『コス☆パラ』より

【delicious!】


 

 気分と連動するかのように制服の短いスカートを翻し、今日も楽しげに少女たちが学校や街に躍り出る。
 世の中で一番自由奔放で元気に青春を満喫していると思われるのは、多分きっと女子高生だろう。
 大人と子供の中間で、誰もが多少の将来の不安を抱えて勉強に追われたりもしているけれど。
 不安定な毎日を若さのパワーで乗り切って、進学のために必要な勉強よりも大切な、人生の勉強そのものを無意識に日々吸収してこなしていくのだ。
 そこには超えられない壁があったり、挫折も味わったりするけれど、傷つくこともまた必要。
それは、趣味だったり部活だったり、恋だったり。自分を輝かせるものはそれぞれ違うけれど。
 特に『恋』を知った者は、それこそ蕾が花開くように、さなぎが蝶に変わるように、鮮やかにきらきらと輝いているようだ。
 
 今日も少女たちの楽しげな笑い声が街を色づけていく。

◇◇◇◇◇

 ――――ピロリロリンッ

 
 ざあっ通り過ぎた悪戯な風に、襟の下で結ばれた赤いリボンタイとブリーツスカートの裾が軽く乱される。
 しかし少女はワンピースタイプの制服の短いスカートの裾を気にする素振りもなく、むしろその爽やかな涼しさに心地良さげに目を細めた。

 梅雨も終わり夏本番を目前に控えたある日の昼休み。
 食堂でいつものようにAからDランチセットまで軽く平らげ、購買で菓子パンとジュースを買ってから風が吹き抜ける渡り廊下を通って教室に戻る途中。
 ポケットから携帯を取り出し入ったメールを確認すると、少女の顔に満面の笑みが浮かんだ。
 「なぁに、リナ。嬉しそうな顔しちゃって。メール、ガウリイさんから?」
 一緒に歩いていた親友のアメリアがにんまりとした笑みを浮かべて、ぴこぴことメールの返信を打っているあたしを肘で突く。
 「うん。いい店見つけたから放課後迎えに来るって♪」
 そんな攻撃をものともせずメールを打ち終えるとピッと送信。軽やかに飛んで行ったメールと共にあたしの機嫌も急上昇。
 既に意識は放課後に飛んでいる。
 ああ、今日は一体どんなお店に連れて行ってくれるんだろう。楽しみで仕方ない。
 そんな上機嫌のリナを見て、アメリアはこっそり溜息をついた。
 傍からはどう見たって、『放課後デートの誘いを彼氏から受け取って舞い上がっている彼女』でしかないのに。
 その実態ときたら。
 「この間は巨大お好み焼きのフードファイトで賞金稼いだんだけど、これがまた文句なしに美味しくってさ。やっぱりチェーン店とは違うわね。でもさすがに10人前を一気に食べたから暑くなっちゃって、ついでにかき氷の対決もしてきたのよ。かき氷はやっぱりイチゴよねー♪ガウリイはブルーハワイでやってたんだけどさ、あれって食べ終わると舌が青くなっちゃうじゃない?」
 その前は巨大餃子のチャレンジもしたし、その前は休みの日に時間無制限のケーキバイキングに行って2人で全部食べつくしてきたとか。
 支配人さんが泣きながら出入り禁止を告げてきたから、また一つ行けなくなった店が増えたってぼやいてたっけ。
 「………リナってば本当に色気より食い気なんだから。折角ガウリイさんって立派な『彼氏』が出来たってのに」
 ふぅとわざとらしく溜息をついてみせると、いつものようにリナが露骨に顔をしかめてきた。
 「だーかーらー。ガウリイは『彼氏』とかじゃなくて『フードファイター仲間』だって何度も言ったじゃない」
 「そりゃ何度も聞いたけど。何度も仲良くデートしてるんだから少しは進展してるんじゃないかって」
 「デートじゃなくて食べ歩き!しかも大食いドカ盛りフードファイト!そこに色気も何もありっこないでしょ!」
 「でも楽しいんでしょ?ガウリイさんと一緒で」
 さりげないアメリアの突っ込みに、あたしは思わずうっと言葉に詰まった。
 「そ、そりゃ……一緒にご飯食べて楽しくない奴とは出かけたりはしないわよ」
 無意識のうちに微かに赤く染まった頬と弱くなった口調を目にして、アメリアが密かに笑う。
 伊達に親友やっているわけじゃないのだ。
 ガウリイの名前を出すと、内容はどうあれ必ず反応するリナの変化にしっかり気付いていた。
 

