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夢を、見た。
その夢の記憶は、もうほとんど薄れてしまっているのだけれど。
かすかに覚えているのは、見知らぬ街角と、誰かのやさしげな瞳と。晴れた日の空のイメージ……
『い〜い天気ねぇ……』
とっても天気の良いある日。大学内のカフェテリアに向かいつつ、あたしは呟いた。英語で言ってしまったのは、一週間前までアメリカに留学してた名残って事で。
あたしは先週、半年間の留学を終え、こっちに帰ってきたばっかりだった。その間に改装してたカフェテリアがようやく完成したって聞いて。帰国後の慌しさから逃げようと、こうしてやって来たわけだけど。
その慌しさの原因(?)のひとつを思い出して、思わず苦笑がもれる。
向こうに行ってすぐの夜に見たあの夢のことを話したら、『それはきっと予知夢です! いつかそういう人と、運命的な出会いをするに違いありませんっ!』とか何とか言って、一人で盛り上がっちゃってるひとがいるのだ。
もともとおまじないとか占いとか信じるほうじゃないから、予知夢、なんてものもあんまり信じてない。自分のカンは、信じるけどね。
そんなことを考えながらカフェに足を踏み入れて。
――デジャ・ヴュ。
どこかで見た、風景。
そんなわけは無い。改装してから、今日初めて来たんだから。
けれど、まるでどこかのおしゃれな街角のように造られていた、テラスもある、そこは。
あの、夢……
ふるり、と首を振る。
偶然よね、ぐーぜん。
そう自分で納得して、カフェオレを手にテラスへ向かう。人は疎らだ。
隅っこのテーブルに陣取って、読みかけの本を開く。最近、ゆっくり本を読む時間もないからなぁ……
本の世界に入り込んで、しばらく。
なんだか妙な感じがして、視線だけを上げる。妙な感じ、って言っても、嫌なものじゃなくて……
少し離れたテーブルに、人がいた。あたしが本に夢中になってる間に座ったんだろうけど。
最初に見えたのは、長い金髪。さらさらしてて、まだ高い陽を反射してきらきら光ってて。女の人かと思ったんだけど、どうやらそうじゃないみたい。
少しずつ視線を上げていく。結構しっかりした身体つきしてるなぁ……足が長くて。相当背が高いわ、この人。
テーブルに頬杖をついてる。あ、指、長いな〜……
うわ。モデルに負けないくらいの顔立ち。こんなにかっこいい人、そうそう拝めないわね……空の青さを写し取ったかのような瞳は、一体どこ見てんのかしら……単に、ぼ〜っとしてるだけだったりして(^^;) あ、ちょっとえっちな唇してるかも。(−
−////)
……なんてことを考えてたら。視線に気づいたのか、その人がこっちを見た。
かちり、と視線が合う。
軽く眼を見開いて見つめてくる蒼い瞳を、逸らすことなく見返す。
不意に、夢を思い出す。
きっと、初めてじゃない――あたしは、あの人を知ってる――
その人がゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてきた。視線は外れない。外さない。
あなた、あたしを知ってる――?
目の前まで来た彼が、テーブルに手をついた。ゆっくりと、屈み込んでくる。下りてくる唇から、なぜかあたしは逃げなかった――
「なに、すんの? いきなり……」
それは触れるだけで、すぐに離れていった。とりあえず睨み付ける。
なんだか周りが騒がしい。黄色い声が聞こえる。そうよね、この容姿だもの、モテないわけが無い。目撃しちゃった女の人か……そう言えば、あっちでは挨拶程度だけど、こっちではそうもいかないか……
――なんて事を、あたしは妙に冷静に思っていた。普通だったら張り倒してやってるんだろうけど。
「どーゆーつもり?」
再び問い掛ける。なんとなく、周りに会話を聞かれたくないなぁ……
「いや、なんとなく、な……場所変えないか? なんか、目立っちまってるし」
「あなたの所為でしょ……いいわ、行きましょ」
本を持って、あたしは立ち上がる。
興味しんしんでこっそりついてきそうな人たちを彼が視線で牽制しているのが判った。
夢での彼は、こんな人、だっけ……?
