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「・・・で、リナさんの弱点は・・・・・・
この手の中にありますっ!!」
と言って、アメリアがゼルガディスに右の握り拳を差し出した。
だがゼルガディスは、彼女のその行動の意味が理解できず、眉をしかめる。
「手の中・・・?まさか金貨だとか言わないだろうな・・・?
それはリナの『弱点』じゃなくて『好物』だろうが」
「ふふふ・・・・・・
よ〜く見てくださいよ〜〜。きっとびっくりしますから。
じゃ〜んっ!!」
そう言って、アメリアはゆっくりと右の握り拳をほどいていく。
ついに誰もが待ち望んでいた(?)、あのリナの弱点が月日のもとに晒される。
アメリアの右手の中で動いていたものは・・・・・・
うにょ。うにょ。
――艶やかに光る柔軟な体をくねらせ、アメリアの手のひらの上で蠢く茶色の物体――
ナメクジ・・・だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アメリアを除く周りの空気がたっぷり30秒凍りつき――
大地を震わしかねない絶叫が夜の静かな街に響き渡ったのだった――
「な・・・な・・・な・・・・・・」
ゼルガディスは、あまりの出来事に口を大きく開いたままその場に硬直した。
それはそうだろう。
いつも傍若無人で、周りの迷惑顧みず暴れまくり、世間から「盗賊殺し」やら「ドラまた」やら「魔王の食べ残し」やらいろいろ噂されて(実際噂じゃなくて本当のことだったりするのだが)恐れられているあのリナの弱点が、この小さな物体とは・・・。
あまりにも意外な事実に、彼女をある意味よく知るゼルガディスは驚くどころかそれを通り越して硬直するのはさも当然の事だった。
「・・・・・・ね?びっくりしたでしょ?
最初私も驚きましたけど、これを怖がるなんて、『盗賊殺し』とか『ドラまた』とかで名高いリナさんも、やっぱり女の子なんですよね〜」
何やら恐ろしいことをさらりと笑顔で言ってのけるアメリア。
「・・・・・・それはいいが・・・・・・
お前、その物体をいつまでも手に乗せといて平気なのか・・・・・・?」
やっと硬直状態から復活したゼルガディスがこめかみを押さえながら疲れた声で問う。
「え?・・・・・・あぁ、これですか?
大丈夫ですっ!いつもこういうものには見慣れてますから。
それにっ!ナメクジって黒焦げにすると、香ばしい香りがすると思いませんか?」
「・・・・・・エスカルゴか・・・・・・それは・・・・・・(汗)
・・・・・・まぁ、それは置いといて、だ。
これからその物体をどうするつもりだ?」
「ええ。リナさんたら、いつまで経っても印籠返してくれないから、これを使って脅し・・・もとい、話し合いをして返して貰うんですっ!!
いくらリナさんでも、これを目の前にすれば、大人しく印籠を返してくれるでしょうっっ!!」
アメリアの無謀というか、何とも命知らずな提案に、さすがのゼルガディスも顔が真っ青になる。
「・・・お・・・おい!?
お前、そんな世界を滅ぼしかねないような恐ろしい事をやろうとしているのか!?
止めろ、今すぐ止めろっ!
そんな事をすれば、この街が竜破斬で一瞬で吹っ飛ばされるどころか、俺たちの命さえなくなるぞっっ!!」
「心配はいりませんっ!!
そういうこともあろうかと、ナメクジたっくさん用意しましたからっっ!!」
「そういう問題じゃなあぁぁぁぁいっっ!!」
「さぁっ、行きましょうっゼルガディスさんっ!!
セイルーンの正義と平和のためにっっ!!!」
「やぁぁめぇぇろぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
嫌がるゼルガディスを引きずり、アメリアは偉大なる目的達成のためリナの部屋へと向かう。
と、そのときだった。
『・・・・・・あん・・・・・・』
少女の声がどこからともなく聞こえたのは。
「・・・・・・?」
アメリアはふと辺りを見回し、その声がどこから聞こえたか探り出す。
「どうした、アメリア?」
「今・・・誰かの声が聞こえませんでした?」
「・・・・・・?
いや、俺には聞こえなかったが・・・・・・
気のせいじゃないのか?」
「・・・そうですね。こんな夜中に人の声が聞こえるわけありませんよね・・・」
やっぱり気のせいかなぁ?
