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「一体、何の用があるんですか?昨日思いっきりぶっとばした僕に対して」
「あ・・・あれはあんたが悪いんでしょーがっ!!あたしは過去にはこだわらない主義なのっ!
ほら・・・昨日の敵は今日の友って言葉もあることだし☆」
「リナさんの中では、昨日はもう過去なんですね・・・」
ふー、とわざとらしいため息をつくゼロス。
「うっさいわね。今日あんたを呼び出したのは・・・その・・・ちょっとあんたに頼みたいことがあってさ」
「リナさんが?僕に頼みごと?」
「ぶっちゃけて言わせてもらうわね。
ゼロス、あたしに色仕掛けについてレクチャーしてくれない?」
「はぁ?」
「ただいまー」
現在滞在中の宿屋に戻ると、食堂で昼食をとっていたガウリイがふり返った。
「お前さんが昼メシ前に出かけるとは珍しいこったなー。天変地異の前触れか?」
明るく微笑むガウリイ。
「・・・お年頃の美少女には色々悩みがあるもんなのよ」
席に着く。目の前にはおいしそうな食べ物が並んでいるけど、あたしは箸をつけようとはしない。
おばちゃんが淹れてくれたハーブティーをゆっくり飲む。
「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
いつもなら、ガウリイと競い合って食べるあたしなんだけど。
「んー・・・いっぱいおごってもらっちゃったんだよね。欲しいならあげるけど?」
「底なし胃袋所持してるくせに、珍しいな。くれるって言うなら貰っとくが・・・返せと言っても返さないからな!!」
そう言うなり、ものすごい勢いで食べ物をつめこみはじめるガウリイ。
あたしはそれを見つめながらポツリとつぶやいてみた。
「あたし、男と会ってきたんだけどな〜」
「あぁ、ゼロスだろ?」
こっちをふりむきもせずに、あっさり言い放つガウリイ。
「・・・知ってたの?」
「ゼロスと歩いていくお前さんの姿が窓から見えた。
昨日怒り狂って攻撃魔法ぶっ放しまくってたくせに、もう仲直りしたんだな。なんだかんだ言ってお前らって仲いいよな・・・いってぇ!」
あたしは近くにあった分厚い本で、思いっきりガウリイの頭を殴っていた。(もちろんカド使用)
「このクラゲっ!あんたなんか酢の物にされちゃえ!」
言い捨てると、潤んだ瞳を見られたくなくて、あたしは二階へ駆け上がった。
「あの馬鹿クラゲっ!あれが・・・両思いになったばかりの恋人に言うセリフなわけっ!?」
自分の部屋のベッドに腰かけ、枕に拳を叩きこむが少しもすっきりしない。
口をへの字にしてベッドに転がると、逆さまになった視界の中に見慣れないものがうつった。
「あ、すごい。ゼロスってばさすが公務員、仕事が早いわ〜♪」
あたしは立ち上がり、机の上に置かれた一通の書簡を手に取った。
話を二時間前に戻してみる。
思いっきりすっとんきょうな反応をしたゼロスが我に返ったのは数十秒後だった。
「あの・・・どういうことなんでしょうか」
「ちょっとねー。常に知的好奇心あふるるリナ・インバース様の研究の一環なわけよ。ほら・・・」
あたしは少し言葉につまる。
「その・・・ほら例えば!やっぱこの先の情報収集の際にさ、色仕掛けができれば便利じゃない?
男って所詮、金と酒と女には弱いんだから。
でもさ、あたしの美貌と口車だけではやっぱこう・・・決め手に欠けるのよ」
「リナさんには不可能な分野もありますしねー」
・・・体で魅惑すんのは無理だっつーことを言いたいんだな、こいつは。
一瞬、昨日の(一方的)魔法合戦再び!という気分になったけど我慢する。
「・・・で、あたしにもできそうなその他のテクニックを教えてもらいたいわけ」
ゼロスは顔に浮かべた笑みをより深くする。
「どうして僕に?」
「だって、あんたが一番そーいうことに詳しそうなんだもん。ゼルとかアメリアには聞くだけ無駄って感じだし」
「ガウリイさんに直接聞けばいいじゃないですか。どうすればその気になってくれるのかって」
「それが出来ないからあんたに頼んでるんじゃないの・・・ってどぇぇぇっ!?」
あたしはずさっと後ろにとびすさる。
ゼロスはニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「僕が気づいていないとでも思ってたんですか?それだから、リナさんはまだまだなんですよ♪」
こ・・・こいつ!
