ドラゴンもくわない


 

 春の午後、とある街道を、商人は馬車で進んでいた。
 ぽかぽかと眠くなるような陽気であったのだ、が。
 突如、行く先で爆発音が響き、砂煙が舞い上がった。
 商人は、盗賊か、モンスターか、今からでは引き返せないと真っ青になったものの、よく見れば、その類ではなく、剣士の男と魔道士の女が戦っているらしい。
 それは戦闘に疎い商人にもわかるほど、卓越した剣技と魔術であった。
 そして何より、真剣勝負のぴりぴりとした本気が、伝わってくる。

 

 その側に、少女と少年がいた。何やら場違いに楽しそうに会話している。
 「ドラグスレイブ三連発、どうやって避けてるんだろう?」
 「へえ、あの魔術のアレンジ、今度使ってみなくちゃ。」
 内容はよくわからなかったものの、慌てて商人は子どもたちに呼びかけた。
 「危ないから、こちらに来なさい。」

 が、驚いたように少女と少年は見返してきた。
 よほど自分は変なことをいっただろうかと、商人が台詞を反芻していると、少女の方が、得心がいったように頷いた。
 「あ、そうか。大丈夫です、おじさん。あれ、父さんと母さんだから。」
 商人はまさしく驚愕した。
 だが、落ち着いて見てみれば、少女は、魔道士の女性によく似た、生気あふれる可愛らしい顔立ち。
 少年は、剣士の男性にそっくりの美少年。

 その少年が言うには、
 「大丈夫ですよ。母さんと父さんが、僕たちに怪我をさせることは絶対にないから。
 それに、この程度なら、簡単に避けられるし。」
 不意にこちらに向かってきた炎の球を、少年が呪文を唱えて壁のようなもので防ぐと、少女が剣を一閃させ、飛んできた岩を切り刻んだ。
 「……、なるほど。」
 商人は納得する。両親があれだと、子どもたちも只者ではなくなるらしい。

 思わずこの四人を観察してしまう商人に、少女が話し掛けた。
 「もしかして、おじさん、心配してくれたの?」
 「まあ、そんなところだね(汗)」
 「いつものことだから、この程度で驚いてちゃダメよ?」と少女。
 「今日は、ちょうどいい場所があったから、手加減してないみたいだけど。」と少年。

 

 会話する間も二人の死闘は続いている。とうとう商人は次の質問を口にした。
 「で、君たちのご両親は何をしているのかね?」
 「夫婦間のコミュニケーション、ってやつよね。」
 「幻の肉料理か、絶品の魚料理か、決まらないから。」
 「期間限定なの、どちらか選ばなくちゃいけないのよ。」
 商人は、おそるおそるその内容をまとめてみる。
 「つまり、ご両親は、今日の夕食を、肉料理か魚料理にするかででもめていると?」
 ちょうど、戦う二人の会話が商人の耳に届いた。
 「ガウリイ、いい加減に観念しなさい!今日はぜーーったいに、お魚さんよ!」
 「いいや、リナ。今日という今日は譲らないぞ。肉料理だ、ぜったいに!!」
 そしてまた、手加減無しの真剣勝負は続く。

 

 商人は一筋の汗とともに、子どもたちに確認した。
 「つまり、夫婦喧嘩をしているのかね?」
 「そう、要するに、夫婦喧嘩。」
 にっこり、天使の笑みで二人は答えた。

 

 

 その時、ふと商人は魔道士の名前に気がついた。
 今、リナ、とか呼ばれていなかったか?
 まさか、まさかあの、リナ・インバース?ドラマタの?!

 一瞬、狼狽したものの、やがて商人は、なるほどと、深く深く頷いたのであった。
 「夫婦喧嘩は犬も食わないというが、これでは、ドラゴンも食うまい。」

  

 

 

 



 

♪ao-kionさんから前作と同時に頂いていたものです♪前作の数年後、って感じですねvv

リナにそっくりの可愛い剣士な娘とガウリイにそっくりの魔道士な息子。いいですねぇ♪

そして、親になっても変わらない2人の行動に笑いと共に嬉しくなりました。この商人によってリナの新しい呼び名が広まっていくんですね(笑)

1発ギャグ的な楽しいお話をどうもありがとうございました(^^)