 学校一の有名人=問題児。
 それがこのリナ=インバースとみんなから認識されている。
 黙って笑って立っていれば、小柄で華奢な身体つきと少し童顔で大きな瞳、艶やかな栗色の長い癖っ毛も愛らしくくるんっと気侭に跳ねている。
 成績はトップクラスで、運動神経も抜群。
 ……だがしかし。
 たまたま通学電車の中でうちの生徒に痴漢をしていた変態を『悪人に人権はない!』のモットーに従ってしばき倒し、ちょっと勢い付きすぎて相手が気絶しちゃって、連れていかれた警察署で誤解を解くのに1日かかった、とか。
 学校一のイヤミな先生の嫌がらせのターゲットになってしまったから、それ相応の態度を取っていたら相手が逆ギレしてきたのを理論詰めでもって撃退したら、次の日からその先生が登校拒否になった、とか。
 化学の実験中、ちょっと授業内容とは違うけれど、ふと思いついた薬品の組み合わせでこっそり実験してみたら、今までにない科学反応を起こしちゃって教室中が大パニックになった、とか。
 あ、これに関しては爆発とか起きたわけじゃないし、後で検証してみたらなかなか興味深い事態に発展したらしいから、不幸中の幸いと言うべきか。失敗は発明の母と言うべきかーーーなんて当のリナは笑っていたけれど。
 ……後でこっそり化学の先生に聞いた話だと、薬品を1つ間違えたら実験室1つ軽く吹っ飛ぶ爆薬が出来たらしいのは、みんなの精神衛生上、絶対に内緒の秘密だが。
 そんな数々の武勇伝を持つ彼女なのだ。
 そして、誰もが呆れるのがその食欲。
 一体その細い身体の何処にこれだけの料理が消えるのか不思議で仕方ない。実はこの学校の七不思議の1つ『四次元胃袋を持つ少女』としても知られていたりもするのだが。
 あまりの食べっぷりに気を良くした食堂のおばちゃんたちからは、何も言わなくても注文したメニューは大盛りで出てくるようになったのは、ある意味人徳ととれるのだうか。
 食欲と物欲には何よりも正直で貪欲。
 思ったことは即実行。
 疑問に思えば即実験。
 悪気はないけど自重する気もない。
 天上天下唯我独尊を突っ走りながらも、色恋沙汰には全く興味を持たない、お子様な部分もあったりして。
 彼女を知る度、面白いとつくづく思う。
 まぁ、一緒にいると何かと騒動に巻き込まれたりもするけれど、それもまた刺激があって楽しいと思えるようになったのは、かなりリナに毒されてきたと言うべきか。
 
 そんなリナが最近一番の楽しみにしていることが、『ガウリイさんとの食べ歩き』なのだ。
 そりゃ、リナの事だから一番の目当ては美味しい料理ってのは納得するけれど。
 ガウリイさんの前で浮かべる嬉しげな笑顔は今までにないものだって気付いていないのは、当のリナだけかも知れない。
 本当に、鈍いと言うか、初心で可愛いと言うか。

 「ガウリイさんだってわざわざ学校までリナのこと迎えに来るじゃない」
 今日の放課後も、いつものように校門の外で待っているのであろう彼の姿を思い浮かべると、こっちはこっちでおかしくなってくる。
 リナもそうだけど、ガウリイさんもリナの姿を見た途端に、本当に嬉しそうに笑うのだ。
 何と言うか、待ちくたびれた犬が主人を見つけたかのように。
 パッと見るとまるでモデルのような姿形で、高い身長、長い金髪蒼い瞳、文句なしの美形。なのに笑った顔はとても親しみやすく人当たりもいい人。
 しかし、この人も黙って立っていれば…な人らしい。
 「あれは、街に出るのにどっちみち通りかかるからで。あと、保護者気取りなのよ、あいつ」
 「保護者?一体何やらかしたのよ、リナ」
 「別に。あいつと別の場所で待ち合わせした時に、頭悪そうなナンパ男たちに絡まれて、鬱陶しいからちょっとぶちのめしたらちょっと大騒ぎになったくらい」
 「…リナ的には『ちょっと』でも、一般的には『かなり』よ、それ」
 「そう?あたし的には正当防衛だし、あんな奴ら怖くも何ともないけど。でもガウリイが『目を離すと危なっかしいから』って」
 「へぇ♪」
 「『あたしを野放しにしておくと被害がどこまでも拡大するから、オレが保護する』て言い出したのよ、あいつ!」
 「…へぇ…」
 「そりゃあいつは一応社会人かもしれないけど、まだ見習いパティシエの分際で!」
 「でも、大人しく迎えに来てもらってるじゃない」
 「……だってガウリイが勝手にくるんだもん」
 そこまで言った時丁度教室に辿り着いた。
 途中、あまりにもリナらしい理由があったけれど、どういう経緯であれこのリナの素の姿を相手に、怯むどころか楽しむ男が出来たのだ。
 そこにある感情はまだ単に『友情』だけかも知れないけれど。けれど、確かに好意もあるのだから。
 微かに頬を赤くしたまま窓際の自分の席で買って来たばかりのジュースを啜るリナの姿に思わず笑いがこみ上げてくる。
 「ガウリイさんが迎えに来る度に学校中の噂になっているってこと、気付いてないのはリナだけなんだけどねぇ」
 本人だけが否定しているけれど。
 一度だけなら何かの間違いと納得するかもしれないが、何度も迎えに来て、そろって帰って行く姿を隠しもしないのだから誰もがこれは事実だと思っているのだ。
 『あの食欲魔人 リナ=インバースに熱愛発覚!相手は金髪美形の社会人!』
 …………と。
 

