展開に思わずコケるゼルガディス。
 「・・・・・・おい・・・・・・ひょっとして・・・・・・これが『大事な事』なのか・・・・・・?」
 「はいっ!!セイルーンと私の一大事ですからっ!!
・・・って、あれ?ゼルガディスさん、何うずくまってるんですか?」
 「・・・・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・・・・何でもない・・・・・・・・・」
 ゼルガディスの様子に首を傾げているうちに、二人は目的地であるリナの部屋へ辿り着いた。

 コンコン。

 「リナさん、ちょっといいですか?」
 「いいわよ、入って」
 部屋の中からリナの声を確認すると、アメリアとゼルガディスは頷いて部屋の中に入っていく。
 「どうしたの?二人して?
・・・まさかあんたたち、またよからぬ事を考えてるんじゃないでしょーね?」
 リナは今朝のアメリアの様子がいつもと違うことに疑問を抱いていたのだ。
 そんなリナの様子に内心たじろぎながらも、アメリアは幾度かリナに言っていたことを口にする。
 「リナさん、今度こそはセイルーンの印籠返して貰いますよっ!
もう我慢の限界ですっ!!
 このままいけばセイルーンは破産するって事判ってるんですかっ!?」
 これまでにないアメリアの激昂にリナは一瞬驚くが、すぐに勝気な表情で、
 「ふんっ、あんた前にそういった時に、竜破斬で吹っ飛ばされた事、まだ懲りていないみたいねー・・・」
 アメリアも負けじと言い返す。
 「リナさんこそ判ってませんねっ!
今まではそうでしたが、今朝も言った通り、今日の私は一味違いますよっ!!
実はとある信頼できる人からとっておきの情報を仕入れてきたんですからっ!
リナさん、あなたの悪事もここまでですっ!!」
 「ほほぉぉぉぉぉぉぅ・・・・・・面白いじゃない。
なら早速聞かせていただこうじゃないのっ!その情報とやらをっ!!」

 リナはあくまで余裕の表情でアメリアの挑戦を受けて立つ。
 あのアメリアのことだから、どうせロクな情報ではないでしょ。
 楽勝よね。このあたしに逆らったらどうなるか、思い知らせてあげるわ。

 しかし、リナは知らなかった。
 この後起こる騒動が、彼女をある意味危険な状況に陥れるという事に――

 「では行きますよ、とうっ!!」
 部屋に備え付けてあるベッドにわざわざ乗り、決めポーズをとってからジャンプしてリナの元に降りるアメリア。
 そんなアメリアの行動には、リナも前から見慣れているので、さほど驚きはしなかったが――
 「さあっ、これを見てくださいっ!」
 そう言ってアメリアが差し出した手の中にある物体を間近に見た途端、それまでの余裕の表情は一瞬のうちに青くなり――

 「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

 大地を揺るがすほどの悲鳴が部屋中どころか、街中にまで響き渡った――

 ばんっ!!

 「どうしたんだ、リナ!!」
 リナの悲鳴を聞きつけて彼女の部屋のドアを荒々しく開けてガウリイが駆けつける。
 その後に野次馬の人々も何だ何だとドアの前に集まる。
 「ガウリイ!!」
 ガウリイの姿を見て緊張の糸が切れたのか、リナが真っ直ぐにガウリイに向かっていき、周囲に目もくれずに抱きついた。
 「お、おいリナ!?」
 恥ずかしがり屋のリナが自分から抱きつくなんてほとんどないためか、ガウリイはわずかに頬を赤らめる。
 野次馬たちも、「ヒュ―ヒュ―、やるなぁねーちゃん」「このまま押し倒せにーちゃん」とか色々勝手に盛り上がっている。
 アメリアは瞳をキラキラさせ、ゼルガディスは顔を紫に染めて、今にも血を吹いて倒れそうな身体を必死で支えている。
 「がうりいぃぃぃ〜っ、アレ、アレ取って〜〜っっ(泣)」
 「ん?」

 すでに半泣き状態のリナが指さした方向に目をやると、そこにはアメリアの手の中でくねくね蠢いている物体――ナメクジの姿があった。
 「な〜んだ、ナメクジじゃないか。
魔族とかレッサー・デーモンとか恐がらないのに、こんな小さなものを恐がるなんて、リナもやっぱり女の子だな」
 「こんな小さなものでも嫌なものは嫌なの〜〜っ!
お願い、取って〜〜〜っっ(大泣)」
 瞳に涙をいっぱい溜めて必死に頼み込むリナの姿に、一瞬理性が崩れ、そのまま彼女を掻き抱きたいという衝動に駆られるが、ここは長年邪魔なものだと思っていた『保護者』の枷で理性をかろうじて繋ぎ止める。
 この時だけは、『保護者』の枷に感謝するガウリイだった。

 ガウリイは、アメリアの手の中からナメクジを取り出すと、部屋の窓を開けて、それを放り出す。

 「ほれ、取ったぞ」
 「も・・・もういない?いない?」
 「ああ、いないぞ。もう大丈夫だ」
 「・・・ホントに?」

 うっ・・・・・・
 そんな瞳で見つめるなよぉ。
 せっかく理性を保つのがやっとなのに、これ以上はいくら俺でも耐えられねぇよぉぉ。

 いまだに自分に抱きついたままのリナを見ながら、ガウリイはそう思った。
 顔だけアメリアとゼルガディスの方を見て、事のいきさつを尋ねる。
 「一体どうして、このような事態になったんだ?」

