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―こんなに近くにいるというのに、あなたがひどく遠い気がするのは何故なのだろう?
〜Lina〜
いつもなら互いを貪り尽くした後は疲れ果てて泥のように眠り込んで朝まで目覚めることがないというのに、明け方にはまだ程遠いその時間に、唐突に彼女は覚醒した。
隣を見れば、先ほどまで情を交わしていた青年が眠っている。
その眉根が苦しげに寄せられているのは気の所為だろうか?
彼女は、我知らず泣いていた。
「・・・・・・・・・・・・愛してる・・の・・・・」
それは青年が起きている時には決して口に出来ない言葉。けれど、常に彼女の心の中心に眠っている。
「あい・・してる・・・・・・・・・・・・愛して・・・る・・・・」
繰り返し繰り返し同じ言葉を呟きながら、彼女は小さく嗚咽を漏らした。
青年は、彼女を酒に酔って無理やり犯したと思い込んでいる。その責任を取るためだけに自分と共にあるのだ。だが、それがそうではないとしたら?青年にそう思い込ませるように彼女が仕向けと知ったら?
愛してもいない彼女の傍に、ましてや策を弄して自分を縛り付けようとした女の傍に誰がいようとするだろう。軽蔑し、彼女の前から去っていくに違いない。
「・・・・・・・・・ガウリ・・ィ・・・」
彼女はその瞬間を想像して身震いした。
(決して知られてはいけない!!)
だが、そんな彼女の想いはあっけなく砕け散る。
「リ・・・ナ・・・・?」
蒼穹を映したような瞳が、真っ直ぐと彼女を見詰めていた。
〜Gourry〜
彼女が起き上がる気配を感じていた。
起き上がり、そうして静かに泣き出す気配をも。
(・・・・罪悪感に苛まれる。)
彼はとっさに眠っているふりをした。
酒の勢いに見せかけて彼女を汚した。彼女の憎しみを、彼女の人生を自分に縛り付ける為に。
そして、一度箍が外れた理性は容易に瓦解して、夜毎日毎、言葉巧みに彼女を抱き締めている。
「・・・・・・・・・・・・してる・・の・・・・」
彼女が嗚咽を漏らしながら、何かを呟いた。
「あい・・してる・・・・・・・・・・・・愛して・・・る・・・・」
その言葉を聞き取った瞬間、彼の胸に衝撃が走った。
(誰か、好きな男でも出来たのか?!)
どんな経緯にせよ。男を知ったことで少女は女となり、固い蕾が綻ぶように瞬く間に美しくなった。
出会った頃からいくらか年を重ね、華奢なだけだった手足が丸みを帯びて女性らしくはなってきていたが、それ以上に内面が変わったのだろう。匂いたつような艶やかさが生まれたのだ。それこそ大輪の華を誇るように。
彼女に恋する男も増えた。その中で、彼女の心を捉えた男がいたとしても何もおかしなことではないのかも知れない。
(手放すものか・・・)
彼の心の中に深い闇が生まれた。
(彼女が男の元へ行こうとするのであれば、相手の男を殺してやろう。)
だが、そんな青年の想いはあっけなく砕け散る。
「・・・・・・・・・ガウリ・・ィ・・・」
彼女が切なく呼んだのは、自分の名前。
驚愕に、彼は眠ったふりを忘れていた。
「リ・・・ナ・・・・?」
涙に潤んだ紅い瞳が、呆然と見詰め返していた。
〜Lina〜
カタカタと、リナは小さく震えていた。
自分で自分を抱きしめても一向に震えが止まらない。
「・・起き・・・・て・・たの?」
「泣き声が、聞こえたから。あとは、“愛してる”そう聞こえた。リナ、あの台詞はどういう意味なんだ?」
ガウリイの言葉にリナは気が遠くなる。
気配に敏感なガウリイのことだ。泣いたりなんてすれば気付くに決まっているのに。
