Fairy Tail〜フェアリーテイル〜 

【2 見慣れた異世界】


 

 

 元々、『妖精』というものは人間に友好的ではあった。
 けれど、それはあくまでも『妖精側』から見ればの話ではある。
 その名の通り、『妖の精霊』であるのだから、その行動が人間に取って良い事であるとは限らないのだ。
 その中でも『ピクシー』は悪戯好きな妖精で知られている。
 物を隠したり、つねったりくすぐったりするまだ可愛いものから、旅人を迷わせて同じ場所をぐるぐる回らせ疲れさせたり、彼等のダンスを目撃した旅人をダンスの輪に引きずり込み一緒に時間の概念がなくなるまで踊らさせたりするなど、旅人に取っては出会いたくないような悪戯をしたりもする。
 中でも、人間に取ってはとうてい悪戯では済まないのが『取り替え子』だろう。
 人間の赤ん坊を攫い、妖精の子供と取り替えてしまうのだ。
 それらがどこまで本当の話なのかはわからないが、人間がピクシーを乱獲した原因の一端にもなっているのかもしれない。
 それでも、妖精と人間たちとは基本的に共生関係にあり、直接人目につく場所に出てくる事は少ないが、自身に恵みを与えた者には正しく報いると言われている。
 小さく愛らしい姿形をした、悪戯好きな人間たちの隣人。
 それが、ピクシー。

 ーーーー魔動書や民間で伝えられている姿はそんなものだ。
 けれどまさか、こんな事までしでかすなんて誰も知らないだろう。
 これもまた、『ピクシーの悪戯』なのだろうか。
 だとしたら、人間は愛らしい見た目にとことん弱い生き物だと言う事だ。
 確かに『可愛いは正義』と言うけれど。
 これは、いくらなんでもやりすぎじゃないかと思うのだ。

 

◇◇◇◇◇

 

 カーテンの隙間から眩しい朝日がベッドの上を照らし出している。
 閉じた瞼の裏が黄色く染まっている。今日もどうやらいい天気らしい。
 「………う…ん……」
 意識が眠りの淵から浮上して現実へと戻る準備を始める、心地良い微睡みの時間。
 ーーーー今日は……まず魔道士協会に行ってピクシーに関する文献を探して………その後に魔法道具屋に寄って……………ピクシーの隠れ里ってどこなんだろう………はぐらかされたまま逃げられないようにしないと…………
 無意識のうちに今日の予定が頭の中に組み込まれていく。それが楽しいものならば目覚めもいいものだ。
 「………ん〜〜〜〜……」
 思い切り身体を伸ばしてゆっくりと瞼を開く。ふわぁと溢れたあくびにと一緒に滲んだ涙を何気なく拭おうと無意識に腕を上げると、不意に妙に身体がスースーしている事に気付いた。
 「ん?………………え、ええ〜〜〜〜っなんでっ……」
 ーーーーなんで、あたし裸なのっ
 反射的に再び毛布の中に潜り込みながら、一気に混乱した頭の中で記憶を辿った。
 …………夕べは手に入れた『ピクシーの秘薬』を研究してて…手元にある材料じゃさすがに分析しきれるものじゃなかったから、楽しみはまた明日材料を揃えてからにしようって…あっさりと寝た…はず。
 フランボワーズがいたから、ガウリイが忍んできたってのは考えられないし……万が一そうだとしたら記憶がないってのはさすがにおかしい。お互い、お酒を飲んでたわけでもないんだし。
 ………暑くて脱いだとか?……いやいや、今まで真夏だってこんな風に寝てる間に脱いでたなんて事なかったでしょ。
 でも、誰かに脱がされたとしたってのもあり得ない。
 この部屋にそんなまねしようなんて輩がいたとしたら、あたしだけじゃなく隣室のガウリイが気付かないわけがないし。
 じゃあ、一体なんで………?
 いくら考えても記憶には何も引っかかってこない。
 「………………フランボワーズ?」
 可能性を1つずつ消していって、最後に残ったのは1人のピクシーの存在だった。
 あたしが寝る時には、彼女は既にタオルで作った即席ベッドで寝ていたし……あの小さな身体で何か出来るとは到底思えないけれど。でも、もしかしたら何か知っているかもしれない。
 「フランボワーズ?起きてる?」
 取りあえず首だけ毛布から出して小さな妖精の名を呼んだ。
 (………………あれ?)
 何か、妙だ。
 危険な気配とかじゃなくて、部屋が何となくおかしい。違和感を感じる。
 「フランボワーズ」
 返ってくるはずの返事はない。それどころか彼女の小さな気配すら感じられない。
 「まさか…………逃げた?」
 その可能性はあったから、寝る前に念の為に窓には封呪の魔法をかけておいたのだが。
 慌てて毛布から飛び起きると、部屋の違和感が更にはっきりとした。
 部屋が広い。旅人用の一人部屋なんてさしたる広さはないのに、壁までの位置も見上げた天井も高い。手足を伸ばしてもはみ出すどころか転がっても届かないくらいベッドまで広くなって…………
 「え…………ええええええ〜〜っっっ?」
 自分の状態がわかった途端、呆然とした絶叫が部屋の中に響き渡った。

