magnet〜プロローグ〜


 

 (ーーー夢だよ)

 夢の中の夢で繰り返し囁かれる甘い毒。
 毒に酔わされ逆らうことも出来ずに、私の意識はいつも溶けて曖昧になってしまう。

 

 (大丈夫…これは夢だから。だから何も心配要らない。怖がる必要もない)

 

 隻眼の顔色の悪い夢魔が優しく触れながら何度も囁く。
 夢の中の夢でしか会うことの出来ない、夢そのものの名前を持つ人。

 「……本当にこれは夢なの?ナイトメア」
 「ああ、そうだとも。だから安心して……溺れればいい」
 「どこからが夢?この世界が全部夢ならば、その夢を見ている私も…夢ならいいのに」
 「……アリス」
 「怖いのよ。いつかあなたが言った通りだわ……目が覚めるたび怖いのよ」
 「アリス」
 (この世界が……あなたが消えてしまったら……)
 声に出すことすら怖い思いを読み取ったナイトメアが微かに笑う。
 宥められるようにふわりと抱きしめられさらりと髪を撫でられた。
 「消えたりしない。君が手放さない限り、この世界も私も君を置いてどこにも行かない。行けやしないさ」
 髪を撫でられるたびに意識が揺らぐ。
 (消えないで)
 「消えないよ。もう私が君を手放せない…たとえ夢の中でしか触れることが出来なくとも」
 さらりと落ちてくる銀色の髪。
 いつも顔色の悪い病弱な夢魔の体温は常に低い。頬を撫でていく指先も、重ねられる唇でさえ。
 それでも触れていれば実感する。ここは夢の空間だけど、夢じゃない。偽者なんかじゃない。
 この人も、この想いも。
 私が創りあげた妄想の産物じゃないーーーー本当に?

 

 日曜日の午後の庭でうたた寝をしていた私。
 本当の私は今もそこにいるのだろうか。
 ならば、ここにいる私は何?
 もう、どこからが夢で現実なのかわからない。

 

 「アリス」
 「……お願い……ナイトメア……」
 (私を目覚めさせないで)
 このまま、この夢に溺れさせていて。
 ポケットの中に忍ばせてあるガラス瓶には既に中身が満たされている。
 元の世界に帰る為の鍵…それを振り払って、元の世界よりもこのおかしな世界を選んで残ったのは自分の意志のはず。
 おかしく物騒な私に優しい世界。その更に内側な隻眼の顔色の悪い夢魔が支配する夢の国。
 ここで、ナイトメアと2人きり。
 空っぽだった心は充分に満たされて幸せなはずなのに、幸せだと言えるのに。どうしてこんなに不安は消える事がないんだろう。
 夢は曖昧なもの。
 いつだって現実主義だったはずなのに、曖昧なものに心奪われた私は、どうすればいい?

 「アリス……眠りなさい、アリス。ここは夢……君が望む夢は私が必ず守ってあげよう」
 「ナイトメア………」
 優しい腕と囁きに包み込まれて、私は素直に身を委ね更に深い夢の中に堕ちていく。

 

 「……目覚めが怖いのは君だけじゃないんだよ、アリス……」
 そんな夢魔のどこか苦しげな呟きを薄れていく意識の中で聞いた…ような気がした……ーーーー


 

♪『magnet』よりプロローグです。

アニバーサリー→クローバー前提のナイトメア×アリスです。アニバーサリーの流れを追って、恋愛エンドからクローバーにかけての2人を思う存分捏造させていただきました♪
ハッピーエンドのその後も幸せでいたいのに……って感じの、幸せだけど切ない2人です。気分的には超遠距離恋愛中、みたいな(笑)

気が向いたら読んでやって下さると嬉しいです♪