(わたしはバカだ。結局、自分の手で全てを壊してしまった・・・・。)
そう思った瞬間、ずっとリナの中で燻っていた想いが弾けた。
「どういう意味ですって?そのままじゃない。わたしはアンタを愛してるのよ!!」
あまりにも悲痛な叫び声だった。聞いている方が胸を締め付けられるほど痛い想い。
「ずっとずっと好きだった。でもアンタにとって、わたしはいつまでも出会った時の子供のままで。耐え切れなかったのよ。だからあの日、お酒に酔ったふりをしてアンタを誘ったの。アンタは気付いてなかったかも知れないけどね・・・・」
俯いたまま、リナはフッと自嘲するかのように笑った。
「アンタも男だったってことよね。ずっと子供扱いされてたから、もしかするとわたしなんかが誘ってもダメかなって思ってたけど、あんなにあっけなく引っかかるんだもん。それとも、わたしのお守りで女の人と付き合う暇もなかっただろうから、欲求不満で誰でも良かったってことかしら?」
言葉が止まらなかった。もしかしなくても、言わなくていいことまで言っているのかも知れない。けれど、もう何もかもどうでもいいと思った。自暴自棄になっているのかも知れない。リナにとってガウリイを失うとことは、全てを失うことと同等なのだから。
「アンタが、これは間違いでしたって言って済ますような性格じゃないの分かってるから、罪悪感から絶対責任をとろうとするだろうなって思ったの。だから・・・・・」
リナは俯いたまま、どうしても顔を上げることが出来なかった。今、ガウリイがどんな表情をしているのか、見るのが恐ろしかった。
(呆れている?それとも、なんて女なんだって蔑まれてる?)
断罪を待つ罪人のように、リナは身体を固くしてガウリイの言葉を待った。
〜Gourry〜
「・・・・・・あとは」
(聞くと後悔するかも知れない。あんなにひどいことをしたというのにリナが俺を愛しているなんて、そんな都合のいいことあるわけがない。これは俺の願望が生み出した夢かも知れない。)
だが、夢というにはあまりにもリアルで、この誘惑に抗う術を俺は持っていなかった。
「“愛してる”そう聞こえた。リナ、あの台詞はどういう意味なんだ?」
ビクリとリナが身体を振るわせた。
(やはり聞き違いだったのか?!)
だが、ガウリイがそう思い直すより早く、リナが悲鳴を上げていた。
「そうよっ、アンタを愛してるのよ!!ずっとずっと好きだった。でもアンタにとって、わたしはいつまでも出会った時の子供のままで。耐え切れなかったのよ。だからあの日、お酒に酔ったふりをしてアンタを誘ったの。アンタは気付いてなかったかも知れないけどね・・・・」
一息に叫ぶと、リナはフッと溜息交じりに苦笑を漏らして俯いてしまう。
「アンタも男だったってことよね。」
ボツリと呟かれた台詞。
リナにとっては何気ない一言だったが、ガウリイにとっては己が隠してきた浅ましい姿を付き付けられ、責められている気がした。
自分の、男としての顔は保護者の仮面の下に上手く隠してきたつもりだった。だが、本当はとっくの昔に見透かされていたのだろうか。
「ずっと子供扱いされてたから、もしかするとわたしなんかが誘ってもダメかなって思ってたけど、あんなにあっけなく引っかかるんだもの。それとも、わたしのお守りで女の人と付き合う暇もなかっただろうから、欲求不満で誰でも良かったってことかしら?アンタが、これは間違いでしたって言って済ますような性格じゃないの分かってるから、罪悪感から絶対責任をとろうとするだろうなって思ったの。だから・・・・・」
〜En permanence〜〜
―あなたを手に入れたのに孤独を感じるのは何故だろう。寂しいと思ってしまうのはどうしてなのか?