 

 

 

 授業終了のチャイムと同時に、あたしは教室を飛び出していた。
 窓際のあたしの席からは、既に校門前にちらちら見え隠れしている金髪の頭が見えていたから。
 あたしも常に新しい店や新しく始めたサービスなどを探したりチェックしたりしているけれど、ガウリイの探してくる店は結構知らない場所が多いから楽しみも倍増するのだ。
 今日は一体どんな美味しい物をめいいっぱい食べられるんだろう♪
 昼休みからずっとその事ばかり考えてたから、階段を駆け下りる足取りも軽い。
 決してアメリアが勘ぐるように、『ガウリイに会えるから』、なんて乙女な思考だからではない。

 あたしの今一番はまっている趣味は『フードファイト』だ。
 美味しいものをたくさん食べられて、その上時間内に食べきったら食事代は無料。
 その上、店によっては賞金が出たりするんだから、もう至れり尽くせりってもんじゃない。
 で、手当たり次第の店を制覇して行く中で気付いた1人の名前。
 ほら、挑戦達成者の名前を張り出してあるじゃない?時には写真入りとかで。
 そこに必ずと言っていい程あったのが、彼、『ガウリイ=ガブリエフ』だったのだ。
 だから、確かに気になる存在だったと言える。写真の中の満足そうな屈託のない笑顔も印象に残った1つだったかもしれない。
 だからあの時。
 新しく出来たラーメン店のデカ盛りチャレンジの場で偶然一緒になった時は、驚きと共にここで会ったかって感じだった。
 この趣味を続けていれば、きっといつかどこかの店で会う事はあるだろうな、て思っていたから。
 その店でのチャレンジを軽くクリアして、貰った賞金で早速その店の違うメニューを頼んだあたしに彼は最初周りのみんなと同じようにびっくりして、でもすぐに同じように注文をしだしたガウリイに、今度はあたしの方が驚いた。
 『だってなぁ、ラーメン食べたら他のもんも食いたくなるよな?』
 にっこり笑って同意を求めた彼にあたしも笑って頷いて。
 気がついたら貰った賞金使い果たして、その店の全メニュー制覇を2人でやらかしていた。
 あたしと同等によく食べる。もしかしたらあたし以上に。でもって、楽しげに食べるのが見てて気持ちよかった。
 すっかり意気投合して、それからよく連絡を取り合っては食べ歩きにいそしんでいる仲になったのだ。
 決してアメリアが言うような『彼氏』とかじゃない。
 一応社会人のあいつにとって、高校生のあたしは『妹』みたいなもんだろうし。
 でも、あいつといると自然体でいられて心地良い。
 変な感情を抱いて、この居心地のいい関係を崩したくないってのが、あたしの正直な気持ちだった。

 

 

  