「・・・全部わかってて、あたしをからかってたわけ?」
あたしが昨日ぶち切れたのも、こいつの一言のせいだったりするのだ。
「もちろん。僕にとっては『楽しい』のが一番ですからね。
それではさっそくレクチャーにはいりますか。まずはじめに・・・」
「ととと、ストップ!・・・ごめん、あたしの目的知られた上であんたのレクチャーうけるのは恥ずかしすぎる。
悪いけど通信教育にしてくれない?」
その後「昼ごはんおごりますから色々聞かせて下さいよ♪」と言うゼロスにひっぱってかれたあたし。
メシは食うが口は滑らすまいと決意したのだけど・・・少し愚痴ってしまった。
「・・・告白は、されたの。でもそれっきり。
その次の日からのガウリイの態度はまーったく今までと同じってわけ。
そりゃ・・・多少今までより優しくなったかな?という気はするけど・・・気のせいと言われればそれまでだし。
あれは冗談だったのかな・・・とか考えちゃったり、一人でもやもやしてるの嫌になっちゃったのよね。
そんなわけで、あたしから動きたいのよ!」
ゼロスは少し考え込んでいたが。
「わかりました。まぁ、僕のレクチャーを信じてください」
そう言ってにこりとしたのだった。
あたしとガウリイがそういう関係になったのは・・・だいたい一ヶ月前。
夜中突然あたしの部屋にガウリイが来たときには、心臓が止まるかと思った。
その次のガウリイのセリフで本当に止まってしまわなかったのが不思議でたまらない。
「突然で悪いが、お前さんの『保護者』から降りさせてもらいたい」
「な・・・っ!・・・どういうこと?」
いつになく深刻なガウリイの様子に、冷静さを装ったもののあたしの頭の中はパニック状態だった。
そんなあたしの様子を見て、ガウリイはふっと優しく微笑んだ。
「馬鹿。勝手に勘違いしてうろたえるんじゃない。
その・・・ずうずうしいかもしれないんだが・・・『恋人』に昇格させてほしいという意味のつもりなんだ。
リナにとって・・・それは迷惑か?」
正直なところ・・・迷惑だなんて思いもしなかった。嬉しくて嬉しくて、夢じゃないかと思っていた。
でも正直じゃないあたしは照れくさくって。
「・・・どうしてもって言うなら、昇格させてあげなくもないわよ」
「そうか。じゃぁ・・・どうしても、だ」
ガウリイは一歩あたしに近づく。あたしはぎゅっと目をつぶったけど・・・。
「夜中に悪かったな。・・・おやすみ」
ガウリイはくしゃっとあたしの髪をかきまぜ、そして部屋から出て行った。
そして・・・それからのガウリイは今までと変わらないガウリイだった。
「仲のいいご兄妹ね」と宿屋のおばちゃんに言われてしまうような二人だった。
でも・・・あたしは、もうそれに耐えられないほどに彼を想ってしまっていた・・・。
「この手紙がゼロス講師の通信教育ってわけね。一体どういう内容なのかなー♪」
折りたたまれた紙を開き、あたしは読み始めるが。
・・・・・・・・・・・・。
「おい、リナ」
「うわきゃきゃ!」
思いっきり集中していたあたしは、ガウリイが部屋にはいってきたのにも気づかなかった。
いきなり声をかけられたのに驚いて、手紙を放り投げてしまう。
「何をそんなに集中して読んでるんだ?」
ひょいっと拾い上げたガウリイから、あたしは慌てて手紙を取り返した。
「な、何でもないから!」
自分の荷物のなかに突っ込んで隠す。
まさか、あんな内容だったとは・・・。恐るべし、ゼロス!