 びびくうぅぅ。

 アメリアとゼルガディスは何故か一瞬寒気を覚えた。
 目の前にリナを抱き締めたままその場に佇むガウリイは、いつもののほほん笑顔なのだが、瞳が笑っていない。
 いつもの優しげな面影はすでになく、まるで氷のように、周囲の者を射殺せそうな昏い瞳だった。

 うぅ・・・ガウリイさん、リナさんの事になると性格変わってますぅ・・・・・・

 そんなガウリイにひるみながらも、アメリアはこれまでのいきさつを説明する。
 「リ・・・リナさんがいつまでたっても印籠返してくれないから、ガウリイさんが教えてくれた情報をネタにして、恐喝・・・もとい、意地でも返して貰おうとこうしてリナさんの部屋に行ったわけなんですけど・・・・・・」
 すると、いままでの殺気だった表情とはうって変わって、いつもののほほんとした表情で、
 「なあぁぁんだ。あのときそう言ってくれれば、昨夜俺からリナに言ってやったのに」

 ぴきいぃぃぃぃぃん。

 ガウリイのにこやかな答えに周囲の空気が凍りつく。
 「あ・・・あの・・・・・・・・・ゆ・・・昨夜・・・っ・・・て・・・・・・?」
 「昨夜って・・・アメリアたちも部屋の向こうで聴いてたんだろ?
リナの弱点を突くんだったら、ナメクジなんかよりもずっと効果的だぜ?
それに・・・・・・」
 リナの腰を引き寄せ、ガウリイは唇を彼女の耳に近づけて囁く。
 「その方が俺も楽しいし・・・な?」
 「なっ・・・!?バカっ!
耳元でしゃべんないでっていつも言ってるでしょ!?」
 真っ赤になって抗議するリナにますます愛しさが込み上げ、さらに彼女をきつく抱き締めるガウリイ。

 そんな二人のアツアツ(死語?)ぶりにゼルガディスは鼻血を吹いて真っ直ぐ後ろに倒れていった。
 しかしアメリアはますます瞳をキラキラさせ、さらには身体をよじらせ、二人のラブラブ(これも死語?)を誇張するような発言をする。
 「ああっ!!やっぱり二人は結ばれる運命だったんですねっ!!
リナさんとガウリイさんが出会って早3年!
ガウリイさんがリナさんに『愛してるよ、リナ・・・』って愛の言葉を囁いて、リナさんも『あ・・・あたしも・・・』って返事をして・・・
そして二人でベッドになだれ込んで、『可愛いな、リナ・・・・・・』なんて囁かれた時にはもうッ!!
くうぅぅぅぅぅぅっっっ!!何と言うシチュエイションッッ!!!」
 かなりハイテンションなアメリアだが、彼女は気付かなかった。
 いつの間にガウリイから離れたのか(もちろん彼に飛び蹴りを食らわせ気絶させていたが)、リナが怒りのオーラを漂わせながらこちらに向かっている事に。

 「ふうぅぅぅぅぅん・・・・・・そういうことだったのね・・・・・・」
 「・・・あれ?リナさん、どうしたんですかぁ?
何か目がコワイんですけど・・・・・・」
 「このあたしをデバガメしてたなんて、いい度胸じゃないの。
アメリア、ゼルガディス、そこに直りなさい、心置きなく吹っ飛ばしてあげるから(はぁと)。
ガウリイ〜?あんた、よくもアメリアに余計なこと吹き込んだわね〜〜。
あんたも同罪よっ!大人しく吹っ飛ばされなさいね(特大はぁと)」
 「ちょ、ちょっと待ってくださいリナさん!
いくら照れ隠しでも、これはやりすぎですってば!!」
 「待て!俺は関係ないだろう!?」
 「おいリナ、こんなところで竜破斬かっ!?止めろぉぉぉっっ!!」
 アメリアといつの間に復活したのか、ガウリイとゼルガディスがそれぞれ待ったをかける。
 だが、それでリナの怒りが収まるわけではなく――

 「問答無用っ!!
増幅版・竜破斬〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

 ちゅどごおぉぉぉぉんっ!!

 「あ〜〜〜〜〜れぇ〜〜〜〜〜」
 「俺は関係ないだろぉ〜〜〜〜〜〜!?」
 「リナ〜〜〜〜〜〜〜覚えてろよ〜〜〜〜〜!!」

 キラーン☆

 かくして。
 すでに荒野と化していた宿の部屋に残されたのは。
 顔を真っ赤に染めてわなわなと震えるリナと、先程外で様子を窺っていた野次馬の人々だけだった。

 その後。
 リナ達は村人から宿屋の弁償をさせられたが、その弁償はアメリアの印籠で賄い、挙句の果てにさらに一ヶ月印籠レンタルを言い渡され、後で彼女が泣いていたのは言うまでもない。
 その事件から、リナとガウリイはそれぞれ一部屋ずつ宿をとることになってしまい、ガウリイは毎日隣の部屋で眠る愛しい女を抱けなくて、生殺しの日々を送っているというのは、また言うまでもない事である。

 任務失敗・・・自爆(笑)


 

♪あははははーーっっ!!最高のおちをありがとうございますっ!!

アメリア、ゼル・・・あなたたちのとーとい犠牲は無駄にしないわ。この後にガウリイの八つ当たり攻撃が乱打しても、あなたたちの頑丈な身体なら大丈夫よね♪

アメリアって美味しいなぁ♪ガウリナファンへの斬り込み隊長って感じですよねvvどうせなら全部実況中継してくれればよかったのに〜〜〜(笑)

本当に楽しいお話をありがとうございました♪身悶えしながら笑わせていただきましたvv