「……なぁに、ここ?」
カフェテリアから逃げ出して、連れてこられたのは、あたしも知らなかった場所。
「ん〜? この間見つけたんだ。オレの秘密の場所」
振り返って、にっ、と笑う。お日様みたい……
「こんなとこ、あったのね……自然に出来たみたいだけど」
あたりを見回して呟く。あんまり歩いてないから、たぶん大学の敷地内だろうけど…… 木の間を縫って歩いてきたから、よくわかんないや。(^^;)
けど、木漏れ日があったかくて、座るのにちょうどよさそうな岩があったりして。うん、なんか居心地よさそう。今度読書に来よう。
なんて思ったところで、ふと気づく。
「……その秘密の場所に、あたしを連れてきちゃっていいの?」
「おまえさんだからな」
あっさりと返されて、ちょこっと顔が赤くなる。
何なの、ど〜ゆ〜意味なのよ、それ!? 今日逢ったばっかり(のハズ)なのに……
「そ、それはとにかく! ど〜ゆ〜つもり!?」
照れ隠しに、びしっ! っと指を突きつけて訊ねる……ああ、なんか某友人に似てきたかも……
「……どういう、って?」
ほけ、とした感じで問い返してくる。ほんとーに、解ってないんだろーか……
「だから……人前で、あんなこと……」
「ああ」
思い出したようにぽんっ、と手を打って、さわやかに。
「だから、なんとなく」
「なんとなくですんなぁ――――!!」
思わず、どっかから(笑)取り出したスリッパでドつく。
そりゃあ、キスくらい初めてじゃないけどっ! 『なんとなく』でされるのはいくらなんでも立場がないじゃない!!
「ど、どこから取り出したんだよ、そのスリッパ!?」
「乙女の秘密よ」
一瞬怪訝な顔をした気もするけど、とりあえず無視。
「ほんっと〜に、なんとなくなわけ!?」
「あ〜……え〜っと……どっかで、会っただろ?」
…………!?
「知らないわ、よ?」
「うそつけ」
軽く腕を引き寄せられて、瞳を覗き込まれる。
なんて深い、蒼……
「夢を、見たんだ」
唐突に話し始める。
ユ、メ……?
「覚えてるのは」
あたしの長い栗色の髪をひと房指に絡め、キスをする。
「真っ赤な夕焼けのイメージだけなんだがな」
青空が、あたしを見上げる。
「……あたしも、夢は見たけど」
お日様が、嬉しそうに微笑んだ。
「もっとイイ男だったわ」
ずべ。
……あ〜あ、こけちゃった……ちょーっと、意地悪だったかな?
「あはは、冗談よ、冗談。あたしが覚えてるのは、晴れた日の青空のイメージよ」
「お・ま・え・なぁ〜……」
よれよれと身を起こすのに、笑いながら言葉を投げかける。
「……とまぁ、そーゆー訳で、とりあえず一度は会ってるだろ」
やれやれ、と苦笑しながら、大きな手でくしゃり、と頭を撫でる。
「いじくんないでよ、もうっ!……あれって、『会った』って言っていいの?」
「いいんじゃないのか? 互いに覚えてるわけだし」
いーんだろ−か、そんなんで……?
「……それで? 結局何がしたかったのよ?」
『久しぶり』とか何とか言いたかったんなら、わざわざあんな、こと……しなくても良いと思うんだけど。
あたしの言葉に、お日様が苦笑する。
「オレは、おまえさんのこと、探してたんだけどな」
ときん、と心臓が跳ねる。
「なん、で?」
「冷たいなぁ……もう一回、会いたかったからだろ」
鼓動が、激しくなる。
あたしは……何を期待してるの?
「……だから、何で?」
「ほんとに、解んないのか?」
悪戯っぽく笑って、覗き込んでくる。それに、拗ねた視線を向けて。
「……わかん、ない」
違う。聞きたい。
仕方ないな、といった顔をしたと思ったら、いきなり腰をさらわれて。
「惚れたから、だろ」
耳元で囁かれる。
うぅ〜……耳は、止めて欲しいかも……
ううん、そんなことより。
「……ほんと、に……?」
「疑うのか?」
「だって、今日会ったばっかりじゃない」
「まだ言うか、そーゆーこと」
お仕置き、とばかりに耳に息がかかるようにして話してくる。
「ひゃ……!」
うわぁん! 恥ずかしいっ!! 何なのよコイツわっ!!!(><///)
顔を真っ赤にしたあたしをくすりと笑って、少しだけ、真剣になって。
「気にならなかったのか? あの夢」
「……予知夢って、あんまり信じない」
何とか、顔の赤みを抑えて答える。
「信じてみないか?」
……って、布教活動してんじゃないんだから、あんた。
でも、まぁ。
お日様がそう言うなら、信じてあげても、良いかな。
答える代わりに、笑みを浮かべる。
「それじゃ、改めて」
彼があたしの手を取り、口付ける。
「よろしくな、リナ」
「よろしくしてあげるわ、ガウリイ」
Fin
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