ガウリイは血の気の引く思いでリナの言葉を聞いていたが、リナの声に自嘲の響きが混じるのを感じた瞬間、リナの身体を抱き締めていた。
「リナが悪いんじゃない!悪いのは俺だ!!」
それまで沈黙を守っていたガウリイの突然の激しさに、リナは怯えた。
いつも真っ直ぐに前を見詰めて誰よりも輝いていた存在が、今はガウリイの腕の中で震え、ひどく小さく頼りなく、痛々しささえ感じさせる。リナをここまで追い詰めたのが自分であることに、ガウリイは己が腹立たしくて仕方なかった。
「すまない・・・・・俺が卑怯だったばかりにリナを傷つけた。」
「ガウリイ?」
「リナを子供扱いしていたのは、そうしないと俺がどうにかなりそうだったからだ。ほんのちょっとのきっかけさえあれば、保護者なんて名目、容易く壊れそうだった。俺はリナに惚れてるよ、もうどうしようもないほど。だけど、今更どういう顔をして男としてリナに惚れてるなんて言える?」
そう言って、ガウリイは自分の腕の中に大人しく納まっているリナを見たが、リナはガウリイの胸に顔を押し付けていてその表情は伺い知れない。けれどその耳が僅かに紅くに染まっているのが見えた。
「リナは知らない。俺がどんな風にお前を見ていたか。俺は、もうずっとリナを抱きたいと思っていた。ちょっとした仕草を見る度に欲情して、何でもない顔をするのに大変だった。」
「ガ・・ガウリイッ?」
リナは、ガウリイのあまりに率直な物言いが恥ずかしくて暴れ出すが、リナが多少暴れたくらいではガウリイの拘束を解くのは難しい。ジタバタともがくリナをガウリイは愛しげに見詰めた。
「リナを子供扱いすることで俺は自分自身を戒めていた。だけど俺はもう限界だったんだろうな。保護者の顔をしながら、その裏ではリナを抱くための口実を必死になって探していたような気がする。」
いつの間にかリナは大人しくなっていたが、ガウリイは気付かないまま言葉を重ねていく。
「あの日、もしリナが全くそんな気がなかったとしても俺は、酒の所為にして無理やり抱いていたよ、きっと。本当にもう限界だったんだ。」
「アンタ、それだとやることしか考えてないように聞こえるわよ。」
全身を真っ赤に染めながらも、リナは呆れたように憎まれ口をたたいた。いつものように。
ガウリイは苦笑し、逃がさないようにほんの少しだけ腕に力を入れると、耳元で囁いた。
「そう言われるとそうかもな。・・・まぁ、俺も健康な男だし?」
「ば・・・・・ばか。エッチ!!」
「ばかって言うのはひどいよな。先に話題を振ったのはリナだろが。」
「それでも、もう少し言い方ってもんがあるでしょう?」
リナが怒鳴りながら顔を上げると、ガウリイの優しい色の瞳と視線がぶつかった。
視線が交わり、どちらからともなく微笑んだ。
(あっ・・・)
そうして二人同時に気付く。自分が、相手が、随分と長く笑っていなかったことに。
常に不安が纏わりついて心から笑えなかった。思い返せば、同じように相手の笑った顔を見た記憶もなかった。お互いが自分の心を隠すのに必死で、相手の様子に気付けなかった。いつの間にか相手からは笑みが消えていたというのに。
「同じだったんだ、わたしたち。」
「ああ・・。」
「随分と遠回りしたかもね。」
「だけど、必要なことだったんだろうな。」
「うん。」
たった一歩。
それがどうしても踏み出せなかった。無理をして、方法を誤ってしまった。
けれど、間違いに気付いたのなら正せばいい。二人が一緒にいる限り、何度でもやり直せるだろう。
リナはガウリイに身体ごと向き直すと、とても綺麗な笑みを浮かべた。
「わたしね、ずっとガウリイに言いたかったことがあるの。言えなくて、とても苦しかった。」
「俺も言いたいことがある。俺にはそれを言う資格なんてないと思ってた。」
視線を合わすと、相手の瞳の中に自分の姿が映っている。
(こうすれば良かったんだ。最初から・・・・・・)
お互いの身体をそっと抱き締め合った。
「「あなたが、欲しい。」」
―遠くにいると思っていた。けれど、気付けばあなたはすぐ傍にいた。
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【完結編まで終了した感想?】
リナが弱々で別人です。ガウリイも何か違う気が(汗)
今回のお話、文章は全くダメダメなくせに、変なところでこだわってみたのですがお気づきになったでしょうか?
リナ編では「貴方」
ガウリイ編では「貴女」
完結編では「あなた」 と使い分けてみました。
※昨夜の出来事は暴走した結果なので却下。(←え?知らない?・・・そりゃあ秘密の世界に展示してあるからねぇ。くすくすvv・by和音)
お互いに想い合っているのにすれ違ってしまった二人と、最後に想いが重なった二人を、呼称を替えることで表現したかったのですが、上手くいったかどうかは不明です(笑)
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