「・・・今の筆跡、ゼロスだよなぁ?」
「で、どうしたの?今日は一日オフだって言ったでしょう?」
あたしは無理やり話題を変える。するとガウリイは困ったようにつぶやいた。
「いや・・・さっきのリナの様子がおかしかったから・・・オレ、なんか怒らしちまったのかと思って・・・」
そういえば、あたし怒っていたんだっけ。
「ああ・・・別にもう怒ってないわよ」
あたしはくすりと笑うが、ガウリイはかがみこんであたしの前髪をあげる。
「・・・馬鹿、瞳が赤くなってるぞ。・・・泣いていたのか?」
ふわりとガウリイの香りがただよって、綺麗な顔がアップになる。
あたしは・・・思い切って、ことんと頭をガウリイの肩にもたせかけた。
びくっとガウリイの肩が揺れる。
「リナ・・・」
切なそうなガウリイの声。空気が甘いものになったと思った瞬間、ガウリイはすっと立ち上がった。
「眠いのに邪魔しちまったみたいだな。悪かった、ゆっくり寝てくれ」
「え?」
ガウリイは足早に部屋をでていく。残されたあたしは・・・ベッドの上でこっそりつぶやいた。
「ゼロスのうそつき」
その次の日。
昼の間にいくつか依頼をこなし、あたしとガウリイは疲れきって宿まで帰ってきた。
でもなぜか、今日は別行動をとっていたガウリイがやたらと不機嫌だった理由がわからない。
「どうしたの?」と聞いても「不愉快な男に不愉快なことを言われた」としか言ってくれないし。
ま、大方どっかのちんぴらにからまれたんでしょうと解釈することにしたんだけどね。
半分眠りながら食事をすませ、あたしはお風呂にはいる。その後、風呂上りで火照った肌を冷まそうと窓を開けたのだけれど。
「こんばんは」
窓の外に、ふわふわとゼロスが浮かんでいた。
「・・・何してんの?」
「レクチャーは役立ちましたか?」
あたしはムカッとする。
「アフターケアにも気をつけてくれるわけ?そりゃどーも」
「その様子だと・・・ガウリイさんの態度は変わっていないようですね」
「きっと、あの告白もあいつの笑えない冗談だったのよ。せっかく色々教えてくれたのに・・・ごめん、無理みたいだわ」
ゼロスは小首をかしげる。
「どうしてですか?態度が変わらないだろうことは予想できましたが、効果なしとは言っていませんよ」
「・・・その二つはイコールでは結べないと言うつもり?」
意味深な笑顔のゼロス。
「ほんとにリナさんはわかっていませんね。
今までずっと『保護者』をやっていた男が、そんなすぐに本能全開になれるわけないでしょう?
ま、やせがまんもそろそろ限界だろうと思いますけどね。念のために布石も打っておきましたし」
「何言ってんのよ」
あたしがいいかげんキレそうになった時、ゼロスはいきなり隣の部屋の窓を軽くけっとばした。
「そこはガウリイの部屋よ!?」
知ってますよ、と微笑みゼロスは室内にむかって言い放った。
「ガウリイさん、宣言どうりリナさんを口説きに来ましたよ。邪魔しないでくださいね」
「ゼロス!?」
あたしの呼びかけを無視し、ゼロスはあたしの部屋の中に着地した。
パニックに陥るあたしに近づくと、ゼロスはくいとあたしの顎を持ち上げた。
「今日の昼、僕はガウリイさんに会いに行ったんですよ。で、言ったんです。
『リナさんのこと、口説かせてもらっていいですか?』
ガウリイさんのあんなにイヤそうな顔、初めて見ましたよ。反応ですか?
『オレに聞くなよ!』・・・だそうです♪」
「あわわわ・・・ちょっとゼロス、離れなさ」
ガタッ、バンッ!だだだだっ!