 「おう、リナ」
 校門に寄りかかって待っていたガウリイが、あたしの姿を見つけるなりぶんぶんと大きく手を振って来た。
 長い金髪に負けてない無駄にいい顔が屈託なく笑っている。
 「お待たせー、ガウリイ」
 小走りに駆け寄ると、いつものようにくしゃくしゃと頭を撫でられた。
 「ちょっとー、髪がぐしやぐしゃになっちゃうっていつも言ってるでしょ」
 「そうだっけ」
 むくれてみせてもちっとも悪びれない。まぁ、あたしもいい加減慣れて来ちゃって言う程嫌なわけじゃないんだけれど。
 「ねぇ、今日はどんな店なの?」
 「アトラスホテルのケーキバイキングに行こうぜ。平日限定だから、今からならぎりぎり間に合うし」
 わくわくした声に答える声もまたわくわくしている。
 まるで、学校帰りに遊ぶ約束を交わしている小学生のように。
 「アトラスホテルってケーキバイキングなんてしてた!?初耳だけどっ」
 「始めたみたいだぞ。あまり量を作れないから、平日水曜日の午後限定なんだと。仲間に情報聞いて一応予約しといたからさ」
 「うわー♪めっちゃ楽しみ♪」
 アトラスホテルのパティシエは、天才との呼び声高いジョージという。
 彼の作り出すスイーツはまさに絶品♪
 素朴なショートケーキとかスイートポテトとか、飾らないストレートなスイーツが直球で乙女の胃袋とハートを飛び込むのだ。
 ゆえに人気もめっちゃ高く、なかなか買う事が出来ず、幻のスイーツとも呼ばれている。
 それが、バイキングで食べられるなんて!
 ああ、すでに生唾が溢れ出してきた。
 あ、でも。
 「そう言えば、今日はガウリイの店、定休日じゃないでしょ?」
 今更ながらの疑問にガウリイが苦笑した。
 「今日午後から休ませてもらう変わりに、昨日の休み返上で働いたし。それに、ジョージのケーキなら勉強になるしな」
 見習いパティシエの最もな言い訳に思わず笑った。
 ジョージのケーキを食べたものは、『そのあまりの美味しさに感動しすぎて意識が天国へ飛んでいく』と言われるくらい、ただもう『おいしい』のだ。
 ただでさえ記憶力の皆無なガウリイに、その『おいしい』記憶以外を覚えられるとは思えない。
 それにいくら予約入れたとはいえバイキングは早い者勝ちだ。本当にちゃんと勉強したいってのなら、あたしの学校が終わるまで待ってるなんてことしないで1人で先に行けばいいのに。
 でも、ガウリイはそうしない。
 『美味しい物は、一緒に楽しんで食べてくれるやつと食べた方がもっと美味く感じるだろ?』
 って。いつもあたしを誘ってくれる。
 あたしも、いつの間にかガッツリ何かを食べに行く時はガウリイを必ず誘っていた。
 確かに、こいつと一緒だと楽しいし、時に取り合いになって更に食欲倍増させられたりもするし。
 ムムムムケーキバイキングなら、彼女を誘っても問題ないんじゃないの?
 その一言は今日も何故か言えないでいるあたしがいることは絶対に内緒。
 だから。
 「じゃあ、今日は大人しくがっつくわよ。ホテル出禁にならない程度にね」
 「おう♪」
 色々な意味でやる気満々のガウリイが妙に可愛くて、あたしは思わず走り出した。

 

 

 

 

 「お………おいしひ………」
 「すげー………うまひ………」
 噂は本当だった。
 本当に美味しすぎて魂抜けちゃうなんて初めての体験。
 全種類を一通り食べ終えて、あたしとガウリイがやっと我に返って呆然としながら発したのが、この一言だった。
 何だろう、この絶品さは!
 特に手の込んだことは仕掛けてなさそうなシンプルさなのに、スポンジとか生クリームとかの基本的な土台がもう神がかってるとしか思えないっ!
 「……どーやればこんなケーキ作れるんだ……?」
 「……ガウリイ?」
 まだ放心しながらガウリイがぽつりと呟いた。
 そこには別に悔しさとか焦りとかはない。ただ本当にレベルが違いすぎの美味しさに対する純粋な感嘆な一言だった。
 ガウリイがパティシエを目指しているのは、『男でも堂々と好きなだけ甘いスイーツを食べたいから』などという、まるで子供のような動機を前に教えてくれたのだが、もしかするとあたしやガウリイ自身が思っているよりも、もっとその思いは深くて純粋なのかもしれない。
 そりゃ、今のガウリイが作れるケーキとこのジョージの作るケーキを比べる事なんて無意味なくらい腕には差があるだろう。
 だけど。
 「これはジョージのケーキでしょ?ガウリイはガウリイの絶品ケーキを目指せばいいんじゃない?」
 「………リナ?」
 おかわりを求めて大きな皿を片手に立ち上がりながら素っ気なく言い放つと、ガウリイがきょとんとあたしを見上げて来た。
 その子供のように不思議そうな真っ直ぐな視線に反射的に顔が赤くなってくる。とても真っ直ぐ見返すことなんか出来なくてふいっと視線をそらした。
 「いくら美味しくたって誰かのまねしてたんじゃ面白くないじゃない。あんたらしいケーキを作ってこそ、『パティシエ』でしょ?」
 「そう…か…?」
 「そうよ。まぁ、あんたはその前に、ちゃんと店に出せるケーキを作れるようになってからの話だろうけどね。なんたってまだ見習いなんだし」
 「そっか……そーだな」
 照れ隠しの憎まれ口を叩いたにもかかわらず、ガウリイの顔に満面の笑みが浮かぶ。
 お皿を持って立ち上がった大きな手が伸びて来て、くしゃっと髪をかき混ぜた。
 「んじゃ、オレはまずリナに『美味い』って言わせるケーキ目指して頑張るな」
 「なっ!?何であたしなのよ」
 さらりと笑顔のまま言われて、不覚にもどきりと胸が高鳴った。
 「だって、お前さん食い物にはうるさいし、本当に美味いものはめちゃくちゃ嬉しそうに食うだろ?オレの作ったケーキでそんな顔させてみたいじゃないか」
 「だ、だからっ。何でよっ!?」
 もう、赤くなった顔を隠す余裕もない。
 「ほら、絶品のケーキ食おうぜ。折角来たんだからあと5回はおかわりするだろ?」
 「それは当然っ!…じゃなくてっ!ちょっと、ガウリイってばっ!?」
 さっさとケーキを取りに行ってしまったガウリイを、あたしは慌てて追いかける。