 何故、裸で寝ていたのか。
 部屋もベッドもどうして広いのか。
 答えは簡単。
 ーーーーーあたしが、小さくなったからだ。多分、ピクシーと同じサイズにまで。

 呆然としながらもきょきょろと辺りを見渡すと、視界の端で朝日を浴びてキラリと光った物があった。もぞもぞと這い出して確認すると、それは見覚えのある、けれど今のあたしに取っては格段に大きくなった薬瓶……ただし、中身は空だ。
 「……………〜〜〜〜やられた…………」
 誰がやったか?なんて考えるまでもない。
 「甘かったわ………まさかピクシーにこんな事が出来るほどの魔力があるなんて……」
 見た目の小ささで油断していた。
 窓に封呪の魔法をかけた時も、もしかしたら逃げられるかも、という懸念はあった。でも、まさかここまでするとは…………
 念には念を、ということなのだろう。
 それだけ、ピクシーの隠れ里の場所を人間に知られるわけにはいかないって事だ。
 ここまでしなければならないほど、人間たちが今までどれほど酷い扱いを彼等にしてきたかの証明でもある。
 ただ逃げ出すだけでなく、秘密を守る為に用心深くそこまでしなければいけなかった………のは理解出来なくはないのだが…………
 「フランボワーズを取っ捕まえて、何がなんでも元の姿に戻させる…!」
 放っといても時間が経てば元に戻る、とかならいい。
 でも、戻るという保証はどこにもないのだから、まずは元凶を捕まえないと!
 