でもさっきの声・・・誰かの声に似てるような気がしたんだけど・・・・・・
そう思いながら、リナの部屋のドアノブに手をかけようとしたその時、またあの声がアメリアの耳に入ってきた。
『・・・ん・・・はぁ・・・・・・やぁ・・・ん・・・・・・』
ぴしっ!
「・・・・・・ま・・・まさか・・・・・・!?」
一瞬部屋を間違えたのかとアメリアは思った。
しかし、どうあってもここはリナの部屋だ。
リナの部屋は宿の一番右端。
そのすぐ横に階段があるため、見つけるのにとても判りやすい部屋だったからだ。
さっきの声が聞こえたのも宿の一番右端の部屋。
それはつまり・・・・・・あの声が聞こえたのはリナの部屋からになるわけだが・・・・・・
ある事を考えて、アメリアの顔が見る見る真っ赤に染まる。
「・・・どうした?アメリア?」
アメリアのただならぬ様子に何かを察し、ゼルガディスは足音を殺してドアの前でかがんで、そっと自分の耳をドアに近づけて部屋の中の物音を探る。
『・・・ん・・・はぁぁん・・・・・・ガウ・・・リイ・・・・・・』
『リナ・・・リナ・・・・・・』
ぴきいぃぃぃん。
その声を聞いた途端、ゼルガディスはドアの前にかがんだ格好のまま再び硬直した。
身体中は氷のように固まっているが、顔は赤くなるどころか紫色に変わっている。
このまま勢いよく鼻血吹いて倒れかねない状態だ。
「だ・・・大丈夫ですかっ!?ゼルガディスさんっ!」
ドアの向こうにいるリナとガウリイに聞こえないように小声でゼルガディスに声を掛けるアメリア。
「あ・・・ああ・・・大丈夫だ・・・・・・
・・・しかし、まさかあの二人が『そういう関係』だったとは・・・・・・
正直言って驚いたな」
ゼルガディスも驚くのは無理ないことかも知れない。
お互いに信頼しきっていて、戦いのときでも背中を預けられる相棒のような関係――。
アメリアもゼルガディスも、最初はリナとガウリイの関係をそんなようなものだと思っていた。
しかし、冥王フィブリゾを倒してから、二人の関係は少しづつ微妙に違っていった。
リナを見つめるガウリイの瞳に、『保護者』の時とは違うものが込められていることに。
――『男』としてリナを護りたいという感情――。
アメリアもゼルガディスも彼のリナへの切ない想いに薄々気づいていた。
しかし、リナは恋愛に関してはことごとく鈍いため、ガウリイがさりげなくアプローチしても気づいて貰えない。
そんな二人を数ヶ月見ていたから、想いが結ばれるのはずっと先だろうと思いつつ、あまりにも不器用な二人に少々もどかしさも感じていた。
それが、この数ヶ月の間に何があったのか――。
それはわからないが、とりあえずガウリイの長年の想いが叶って、またそれに関しての愚痴を聞かされなくて済むなとゼルガディスは思った。
『可愛いぜ、リナ・・・・・・特にココはな・・・・・・』
『ちょっ、そこはっ・・・・・・やぁ・・・・・・んっ・・・・・・』
二人の掠れた、しかし甘い声が夜の静かな宿の廊下に響き渡る。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
二 人は赤くなりながらしばしお互いの顔を見合ったまま沈黙し――
その長い沈黙を破ったのはアメリアだった。
「・・・・・・もうここまで関わってしまった以上、最後まで見守るのが真の友情というものっ!!
・・・というわけでっ!
あの二人がどこまでいくのか、暖かく見守りましょうっ、ゼルガディスさんっ!!」
「・・・・・・をい・・・何が真の友情だか・・・・・・(汗)
それにお前、ここに来た本来の目的を忘れていないか・・・・・・?」
しごくもっともなツッコミをいれるゼルガディス。
しかしアメリアは、ゼルガディスをびしいっ!と指さし、
「何を言ってるんです、ゼルガディスさんっ!!
恋愛に関してはこと鈍いあのリナさんが、ですよ?
この部屋の向こうで、ガウリイさんにあ〜んなことや、こ〜んなことをされてるんですよっ!今っ!!
きっと今ごろは・・・・・・きゃ〜〜、何というシチュエイションッ!!!」
あれこれ想像しながら身体をくねらせ、最高潮に興奮しまくって盛り上がってるアメリア。
そんなアメリアを多少呆れた顔で見やると、ゼルガディスはドアにはりついてたままのアメリアの手を取り、引き剥がす。
「・・・ああっ、何するんですか、ゼルガディスさんっ!
せっかくいいところだったのにいぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
「・・・・・・お前なぁ・・・・・・(汗)。いつまでもそんなところにいては、風邪ひくぞ。
それに、ここでデバガメしたことが旦那やリナに知れたら、間違いなく殺される。
俺はこれ以上巻き込まれるのはごめんだ」
「・・・・・・う・・・・・・
で・・・でもぉ・・・・・・私にはお二人の未来の行く末を見守るという重大な任務がぁ・・・・・・(涙)」
「そんなのは何時でもできるだろうが。
それより、早く印籠を取り返す事の方が先決だろう?
セイルーンの正義と平和のためじゃなかったのか?」
ぴくっ。
『正義と平和』というゼルガディスの言葉に、アメリアは一瞬反応し、やがてゆっくりと立ち上がる。
「・・・そ・・・そうでしたね・・・・・・
つい己を見失って、危うく本来の目的を忘れてしまう所でした・・・・・・
そうっ!
私には、悪を滅ぼし、正義を世に知らしめるという使命があったのですっ!!
そのためには、どうしても印籠が必要なのですっっ!!!
ありがとうございますっ、ゼルガディスさんっっ!!
おかげで目が覚めましたっっ!
やっぱりゼルガディスさんは頼りになりますぅ〜♪」
「そ・・・そぉか・・・・・・それはなによりだな・・・・・・」
やっと本調子を取り戻し、正義の炎をたぎらせるアメリアにガラにもなくやや頬を紅く染めながら、ゼルガディスはぶっきらぼうに言う。
「ふっ、そうと決まれば、早速行動開始っ!・・・と言いたいところですが・・・
お楽しみの所邪魔しちゃ悪いので、今夜は身を引いてあげますよ、リナさん。
明日こそ必ず、正義と平和のためにあなたから印籠を取り返してみせますうぅぅぅぅぅっっ!!」
両手をぎゅっ!と握り拳を作り、月の輝く夜空に向かってそう宣言しリナの部屋をあとにするアメリア。
「ここまで付き合ってた俺って・・・・・・一体・・・・・・?」
彼女の後に続くゼルガディスの脱力した声が、宿の廊下にゆるやかに流れていった――
――一方その頃。
「・・・どうしたの、ガウリイ・・・・・・?」
先程から少女に覆い被さったまま動かない金髪の青年を見やり、少女――リナは眉をひそめて問う。
青年――ガウリイは、リナの問いにいつもののほほんとした笑顔で答える。
「・・・いや。
ずっと外の方で何かの気配がしたんだが、さっき消えた」
「ま・・・まさかっ!?
さっきのすべて外に聞こえてたんじゃないでしょうね!?
いい度胸じゃないの!!早速そいつぶっ飛ばしちゃる!!」
ゆでダコのように真っ赤になり、今からその不届き者を成敗しようとベッドを降りようとするリナだったが、ガウリイに後ろからがしっ!と抱き締められてしまう。
「ちょっ・・・何するのよガウリイ!
デバガメしたそいつぶっ飛ばさないと、あたしの気がおさまんないのよっ!!」
じたばた暴れだしたリナの頭にぽんっ、と手を置き、ガウリイは何事も無かったような口調で、
「まぁいいじゃないかリナ。
そう心配しなくても、そいつの正体も大体目星ついてるから」
「え・・・?それはどういう・・・・・・んっ・・・・・・」
そう言いかけたリナの唇をガウリイが自分の唇で黙らせる。
それだけの行為が、彼女の瞳に宿る強い光を奪っていく。
それと同時に、身体から力が抜けきり、ガウリイの厚い胸板に顔を埋める。
そんなリナに愛しさを感じ、耳元でそっと囁く。
「というわけで、また最初からだ。
途中で邪魔者が入ったせいで最後までできなかったしな。
ま、これも運命と思って諦めてくれよ、リナ♪」
「そんな運命いらないぃぃぃぃぃっっ(泣)」
「照れない照れない。今夜は寝かさないからな(はぁと)」
「ちょっと待って・・・・・・って・・・・・・あん・・・・・・」
二人の『じゃれあい』は朝日が昇る頃になっても延々続き、宿の食堂には青年が少女を担いで食堂に向かう階段を下りる姿が目撃されたという――
またまたつづく
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