 

 

 ガウリイとは『フードファイト』仲間で。
 一応大人だからって、勝手にあたしの保護者を名乗ってて。
 多分、あたしのことは妹みたいなもんだと思っているはずで。
 アメリアが誤解しているような『彼氏』とかじゃ、絶対なくて。

 ―――――なのに何で時々こんな風に、どきどきさせられるんだろ。
 どきどきしてしまうんだろう。

 答えはすぐそこにありそうだけど、まだ手を伸ばして掴むのは早い気がする。
 何より、1人だけどきどきしているのは悔しいし。

 「ガウリイっ。ケーキバイキングの後は焼き肉食べ放題行くからねっ!」
 「ああ。甘いもの食べた後はしょっぱいもの食いたくなるもんな」
 「そうと決まったら、今日も食うぞーっ!」
 「おうっ!」
 

 まだ『色気』より『食い気』のあたしでいい。
 恋愛するより、美味しい物をお腹いっぱい食べてるほうがいい。
 でも、ガウリイは。
 同じ勢いで同じ美味しい物をお腹いっぱい楽しんで食べてくれる人だから。
 食べる時、本当に嬉しそうに食べる人だから。
 あたしのために、美味しいケーキを作ってくれるって言ったくれた人だから。
 『色気』が『食い気』を上回る日も、そう遠くないのかもしれない。

◇◇◇◇◇

 『学校一の問題児、リナ=インバースに社会人の彼氏が発覚!』

 あまりにもありえない事だと思われたその噂は、何度も校門に迎えに来るガウリイの姿と、毎回嬉しそうに駆け寄るリナの姿に、噂は本物だと信じ込まれた。
 学校中に走った衝撃は凄まじかったが、初めて目にした衝撃から1年程経った今では、それも見慣れた光景となっていた。
 今日も金髪の背の高い後ろ姿が校門の外で待っている。

 「でもま、本当は最近になってやっとれっきとした『彼氏』になったんだけどね」

 事の真相をただ1人知っているアメリアが、教室の窓から校門を眺めながら小さく笑った。
 相変わらず2人でフードファイトしてるようだけれど、校門で合流した2人の笑顔は、見ているこっちが照れてしまうくらい幸せそうだ。
 リナもガウリイさんも、誰かに見られているなんて欠片も思っていないからこその笑顔なんだけれど。
 「リナをオトしたガウリイさんのケーキ、いつかわたしにも食べさせてくれるかしらね」
 連れ立って歩き出した2人の後ろ姿を見送りながら呟いたアメリアにも、やっと甘さを纏い始めた2人の笑顔につられたようにふわりと笑顔が広がった。

 

 今日も少女たちの楽しげな笑い声が街を色づけていく。
 特に『恋』を知った者は、それこそ蕾が花開くように、さなぎが蝶に変わるように、鮮やかにきらきらと輝きながらーーーー
 

Fin


 

♪『コス☆パラ』より『delicious!』をお届けしました。

『コス☆パラ』ではあたしは3本の短編を書いているのですが、その中の1本です。

コスプレネタとしてはやはり外せない【女子高生リナ】♪
しかし、普通に学校生活を送ってしまうとネタがかぶってしまうので(笑)ガウリイは、外部の社会人になってもらいました♪
書いててお腹が減って困りましたが(笑)

♪11人分のコスプレネタが盛り沢山の本です。マンガ・小説・カラーイラストと読みごたえ充分ですので、ぜひ!!お手に取ってみて下さいね(^^)