 ーーーートントンッ

 「おい、リナ?さっき、何か叫んでたか?」
 最初のショックから立ち直ったと同時に、タイミングよく部屋のドアがノックされた。
 いつもだったらあれだけの叫び声をあげたらすっ飛んでくるのに、今は部屋の外でいぶかしげな声を投げかけたままあたしがドアを開けるのを待っている。
 と言う事は、身体の大きさに比例して声まで小さくなってるって事か………
 新たな事実にがっくりと肩を落としてから、あたしは大きく息を吸い込んだ。
 「ガウリイーっ!入ってきて!こっちから開けられないから!」
 鍵がかかってるが、壊してしまってもこの際仕方ない。
 「?やっぱりどうかしたのか?」
 ドア越しのガウリイの声が僅かに硬くなる。ガタガタとしばらくドアノブを回していたが、すぐにチィンと微かな金属音が耳に届いた。ガウリイが剣でドアの隙間から鍵を斬ったのだろう。
 「リナ」
 「ガウリイ。ここよ、ここ!」
 飛び込んできたガウリイがあたしの姿を探して部屋の中をきょろきょろと見渡している。そう言えば裸だった事を思い出し、慌てて毛布の中に逃げ込みながら腕だけ伸ばしてブンブン振り回した。
 「ベッドの中にいるわ。フランボワーズにやられてちっちゃくなっちゃったのよ!」
 「ちっちゃくって……っっ」
 「うわっ急に引っ張るなっ、バカっ!スケベっ!」
 「り……リナぁっ?」
 中を覗き込もうとしたのだろう。急に毛布が持ち上げられて、その中に隠れていたあたしの身体がころんっとベッドの上に転がり落ちた。慌てて目についた布に潜り込んだけれど、これよく見たらあたしが着ていたパジャマだ。
 「ああああ〜〜もうっっ!身体がちっちゃくなる時は、着ている服まで合わせてちっちゃくなるってのがお約束だってのに!」
 「………ツッこみどころはまずそこなのか?」
 「あんたが来るまでに先に驚いちゃってたんだからしょーがないでしょ」
 「そりゃそーかもしれんが………一体どうしたんだ、それ」
 目をまんまるにして呆然とあたしを見つめているガウリイの視線に晒されて、途端にもの凄く居心地が悪くなった。大きすぎるパジャマの袖の中に潜り込んで隠れたとは言え、裸の状態なんだから当たり前だ。何だかもぞもぞとしてしまう。
 それでも赤くなった顔を何とか出した。
 「さっきも言ったけど……フランボワーズにまんまとやられちゃったみたいだわ。何としてもあいつを取っ捕まえて元に戻してもらわなきゃ」
 「フランボワーズって………………ああ!あのちっこい妖精か!そういや、どこ行ったんだ?」
 「………逃げられちゃったのよ。あああああ〜〜〜もうっっ!助けてやった恩を仇で返すなんてっっ!」
 「助けたって言うより、儲ける気満々だっただろーが」
 「結果として助けた事になるんだから細かい過去は気にしない!とにかく!あいつを捕まえに行くわよ、ガウリイ!」
 「行くったって……フランボワーズがどこに行ったのかわかるのか?リナ」
 不思議そうなガウリイの声に、あたしはニッと笑って見せた。
 「こんな事もあろうかと、あの子が額にはめてたヘッドリングの宝石に魔法をかけておいたの。だから探索の魔法で移動した方向はわかるわよ」
 ピクシーの飛行能力がどれほどのものかはわからないが、虫取り網で人間に捕まえられたりもするのだからそれほど高速移動出来るものじゃないだろう。昼間は人目を避けてるはずだからそう遠くには行っていない、はず。
 「魔道士協会でピクシーの文献をざっと当たって、フランボワーズの移動している方向を確認して追っかけるわ………ふふふ……絶対逃がさないんだから!」
 こうなったら、フランボワーズだけでなくピクシーの隠れ里を見つけだして乗り込んでやる。
 ふつふつと闘志に燃え始めたあたしに対して、ガウリイが困ったようにぽりぽりと頬を掻いた。
 「それはわかったが………お前さん、その格好でどうやって魔道士協会とか行く気なんだ?」
 「〜〜〜〜〜〜〜う〜〜〜…………」
 ガウリイに言われて、改めて自分が裸な状態なのを思い出した。でも、今のあたしのサイズで着られる服なんて………
 「ガウリイ!小さい人形の服買ってきて!」
 「えええええ〜〜っっ?ちょっと待て?」
 そうだ。それこそ人形遊び用の服なら着れる。うん、問題なし!
 「問題あるだろ?オレが買ってくるのか」
 「あんた以外に誰が買って来れるのよ。大丈夫、どうせ通りすがりの街なんだからロリで変態扱いされても平気だって」
 「平気じゃないだろーが!人事だと思って……」
 顔を真っ赤にして諦め悪くガウリイは喚いているけれど、それ以外どうにもならないんだし、仕方ない。
 「……………………どんなの買ってきても後で文句言うなよ?」
 「あ、でもフリフリのドレスとかはやめてよね。普通の着せ替え人形より一回りはサイズが小さいと思うから、小さなサイズを聞いて買ってくるのよ」
 あたしのリクエストにがっくりと肩を落とし、ガリガリと頭を掻いてから大きな溜め息をついてガウリイが諦めたように立ち上がった。
 いつものように頭上に伸ばされてきた手が大きな影を作り、あたしをすっぽり覆い隠してしまう。
 頭を撫でてくれるガウリイの大きな手。
 それが、今の小さなあたしには大き過ぎて、影に覆われた時に無意識に身体が震えた。
 「………あ………」
 ガウリイもいつもの癖で無意識に伸ばしていたんだろう。だけどあたしの無意識の怯えに、改めてあたしの小ささを意識したようだった。
 伸ばした手を一度引っ込めてから、今度は影を作らないように指を伸ばしてそっと頭を撫でてくれる。力加減がわからないのか、そっと微かに触れるだけ。それが何だか切ない。
 「……じゃあちょっと行ってくるから………それ以上小さくならないでいてくれよ」
 ポンポンとそっと触れてからガウリイが部屋を出て行く。その大きすぎる背中を見送って再び1人になると、途端に何とも言い難い不安に襲われた。
 「明り」
 呪文を唱えると手のひらに眩い光の玉が現れる。どうやら魔法は使えるみたいだ。でも、その威力はどうだろう?もしかしたら、身体の大きさに見合った威力しかないかもしれない。それは後で確認しないと。
 パンッと手のひらを叩いて、浮かんだ不安と共に光球を打ち消す。
 やるべき方向性は決まっているんだから、不安なんて今は感じている暇はないはずだ。
 「………ったく、あの性悪ピクシー!タダじゃ済まさないんだから」
 すうっと深く息を吸い込んでからばさっとパジャマから飛び出し、あたしはフランボワーズの居場所を探るべく探索の呪文を唱え始めた。

 

 


♪『Fairy Tail〜フェアリーテイル』から『見慣れた異世界』の前編をお届けしました。

 ネタがなくて、ついうっかりアリス祭に触発されたわけじゃないです。ええ、ないですとも!!……多分。
  手のひらサイズのリナを愛でたかったんです。リナで人形遊びは、以前に『Doll』の時もやってますけど。ちっちゃいリナで着せ 替えしたり、お世話したりってめっちゃ楽しそうじゃないですかvv←主にガウリイが(笑)
 
なので、今回もガウリイさんがちょっと役得です♪
 普段より、ちょっと弱気なリナさんも可愛いなぁ♪とか思ってみたり。

 今回は健全本です。すでに出来上がってる設定でそんな含みがあっても健全本(笑)
 よろしかったらお手に取ってみて下さいませ♪