ものすごく騒がしい音がしたと思うと、あたしの部屋のドアがいきおいよく開いた。
「リナッ!!」
「がうりい・・・」
びびりすぎて半泣きのあたしと接近度MAXのゼロスを見比べるガウリイ。
無言で近寄ると、ガウリイはあたしの腕をつかみゼロスから引き離した。そしてそのまま部屋から出る。
「ちょ・・・ガウリイ、ねぇ」
「・・・」
あたしが困ってゼロスを振り返ると・・・奴は『レクチャー修了』と書かれた紙を掲げ持っていた。
目をむくあたしだが、次の瞬間ゼロスの姿は視界から消える。
あたしはガウリイの部屋の椅子に腰掛けさせられていた。
ガウリイも近くにあった椅子に座り、ふう・・・と長いため息をついた。
「なぁリナ、昨日のゼロスからの手紙は・・・恋文とかいうやつだったのか?」
「へ?」
全く思いもかけなかったガウリイの言葉に、あたしはマヌケな返事をしてしまう。
「オレ・・・ゼロスがリナを口説くなんて我慢できなかったから、リナを連れてきちまったが。
・・・余計なお世話だったか?」
「そんなっ!」
「リナがゼロスのこと好きなら、オレ『保護者』に戻ってもいいんだぜ?」
ぱしっ!
あたしは気がついたらガウリイに平手打ちをくらわせていた。
「あんたがそこまでクラゲだとは思ってもみなかったわよ!あたしがいつゼロスを好きだって言ったの!?
あたしがいつ、あんたに『保護者』に戻ってくれって言ったの!?」
あたしは言い募りながら泣いていた。
「あたしを妹みたいにしか扱ってくれなかったのはあんたじゃないのよっ!
あの夜のことは冗談だったんじゃないかと、ずっとあたしは不安だった!
だからっ!だからゼロスに相談したんじゃないっ!!なのになんで、そういうこと言うのよ?
あたし一人、バカみたいじゃないのっ!!」
視界がぼやけて、頭まで痛くなってくる。ひっきりなしに湧いてくる涙を拭うのに必死だったあたしは、しばらくしてやっと、ガウリイに抱きしめられていることに気づいた。
「ごめん、ごめんな・・・」
ガウリイがあたしの耳元でずっとそう囁いていたことにも。
「初めてだったんだ、こんなに女の子を愛しく想うのは。オレが自分に正直になったら、リナを壊してしまいそうな気がして・・・。
だからずっと我慢していた。・・・でも結局、リナを泣かせちまったな」
あったかいガウリイの身体。あたしもそっと腕をまわしてみる。
あたしは・・・ずっとこうやってくっつきたかった。ガウリイにくっついて甘えたかったんだ。
「あたしも・・・我慢してた。本当はもっと素直になってガウリイにくっつきたかったんだよ」
そっと囁くと、ガウリイがくすりと笑った。
「オレたち、二人とも無駄な我慢をしていたんだな」
「ガウリイ、『恋人』昇格は・・・本気だよね?」
あたしの髪をくしゃっとかきまぜて、ガウリイは囁き返した。
「冗談だったつもりは全くないが。・・・迷惑か?」
「それを、まだ聞くわけ?」
あたしもくすりと笑った。
「そんなつもりは全くないわよ。・・・冗談じゃない証拠を見せてくれたら信じてあげるけど?」
ガウリイはあたしの身体にまわした腕に力をこめた。
「喜んでお見せしましょう」
リナたちの宿から少し離れた場所で『色仕掛け』レクチャー講師は木の枝に腰かけていた。
ひっそり彼はつぶやく。
「魔族のくせに、恋のキューピッドなんかを演じてしまいましたね。ま、楽しかったからいいんですけど」
しかし、彼は心の中でもう一言つぶやく。
(あそこで本気で口説いてみると言う選択肢も、ないわけじゃなかったんですよ)
「ま。お幸せに、リナさん♪ということで」
ゼロスはふっと闇に姿を隠した。
<終り>
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